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ラストチャンス

 そのあとに続いた言葉に、僕は興味を覚えた。

「あなたに電気ショックを与えてあげるわ。そうすれば、あなたは生き返るでしょ」

 電気ショックのアイデアにすがろうなんて考えはまったくなかった。

 でも、その手順は聞いてみたかった。

 絶体絶命の状態から、地球に無事生還したアポロ13号の乗組員の映画を思い出したからだ。

「いいわよ」トリエステは得意げな声で話しはじめた。「まず、あなたが私の名前を呼ぶの。何回も、何回も」

 なんだ、そんなことだったのか。

 漫画チックな発想にがっかりしたが、何も言わずに耳を傾けた。

「そうすれば、私の中に電気エネルギーが貯まる。そのエネルギーを、あなたに向かって一気に放出。あなたは落雷に打たれたようなショックを受ける。気がついたら元の世界。どう? 理解できた?」

 雷に当たると、人は死んでしまうんだよ。と言いそうになったが、すんでのところで止めた。

「ありがとう」と僕は礼を言った。「気持ちだけは、ありがたく受け取るよ。でも、決めたんだ。ここがどこであれ、これが自分で選んだ道。元の世界なんて、どうでもいい」

「嘘つき」トリエステが怒ったような声で言った。「どうして、嘘をつくの?」

「変なことを言うなよ」と僕は言った。「嘘なんかついていない」

「ついた」

 まるで幼稚園生同士の口喧嘩、でも僕は引き下がらなかった。

「いつ?」

「今よ」

 と言われたとたん、言葉に詰まった。

 確かにそうかもしれない。いや、間違いなくそうだ。でも認めるわけにはいかない。かといって、ここで話をやめるわけにもいかない。

 僕はわざと語気を荒げて言った。

「なぜ、嘘つきだと決めつけるんだ。どうして人生の最後の最後で、嘘をつかなきゃならないんだ」

「だって、そうだもん」トリエステはなぜか、急に涙ぐんだような声になった。「私には、分かるの……」

 はっきりしない語尾のせいなのか、場の空気が湿っぽいものに変わった。

 ひょっとすると、葬儀場では最後のお別れが始まったのかもしれない。だとすると、時間がない。

 頭の隅に閃いた考えを、あわてて追い払った僕に、トリエステが探るような声で質問した。

「ということは、元の世界に未練はないって受け取ってもいいのかしら?」

「ない」僕は短く答えた。

「もう一度会いたい人も、いないの?」

 もしかすると、これは、質問を装った意地悪なんじゃないだろうか。

 途端に僕の口が動いた。

「いない」さらに低い声で言った。「一人もいない」

 するとトリエステは、何も言わずに黙り込んだ。

 反省でもしているのかと思ったが、違った。

「どんな方が参列されているんでしょうね」ため息交じりの声で言った。「もう一度会いたかった。もう一度声を聞きたかった。そう言いながら、花を手向けている方もいらっしゃるんじゃないかしら」

 拳を握りしめ、唇を噛み。泣きはらした目で僕の亡骸を睨んでいるPの顔が浮かんできた。

「何が言いたいんだ」僕は本気で怒った。「この期に及んで、何をしろって言うんだ」

 その言葉を待っていたかのように、トリエステが言った。

「試すのよ。私たちが繋がっていることを」


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