第4章 監視映像
早速翌朝、監視映像を入手してから、署に出勤した南刑事は、PC画面に映し出されたその動画を、念入りに確認していた。そこには奈美がコンビニに出かける様子が、薄暗い中ハッキリと写っていた。しかし、奈美の部屋がある2階には、カメラが向いておらず、部屋の様子までは写っていない。
結局、奈美が帰宅するまでに、アパートに出入りした人物はいなかった。落胆している南の後ろから、北木刑事が、
「南くん。その時間以外に通行する人物で、2階を見上げるヤツが居いひんか、探してみ」
「あ、北木先輩、見てたんですか」
「うん。2階の部屋は写ってへんかったけど、画面の端がちょっと、点滅したみたいに見えてん」
「え? そうでした?」
「部屋の電気は、ホンマに点いたんとちゃうか?」
二人がもう一度その場面を確認すると、確かに明かりが灯ったとも思えるような、僅かな光の変化があった。
「やっぱり、誰かが部屋に侵入したんでしょうか?」
「おもろい事件かもな。でもホンマやったら、絶対犯人捕まえなアカンで」
東出警部補もその映像を見て、通行人ではなく、同じアパートの住人の犯行の可能性を示唆した。そして、南に捜査することを許可したのだった。
「じゃ。準備はOK?」
郵便局の終業時間に、大原は奈美に近寄って、耳元で言った。
(やだぁ。打合せか)「はい、大丈夫です」
「じゃ、行こうか」
「え? ここでするんじゃないんですか?」
「何言ってんの? こんな味気ないとこで、打合せなんてやってられないでしょ」
奈美は戸惑った。罠に嵌められたような気がする。
「じゃ、どこで?」
「いい店知ってるから、ついておいでよ」
そのまま断る勇気もなく、奈美は大原の車に乗せられた。狭い軽自動車の前席で、奈美は警戒をさらに強めていた。
(大原さんから何かされたわけじゃないし、まさか部屋に侵入できるはずなんかないわけだし、私の思い過ごしだったら、失礼になっちゃう。でも・・・)
身体をもぞもぞと窓側に寄せながら、大原の顔をチラ見すると、彼はムスッとした顔をしている。
(もう少しにこやかにしてくれたら、調子を合わすのに、こんな空気じゃ余計心配だわ)
奈美は沈黙に耐えられなくなってきた。そこに、
PPPPPPPPPPPP.PPPPPPPPPPPP.PPPPPPPPP…
「あ。電話。すみません、電話がかかってきちゃった」
カバンからスマホを取り出すと、相手は『南刑事くん』の表示。
(助かった・・・)昨日の直電話の際に、その番号を登録していたのだった。
「あれ? なんだろ。・・・もしもし、井上です」
[井上さん。南です。今、大丈夫ですか?]
「はい、少しなら大丈夫です」
[監視カメラ調べたんですが、不審者が写っていました]
「本当に? え? そうなんですか?」
[今から写真を送るんで、心当たりないか、確認してもらえますか?]
「あ、はい」
[携帯アドレスに送ります]
そう言うと一旦、電話は切られた。
「どうしたの?」
大原が訊いた。
「ちょっと知り合いからです」
「彼氏?」
「そんなわけないじゃないですか」
「彼氏いないのか」
「ええ、まあ(汗)」
「でも、男に呼び出されたんじゃないだろうね?」
大原の不愉快なセリフに、奈美は警察だと言うわけにもいかず、
「アパートの管理の人です」
そして、すぐに送られてきたメールの添付ファイルを開いた。
(ん・・・? ・・・! ・・・!? ・・・!! ぎぇ~~~!!!)
奈美は絶句した。暗くて顔はよく見えない。でもそこに映っている男は、隣で運転をしている大原に間違いなかった。
(・・・・・・予感的中・・・どうしよ!? 今最大ピンチっぽい)
奈美は慌てて考えた。当然この場から逃げ出す方法を考えているのだが、何か言い出さないといけないと焦るばかりで、いい考えなど浮かばなかった。
PPPPPPPPP・・・
「はい! 井上です!」
[あ。見てくれた?]
「は、はい! 確認しました!これは大変ですね! すぐに行かないといけませんね!」
大原が横目で奈美を見たのを、雰囲気で感じたが、わざと演技を続けた。
[え? そんなに慌てなくてもいいですよ。この男が4回アパートの前を歩いてるんですが、4回とも2階を見上げてるんです]
「ええー! それは大変です! すぐ帰ります!」
[どうかされたんですか?]
「はい! 大変ですから!!」
[・・・ちょっと代わって・・・もしもし・北木です。井上さん、今トラブルに巻き込まれてるんじゃない?]
「そうかもしれません」
[まさか、写真の男と一緒?]
「そうです」
[その場を何とか離れられへん?]
「無理です。車の中です」
[保護が必要?]
「いえ、まだ、そんなわけでは・・・」
[電話代われる?]
「ムリー。だと・思・い・ます」
[アパートが水漏れで大変だとか言って、帰えしてもらえへんやろか!?]
「はい。そうします」
奈美はスマホを耳から離して、大原を見た。
「あのう。お察しと思うんですが、アパートでトラブルが起こっちゃって、帰らないといけなくなったんですが・・・」
「えー? なんだよそれ。どんなトラブル?」
大原は、鬱陶しそうに訊いた。
「水漏れです! いっぱいいっぱい。辺り一面、水浸しです」
「何とかなんないの?」
大原の運転まで、荒っぽくなってきた。
「私の責任で、すぐに帰らないと」
「仕方ねえな。本当は別でも約束してたんじゃないの?」
「違いますよ」(でも、このまま車で送ってもらったら、ウソがばれちゃう)
[・・・もしもし!・・・井上さん!]
「あ、もしもし」
[聞こえてたわ。送ってもらったらマズイやんね。そこからアパートまで、どんくらいかかりそう?]
「あーー。20分かからないくらいだと思います」
[ほな、私らのほうが早く着ける。なるべくゆっくり帰ってきて]
「はい。分かりました。よろしくお願いします」




