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『EMIRI 6』 ~三股してる?大親友のストーカー~  作者: 亨利(ヘンリー)


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第2章 現場確認

 南が運転する車両の助手席で、北木刑事がぽっかりと口を開けて、居眠りをしている。それを横目に南は、

(普段怖い先輩だけど、アラサー独身関西女。無防備な姿を見せられると、変な気を起こしちゃうよ。僕は年上には興味ないけどね)


 井上奈美の住所に着いた。車を止めると同時に、北木は目を覚ました。

「着きました」

「うーん」

 北木は欠伸しながら、目を細めて頷いた。

「あのマンション?」

「ええ、アパートって聞いてたんですけど、結構大きな建物ですね。古そうですけど」

「オートロックとか無さそうや。何階?」

「2階だそうです」

 4階建てのその建物は古く、エレベータは設置されていないようだった。車通りもそれほど多くない前面道路に駐車して、二人は車を降りた。南が建物に入ろうとすると、

「まだやで。周辺を観察してからやん」

 北木がそう呼び止めて、首で合図した。彼女は生活安全係に就いて5年目だった。捜査手法も堂に入っている。新人の南は現場捜査はまだ経験が浅く、今日は奈美の自宅に立ち寄ったくらいにしか、考えていなかった。

「南くん。あんた、2階のベランダに登れる?」

 北木は建物のベランダを見上げてそう訊いた。

「ええ。人目を気にしなければ、余裕で登れそうです」

「そやんな」

「208号室なので、恐らくあの部屋じゃないかと・・・」

「角部屋やん。怪しー。横に外階段あるし、簡単に侵入できそうやん。1階の手摺りとかに、足跡とか無いか?」

 北木は、1階の部屋のベランダに近づいて、よーく観察した。

「大丈夫そうやな」

 それを南は棒立ちで見ていた。

「何してねん。こうやって下調べしてから訪ねんにゃで! 普通に女子の部屋に入れてもらうつもりで来たんか?」

「いえ。先輩・・・さすがですね」

 二人は外階段を上り、208号室に向かった。その途中でも北木は、きょろきょろと何かないか探しているようだ。

「何かありますか?」

「分からへん」

 奈美の部屋のドアに着いた。

「あんた、ピンポン押して」

「はい」

 南は人差し指でインターホンのスイッチを押した。


 ピンポーーン


「あぁ、ああ。指で押したら、あんたの指紋がつくやんか」


『はい?』

「あ、こんにちわ、井上さん。城西警察生活安全係の北木と申します。南刑事も一緒です」

 ガチャガチャと鍵が開いた。少し開いたドアの隙間から、奈美が片目で外の様子をうかがってから、ドアチェーンを外した。

「急に何ですか?」

「すみません。何の連絡もせず、来てしまって」

 南は咄嗟にそう謝った。

「調書を読んで気になったんで、現場確認のため来ました。お手間は取らせません。2~3確認させてください」

 北木はニッコリ笑いながら、落ち着いた標準語で話した。

「台所を見せてもらうことできますか?」

「え? 今ですか?」

 奈美は南を見た。

「あ、南は部屋には入りません。私だけで結構です」

「それなら・・・」

 北木は奈美に招き入れられると、振り返り、

「あんたは外で待ってて、何も触らんといてや」

 と言ってドアを閉めた。南は2歩後ずさりした後、もう一度近づいて、ドアに耳を当ててみた。


 ゴン!


 内側からドアを叩く音がした。

「見えてんで!」

 北木がのぞき穴から見ていたようだった。


 玄関の内側には一畳ほどのスペースがあるが、下駄箱はない。プラスチックの5段トレーに、靴が収納されている。その天板に置いた箱に鍵が入れてあった。北木はその中に自転車の鍵を見つけて、

「自転車で通勤されてるんですか?」

「はい、駅までは。そこからバスです」

 そんな話をしながら、靴を揃えて脱いで、中へ進んだ。右の扉がトイレ、左側がダイニングルームである。キッチンの流し台の奥に窓があり、南が立っているのが摺りガラス越しに見えた。風呂はキッチンに隣接されているが、部屋の奥側なので、窓は無さそうである。

「お風呂が覗かれる心配はないですね」

「でも脱衣所が無いんで、台所の窓から透けて見えそうだし、電気消して気をつけてます」

 北木は注意深く、部屋の様子を伺いながら、

「そうかそうか。じゃ、カップ麺があったのはどこですか?」

「この流し台の横です」

「お湯を沸かした形跡ってありました?」

「お湯はこのポットに沸かしたのが保温してあるんで、どれくらい入ってたかは分からないです」

 北木は流しの周辺を、更に注意深く見渡して、

「お箸はいつもここに?」

 流し台の横の水切りトレーに固定されてる、鉛筆立てのようなケースを指差した。

「はい。さっき、新しいの買ってきました」

 奈美がそう言って、小さなダイニングテーブルの上に置かれた、未開封の箸を見せた。

「窓の鍵は、いつも掛けたままですよね」

「はい」

「たまに開けることとかありますか?」

「換気扇使うんで、ないです」

 北木は天井近くの古い換気扇を見た。こんな壁に取り付けた古い換気扇は、使用時にスリットフィンが開いて、外から覗かれる可能性もあるが、摺りガラスに透ける位置なので、その心配は無さそうだ。そして窓枠に手をかけ、鍵を開けて奈美を見た。

「少し、窓開けますよ」

「あ、はい」

 10センチほど窓を開けると、

「南くん。窓枠とかに、指の跡とか付いてない?」

「それ見てたんですけど、何も無さそうです」

「じゃ、鍵締めるから、外からガラス揺すってみて」

 そう言って、再び窓を閉めて鍵をかけた。南はすぐ、窓をガタガタと強く揺すったり、叩いたりしてみた。しかし、当然鍵は開いたりしない。北木はそうしながら、流し台の隙間に箸が落ちてないかも、目で探っていた。そして、

「この中は?」

 そう言うと、シンクの底の排水口ネットを開けた。すると、

「あれ?」

 中に2本、細い箸が入っていた。

「ありましたよ」

「え?」

 奈美は慌ててその中を覗き込んだ。そして真っ赤な顔になって、

「ホントだぁ。すみません。気づきませんでした」

「網の目が粗いから、すり抜けちゃったんですよ」

 北木はわざと笑いながら、そう言った。

「すみません。本当にすみません」

「いえいえ。よかったですね。理由がわかって」

「じゃ、やっぱり自分で食べてたのかな?」

 奈美は頭を何度も下げて謝っていたが、北木は微笑み続けた。

「でも、他にも気になることがあったんでしょ。それも確認していいですか?」

「はい、もう恥ずかしくて、自信なくなってきました」

「他の窓も見せてもらってもいい?」

「ええ、ちょっと散らかってますけど、どうぞ」

 奈美はそう言うと、奥の部屋に続く引き戸を開けた。そこは10畳ほどのリビングで、その部屋の横に4畳半の和室があり、そこにはベッドが設置されている。

「1LDKですか。結構広いお部屋ですね」

「古い部屋だし、安いんで」

 北木は、一通り窓を確認した後、

「リビングの窓は、鍵が開いてますね」

「あ、それはさっき洗濯物を取り込んだんで、開けたままにしていました」

 北木はリビングのサッシの外のベランダに出た。そして手摺りを注意深く観察してから、身を乗り出し、上の階を見上げた。そして部屋に戻り、

「上からも侵入された形跡なし。特に変わったことはないですね」

「そうですか。やっぱり気のせいだったのかしら」

「窓の鍵、忘れないようにね」


 署に戻る車の中で北木は、

「やっぱり、あの子の勘違いやん」

「話を聞いただけじゃ、本当かどうかなんて判らないもんですね」

「せやけど、結構細かいことまで、気ぃつけてる子やったしな」

「そんなの、どうして分かるんですか?」

「ドアの穴から、外の様子は良う見えてたんや。せやけどチェーンしたまま、ドア開けはったやろ。服脱ぐ時も電気消す言うてたし、めっちゃ注意深いやん。知らんけど」

「はあ、そういうところで判断できるんですか」

「単純に決めつけるのも良うないで。逆にサッシの鍵は開けっ放しやった。自分では気ぃつけてるつもりでも、抜けとるとこもあるみたいや。知らんけど」

「一週間くらい経ったら、その後変化ないか、確認電話でもしておきましょうか」

「そうやな。可愛い子やったしな(笑)」

「そ、そういうことじゃありませんよ」

「ははは、もし心配事が続いてるようやったら、向いに何かの事務所があったやろ。ガレージに監視カメラ付いてたし、そのカメラを確認するて、言うたったらええやん。人の出入りくらい撮れてそうやし」

「先輩さすがですね」

「こんなん基本やで」

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