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『EMIRI 6』 ~三股してる?大親友のストーカー~  作者: 亨利(ヘンリー)


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第1章 被害なし届

 奈美は警察に相談に訪れる前日に、小学時代からの親友、川崎恵美莉に連れられて、アパートの管理会社を確認の為に訪れていた。引っ越して来て間もない頃から、部屋に誰かに侵入されてるんじゃないかって、気がしてならなかったので、恵美莉に相談していたのだった。

「今、鍵をお持ちですか?」

 対応した窓口の持田が奈美に訊いた。

「はい。これです」

 持田という女性は、奈美が部屋を探していた時の担当者だった。彼女の誠実な対応もあって、その部屋に決めたというのもあった。持田は鍵を受け取ると、じっと目を凝らしてその先端を見た。

「このキー、新しいですね」

「鍵は新品に交換されてるんですよね?」

 言葉少なな奈美の代わりに、恵美莉が訊いた。

「そうです」

「ドアの鍵ごと交換されるんですよね?」

 更に恵美莉が念を押して訊いた。

「はい。一応確認してみますけど、全アパートの入居者が変わる度に、新しい鍵に付け替えてる筈なんですよ」

 そう言うと彼女は、鍵を持って事務所の奥の部屋に入っていった。恵美莉は奈美に、安心するように、目配せをして頷いた。

 暫くすると持田が封筒を持って戻ってきた。

「お待たせしてすみません。今、鍵の番号を調べてみたんですけど、入居頂いた3日前に業者が鍵の交換を完了していました。これがその時の『作業報告書兼納品書』です」

 まず恵美莉が、封筒から出された書類の内容を確認した。奈美もそれに目を向けたが、混乱していて、内容までは確認する余裕はなかった。

「じゃ、前の住人が入ってくることはないんですね」

 と恵美莉が尋ねた。

「前にお住まいだったのは、80歳くらいのおばあちゃんでしたよ」

 と持田が言うと、

「そのおばあちゃん、部屋で亡くなったとか?」

 奈美は別の心配でそう訊いた。

「そうじゃないですよ。確か老人ホームに入居されたんでしたよ」

「なんだ・・・」


 南刑事はその話を真剣に聞いていた。また単に彼女の思い込みなんじゃないかと、注意深く確認しながら。

「それで、鍵は交換済みだって話で、一応安心はしたんですけど。でも昨夜、カップ麺が食べた状態、つまり空っぽで台所に置いてあったんです」

「それには、思い当たるところが無いんですね?」

「はい、昨夜は親友と飲んできて、かなり酔っ払った状態だったんで、もしかしたら、自分で食べたのかも知れないと思ったけど」

 奈美は話すのをやめて少し考えた。

「・・・思ったけど?」

「そう思ったんですけど、変なんです。お箸が見当たらないんで」

「お箸って割り箸? それとも普通の塗り箸ってこと?」

「プラスチックだったと思います」

「あ、プラスチックの・・・いつも使ってるやつ?」

「はい、無いんです。ゴミ箱にもどこにも」

「侵入者が持って帰った?」

 彼女は『さあ?』て感じで首を傾げたが、その顔が可愛い。

 南は不謹慎と思いながらも、少し楽しんで聞いていた。この事案を担当したいとも考えた。

「じゃ、お金とか、そんなのは盗まれてない?」

「多分大丈夫です」

「お金以外は? 例えば下着とか」

 彼女は、眉をひそめて南を見た。

「ああ、よくあるんですよ。下着の侵入盗。だから、もしかして? と思って」

 南は少し気まずく、早口で言った。

「私もそれ心配して確認したんですけど、盗まれてはないです」

「物色された形跡は?」

「それも無かったです。多分」

「じゃ、他に特に気になるようなことは、何かありました?」

「・・・こういう相談って多いんですか?」

「え?なんで?」

「刑事さん、またかって感じで聞いてらっしゃるから」

 南はドキッとして、背筋を伸ばして座り直した。

「そんなことないですよ。部屋に侵入されるって、あまりない事案です」

「でも今、下着の侵入盗はよくあるって」

「え、ああ、その場合は、窓ガラスが割られてたり、物干しから盗られることがほとんどで、カップ麺が食べられるなんてケースは初めてです」

「じゃ、調べてもらえますか?」

 南はまた、ハッと気がついたように。

「では、ストーカーで思い当たる相手について、教えてもらえますか?」

「・・・考えたら気になる人はいますけど、どうなんだろ?」

「うん。調書書かなきゃ。何歳ですか?」

「20歳です」

「会社員さん?」

「いえ、郵便局で働いてます」

「そう。どこの?」

「中央郵便局です」

「アパートの住所、書いてもらえます?」

 奈美は少し戸惑いながら、ペンを持った。その様子を見ながら南は、

「住所書くの不安でしょ」

「はい」

「こんな状況じゃ仕方ないですよね。でもこれは悪用したりしませんから、安心して下さい」

「はぃ・・・」

「個人情報って大事なんですよね。僕はあまり実感したことないけど、ここに相談に来られる方は、皆さんそう思ってられますよ」

「そうですね。住所知られただけで、急に警戒してしまいます」

「え? 僕をですか?」

 奈美は書く手を止めて、南を見た。

「刑事さん。何歳ですか?」

「・・・23ですけど」

「ふうん。なんか警察に相談しても、門前払い食らうのかと思ってたら、ちゃんと対応してくださるから、ちょっとホッとしてます」

(それは相手によりけりだけど・・・)「毎日不安でしょうから、仕方ありませんね。そんな市民に寄り添うのが、警察官の仕事です」

「ふふふ。面白い刑事さん」


 その日の夕方、南は上司の東出警部補に、奈美の事案を報告した。先輩の女性刑事の北木も、その様子を見ている。捜査に出ていた東出は、汗を拭きながらその調書を受け取り、

「また勘違いじゃないのか? 具体的な被害があるわけでも無さそうだし」

「でも、カップ麺が食べてあったのは、どう考えても不自然だと思うんです」

「酔っぱらってて覚えてないんやろ? 知らんけど」

 隣のデスクから、北木刑事が口を挿んだ。

「被害妄想か何かかも知れないと思ったんですけど、お箸だけ盗まれたみたいで」

「変な窃盗犯だな。それこそ信じられん話だ」

 北木は東出の持つ調書をのぞき込み、

「20歳か。一人暮らしで不安なんやろけど、この子可愛かったん?」

「はい。・・・え? いや、別にそんな。特にどうとか・・・」

「何慌ててんねん。可愛いかったら被害にも遭い易いさかい、訊いてんにゃろが、アホ」

「北木、一度自宅訪問して、確認してきてくれるか?」

「そうですね。一度見舞ってやったら、安心して収まりそうですね」

 北木刑事は調書を受け取ってバッグに押し込み、部屋を出ようと歩き出した。その様子を南刑事は、呆気にとられた様子で見送っていると、東出が南を指差して、

「お前も行け」

「早よおいでや!」

 北木が廊下で叫んだ。

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