プロローグ
まえがき
自由奔放な生き方をする恵美莉。今回は、彼女の大親友奈美の、スピンオフ的なエピソードです。
引っ越して間もなく、奈美のアパートに不審なことが連発する。彼女はストーカーに狙われてるんじゃないかと不安になり、警察に相談するのだが。
「市民の安全を守るのが仕事じゃないんですか!? すぐに張り込みして犯人を捕まえてくださいよ!」
(デジャブ? またこのセリフか)と僕はため息をついた。(この女の人、エキサイトしてきちゃったな)
「お気持ちはよく解りますが、それだけじゃ、警察は動けないものなんですよ」
「こうして訴えに来てもですか!?」
「ええ、具体的な被害届がないと捜査はできないので、まずは交番のお巡りさんにパトロールを強化してもらって・・・」
「事件が起きてからじゃ遅いでしょ! 毎晩、駅からつけられてるんですよ!」
「・・・声をかけられたり、走って追いかけられたりはしたんですか?」
「それはないですけど、放っといて危ないことになったら、責任取ってくれるの!?」
「じゃ、やっぱり巡回強化で、不審者には職務質問するくらいしか、今の段階じゃできることは限られています。なるべく人通りの多い道を選んで・・・・・・」
僕の名前は、南瑛人。市民を守る捜査3課生活安全係の新米刑事・・・なんだけどな。実際は苦情処理係みたいなもんだ。月に10回くらいこんな相談があって、警察として捜査に乗り出せるような事案は、そのうちの2~3件くらいだ。でもその殆どは、痴漢か下着泥棒くらいだな。
何とか納得してもらって、いや説得して帰ってもらったけど、悪態つかれるとこっちの気分も下がる。今日はマンションで禁止されてる飼い犬が人を咬んだとか、公園のブランコのチェーンが何者かに切られたとかで、同僚も殆ど出払ってるし、こんな時に誰も来ないでほしいのに、また一人、別の女性が訪れて来ている。
「はい。次の方、そこにて座ってください。どうされました?」
「あのう、なんて言ったらいいのか」
「ご相談ですか? 被害届ですか?」
僕は面倒で、ついつい急ぎ早に話を聞こうとしてしまう。
「あ、どうしたかって訊かれても、どうなってるのかよく分かんないんですけど、すごく心配で」
「どんなことが心配なんですか?」
「・・・ストーカー」
(また来たか。簡単にストーカーって言葉使うなよ)
僕は頭をかいて、記録用のファイルを机の中央に動かした。
「ストーカーって、相手は誰で、いつ頃からどんな被害に遭ってるんですか?」
「よく分りません」
「・・・・・・」(分からないって何だよ)
「しつこく誘ってくる人がいて。気のせいかもしれませんけど、部屋に誰かが入った形跡があるんです」
(お? それがマジなら事件だ)僕は彼女の顔を見た。
「それは確かですか?」
僕はいつもの相談者より、少し事件性がありそうな事案に興味をそそられた。それにこの娘、結構可愛いや。
「留守中に侵入されるんですか? 何回くらい?」
「初めて気づいたのは、引越しして来て1週間くらい経った頃なんです。もう1ヶ月ほど前です。その時トイレの便座が上がっていて、『あれ?』て感じだったんです」
「掃除の際に上げたままだった、とかじゃ無いんですね」
「はい。まだ引っ越したばかりで、掃除するほど汚れてませんでしたから」
「男の人が遊びに来てたとか・・・?」
彼女は首を勢い良く振った。
「そうか。その後も何か変わったことは?」
「後をつけられてる気もするし・・・」
「しつこい人? 知り合いじゃないの?」
「しつこく誘ってくるのは職場の人で、それとは別に、通勤途中でよく目の合う人がいて」
「自宅までついてくるんですか?」
「いえ、駅からは自転車で逃げますから」
「じゃ、侵入者は誰か判らないけど、侵入されてる気がすると・・・?」
「頻繁って程でもないんですけど、カーテンが少し開いてたり、置いてた物の位置がずれてたりするんです」
「へえ、ポルターガイスト現象みたいですね・・・」
「イヤだ! そうだったとしたら、もっと怖い!」
「あ。調書取りますね」
僕は慌ててボールペンを持って、ファイルを開いた。
「お名前は?」
「井上奈美です」




