初めての二人暮らし
鎧戸から漏れ出す強い光で目を覚ました。
体を起こせば少しだけじっとりと汗ばんでいる感触が広がった。
薄明かりに浮かび上がるのは、見慣れない室内、真新しいベッド、隣ですやすやと寝息を立てている黒髪の青年。
「……そういえば、そうだったねえ……」
青年の寝顔を見ながら、つい昨日彼と結婚したのだと思い出した。
昨日のことだというのに、全く実感が湧かず苦笑する。
そっと彼の髪を梳かせば、小さく声を漏らして瞼が持ち上がった。
「おはよう」
「……おはようございます」
掠れた声で答えた夫はまだぼんやりとしている。眠たそうな目を擦れば、驚いたように目を見開いた。
「……お、おはようございますっ!」
慌てて飛び起きた彼の声は上擦っていた。驚きすぎだ。
ベッドの上で固まっている彼の頭を苦笑しながら撫でて、ベッドから降りる。
漏れ出す明かりを頼りに身支度を済ませて鎧戸を開ければ、外から爽やかな風と土の香りとともに強い光が入り込んだ。
窓から顔を出せば、日はすっかり高い位置にある。二人揃って寝坊してしまったようだ。
今日は家の片付けがある。この時間から始めるとなれば、二人がかりでもかなり慌ただしくなるだろう。
とはいえ、まずは身の回りのことだ。
振り返って、未だに乱れた格好している夫に微笑む。
「さあ、ユーリス。今日は忙しくなるよ」
それにユーリスはベッドから飛び降りて慌てた様子で着替え始めるが、急ぎすぎて上衣の留め具がずれている。
それを笑いながら直せば、彼は顔を真っ赤にして照れていた。可愛い夫である。
■■■
「えっと、この飾りは処分で大丈夫ですか?」
「うん、他に使い道もないし捨ててしまっていいよ」
大慌てで朝食兼昼食という名の昨日の残りを平らげ、居間の飾り付けを片付ける。
私は食卓などの低い場所を、壁や天井などの高い場所はユーリスが担当だ。
結婚式という一大行事の後ということもあって、飾り付けもかなり豪華だ。
そのため保管するかしないか判断に迷うものも多い。
現に私が片付けている卓布も保管するべきか迷っている。
「ユーリス、これなんだけど……」
「あ、それなら来客があったときにでも使えますし残しておきましょう」
「それなら、この花瓶も残しておこうか。しまっておく場所も考えないとねえ」
二人で暮らすには少々広い家とはいえ、収納できる場所にも限りはある。
使い道があるからと全て残していてはいずれ溢れかえってしまうことだろう。
そこも踏まえて意見をもらえるのはありがたい。細かなところでも意見が異なれば今後が思いやられることだろう。
こんな調子で終始笑いながら片付けは進んでいった。
「……あとは、みんなからの贈り物だねえ。とりあえず上にあるものから順に開けていこうか」
居間の隅に積み上げられた豪華に包装された品の数々を見上げる。
慣習とはいえ、みんななかなか気合を入れてくれたに違いない。
一つ一つ丁寧に包みを開けていけば、出てきたのは食器や置物、ろうそく立てなど様々なものだ。
中には武器の砥石もあった。おそらく私の育ての親でもある武器屋の店主からだろう。
一通り取り出して並べれば、私たちの新たな門出がいかにみんなに祝福されているのかがよく分かる。
「あ、これ。買うのにかなり並ばないといけないやつですよ」
ユーリスが手に取ったのは食卓用金物が入った箱だ。
中に入っているフォークやスプーンは艷やかな光沢を映えさせる程度に細やかな装飾もある。
「……使うのもためらいそうな繊細さだねえ……」
そんな私の感想にユーリスはわかりやすいほどに眉尻を下げる。
「…………たしかにそう、ですね……」
あまりにも物悲しそうな声に疑問符を浮かべる。
そんなにしょんぼりするようなことを言っただろうか?
「特別な時にでも使おうか。ほら、一年後とか」
途端にぱっと表情を明るくするユーリス。
「——はい!」
ちょっと分かりやすすぎるのではないだろうか、と思うがそれも彼の良いところだ。
そんな彼の様子に私は思わず微笑んだ。
これからも、こんなふうに二人で過ごしていくのだろう。
そう思うと、とても満たされた気持ちになるのだった。
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次回「初めての料理」
「……すみません。うまくできると思ったのですが……」
——料理中に一体何が!?




