転移。
そこは。
大きな木々が聳え立つ、斜面の底、だった。
からだ、痛い。
あたしが出現した場所が、たぶんこの坂の上だったんだろう。
そこから転げ落ちたのだ。
あの時。
もう。いいかな。
もう、あたし、居なくなっちゃっても、いいかな……。
心の中がぐちゃぐちゃで、悲しくて、嫌で、ダメ、で……。
きっと全てが間違ってたんだ。
あたしが生まれてきたことが。
きっと、あたしさえ居なければ、お父様も、母さんも、兄様も、みんな幸せでいられたんだ。
そんな気持ちが頭の中でぐるぐると回って、そして。
心にぽっかりと穴が空いた。
ああ、これが、ゲート。
大聖女様がおっしゃってた、心の奥底のゲートなんだって、そう理解して。
手を伸ばしてみた。ゲートの奥底に向けて心の手を伸ばして。
そして、どこか懐かしさが残るそこ。どこだかわからなかったけど、懐かしい記憶の場所。
そんな空間をぎゅっと握り締めたのだ。
ぐるん。
空間がひっくりかえる。
あたしが、あたし自身の周囲の空間と、あたしがぎゅっと掴んだその場所が、ぐるんとひっくり返った。
「空間転移」
これが大聖女様の空間転移だと、そう理解した時にはあたしは坂の上に投げ出されていた。
月もない林の中。
投げ出されたあたしは地面にぶつかりそのまま坂を転げ落ちた。
“罰”が当たったんだ。
兄様を好きになったから。
“罰”が当たったんだ。
あたしなんかが幸せになろうとしたから。
“罰”が当たったんだ。
兄様から、侯爵家嫡子の地位を奪ってしまうところだった、から……。
草の匂いに、血の匂いが混じっている。
ほおに冷たいものが流れて。
あたし、このまま死ぬのかな……。
うっすら開けていた目を、そっと閉じる。
このまま。
儚くなってしまってもしょうがない。
そう全てを諦めて意識を手放そうとした、時。
――ダメよ、マオ。
――寝ちゃ、ダメ、マオ。
最初はうっすら。
でも、だんだんとはっきり。
声が、聞こえてきた。
……キュア?
いつも寄り添ってくれていた、精霊キュア?
――起きて、マオ。願って、生きるって。私たち、マオが願わなきゃ、力を使えない。
――好きよ、マオ。だから、お願いだから、頼って。私たちを呼んで。マオ!!
だって、あたし、ゲートだってないのに。
――開いてるわ。ゲート。ちゃんと開いてる。
――呼んで、キュアって、いつもみたいに。
うっすらと目を開けると、そこにはたくさんのキュアが集まって。
ふわふわと金色に光るキュア。
みんな、優しく瞬いている。
「いいのかな、あたし、生きていても、いいのかな……」
――大好きよ。マオ。
――願って、マオ。
「ありがとう、キュア。あたし、生きたい。このまま死ぬのはやっぱり、いや。お願いキュア――」
回復の、魔法。
キュアの権能が発動したのが、わかった。




