侯爵位。
「殿下!」
「どうした? アンソニー」
「マオは、だめ、です!」
「ふむ。どうしてだ? そなただってさっき言っただろう? 私が未だ婚約者を決めていないのは問題だ、と」
「それはそうではありますが……、でも、マオは、マオだけはダメです……」
「なぜだ? 血筋的にもなんら問題ないだろう? 父上だって母上だって、マオが侯爵令嬢であるなら反対はしないだろう。以前の平民として貴族院に通っていた当時はともかく、だ」
「そういうはなしじゃ、ないのです」
「じゃぁどういうはなしなんだ? 私はずっと、諦めていたんだ。それなのに父上に騙され隣国に行っているあいだにこんなことになっていただなんて。まあ、私にとっては幸運が舞い込んできたようなものだけれどね。よかったよ。隣国との縁談がまとまる前で」
ああ。これは……、だめだ……。
でも、僕だって、マオを諦めるわけにはいかないんだ!!
「僕は、マオを愛しています。マオと結婚したいって、ずっとそう思ってきました。マオにもそう話してますから!」
クリストファの顔がちょっとだけ真顔になった。
それまで、どちらかと言ったら少し斜めに構えていた感じだったのに、真剣な顔で僕を見つめ。
そして。
「ああ。そうだね。君からその言葉を聞けてよかったよ」
そう言って、ふわっと微笑む。
「しかしね。君たちはまだ婚約していないんだろう?」
そう、痛いところをついてきて。彼の口角が少し上がる。
「表向きは君たちは兄妹だ。我が国の法律にも、いや、帝国法を鑑みても兄妹の婚姻を認める法はない」
「だけど、僕たちはいとこだから……」
「そうだね、わかっているよ。マオが侯爵の実子、君は養子だよね」
「そうなんです。だから……」
「じゃぁ、君と侯爵との養子縁組を解消すれば、ただのいとこに戻る、というわけかい?」
ああ。そうだ。そうなのだ……。
「君はそのことを、侯爵に話したの?」
「――いえ、まだです……」
マオがまだ平民の立場だった頃、僕は父様にマオと結婚したいと話した。本気だって。
その時は、父様はただただ微笑むだけだった。決して反対するという感じではなくて。
でも。
父様が母様と交わした契約の内容を聞いてしまった今となっては、迂闊にそのことを言い出せなくなっていた。
父様は、僕の立場をまもるために、子供を作らない選択をしていたのだから。
そこにこだわってしまったことで、母様と行き違いになってしまって……。
全ての不幸はそこからはじまっていたのだと、それを知ってしまった今。
養子縁組を解消してくださいと父様に言い出すことなんて、できなくなってしまっていたのだ。
「マオが私の婚約者になれば、君はそのまま侯爵となるだろう。もしかしたら侯爵だって、そう望んでいるのではないのかい?」
え?
「君が侯爵と養子縁組を解消した場合、マオが次の侯爵となる。我が国の貴族法に則ると、そういうことになるよね」
ああ。そうだ。だから……。
「もちろん君がマオと結婚してしまいさえすれば、君が侯爵を継ぐことも可能になるわけだけど。それを侯爵が納得されるかな」




