アンソニーとクリストファ。
「クリストファ殿下!?」
「やあ。アンソニー」
研究室に前触れもなく訪ねてきたのはクリストファ王太子。
去年貴族院を卒業したクリストファは、今は王宮で王太子として国王を補佐する職務についている。
「隣国を訪問されていると言うお話をお伺いしていましたが、帰国していらっしゃったんですね」
外交訪問で隣国ネデルにいらっしゃったはず?
予定より早すぎる帰国、だけれど……。
「参ったよ。父上も何も言ってくれなかったのだもの。あんな話であったなら断っていたものを」
ああ。
いまだに婚約者をお決めにならないクリストファ王太子に業を煮やしたウイリアム国王陛下が、隣国の姫、フランチェスカ様との縁談をまとめようとして王太子本人を外交使節団団長として送り出したのだと父様からは聞いていた。
「まあ、陛下も殿下をおもってのことだと思いますよ」
「ふん、アンソニーまでそう言うのか?」
「王太子がいつまでも婚約者さえお決めにならないというのは、それこそ問題がありますでしょう?」
「いいんだよ。私には……」
一瞬、言葉が止まる殿下。
私には、なんだろう?
そう訝しんだ時。
思いもかけない言葉がとびだした。
「マオ、復学したんだってね」
「あ、ええ、そうです、けど」
嫌な予感がする。
「正式に侯爵家の令嬢であったと、侯爵の実子であったと、そう届が出されていたね」
「それは……。行方不明になっていた侯爵夫人が発見されたので……」
嘘だ。いや、嘘なのはそれが今になって公に届けられたという事だけれど。
フローラ母様の貴族籍が抜けていなかった、侯爵夫人のままだった、と言うのは僕もびっくりしたけれど、逆に考えれば父様は母様を手放すつもりなんかこれっぽっちもなかった、という事なんだろう。
ずっと腹心のコーラルさんをそばにつけて。
ずっと、その動向を見守っていたのだ。
それはずっと。父様が母様を愛し続けていたという、証しなのだろう。
まあ、これではイライザ夫人が逆恨みするのもわからないでもない。
父様はずっと彼女にはっきりと引導を渡すこともせず、ただただマオを引き取って、そばに置いていたと言うことなのだから。
「君は、知っていたの?」
「え?」
「マオが、本当の侯爵家の娘だって、知ってたの?」
クリストファの直球の質問に、少しの間言葉に詰まった。
なんて答えればいい?
もしかしてクリストファ、マオを婚約者にって思ってる?
それだけは勘弁だ。
絶対に、さけなきゃ。
「確証はなかったけど、そうじゃないかって思ってたよ。ほら、クリストファ殿下が仰ったんだよ。僕とマオの瞳がそっくりだって」
「ああ、そういうこともあったな。あの時は本当に楽しかった……」
「殿下?」
「マオと踊ったあの日は、幼い頃の大切な思い出だよ。私はずっと、彼女のことを想っていたのだから」
ああ、まずい。
「それでもこれで障害は無くなった。彼女が侯爵令嬢であるなら、私にとっても従妹に当たる。血筋的にもなんら問題ない」




