茉莉花。
「どうしたの? マオ、大丈夫?」
「うん、母さん、先生は知恵熱みたいなものかもしれないって」
「知恵熱?」
「うん。なんだか色々考えちゃったのかもしれないわ」
そういった瞬間、ふわっと母さんに抱きしめられた。
「マオ。何かあったらすぐに教えてね。わたしはあなたのことが一番大事よ」
母さんの頬擦りは、暖かくて。心地よくて。
うん。あたしも母さんになら、なんでも話せるかもしれないって、そんな気持ちになれた。
「なんだかね、色々思い出したことがあるの。母さん、今夜、おはなし聞いてくれる?」
「もちろんよ。マオ」
「ありがとう、母さん」
すっごく荒唐無稽なお話すぎて、あたし自身でもよくわかってないのに。母さんに話しても信じてもらえなかったらどうしようって、さっきまではそんなふうに感じてた。
でも、今ならわかる。
母さんは絶対に否定したりはしないって。
信じてもらえるかはどうかは置いておいても、一緒にちゃんと考えてくれるに違いないって……。
病院が終わって、馬車が向かったのは母さんの実家。
貴族街の西の端っこにあるケイプロック男爵家だった。
病院からはけっこうな距離がある。
おばさまは、こんなに遠くの距離を毎日通っていたのね……。
そう思うとすごく感慨深かった。
お家に居場所がないって言ってたおばさま。
母さんのお見舞いに来るのに、けっこう時間、かかったよね……。
乗合馬車も、中央で乗り換えなきゃいけない。
今日のあたしたちみたいにおうちの馬車なら話は別だけど、当時のおばさまはお家の馬車で来ている風には見えなかった。貴族だってことも隠して家名も名乗らず、従者の一人だってつけていなかったんだから。
でもね、日中のお見舞い時間中ずっと母さんのお顔をただただ見つめているだけのおばさまったら、とても優しい表情をしていたの。
おはなしができないことが、どれほどの悲しみをもたらしたんだろうかって、そう思うけど。
あたしと同じ思いでいてくれる人がここにも居るんだって思えることが、当時のあたしにとっては随分と支えにもなってくれた。
こじんまりした男爵家のお屋敷は、それでもお庭に白い花が咲いていて、なんだか懐かしさを感じるようなそんなお家だった。
貴族のお家にしてはこじんまりして居るっていうだけで、ちゃんと平民が住むようなお家よりは大きかったんだけど。
馬車から一歩降りると、その意味がわかった。
このお花の香り、転生前のおばあちゃんちで嗅いだ匂いそのままだ。
甘く、いい香り。茉莉花、だったっけ……。
「母さん、茉莉花の香りがするわ……」
「そうね。母さんも、このお花は大好きなのよ。おばあちゃんもね」
ああ。頭の芯までが茉莉花の匂いで満ちる。
「いらっしゃい。マオさん」
玄関で微笑むおばさまが、そう声をかけてくれた。
途端に涙が溢れて止まらなくなって。
がまん、できない。
「おばあちゃん! おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん!!」
あたしはかけだして。
そのままおばさまに抱きついていた。




