ここじゃない、どこか……。
そうだ。
あたし……。
ここじゃない、世界の記憶があるんだ……。
もしかしたら、夢で見たのかな?
そう考えて、違うって首を振る。
だって、あまりにも異質で、あまりにも荒唐無稽で。
でも、それがこの世界じゃなかったんだって考えると、腑に落ちる。
幼いあたしは、おばあちゃん子だった。
母さんは、あたしを産んでそのまま亡くなったんだって、そう聞かされて育った。
母さんに会いたかったけど、写真だけしか知らなくて。
母さんに会いたいよ……。
そう泣いておばあちゃん困らせてたっけ。
おばあちゃん、どうしてるかな。
あたし、死んじゃったのかな……。
うん。きっとそう。
大人になれず、あたしは子供のまま、あの世界で天に召された……。
おばあちゃんはよく絵本を読んでくれたっけ。
あしながおじさん、フランダース、パレアナ。
大好きだったな……。
超能力が出てくる話も、漫画? 確かそういう本、読んでくれた。
あたしの記憶にある荒唐無稽な物語は、多分、そうやっておばあちゃんに読んで貰ったおはなしたち。
なんだかすごく。懐かしい……。
「マオさん!! 大丈夫ですか!? マオさん!」
あ。
先生が目の前で、叫んでる。
ごめんなさい、あたし、意識が完全に跳んでた。
「あ、ごめんなさい、先生。ちょっと考え事しちゃってて……」
「ああ、よかった。マオさん、急に苦しみ出したものだから……。私のモノクルで診ても病気のようには見えなかったものですから余計に心配してしましました。本当に、もうなんともないのですか?」
「ええ。もう大丈夫です。なんか変なこと思い出したみたいで、しばらくそっちに意識いっちゃってました。ごめんなさい」
「いえ、なんともないなら良いのです。そうですか、何かを思い出して、ですか。そういうのは確かにありますね。子供の知恵熱みたいなものでしょうか」
「知恵熱、ですか。そうかもしれません」
「まあ、今は大丈夫のようですが、あまりにも急に発熱する場合とか頭痛がする場合に備えてお薬を出しておきましょうね」
「ありがとうございます。先生」
「それでは本日の診察はここまでですが、何かいつもと違う様子があれば、すぐに病院にかかってくださいね」
先生、優しくそうおっしゃってくれて。
あたしは会釈をして待合室の母さんのもとへと歩く。
なんだか、時間がものすごくたくさん流れてしまったような、そんな気分。
うん。
生まれ直した時のように、頭の中がスッキリしてる。
そっか。あたし、向こうの世界で天に召され、こっちの世界に生まれ直したんだ。
そっか……。




