知らない言葉の記憶。
メルロマルク総合病院に着くと、あたしと母さんは馬車をおりおもての玄関口に向かった。
今日は入院病棟じゃないからレイン師長たちには会えないかな?
会えなかったら看護師さんたちのところまで挨拶に行こうかな。
そんな風に考えていたら、見知った看護師さんたちにも会えたから挨拶だけして待合のソファーに座ってたら、レイン師長が多分、こちらにわざわざ来てくださった。
「マオちゃんっ」
「レイン師長!」
レイン師長、あたしのそばまでくると、あたしの両手をとって、ブンブンと振って……。
「よかったわね、ほんとよかったわね、マオちゃん……」
そう言って、少し涙ぐむ。
「レイン師長……。ありがとうございます……」
「でも、会えて嬉しいわ。フローラさんはあれからも何度も診察に来てたし色々お話もさせてもらったんだけど、マオちゃんにはもう会えないのかなって、そう思ってたから……」
「マオ。レイン師長からはマオのこと、色々うかがったわよ」
「母さん、母さんもレイン師長と仲良くなったの?」
「ええ。わたしたち、もうお友達よね? レインさん」
「そうね。フローラさん」
にこにことそう見つめ合う母さんとレイン師長。
大好きなレイン師長と母さんが仲良くなって、なんだかすごく嬉しい。
「本当に感謝してるのよ。10年もこの病院でお世話になったんだもの」
「まあでも、フローラさんは固まっちゃってましたからね。お食事も取らない何も変化もない、手のかからない患者さんでしたよ」
「それでも、定期的に体を拭いてくださったり、服を取り替えてくださったり、色々してくださったって聞いたわ」
「それは……、それくらいはね」
レイン師長と母さんがそんな風にお話ししている最中だった。
「マオさん、診察室にお入りください」
そう声がかかって。
「母さん、あたし、行ってくるね」
「ええ、マオ。先生のお話ちゃんと聞くのよ」
「もう、母さんたら、あたし、もう子供じゃないのよ? って何度も言ってるのに」
「ふふ。ごめんねマオ。でも、わたしにとったらマオはまだ五歳の子供の続きだって。そう思えてしょうがないのよ。許して」
にこにこ微笑みながらそんな風に言うから、怒るに怒れないじゃない。
「しょうがないなぁ。じゃぁ、許してあげる。行ってきます母さん」
あたしは母さんとレイン師長に手を降って、診察室のカーテンをくぐった。
◇◇◇
「特に異常は見当たりませんね。マオさん、痛いところとか、おかしいなって思うところ、ありますか?」
「いえ。全然。頭が痛いとかもないです」
「そうですね、診てみても病巣のようなものもなさそうです。やはり精神的なものでしょうか?」
先生ったら、透視ができるのかな?
あたしの頭をいろんな角度から見ただけで、そういう結論を出してみせた。
「先生、あたしの頭の中が見えるんですか?」
「いえいえ。このモノクルのおかげですよ。こちらは医療用のマ•ギア、アーティファクトの『モルブスアイ』というものです。これで診る事で、体内の病巣がある程度わかるんですよ」
ひやぁ。すごいなぁ。
やっぱりお医者さんは違うなぁ。
レントゲンとか使わなくってもわかるんだぁ……。
え? レントゲン? れんと、げん?
なんで?
なんでこんな言葉……。
「う……」
頭が痛い。
痛い……。
「マオさん!」
頭の芯に、さぁっと熱い水のようなものが流れる。




