ゲート。
「ん。それくらいかな。そうしたら、今度は水晶に溜まったマナを、自分の魂に戻してみて?」
「戻す、って?」
「戻すのよ? 頑張って」
うーん。
体から溢れるマナを一生懸命に手のひらに集めるのは、なんとなくだけどイメージできる。
お祈りをするときとそんなに変わらないから。
でも、それを魂に戻す?
戻すって……。どこから……?
水晶に溜まったマナを、手のひらに戻す。
うん。これはできる。
でも……。
体にマナを戻そうと頑張って動かしてみるけれど、マナはあたしの体の表面をぐるぐるぐるぐる移動するだけ。少しくらいは体に染み込んでくれてもいいのに、って思うけど、うまく行かない。
「うん。やっぱり。もしかしたらって思ってたんだけど、マオの魂のゲートって、ちゃんと開いてないのかも」
え!?
「どうしようか。今のままでもマオったら溢れるマナも多くって、日常生活には何にも困らなそうなんだけど」
「どういうことですか!?」
「普通はね、人は自分の魂に溜め込んだマナを、ゲートから外に出すことでギアとつながる事ができるのよ。それが魔法。このときゲートから出てくるのはマナだけじゃないのよ? 自分の意識も少しだけど一緒に外に出してるの。この意識のことを『加護』、その加護の強さを数値で表したものが、『魔力特性値』って呼ばれているものなのよ」
「そう、なんですか……?」
「意識は加護となって、マナに方向性をもたらすの。ギアに自分の想いを伝えて、その権能を発揮してもらうためにね」
「不思議よねえマオったら、ゲートもひらいてないのにギアと心を通わせることができるんだから。まあ、ゲートもひらいてない状態でもそれだけのマナを放出できるって言うのも、普通じゃないけどね」
ゲート……。
あたし、ゲート、ないってこと?
「祭壇の女神像の水晶はね、そんな風にゲートから出てきた『加護』の量を測ってたのよ。ただの加護じゃないわよ? 測定すべき対象者のゲートから出た加護だけ測るの。そうじゃないと、正確には測れないでしょう?」
ああ、確かに……。
「あなたが水晶を金色に輝かせた時点で、キュアの加護があるっていうのはわかったわ。でもそれも皆、あなたから滲み出てきた分だけなのよね。きっと。ちゃんとゲートを通過した量は、測れなかったんじゃないかなぁ?」
ああ……。
「だから……?」
「そうね。推論だけど、多分そんなところじゃないかなぁ」
そっか。あたしのマギアスキルがゼロなのは、間違いでもなんでもなかったんだ……。
ゲートが空いてないなら、そこを通る加護も測れないもん、ね……。
やっぱり……。
「ねえマオ。マオはゲートがなくても魔法が使えるし、ギアたちとも心が通じてる。魂の中には多分人より多くのマナを蓄えているんだと思う。表面から溢れ出るくらいにはね」
セリア様、優しい瞳であたしを見つめてくれてる。
泣き出しそうなあたしの頭をふわっと撫でてくれて。
「このまま、日常生活には何にも困らないわ。だから……、どうする?」
「え? どうする、って……」
「マオはこのままでもいい?」
「でも、ゲートが閉じてるのは、どうにもならないのでしょう?」
セリア様の水晶のような大きな瞳が一瞬閉じて。
また、見開いた。
あたしはその瞳から目が離せなくなって。
「普通の人ならゲートが開いてなかったら魂からマナを出すこともできないの。そういう意味でもあなたは特別だわ。だから無理してゲートを開かなくても良いとも思うのよ」
「ゲートを開かせる方法が、あるのですか?」
セリア様の言い方は、そう聞こえる。
開いていないゲートを開ける、そんな方法があるって。
「ないこともないわ。時間はかかるけど、いまのマナの操作訓練を続けて少しづつ開いて行く方法と、外部から無理やり開ける方法。マオの場合、かなり頑固に閉じてるから訓練には時間がかかるかもしれないけど」
「外から開ける方法があるのなら、あたし、試してみたいです!」
あたしが勢いよく答えると、セリア様、少し困ったようなお顔をして。
「わたくしなら、マオのレイスに働きかけて無理やりゲートをこじ開けることは、できるわ。でも、それには少し問題もあるのよ」
問題?
「ゲートはね、本来自分の意思で開けたり閉めたりできるものなの。なのに無理やりこじ開けて、もし自分で閉める事ができなかったら、どうなると思う?」
「マナが出っ放しになっちゃうってこと、ですか?」
「そう。レイスからマナが際限なく放出されてしまうわ。レイスって、実はマナでできているのよ。なのに中のマナが全部出てしまったら、マナが枯渇してしまったら、レイスはその形を保つことも難しくなってしまうの」
ひゅっ、と。
喉の奥で息が詰まった。
「それって……。それってあたし、壊れちゃうってことですか……」
怖い。
あたしが、あたしの心そのものが、プシャっと潰れてしまう。
そう考えると怖くてたまらなかった。
「さっきも言ったように、わたくしだったら、確かにマオのゲートをこじ開ける事はできるわ。でも、それでもしマオを失ってしまうようなことになったら、嫌なのよ……」
セリア様、金の瞳をゆっくりと閉じて。
ああ。
この間出会ったばっかりなのに。
セリア様があたしのことを気遣ってくれているんだなって思えて、なんだか心の奥が温かくなった。
怖かった気持ちが少しだけ和らいで、ほんの少し、勇気が湧いてくる。
「ありがとうございますセリア様。あたしやっぱりちゃんと地道に訓練に励むことにします。一足飛びでチートを手に入れても、それって自分の力じゃないですもんね」
意識して、微笑んでみせる。
うん。セリア様に安心してもらいたいもの。
はう、でも、チートって何よ。
なんでこんな言葉出てくるんだろう……。
「そうね。マオは、強いわね……」
あたしの笑みに釣られたのか、ふわっと微笑むセリア様。
「それじゃぁまずは自分の心の奥に潜ることからはじめてみましょう。心の奥底の一番奥にあるゲート、それがどうなっているのか自分で意識してみるの」
水晶を持っているあたしの手に、セリア様がそっと両手を重ねた。
「ほら、わたくしも手伝うわ。まずあなたのゲートが一体どうなってしまっているのか、ちゃんと確かめましょう?」




