心の中の温かいもの。
「困ったなぁ。泣かせるつもりじゃぁなかったのよ。ごめんねぇ」
セリアさん、すっと立ち上がったと思ったら、椅子をあたしの隣にずずって運んできて、そのまま座った。
でもって、左手があたしのほおに触れて、涙を拭う!
「だいせいじょ、さま!!」
びっくりして思わず声もうわずって。
「だってね、わたくしも悔しかったのよ? あんな結果が出て。マオのマナを感じて祭壇の間にきてみたのに、ゼロっていうのはないわよ~」
はう!?
「マオからは、とっても好みなマナを感じるの。きっとわたくしの周りにいるこの子達だって、一緒じゃないかしら? マオも、ギアたちが自分を好きでいてくれるの、わかるでしょう?」
ふわっ、ふわっと大聖女様の周囲にギアが集まってくる。っていうか、空間の隙間から次から次へと顕現して飛び回る、キュア、アウラ、エメラ。ディンやレイン? それに、サンやクラウド、グラキエスまでもが居る!!
アークたちに比べて多分そんなに多くないのかな。サンやレイン、クラウドやグラキエスとはあんまり遊んだ事、なかったかも……。
「レインやグラキエスまでいますね……。やっぱり大聖女様ってすごい……」
「やっぱり!! マオ、大好きよ!!」
ぎゅうっと抱きついてくる、大聖女さま!
「あ、あの、大聖女、さま……?」
あたしのかお、真っ赤になってる?
すごく熱い。
「もう、セリアって呼んでって言ったでしょう? お友達なんだから」
拗ねたような声でそういう大聖女さま。ううん、セリアさん。
「はう、セリアさん苦しい……」
「ふふふ、ごめんね。でも、嬉しいの。わたくしとおんなじ人、初めてなんだもの」
え?
「わたくしとおんなじ世界をマオは見ていてくれるって、そう思うと嬉しいのよ」
ああ。
「セリアさんも、ギア達見えるんですよね」
「ええ、そうよ」
「ギア達の気持ちもわかる、ですよね?」
「ふふ。マオも、でしょう?」
ああ、ああ……。
「あたし、ほかの人に話しても、いつも嘘だって言われてて……。マギアスキルがゼロだってわかったときは、これも全部あたしの妄想だったのか、だなんて、そんな風に思ってすごく悲しくって……」
「わたくしもね。聖女に選ばれるまではずっと嘘だって言われてたわ。だから、誰にも本当のことは話した事なかったの。わたくしのことを本当に理解してくれる人なんて、いなかったわ……」
しゅんとして、顔を伏せるセリアさん。
「聖女になってからも、『聖女様は特別なお方だからなのでしょう』って言われるだけでね。わたくしの気持ちなんて、誰もわかってはくれなかったわ……」
ああ、ああ、セリアさま……。
「あたしがいます!! セリアさん、あたしがいますから!!」
同情? じゃ、ない。
共感? とも、ちょっと違う。
でも。
あたしはセリアさまの手をぎゅっと握って。
「あたしも一緒です!!」
そう叫んで。
思わず見つめてしまった彼女の金色の瞳の奥に、吸い込まれてしまいそうな感じがした。
「ありがとう。マオ」
あたしの手を握り返し、ブンブンと上下にふるセリア様。
もうお顔もすっかり晴れて、花のような笑みになっている。
ああ、もう、かわいいなぁこの子。
って、セリアさんって幾つなんだろう?
あたしとあんまり変わらないように見えるけど、以前学院通ってるときには見なかったなぁ。
カッサンドラさんって、家名?
んー、でも、確か歴史の本でどこかで見たような名前。
東の方の聖なる都も、確かカッサンドラって言ったような気もするし……。
ああ、だめ。
もっとちゃんと勉強しておけばよかった。
っていうか、今度兄様に聞いてみようかな。
兄様だったらきっとなんでも識ってそう。
「じゃぁ、そろそろ」
ん?
「マオのマギアスキルを測り直しましょうか」
え!
「祭壇の間にまた行くんですか?」
正直、あの女神様のお部屋にはもうあんまり行きたくない。
ごっそりマナを吸われる気がするもの。
「ふふふ。ジャーン。これはなんでしょう」
セリアさん、背中の戸棚からふわふわふわって綺麗な水晶を取り出してきて。
っていうか、セリアさんったら、背中にも手があるの?
にゅっと透明な腕が後ろに伸びて、水晶を持ってくるのが見えたのだ。
「へへへ。これ、マナの手っていうのよ。結構便利なの」
マナの手!!?
「ほら、自分の心の中にぎゅーっと潜るとね、底の方に『ゲート』があるのがわかるでしょう?」
んんん!!?
自分の心に潜る!?
「そっか。マオはまだ自分の魂に潜ったこと、なかったりする?」
ブンブンと頭を縦にふる。
もう、驚きすぎて声にならない。
「んー。じゃぁまずそこからかな。もしかして、マオってゲートを意識したこともない?」
「わからない、です……」
「そっか。じゃぁ」
セリアさんはあたしの目の前に水晶をかざし。
「これを両手で持ってみて」
セリアさんのマナの手が、水晶を支えている。
透明なお水みたいにも見える、そんな手。
これに、触れてもいいの?
まあいいや。セリアさんの手の上からでも……。
ちょっと勇気をだして、手を伸ばす。
マナの手を潰しちゃわないようにって意識して、そっと水晶に触れてみた。
「あれ?」
セリアさんのマナの手にあたしの手が重なったけど……。
重なったけど……、感触は何にもなくて。
あたしはそのまま水晶を持った形になった。
「うん。じゃぁね。マオは水晶を持ったまま、自分のマナを意識してみて。自分の中のマナを、この水晶に移していくようなイメージでね」
心の中にあるマナをこの水晶に移していく。
セリア様。大聖女様のその声は、あたしの心にスーッと響いて。
ここち、よかった。
心の中の温かいものが、胸から腕に、そして手のひらに、流れていくのが、なんとなくだけどわかった。




