あんな結果。
「大聖女、さま!!?」
ひらひら浮かぶ幽霊のその顔は、確かに大聖女様、なのだけれど……。
どうにも大きさが合わないというか、なんというか、近づいてきたそのひらひらは、五歳だった時のあたしよりも、まだ小さく見える。
お人形のような、そんな感じ。
「んー。呼びにきただけだから気にしないで。このまま研究室まで移動しよっか」
そういうとそのひらひらのシーツのような布が、あたしの手に触れる。
その瞬間。
周囲が反転するような感覚があったかと思うと、あたしは見覚えのない部屋の中にいた。
「え?」
びっくりする暇もないくらいの一瞬。
「ようこそ。わたくしのお部屋に」
目の前には、ちゃんと等身大の大聖女様が立っていた。
「空間、転移!?」
空間転移、テレポート、瞬間移動。
幼い頃にどこかで触れた記憶にあった本に、そんな不思議があった気がして。
ドアを開けたら別の場所、とか、そんな映画もあったような……。
って、映画? エイガ? あれ、あたし、何を……。
「あら、空間転移を知ってるの? マナさん。貴族院の授業じゃ習わないはずなんだけど」
そう言ってくすくすと笑う大聖女、様。
「だって、こんなの空間転移とか瞬間移動とか、そんな言葉じゃなくっちゃ説明できないですよ!?」
「まあ、そうね。間違っちゃいないわ」
「さっき、のは?」
さっき見た大聖女様の人形。後ろのソファーに置かれてるのが、そう、かな。
でも、あれからはさっきのような気配を感じない。
さっきのは完全に大聖女様だったもの。
「ふふ。あれは、わたくしのうつしみ。わたくしの魂を少しだけ伸ばしてあの人形に移したのよ、ほら、こんなふうに」
大聖女様は背後の人形に向かって手を伸ばす。
ああ、分身のような手が、どんどん伸びて。人形にいのちを吹き込むかのように、もちあげた。
「分身? みたいなものよ。ふふふ。ほら、わたくしの本体がこの部屋に残っていれば、どんなに遠くに移動しても一瞬で帰れるもの」
体はシーツ、顔だけ人形の大聖女様が、こちらを向いて、そうコロコロと笑った。
確かによくみると、本当の大聖女様と人形の大聖女様は、なんだか白銀の糸のようなもので繋がっているように見える。
「糸で繋がっているんですか? 大聖女様と人形の大聖女様は」
「ふふふ。だからマオさん好きよ。わたくしのレイスのマナも、ちゃんと見えているんですものね」
「え? だって……」
見えないって話すだなんて選択肢なんか、あたしには無かった。
だって、あまりにもはっきりとそこに存在している白銀の糸。まるで大聖女様の髪をよって作ったような、そんな糸がそこにあるのに。
「ふふふ。こんなことも」
「できるのよ~」
正面の大聖女様。
右手に人形の大聖女様を持って、二人で交互に喋ってる!
「はわわ。大聖女様ってすごいのね」
「ふふっ。だって、大聖女ですもの~。これくらいお茶のこさいさいよ」
「すごく簡単って意味ですか?」
「そそ。マオさんにはちゃんと通じるのね~。嬉しいわ」
大聖女様ったら、なんだかすごく嬉しそう。
手招きしてあたしをテーブルまで誘って、そのまま魔法でお茶のポットを持ち上げる。
「座って座って~。お茶にしましょう」
魔法でカップを並べ、そこに多分魔法で沸かしたお茶を注ぐ。
戸棚から、カステラの乗ったお皿がすすすっと飛んできてテーブルに着地した。
もう、びっくりすることばっかりで目が回りそう。
「大聖女様っていつもこんなにお茶目なんですか?」
「セリア、って呼んで。マオちゃん」
「って、そんなの……」
できませんって言いかけて、止まる。
大聖女様のお顔がすっと曇って、いまにも泣きそうに見える……。
「呼んで、くれない、の?」
あー、もう。
大聖女様はずるい。
自分が可愛いってわかってる顔。
もう、しょうがないなぁ。
「セリア、さま」
「ダメよ、様なんかつけちゃ」
「うーん、じゃぁ、セリアさん!」
「しょうがないなぁ。それで許してあげるわ。マオちゃん」
「って、いつの間にちゃん付けなんです!!」
「だって、マオちゃんはマオちゃんだもの。それともマオって呼び捨ての方がいい?」
「うーん、ちゃんよりは呼び捨てでお願いします!!」
「ふふ、じゃぁ、マオ。わたくしたち、これでお友達よね」
「えー」
「ダメ、なの……?」
瞳をうるうるさせて、両手を前で合わせて指を組む。
そのお顔はほんの少しだけ傾けて。
もう、ぜったいわかってやってる!
「もう。セリアさんったらずるい。そんな風に言われたら断れないじゃないですか!!」
「あはは。だからマオって大好きよ。ありがとうね」
そう言って、テーブル越しにあたしの手を握るセリアさん。
さっきまでうるうるしてた瞳が嘘みたいに。
花のようなお顔で微笑んだ。
◇◇◇
「さあ、じゃぁこの間の続き、やりましょうか」
「え? この間の続きって?」
「マオったら、あんな結果で満足してるわけ?」
え?
だって、あんな結果って……。
あたしのマギアスキルがゼロだったって、あの結果の事?
だよ、ねえ……。
「だって、だって、しょうがないじゃないですか……。儀式でそう言われちゃったんだもの……。受け入れるしか、ないですもん……」
納得なんか、できてるわけ、ない。
満足? そんなのあるわけない。
あたしだって、もう少しくらいはマシかもって思ってたんだもん。
あんな結果……。
もう、泣きたい……。




