あたしはあたし、だもの。
儀式の前にはあんなにどうでもいいから早く終わっちゃえ、みたいに思ってたのに、いざ自分の魔力特性値がゼロだってわかったらものすごくショックをうけてるの、なんか自分でもよくわかんないけど。
それでもやっぱりきっと、自分に魔法が使えるって思うことが自分の中で支えになっていたのかな。
母さんを助けるために自己流で見よう見まねで使ってた魔法だけど、それでもそんな魔法が自分にも使えるって思うことが、もしかしたらお父様との血のつながりを証明しているって思えて心の支えになってたのかも。
貴族って地位や家柄には思い入れも何もないけど。
お父様の娘だって信じるためには、そんな支えもあたしには必要だったんだなって。
帰りの馬車の中で兄様は「気にするな。マオには才能があるって、僕は信じてるから。現に、聖女の加護があるのは間違いなかったわけだし」って慰めてくれた。
でも。
「キュアの加護だもん。初歩の、ほんとに初級クラスの回復魔法しか使えないのかもだから……」
って弱音を吐いて。
そんな言葉、言うつもりじゃなかったのに。
あたしって、ほんと、ダメ。
こんなんじゃ兄様の隣にふさわしくない。
そう思われるのが怖くて、泣きたくなった。
目に涙が溜まって。
もう、溢れちゃいそうになって。
それでも、ここで泣き出したらとまらなくなっちゃう。
兄様にも呆れられる。
そう思って、うつむいたまま涙を堪えていたあたしに、兄様はやさしく頭を撫でてくれた。
「兄様、あたし、もう子供じゃないのですよ?」
うれしくて、でも、恥ずかしくて。
ついついそんな言葉が口をついて漏れる。
「そうだな。マオはもう立派なレディだものな」
あたしを撫でるのをやめずに微笑む兄様に、あたしもふわりと綻んだ。
周囲のキュアやアークたちがそんなあたしの心に寄り添ってくれているのを感じながら、あたしは兄様の胸にこてんと頭をつけて。
「ありがとうございます。兄様」
と、囁いた。
◇◇◇
今夜は母さんはエドワードお父様とお話しがあるからって、あたしは一人で寝ることになった。
結局、落ち込んでしまった心はなかなか浮上しないまま、儀式の結果さえ自分では話すこともできなかったあたし。
お父様にも、母さんにも、心配をかけちゃったかもしれないってそうは思ったけど、それでも沈んだ心をなんとかすることもできず、夕飯を頂いたあとすぐお布団の中に潜り込んだのだった。
お布団に潜って、泣き散らかして。
いつの間にか眠ってしまったのか、ふと目が覚めた時にはまだお外は朝にはなっていなかった。
カーテンも開けたまま寝入っちゃっていたのか、窓の外には大きなお月さまが見えていた。
「そっか。今夜は満月か……」
欠けることのない、まんまるなお月さま。それが二つ、お空に揃って浮かんでいる。
フタツキの満月。
っていうか、今日が年に数回しか訪れない、こんな二つの月が同じ方向に揃って、なおかつ満月になる日だったなんて、すっかり忘れていた。
満月の夜は、月の光がマナを含んで降り注ぐ。
まるで、月が地上に降ってくるかのように、柔らかな明るい夜になる。
「ああ。ギアたちも喜んでるわ……」
精霊ギアたちは、降り注ぐ月の光の周りをまるでダンスでも踊るかのように、くるくる、くるくると舞っている。
貴族院小等部に入学したころだったか、同級生にギアが見えるって言ったらばかにされたから、人には話したことなかったけど、あたしにはギアたちが見えた。ギアたちがどんな気持ちでいるかも、感じることができていた。
「ギアは極小のツブで、人の目には見えないって言うのは常識だろ?」
「こいつ、たまたまマナを受けて発光しているギアが見えただけだよ。ギアが可視化する瞬間なら誰にだって見えるけどな」
「そもそもギアなんて普段は大気に溶けてるんだぜ? 加護のある人が魔法を使おうとする時ににだけ顕現して権能を行使してくれるんだ。お前が指差すそこにいるわけないだろ? そんなものお前の妄想だ」
そうばかにされ。
それ以来、人に話すのが怖くなってしまっていた。
何を言っても、「お前の妄想だ」そう言われそうで。
でも。
あたしはギアが見える。気持ちもわかる。
それはあたしの中では本当のことだった。妄想なんかじゃなかったのに。
マギアスキル、魔力特性値はギアとの相性、ギアといかに親密であるかを表している数値だと思ってた。
だから、余計にショックだった。
あたし、ずっと妄想を見てたの?
ギアは、あたしにずっと好意を示してくれていたのに、これはみんなまぼろしだったの?
ふわりとこちらに寄ってきてくれたキュアが、
(マオ、すき……)
(マオ、泣かないで……)
そう慰めてくれたのが心にしみて。
なんとなくだけど、心のモヤモヤが解消していく。
うん。
あたしはあたしだもの。
これがまぼろしだったのだとしたら、それならそれでもいい。
あたしがギアたちのことが好きなのは、変わらないもの。
そう考えたらスッキリして、そのあとはゆっくりと眠れたのだった。




