女神。
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《アンソニー視点です》
マオは貴族院に入り直すことになった。
正直、聖女庁には感謝している。
二年も遅れてしまったんだもの、素直にこのまま編入させてくれるとは思っていなかったから。
12歳で小等部を卒業してそのまま高等部に入学していれば、今のマオは高等部の最終学年になっているところだった。
普通に考えたら、来年入学時からやり直すのがスジだったろうけれど、それでは同級生よりも三年遅れてしまうことになる。
それではあまりにもかわいそうだと、父様も進学を勧めなかったかもしれなかった。
べつに、貴族院高等部を卒業していなくても、貴族としての罰則があるわけでもない。
聖女庁が半ばゴリ押しでマオを貴族院高等部一年に押し込んでくれたおかげで、僕はマオと一緒に貴族院に通うことができるようになった。
彼女のポテンシャルがどれくらいのものかがわかるのは嬉しい。
だから。
初日の放課後祭壇で加護を測る予定だと聞かされて、いてもたってもいられなくなった。
幸い僕は今大学院で加護の研究をしていることもあって、多少先生方には顔がきく。
「加護を測るなら、保護者の同席はあって然るべきでしょう?」
そう担当のデルボア先生にはお願いしておいた。
講堂の最奥、祭壇の間に入った時、マオは女神像に向かって進もうとしているところだった。
「マオ」と呼ぶと、なんだか緊張している様子のマオの顔が見える。
「兄様?」
驚いた声を出すマオに、僕はなるべく平静を装って話しかける。
「入学セレモニーであれば父兄同席のもと加護を調べるんだけど、マオは一人で調べられることになるだろう? それではせっかくの感動の場面に立ち会えないと思って、学院にお願いしておいたんだよ。ぜひ僕も同席させて欲しいって」
少しでもマオの緊張を解いてあげたかった。
「そうですよね。せっかくの儀式ですもの、お兄様にも同席していただけて良かったわね。マオさん」
デルボア先生のその声に、ゆったりと微笑んでみせる。
本当はこの祭壇の間に入った時から、女神像のプレッシャーを半端ないほど感じていた。
昔ここに入った時には感じなかったほどの、圧力。
空気までもがねっとりと重く感じる。
「では。マオさん、女神像の前までお願いしますね」
そう言ってマオの背中を押すデルボア先生。
しかし、マオはなかなか足が進まなかった。
女神に拒否されている?
そんなバカな。
どういうことかと考えていると、背後で扉の開いた音がする。
「大聖女、さま!」
デルボア先生が驚愕の声をあげ。
そちらに振り向くとそこには……。
白銀のシルクのような髪を靡かせ、金の瞳は全てを見渡すかのような……。
正面にある女神像がまるで人として顕現したかのような、そんな大聖女。
セリア・カッサンドラ様が、ふわりと佇んでいた。
「ふふ。ちょっとその子、マオさんに興味がありましてね。同席させてもらえないかと思って」
カッサンドラ様はそうふんわりとした少女のような声で言った。
もう、随分と前から大聖女であったはずなのに、見た目は全然変わらない。
今でも、下手したらそこらの学生のようにも見える。
真っ白なキトン、聖女服に身を包んでいなければ、生徒の一人だと言っても通用するかもしれない。
まあでも、その身から発するマナを感じるものからしたら、ただの人ではないと思われるに違いなかったけれど。
「大聖女、セリア・カッサンドラ、様でいらっしゃいますか?」
思わず声が震えた。
この部屋を包む圧と、カッサンドラ様の圧に挟まれて、呼吸がうまくできない。
「ええ。貴方はアンソニー・フリーデンさんですね。優秀な研究者でいらっしゃるって、伺っていますわ」
「恐縮、です。しかし大聖女様、どうしてこちらに?」
「そうですわ。大聖女様、本日はこちらに来られる予定ではありませんでしたのに」
デルボア先生もそう。
「うーん。本日の予定はもう終わったもの。だからこちらに伺っただけですのに。わたくしが来ては何か差し支えがありますでしょうか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「ではいいではないですか。わたくし本当にその子に興味があるだけなのですもの。いいでしょう? マオさん?」
カッサンドラ様はデルボア先生との会話に嫌気を刺したような声音で、マオに声をかけた。
「わたしからは何も。そもそも今日これからどうすればいいのかさえ、分かっていませんのに」
マオは開き直ったようにそう答える。一応貴族らしい言葉遣いだったけど、その声には棘があるように感じた。
「じゃぁ。マオさん、その水晶を触れる?」
「いえ、なんだかすごくプレッシャーがかかっていて、腕を伸ばすこともできなくて……」
え? そこまで、か。
「そうね。そうだと思ったわ」
「大聖女、さま?」
「デルボア。あなた、儀式の正式な手順を存じてます? あれはただ触ればいいというものではないのですよ?」
「ああ、申し訳ございません……」
え? どういうことだろう。
「神はわがままですからね。儀式をするのであれば、まずは神への祈りを捧げマナを奉納するところから、でしょうか」
ああ。
そうか。
いつもの儀式だったらまず神への祈りとマナの奉納から始まる。
というか、それが当たり前だったから今回そんな儀式さえされていないということに気が付かなかった。
カサンドラ様の言葉に何か納得したように両手を合わせたマオ。
その瞬間。
マオの体が金色に輝いた。
金色の粒子が祭壇に舞う。
神々しい光に包まれたマオに、女神像も満足しているような顔に見えた。




