魔法の実技。
午前中が座学。
午後からは実技の時間だった。
小等部の時は実技っていうと運動の時間だったんだけど、高等部はやっぱり魔法実技になるらしい。
今日は体操着に着替えてグランドでの実技。体操着だなんて、運動の時間と勘違いしちゃいそうだけど、実際魔法を使うって行為はかなり危険も伴うので、動きやすい服装で、ってことなのかな?
まず準備運動をしっかりしてからデルボア先生の号令の元、皆が集まって。
「さあ、みなさん前回までに基礎はできていると思いますから、今日は魔法を使ったゲームをしましょう」
「えー、ゲーム?」
「もっとちゃんとしたのがいいな」
「どうせ魔法を使うなら攻撃魔法の的当てとか~」
そんな声が飛び交う。
「まずはいかに魔法を行使するといった行為に体を慣らすか、が重要なのですよ。ゲームはボールアタックです。ただし、ボールは素手ではなく魔力で支え、飛ばしてくださいね。キャッチするのも各々の加護の魔法で行うように。さあ。マオさん以外はいつものようにコートに分かれて」
皆は慣れた感じでコートに分かれる。
いつもやってる競技なの?
そんな雰囲気で。
「今日はマオさんはそこで見学ね。放課後少しだけ時間を頂戴。あなたの加護を調べましょ?」
そう言ってデルボア先生が真っ白のボールを取り出した。そこに何か魔法をまとわり付かせる?
ふわんと光るボール。
先生がコートの中央にそのボールを投げ込むと、そのままゲームが始まった。
んん?
これって、ドッジボール?
幼い頃近所の子に混ぜてもらって遊んだような、そんな記憶をふんわりと思い出す……。
魔法の加護ってほんと色々あるっぽい。
アークの加護、は、炎の加護。
バアルの加護、は、水の加護。
アウラの加護、は、風の加護。
オプスの加護、は、土の加護。
他にももっと色々加護はあるけど、代表的なのはこの四つらしい。
っていうか、世界にいっぱい溢れている精霊、ギアたちの中でも、アークバアルアウラオプスは多分一番多いから。
彼らの様々な権能を操るのが魔法、マギアを行使する近道になるって、兄様にも聞いたっけ。
両手に風を纏っている子が鋭くボールを飛ばす。
土の加護の子は、自分の前に土の壁を作り、ボールに当たるのを防ぐ。
炎の加護の子は、ちょっと危険。自分も燃えちゃったら怖いよね。人の体は弱いからなぁって思ってたら、このゲームをやってる同級生たちの体の表面に、マナの皮みたいなものが見えた。
ああ、あれで怪我を防いでるのかなぁ。
みんな、体の表面ぴったりにかぶるように、マナをバリアみたいに纏っている。
炎の球が放たれて、それを弾いた土の壁に当たって……。
ブン! と、その球が見学してたあたしに向かって飛んできて。
危ない!
って思った時、だった。
目の前に水の滝が現れてて、ボールはその滝に刺さって止まった。
「あなた。そんなところでぼさっと見てると危ないわよ!」
こちらに魔法を纏った手を伸ばす、エーデルローゼ嬢。
その輝きは、バアルのもので……。
一瞬こちらを見たけど、つん! って顔をそらす彼女。
はわわ。彼女、あたしを助けてくれた?
水の滝は一瞬で消え失せていたけど、その魔力の残滓は間違いなくエーデルローゼから放たれたものだった。
「ありがとう」
コートの中の彼女に、お礼を言って。
「わたくしは別に貴女を助けようとしたわけじゃありませんわ。ノブレス・オブリージュ。わたくしたち高貴な貴族の血を引くものは、弱々しい平民をまもる義務があるのよ! だから魔法を使ってみせただけよ!」
そんなふうに吐き捨てるように口にするエーデルローゼ。
うん。そうね。そういうことにしておこう。
ふふっと顔が緩む。
強がってみせている彼女のことが、なんだかかわいくて。憎めない。
◇◇◇
放課後。
デルボア先生について歩いていく。
「マナさんは少し入学が遅くなってしまいましたからね。ほかの皆に追いつくためにも、早めに加護を調べておいた方が良さそうですものね」
そうおっしゃるデルボア先生。
その優しい声音からは、他意はないのだって気持ちが伝わってくる。
あたしの考えすぎだったのかなぁ。
なんだか色々調べ回されるんじゃないかって、ちょっと警戒してたけど。
講堂の奥。
美しいステンドグラスが壁を覆っている、そんなお部屋にたどり着いた。
正面には女神像。
手に、水晶を持って佇んでいるその姿は、慈愛に満ちたオーラさえ感じた。
そんな聖なる姿、で。
しばらくそんな女神像に魅入っていると、背後から「マオ」って声がした。
「兄様?」
どうしてここに?
「入学セレモニーであれば父兄同席のもと加護を調べるんだけど、マオは一人で調べられることになるだろう? それではせっかくの感動の場面に立ち会えないと思って、学院にお願いしておいたんだよ。ぜひ僕も同席させて欲しいって」
そう言い、ふんわりと微笑んでくれる兄様。
「そうですよね。せっかくの儀式ですもの、お兄様にも同席していただけて良かったわね。マオさん」
デルボア先生も笑顔でそうおっしゃって。
ふふ。
なんだか一人で警戒して緊張してたのがバカみたい。
そうよね。
せっかくの儀式なんだもの。楽しまなきゃね。
なんだか肩の力が抜けた感じ。
うん。
もうどんな結果でも、かまわないわ。
どんな加護だったって、あたしはあたしだもの。
「では。マオさん、女神像の前までお願いしますね」
そう言って背中を押すデルボア先生。
女神のオーラはかなり強烈で、空気までもがねっとりと重く感じる。
意を決してそばまで行くと、あたしの背の倍以上はある女神像が、こちらみた? ような気がした。




