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協力編

 なめちゃんはテストに引き続き、次のかけっこの授業でもビリをとりました。


 一生懸命走りながら、しかし、実際にはあまりにも遅い速度で駆けるという演技をするのは全力疾走以上に体力を奪われました。友達や先生にも心配され、早退したほうがいいんじゃないかとまで言われ、もうすぐ20分休みだから大丈夫とやんわり断ります。


 20分休みに入り、なめちゃんはかけっこの時の倍以上の速度で東校舎裏へと向かいました。


 カタツムリくんを助けるためにテストでもかけっこでも最低の結果を獲得したのですから、これで殻の中に入る資格を得たはずです。


 光の中に入ると、そこには何もありませんでした。


 目を閉じて、殻よ出ろと念じても何も変化がありません。


「どうして殻が見えないの!」

 思わずなめちゃんは叫びました。


『うるさいわね』

 なめちゃんの叫びに、あの憎き光の声が気だるげな応答をします。


「ねえ、どうして殻が無いの? わたしちゃんと弱くなれたはずなのに……」


『驚いた。あなた、最初に会った時よりもずっと強くなってるじゃない』


「そんなわけないよ」


『本当よ』


 万策尽きて、なめちゃんはがっくりとうなだれてしまいました。これ以上、どうすればいいか見当もつきません。なめちゃんにこの問題は解決できませんでした。


 一人での解決は無理かもしれません。なめちゃん自身で助け出したかったのですが、こうなってはどうしようもありません。誰かに頼るほかないでしょう。


 何人かの友達を思い浮かべます。その中でも気の弱そうななめくじを。


 なめちゃんは顔を思い浮かべて、頭を振りました。こんな危険なことに友達を巻き込むことなんてできるわけがありません。友達まで干からびてしまうかもしれないのです。


 他には誰か――


 つのっちくんの顔が何故か浮かびました。


 他の友達なら巻き込むことに抵抗はありますが、いつもカタツムリくんに意地悪をしているつのっちくんなら、今回ぐらい助けるのに協力してもらってもばちは当たらないでしょう。

 それに、そう簡単になめっちくんがくたばるようなことを想像できませんでした。


 なめちゃんは光の中から飛び出して、校庭へと向かいます。つのっちくんは体が大きいので簡単に見つかりました。何やら走り回っているつのっちくんを捕まえます。


「って、いきなり何するんだなめちゃん。今鬼ごっこの最中なんだよ」


「そんなことより、ちょっとこっちにきてくれる?」


 無理やり東校舎裏へと連れ込みます。


「ここって立ち入り禁止のとこじゃねーか。お前みたいな優等生が入ってもいいのか?」


 なめちゃんは質問には答えずに、つのっちくんに頼みます。

「つのっちくんに、お願いがあるの」


「お願いって、まさかデートのお誘い?」


「ちがーう!!」


「怒んなよ、半分冗談だって。それでお願いって」


「この光の中に入ってほしいの」

 なめちゃんは、さらに奥へ連れ込んで光のそばまで案内します。


「おいおい、冗談だろ」


「本気よ」


 なめちゃんは、一匹で光の中に入っていきました。


「ほら、この光に浴びても平気だから」

 光の中から呼びかけます。


「マジか……」


 平然と光に居座るなめちゃんに驚愕し、つのっちくんも恐る恐る光の中へとはいりました。


「ほら、なんともないでしょ?」

 カタツムリくんは光に入って悲鳴を上げていたので、つのっちくんが何ともなくてほっとします。


「ああ、すげえなこりゃ」


『殻は、殻は入りませんか〜』

 なめちゃんの時と同様、突如頭の中に直接声が響き渡りました。


「だ、誰だ? 頭の中に直接……」


『私は夢と希望という殻を与える者。けれど殻が不要だというのなら、取り外すのも私の役目よ』


「そういえばあなたの名前って、聞いてなかったね」

 なめちゃんはずっと、頭の中で光の声などと呼んでいました。声をかけようとして、どう呼んでいいのか困ってしまいました。


『私はのぞみよ』


「じゃあ、のぞみにお願い。つのっちくんに殻を見せてあげてほしいの」


『あなたも次の日に別の男連れてくるなんてなかなかやるわね』


「茶化さないでさっさと出して」


「おいちょっと待て、別の男って誰だ?」


 光の声、じゃなかった、のぞみが余計なことを言ったせいで面倒なことになりました。


『カタツムリくんよ』


「はぁ? カタツムリぃ?」


『あなたの大好きななめちゃんはね、カタツムリくんを助けるために一生懸命ここまでやってきたのよ。残念だけど、あなたはただカタツムリくんを助けるために彼女に利用されただけ』


「――おいてめぇ、どういうことだあ?」

 つのっちくんは静かな怒りをたたえて迫ってきました。


「ごめんなさい。こんなことには巻き込みたくなかったんだけど、カタツムリくんが戻ってこないの。わたしじゃ助けられなかったから、つのっちくんに手伝ってもらいたくて」


「ふざけんじゃねえ。誰がそんなことするか」

 つのっちくんは吐き捨てるように言い、踵を返して光から出ようとします。


「待って、つのっちくん! 頼りになるのはあなたしかいないの」


 つのっちくんは歩みを止めません。


「もし、カタツムリくんを助け出せたら、つのっちくんの言うこと何でも聞くから!」


 ぴたり、と止まりました。


 後ろ目でなめちゃんをにらみつけます。


「なんでも?」


「わたしにできることなら」


 しばらくの沈黙の後、つのっちくんは言いました。

「おれと付き合え」


「付き合うって?」


「おれの彼女になれ」


「……」

 今度はなめちゃんが沈黙する番でした。


「無理なら話は終わりだ」


「……わかった。あなたと付き合ってあげる。カタツムリくんを助け出せたら、だけど」


「よし、決まりだな。で、カタツムリの野郎はどこにいるんだ? 今日風邪で休みなんだろあいつ」


『彼は殻の中に閉じこもってるわ。ここにある殻が見えるかしら』

 なめちゃんの代わりにのぞみが答えます。


「殻? どこにある?」

 つのっちくんは、辺りを見回します。


『ここよ、すぐ目の前よ』


 目を凝らしましたがやはり何も見えませんでした。


「馬鹿にしてんのか」


『いいえ、あなたには素質があるわ。必ず見えるようになる』


 つのっちくんはため息をつきました。


「おれには全っ然見えねえけど、そのお前の妄想が見えるようになるって根拠は何?」


『あなたは信じてないから』


「信じてないって何を」


『あなたがなめちゃんと付き合えるってこと』


「……さっきなめちゃんが言ったことを忘れたのか? 言っておくが、あいつはは約束を破るようなやつじゃないぜ」


『そうね、あなたがカタツムリくんを無事連れてこれたのなら、嫌々ながら約束通り付き合ってくれるでしょうね。でもね、あなたのことを好きになることなんて決してない。そこには一方通行の愛しかないから。いつまでも続くはずがない。最終的には破局するわ』


「……」


『本当は分かってるんでしょう? ただ意地になって認めたくないだけなんでしょう? なめちゃんはあなたのことなんて一ミリも好きじゃ――』


「――黙れ!」

 息を荒げながら叫びます。


「お前に何がわかる。それこそ何の根拠も――」


「――あ、れ?」


『ついに見えたようね。目の前にあるでしょ、殻が。カタツムリくんはあの中にいる』


 つのっちくんは硬直しています。怒りの表情は消え、驚きと恐怖の感情に支配されていました。


「なっ」

 つのっちくんは背中を振り返ります。


「おれの背中にも殻が!」


『それはあなたの殻。外してほしかったら、また今度ここに来なさい。今はカタツムリくんの殻よ』


「ねえ、つのっちくんには殻が見えるの」


「ああ、確かに目の前にある。背中にもな。結構重いぜこれ」


「そうなんだ。わたしにはやっぱり見えない」


「嘘だろ?」


「嘘じゃない。昨日一瞬だけ現れたけど、今はなにもないよ」


「そうか……」


「お願い、つのっちくん。カタツムリくんを連れだしてきて」


「わかったぜ。あいつを一発ぶん殴ればいいんだろ?」


「あんまりひどいことはしないでね」


「りょーかい。じゃ、行ってくる。そこで大人しく待ってろよ」


 つのっちくんは目の前の殻に体をねじ込ませました。




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