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#3 会話

俺が一瞬、油断したおかげで、俺は今、銃を向けられている。


周りにいる手下5人は、まるでこの女の魔法で蝋人形にでも変えられたように、凍りついて動けねえ。

だが、当のその女は、両手で銃を構えたまま、やはり動かねえ。

ガタガタと小刻みに震えてやがる。撃ったら最後、周りの男どもに、なぶり殺される運命を悟ってのことだろう。

この一触即発の船橋(せんきょう)内で、俺は口を開く。


「撃てよ。」


俺のこの一言が、意外だったようだ。それを聞いたこの女は一瞬、眉がピクリと動く。


「さっさと引き金を引きゃいいだろ。撃てーっ!」


立て続けに、俺は叫んだ。急かされた女は、ついに引き金を引く。が……なにも起こらない。


「……はっ、ははははっ!」


俺の笑い声だけが、船橋内に響く。状況を理解できないこの女は、何度も銃の引き金を引いているが、やはり銃は反応しない。


「お前、やはり素人だな。」


俺はこいつの握っている銃を掴む。なおも焦りながら俺に銃口を向けたまま、カチカチと何度も引き金を引くこの女の顔は、絶望の色を深めていく。うーん、これはますます、いい表情だな。俺は強引に、この女の手から銃を奪う。そして、引き金を指差しながら言う。


「銃ってのはな、引き金のところに指紋認証がついてるんだ。つまりだ、こいつは俺でなきゃ撃てねんだよ。」


そして俺は銃を持ち直し、その銃口を女に向ける。そして、引き金に指をかけた。


最高潮の絶望が、今この女を包んでいる。顔から、血の気が引いているのが分かる。身体に力が入らなくなったのか、とうとうその場にへたり込む。俺を見上げるそいつの表情を見て、俺は思う。

なんだこいつ……まだ、死にたくないんじゃねえのか?言ってることと、身体の反応が、まるで逆だな。


「さて、ひと思いに殺してやってもいいが、それじゃつまらねえな……手足に1発づつ、痛みを味わいながら、死んでもらうとしようか?」

「ひ……ひぃ……」


敢えて俺は、こいつを恐怖のどん底に叩き落とす言葉を投げかける。顔の表情が、これまで見た中で最高にいい。しばらく眺めていたいが、あまり引っ張ると折角のいい表情がゆるんで台無しになる。俺はこいつの右腕に、銃口を向ける。そして俺は、引き金の指に力を込める。


「バンッ!」


俺のこの叫び声と同時に、この女は目を閉じる。床の上でガタガタと震えている。そしてその床に、なにやら液状のものが広がる。

やれやれ……こいつ、恐怖のあまり漏らしやがったな。だが、それを見て俺は確信する。こいつには、死ぬ覚悟なんてものはない。少なくとも、まだ生き延びたいと、身体がそう訴えてやがる。


「おい、ぺぺ!」

「はい、船長!」

「こいつを風呂場に連れて行ってやれ。それに、さっき奪った荷物の中に、婦人用の服と下着があっただろう。着替えもついでに持って行ってやれ。」

「りょ、了解です!」

「それとラミロ!」

「なんでしょう、船長!」

「床掃除だ。お前、得意だろう。」

「えーっ……」

「なんだぁ、不服か?」

「いえ、やりますよ船長……」


まだ震えの止まらない女の腕を抱えて、手下の一人が風呂場へと向かう。まだ五体満足だと悟った女は、真っ赤な顔で俺の顔を睨みつけている。そして俺の顔を睨んだまま、出入り口を抜ける。入れ違いに、バケツとモップを抱えたラミロが入ってくる。


そして俺は船長席に座ると、背もたれを倒して目を閉じる。そこでさっきのあの女の表情を、俺は脳内で反芻(はんすう)する。


それから1時間ほどして、飯を食うために俺は食堂に向かう。狭い食堂に、あの女が座っていた。

にしてもなんだ、この服は。真っ赤なワンピースに、白い靴。おまけに、やたらつばの広い帽子をかぶってやがる。これが草原か海岸ならこの格好は絵になるんだろうが、ここは海賊船の寂れた小さな食堂だ。場違い感甚だしい。ペペのやつ、どういうセンスしてやがるんだ。


そこで女は黙ってフライドポテトをポリポリと口にしていたようだが、俺の顔を見るなり、不機嫌な顔つきになる。まあ、そりゃそうだろう。ああいうことが、あったばかりだしな。


俺はカウンターにある端末で、適当な料理を選ぶ。なるべくさっと食べられるものを選んだ結果、目玉焼きとトーストを選んじまった。朝食じゃねえんだけどな……だが、目玉焼きが出てきたところで、女は食器をカウンターに戻し、食堂を出ていこうとする。


「おい、待てよ。」


俺はそいつの左腕を掴んだ。何も言わず睨み返す女。相変わらず、いい表情だな。俺は笑みを浮かべながら、そいつに言う。


「せっかくお前を人質として迎え入れたんだ。もう少し、話をしようぜ。」

「嫌よ。大体なんで私が、海賊船の船長なんかと話さなきゃいけないのよ……」


さっきのショックが、まだ忘れられないらしい。船橋でのあの出来事までは見られなかった、少し恥じらいの表情が、たまらなくいい。


「俺はまだ、お前の親父が海賊に殺されたってことしか知らねえんだ。お前の名前も知りゃしねえ。名前も知らねえんじゃ、抗議一つも言えねえだろう?」


それを聞いた女は、再び席に戻る。6人がけのテーブルが一つあるだけのこの食堂で、俺と女、2人きりになる。


トーストに目玉焼き、そして追加で頼んだフライドポテトを持って、女の対面に座る。そしてフライドポテトの入った皿を、女の前に置く。

そのポテトを、再びぼりぼりと貪るこの女。食うというより、半ば苛立ちと恥辱の感情を紛らわそうと当たり散らしているようにも見える。それを見ながら俺は、目玉焼きをトーストの上に乗せて、一気に食らいつく。


「品がないわね。」


それを見た女は、また俺を罵る。俺は応える。


「海賊船に品のいい奴なんて、いるわけがねえだろう。船橋で漏らす奴もいるくらいだからな。」


それを聞いた女の顔が、みるみる赤くなる。忘れようとしていたあの恥辱を思い出し、それを紛らわそうとポテトを2、3本掴んで放り込んでむしゃむしゃとかじり出す。いや、こいつもかなり品がないな。だが、それがいい。


「で、お前、なんて名だ?」


俺はすかさず問いかける。口の中のポテトをぼりぼりと咀嚼していた女は、そいつを飲み込むと口を開く。


「……グレース。」

「へぇ、グレースっていうのかい。」

「そうよ。」

「お前の顔に似て、随分と可愛らしい名前じゃねえか。」


褒めたつもりだが、癇に障ったらしい。右手でポテトを一本握ったまま、俺をまた睨みつけてくる。


「で、あんたはなんて言うの!人に名乗らせておいて、あんたは名乗らないって言うの!?」


さっき船橋で、ドロテオのやつが俺の名を口にしていただろうが。聞いていなかったのか、それとも単に俺の口から聞きたいだけなのか……まあいい、ここは俺も名乗るのが筋だろう。


「俺の名はマカリオ。歳は25だ。16の時に孤児院を出て以来、運び屋に仕掛け屋、便利屋ときて、海賊になったのは3年前になる。以来、俺はこの辺りで連合の民間船を襲い、その積み荷を奪って金に変えて暮らしている。」

「そう。まあ海賊ですものね、ろくな経歴じゃないわね。」

「じゃあ聞くが、そういうお前はどうなんだ?交易船を乗り継ぎ、星を渡り歩いてたって言うじゃねえか。なんだってそんな金にもならねえことしてんだ?」


それを聞いたグレースは、手に持ったポテトを皿に戻し、応える。


「そりゃあ、海賊に出会うためよ。」

「何のために。」

「決まってるじゃない、(あだ)を討つためよ。」


それを聞いて俺は、思わず吹き出しそうになった。何だこいつ、本当に海賊に仇討ちするつもりだったのか?


「おい、馬鹿じゃねえのか!?お前ほどの女ならそんなことしなくったって、堅気で真っ当な暮らしを送ることもできただろうに!」

「嫌なのよ!最愛の父親を殺されておいて、それを忘れて生きるなんて!だから働いて、貯金して、それを元手に海賊のよく出るって言う星の周りを、交易船に乗せてもらって巡ってたのよ!」


バンッと机を叩いて怒鳴るグレース。しかしこいつ、案外不器用な奴だな。海賊を倒したいんなら、軍に入るとか別の道もあっただろうに。


「で?今やその海賊に囚われた身ってわけだ。どうだい、今の気分は?」


俺も意地が悪い。いちいち、こいつの癇に障ることを言い放つ。その度にグレースは俺をキッと鋭い目で睨みつけてくる。その表情が、たまらなくいい。


「最悪よ、決まってるじゃない!おまけに身ぐるみ剥がされて、こんな破廉恥な姿にされて、粗末な食べ物しか与えられず……ああ、なんて可哀想な私……」


いや、場違いな姿ではあるが、破廉恥ではないだろう。それに粗末な食べ物と言いつつも、さっきから海賊の目の前で遠慮なく、しかもまんざらでもない顔で食い散らかしているじゃないか。これのどこが可哀想なんだ?


「で、お前、これからどうするんだ。」


俺のこの一言で、グレースは再び動きを止める。ポテトを一本、皿に突き立てて円を描きながら、不満げな顔でこちらを見上げて応える。


「私、人質なんでしょう!あんたがどうするか、考えなさいよ!」


ああそうだ、そういやあこいつ、人質だったわ。まるで昔からの乗員のように食堂で普通に食ってるから、この瞬間にすっかり忘れていた。


「そうだな、どうしてくれようか……」


俺はニヤニヤしながら、グレースの顔を見る。何をされるのかと不安げな表情が、またなんとも可愛らしい。


「よし、食い終わったな。ちょっと来い。」


そうこうしているうちに空になった皿をその場に残し、俺はグレースの手を引く。赤く動きづらいワンピース姿のグレースを連れて向かったのは、こいつが倒れていた時に寝かせていた、あの空き部屋だ。

空き部屋の中にこいつを入れると、扉を閉める。ますます不安げな、それでいて負けず嫌いな表情を混ぜるこの女に、俺は言う。


「おいっ!」

「な、なによ!」

「手ぇ出せ!」

「は?」

「いいから、右手を出せ!」


俺の言葉に躊躇いながらも、手を差し出すグレース。その手首を握ると俺は、ドアの脇に押し当てる。


「な、何すんのよ!」

「キーの登録だ。」

「き、キー?」

「ほら、登録が済んだ。この部屋はもう、お前のもんだ。」


この部屋の鍵として、グレースの手のひらを登録した。今からここは、こいつの手でないと開かない。


「……どういうつもり?」

「これでお前も、この船の乗員ってことだ。」

「な……」

「海賊嫌いが、海賊になったってことだ。どうだ、今の気分は?」


相変わらず、悔し顔が可愛らしい。いい顔をする。こんな面白い女、そうそう簡単に殺せるか。


「なんで私が海賊なのよ!」

「そうそう、風呂は1日1回にしてくれ。宇宙だから、水は貴重だ。それに着替えもあまりない。床もしょっちゅう汚されると困る。」

「誰が好きで汚すもんですか!だいたいこんな汚い船、洗うだけ無駄よ!」

「あと、船長の言うことには逆らうなよ。それが、この船のルールってもんだ。」

「冗談じゃないわよ!誰が言うことなんか……いつかその寝首を襲ってやるんだから!」

「はっはっはっ!元気がいいな、期待してるぞ!」


カッカしながら怒鳴り散らすグレースに手を振りながら、俺は部屋を出る。そして船橋へと戻る。


それからしばらく船長席で寝そべっていると、グレースのやつが現れる。入り口から、すごすごとやってきて、俺のすぐ傍に立つ。


「なんだ、またイジられに来たのか?」


俺は少し意地悪く声をかける。するとこいつ、またいい表情をする。だが、俺の問いに応えることなく、ただ黙って窓の外を眺めている。


「おい、女!またてめえ、船長にちょっかい出そうって言うのか!?」


ドロテオが叫ぶ。するとグレースは、この問いかけには応える。


「退屈なのよ。どうせ丸腰なんだし、いいじゃない。」


あれだけ恥をかかされたせいか、もう怖いもの知らずなようだ。やや強面のドロテオ相手に、この返しようだ。俺は軽く手を振って、ドロテオに抑えるよう、合図を送る。


しかし残念なことに、窓の外を眺めたって、なにも刺激的なことなんてありゃしない。ただ真っ暗な闇に無数の星が煌めいているだけの、何の変哲もない宇宙が広がっているだけだ。むしろ、この場違いな赤いワンピースを着たこの女の不機嫌そうな表情を見ている方が、よっぽどか目の肥やしになる。


むさ苦しい男ばかりの船橋に単身飛び込んだ、この1匹の赤い珍獣は、しばらくそこで突っ立って、周りの奇異の目に晒されていた。

が、突然、この退屈な船橋が騒がしくなる。


「……おい、こいつはまさか……」


レーダーを見ていたドロテオが、何か見つけたようだ。


「おい、どうした?」

「ここだ、また光った。さっきから、ノイズとは思えねえ光点が、チラチラと見えるんだよ。」

「なんだ、小せえ隕石か何かじゃねえのか?」

「いや、隕石にしちゃあ速すぎる。それにこのパターンは……どう見ても、軍船だ。」


ドロテオのこの一言で、船橋内に緊張が走る。


全長が300メートルの軍船には大抵、ステルス塗装が施されている。この宇宙に存在する2つの勢力、宇宙統一連合と、銀河解放連盟の軍船には、それぞれ灰色と赤褐色のステルス塗装が使われている。

軍のレーダーなら、この塗装を塗った船でも捉えることができるらしいが、民間船用のレーダーでは、軍船はごく小さな点でしか表れない。

だから、この僅かな光の点から軍船の接近を捉え、逃げるより他はない。軍船にこっちが海賊船とバレれば、タダでは済まない。


「ここはまだ、連合の勢力下だよな。」

「そうだ。」

「てことは、あれは連合側の駆逐艦か?」

「そういうことになるな。」

「やべえな……取り敢えず、民間船のふりをして、悠々と進むしかねえな。」


まあ、海賊船といえども、見た目は民間の交易船だ。そう滅多に海賊船だとバレるわけではない。

だが臨検されたらアウトだ。積荷から、こいつが海賊船だとバレちまう。なにせ数時間前に襲った船から奪った品が満載だ。そうなりゃあ俺達は、その場で拿捕される。


「ふん、どうせ逃げられないわよ。海賊船が駆逐艦相手に、敵うわけないでしょう。」


横で罵る人質を横目に、この緊張の海原を息を殺すように進む。だがこの直後、緊張は最高潮に達する。


『航行中の民間船に告ぐ!直ちに停船せよ!』


あの船主め、おそらく軍に通報しやがったな。連合軍の奴らめ、この船が怪しいと思ったらしい。

俺達はいきなり、窮地に陥った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] てっきり弾を抜いているのかと思ったのですが指紋認証か、さすがは宇宙時代。 グレース「じゃあ、鈍器がわりで、殴り殺す」 マカリオ「ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァ」
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