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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第八話


 サフィラとデートしてから一週間が経過し、今日からまた退屈な授業の五日間が始まる。

 因みに買った土産は、ランフィアとエミリアには翌日の休日二日目に渡してある。

 まさか自分への土産があるとは思って無かったらしく、更に尾行してたからどこで買ったかも分かってる。つまり二人の受け取り方が最高にぎこちなく緊張に満ちたものになった。

 暫く使われずに保管される事になりそうだな。

 それ以外に日常に変化は無く。交友関係も特に広がりもせず。毎日同じメンバーで過ごす日々。

 今は珍しく全ての授業が終わった後で、担任から知らせがあるようだ。


「再来週の話になりますが、二年生の皆さんは学校のある五日間の間、野外授業として冒険者業を体験してもらいます。詳細は追って伝えますが、当日は五人一組でパーティを組んでもらいますので、それまでにパーティを決めておいて下さいね。クラスは同じでは無くても構いませんから、自分に合うパーティを見つけて下さい」


 パーティか。しかも五人ということは、最低でもあと二人新メンバーが必要だな。


「ねぇ、パーティどうする?私達三人は決定でも良いとして、残りの二人よね」

「……探す?…待つ?…」

「いや、言い寄ってくる人は基本無しで。俺に任せてもらってもいいかな?」

「誰か宛てがあるなら、私は良いわよ。ライルが選ぶなら間違いは無いでしょうし」

「……ん…信じる…」

「ありがとう。じゃあ行ってくるね」

「え?今から⁉︎」

「今日から野外授業までの日数は休日を抜かせば十日しかない。その間にパーティとして安定させる為には、今日にはパーティを決めておかないとね」


 さて、面白い奴(素質のある奴)はいるかな。


「あ、あの!ライル君、よければパーティに入れてもらえませんか⁉︎」

「ごめんね、もうメンバーは決めてるんだ」


 嘘だけどな。顔や知名度だけで選ぶ奴と組むかよ。

 むしろ、自分じゃパーティになんて入れないとか言うくらい癖がある奴が好ましい。

 廊下を歩きながら教室を覗いていき、誘ってくる奴は全部断る。

 そしてある教室の中に、一人目の面白そうな奴を発見した。


 俺がそいつの目の前まで行くとクラスの連中が騒めき、本人も訳が分からなそうに()()()()が揺れている。

 灰色の肩くらいまでの髪、今は不安げだが、本来は強い眼光を発しそうな黒い瞳。そして何より、頭の上の耳と尾骶骨あたりから伸びる尻尾が特徴的だ。


「初めまして、俺はライル。君の名前は?」

「え?ぼ、僕はウルガ…主席のライル君が、僕なんかに何の用?」


 女なのに一人称が僕か。変わった奴だな。

 だがコイツは狼の獣人だ。ならば潜在能力は申し分無い。


「ウルガは、もうパーティ決まった?」

「決まってない。僕は役立たずだから、誰も入れようなんて思わないし」

「そうかな?俺は君をパーティに入れたいんだけど」

「…冷やかしなら辞めてよ。チームワークが出来なくていつも皆に迷惑かけてる僕を、主席のパーティが欲しがるわけないじゃないか」

「…そっか。誰もウルガの()()()が分からなかったんだね。俺がウルガをチームワークが得意な存在にしてあげる」

「……どうやって?」


 よし、興味を持ったな。こうなればこっちのもんだ。


「俺の言う通りにして。まずは二年生の中から、()()()()()匂いのする人を探すんだ。」

「た、楽しそうな匂い?」

「そう。今まで意識した事無かっただろうけど、自分が楽しいと思う事を思い浮かべながら匂いを探ってごらん」

「…楽しそう…え、ライル君から、なんか凄く良い匂いがしてきた!」

「それが君の思う楽しそうな匂いだよ。今のと同じような匂いがする人を探して」

「うん!」


 ウルガが廊下に出てクンクンと匂いを嗅いで歩く。

 これは狼というか、犬系の獣人共通の特技だ。犬にとって楽しいのは主人と遊んでいる時だ。では主人とはどんな人物か。単純に自分より上、つまり強い奴を意味する。

 自分より強い奴に戯れてもらうのが楽しい狼獣人が、匂いで探し出した人物。それがもう一人のパーティ候補だ。


 そしてウルガの見つけた人物は、教室で帰り支度をしている最中だった。

 紺の短髪に同色の瞳。瞳孔は猫のように縦に鋭い。俺よりデカい180cm程の身長に、尾骶骨から伸びる足の太さほどもある蒼い尻尾。恐らく今は隠してるだろうが、背中には同じく蒼い翼があるんだろう。


「突然ごめんね。俺はライル、君の名前は?」

「…俺はドラグ。主席が俺に何の用だ」

「実は君をパーティに誘いたくて」

「…冗談はよせ。竜人の癖に魔法が苦手な俺では役に立たん」

「ドラグは王都育ちで、周りに竜人が居なかったのかな?」

「そうだが」

「なら魔法が苦手なんじゃなくて、魔法の使い方を知らないだけだよ。俺が教えてあげる」

「…なんだと?」

「だから俺のパーティに入ってよ」

「…魔法が使えるようになったら、それが条件だ」

「それで良いよ。じゃあ二人共、他のメンバーと顔合わせといこうか」


 ウルガとドラグを連れて教室に戻る。

 俺達を誘ってきていたクラスメイト達が驚いているが、今までのコイツらの評価を知っているんだろう。

 そんなもの、あと十日でひっくり返してやるがな。


「お待たせ。メンバーを連れてきたよ」

「これは…また面白いメンバーになりそうね」

「…狼さん…ドラゴンさん…」

「お、おい、ライルとやら。もしやとは思うが、学年トップ3がいるパーティに俺達を入れる気か?」

「そうだよ。今日から俺が二人を、学年トップ5に入るように鍛えるから」

「それ、つまり私達のパーティが上位独占ってわけね。あと十日で出来るの?」

「出来る。二人にも特訓メニューを出すから、死ぬ気で頑張ってね」

「……が、頑張る…」

「それじゃあ、早速グラウンドに行こうか」


 部活で一部を使っているから、俺達は邪魔にならない程度に離れておく。

 さて、本当なら時間操作で訓練したいが、流石にそれは他の生徒に公平じゃないな。

 だから、俺が()()()()に鍛えれば良い。


【オリジンブラッド】:模倣・光属性・上級魔法


「【鏡写し】」


 俺の周りに三枚の鏡が出現し、そこから三人の俺が現れる。


「え⁉︎ライルが四人になった!」

「なにこれ⁉︎凄い!」

「な、何とも不思議な光景だな」

「……全員…同時…?」

「うん。この俺達がそれぞれ鍛えるから」


 エミリア、ウルガ、ドラグの三人が鏡から現れた俺と一緒に離れていく。

 オリジナルの俺はランフィア担当だ。


「じゃあランフィア、早速で悪いけど、一回死ぬ思いをしようか」

「……え?」


 ランフィアだけに強烈な殺気をぶつける。

 やり過ぎると殺されるイメージが強すぎて本当に死ぬから、ギリギリを見極めるのがコツだ。

 殺気を当てた瞬間に腰が抜けて座り込んだがまぁ良い。


「い、いや…死…やだ…やめて…ライル、お願い…ほんとに、死んじゃ…」


 おっと、ここが限界だな。

 ランフィアが意識を保てる限界の殺気を当て続ける。


「ランフィア、立って」

「や、やだ…もうやめて…無理…動け…な…」

「ランフィア、魔力の流れを感じるんだ。今は凄く乱れてるよ。だから余計に怖いと感じる。無理矢理にでも流れを落ち着かせて」

「…はっ…はぁ…ぐすっ…待って…やる、がら…頑張るから…殺ざない…で…」

「慌てないで良いよ。ゆっくり、魔力と一緒に自分も落ち着かせるんだ」

「…ぐすっ…や、てる…やっでるよ…出来てる…?」

「もう少し。立てるまで落ち着けたら止めてあげる」

「…うっ…うぅ…ひぐ…あ、足が…少し…ぐすっ…動いた…」

「そうそう、その調子だよ」

「…み、見で…立った…立っだ…よ…」


 約束通り殺気を止める。

 足はガクガクだし顔は涙でグシャグシャだが、合格だな。


「急にごめんね。でもよく頑張ったよ。ほら、おいで」


 今度は優しく抱き締めてやる。躾や訓練は飴と鞭だ。

 厳しいだけじゃ心は折れるし、甘いだけじゃ成長しない。


「うっ…うぅ…怖かった。ライルが、私を本当に殺すかと思った…」

「そんな事しないよ。ランフィアの成長にはこれが必要なんだ」

「…うん…ライルが、そう言うなら…頑張る」

「良い子だ。そろそろ落ち着いた?」

「……もうちょっと…」


 結局ランフィアが離れたのはそれから5分後だった。

 涙も完全に止まり足もしっかりと立てるようになったところで、漸くいつものランフィアが戻った。


「それで、あんな突然死にそうな目に遭うのが私に必要な事なの?」

「正確に言うなら、『どんな状況でも魔力を安定させる事』が必要な事だね。ランフィアは実力は十分にあるけど、本番で発揮できないタイプだ。この前の代表戦みたいな激しい攻撃の中でも、落ち着いて魔力を扱えたら防戦一方になる事もなかった」

「…確かに、焦って防御するのが精一杯だったわ」

「だから『どんな状況でも』の最上級、本気で死ぬかもしれないと思う状況で魔力をコントロール出来れば、文字通り怖いもの無しだ」

「う、うん…理屈は分かった。正直本気で怖いし、ライルが私を殺そうとするって事が何だか悲しくて嫌だけど、頑張るわ」

「これは危険であまり連続で出来ない訓練だから、その間は魔力のコントロールの訓練にしようか」


 ランフィアはこの調子で大丈夫だな。

 十日程度じゃ魔力の安定化だけしか出来ないが、学生の中じゃ十分にトップレベルだろう。

 アイリスのように何年も掛けて鍛えるならもっと強く出来るが、それは今言ってても仕方ないか。

 他の奴等の訓練はどうかな。


「ウルガ、今から俺と遊ぼうか」

「え?遊ぶ?でも皆が特訓を頑張ってるのに…」

「勿論ただの遊びじゃ無いよ。基本は鬼ごっこだけど、鬼は捕まえる時に肉体強化して殴る事がルールだ」

「それって、遊びじゃないような…」

「まぁ本来の目的は訓練だからね。でもきっと楽しめるよ」

「う、うん…やってみる」

「じゃあ先行はウルガだ。5分位内に俺を殴れるように頑張って」


 ウルガが追い付ける程度のスピードで逃げるが、動きが直線的過ぎて避けるのが簡単だな。


「そんな単調な動きじゃ一生当たらないよ?狼はもっと俊敏だ。フェイントを入れたり緩急をつけたり、どうやったら俺を殴れるかを考えるんだ」

「そ、そんなこと…言われても!全部ギリギリで避けられる!」


 そう、ギリギリで避けられる程に相手を見てるんだ。狼の獣人ならその身体能力で同じ事は可能だが、何せウルガには観察眼が足りない。つまり経験が足りないんだ。

 チームワークが下手なのも、味方がどんな動きをして敵がどう動くかを把握出来れば、自分がどう動けば良いか分かってくる。


「5分で捕まえられなかったから交代ね」

「うがぁぁ!悔しい!」

「悔しいよね。じゃあどうすれば良かったのか考えながら、俺から逃げてみて」

「うん、頑張る!」


 さっきのウルガと同じ速度で追いかける。その方が自分の動きに投影しやすいだろうからな。

 ウルガが敢えて避けられる動きで空振りさせ、地面を思い切り殴る。

 ドンッ!という衝撃音が響いて地面が陥没した。その後も何度かウルガに避けさせながら地面を殴り続ける。

 そして一気に畳み掛けながらフェイントを混ぜて、凹んだ地面に足を踏み外すように誘導。

 体勢が崩れた瞬間に腹を軽く強化した拳で殴った。


「ぐふっ…じ、地面には気を付けてたつもりだったのに」

「最後のラッシュで地面から意識が外れたね。じゃあ俺とウルガの違い、分かったかな?」

「…罠や地形を上手く使う?」

「そうだね、それも正解だ。ただあの凹みは無かったから作っただけで、別にあれが仲間だって良い」

「それじゃあ、自分以外の使えるものを上手く使う!」

「その通り。偉いぞ、よく分かったなぁ」


 ウルガをワシャワシャと撫でながら少し大袈裟に褒めてやる。


「な、なにこれ?何か凄く嬉しい!」


 犬の躾は褒めることから始まる。ちゃんと出来たら沢山褒めるんだ。

 そうすれば嬉しくなって、もっと褒めてもらいたくなり成長が早まる。

 獣人はベースが人だからそこまで顕著に効果があるか分からないが、やらないよりは良い。


「ウルガは最初、自分の身体能力だけで勝負しようとしたね。だから簡単に動きが読めるし避けられる」

「そっか、僕がチームワーク下手なのもその所為だったんだ。もっと仲間の位置や動きを見て、自分がどう動けば良いか考えれば良かったんだね」

「凄いなウルガ、最終的に教えようとした内容にもう気付いたんだ。ウルガは本当に偉いなぁ」


 またワシャワシャと撫でてやるが、本当に大したもんだ。頭は悪くないということだな。

 あとはそれを実戦で動けるようにするだけだ。

 ここからは実践あるのみだから、ウルガも大丈夫だろう。



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