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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第九話


「さて、エミリアの特訓だけど…何が自分に必要か分かるかい?」

「……強さ?…」

「確かに強いに越したことはない。でもそれは十日でどうにかなる話じゃないから、他の事だ」

「…コミュニケーション」

「それも口数は少ないけど十分取れてるかな。正解は強さは強さでも、意志の強さだ」

「……意志?…」

「エミリアもランフィアも、代表戦で防戦一方だったよね?でもランフィアは接近戦と魔法が同じくらいに対して、エミリアは魔法特化型でしょ?それなのに攻撃に転化出来ないまま終わったのは、意志の弱さが原因だ」


 魔力の流れはランフィアの方が綺麗でも、魔力量とかを総合すれば魔法戦はエミリアに分がある。

 だが本人の意志の弱さが原因で、それを発揮出来ていない。


「だから、エミリアにはこれから無防備な俺を攻撃し続けてもらう」

「…⁉︎…それは…危ない…」

「大丈夫、俺は絶対に死なないから。それに、もしこれが戦闘なら、無防備な相手だろうと攻撃出来なきゃ生き残れないよ」

「…わ、分かった…」

「じゃあ手始めに、初級魔法から当てていこうか」

「…【ソーラーレイ】…」

 

 白い光線が俺の肩を貫き体に穴が空く。

 大してダメージも無いし痛くも無いが、エミリアの訓練の為に演技をしなきゃな。


「ぐぁぁ!い、痛…くぅ…!」

「ライル!」


 お、いつもの間の空いた喋り方じゃなくなったな。

 流石に動揺すれば普通に叫べるのか。


「だ、大丈夫だから。次の攻撃を」

「…で、でも…」

「じゃあ、こうしよう…エミリアが30秒間攻撃しなかった場合、俺は自爆魔法で死ぬ。【鏡写し】は自力解除以外のダメージなどで解除された場合、本体に同じダメージが行くことになるから、オリジナルの俺も下手したら死ぬよ」

「…そ、そんな!…駄目…」

「今から開始だ」


 まぁ、当然嘘だけどな。【鏡写し】なんて滅多に見ない魔法だから信じるだろ。

 これでエミリアは攻撃してから30秒以内にまた攻撃しなきゃいけなくなる。

 下手したら精神が壊れるかもしれないが、その時は俺が治すから良いだろう。


「…あ、【アースニードル】…」

「ごふっ…ぐ、ぁぁ…」


「……す、すぃ…【水魔の矢】…」

「あぁぁ!う、腕がぁぁ…!」


「…ぐすっ…【エアカッター】…」

「あ、ぁぁぁあ⁉︎ゆ、指が…俺の指がぁ…⁉︎」


「…も、嫌だよ…辞めてライル…」

「は、早く…次だエミリア。あと10秒しか…」

「…っ…【ファイアウォール】!」

「あぁぁぁ!熱っ…ぐぁぁ!」


「もう嫌!もうやめて!」


 お?来たか?

 中々早かったな。


「駄目だエミリア…じゃないと、オリジナルまで…」

「こんな事続けたら…私がライルを殺しちゃう!だからもうやめて!」

「よし、合格だ。第一段階クリアだね」


「……え?…」


「瀕死の俺を攻撃し続ける事が意志の強さだと思った?追い詰められたからって流され続ける事こそ意志の弱い証拠だよ。どんな状況でも自分の意思を貫いて、それをはっきりと伝えられた。だから合格だ」

「…え?…ライル、傷が…」

「ん?あぁ、言ったでしょ?俺は絶対に死なないって。自動回復魔法を掛けておいたのさ」

「……むぅ…」

「あ、怒った?でもそれも自分の気持ちを素直に伝えられてる証拠だね」


 コイツはいつも静かで、どこか周りに流されてる所があったからな。

 どんな形であれ自分の意思を示せない奴に戦場で生き残る道は無い。


「じゃあ第二段階。今度こそ、どんな敵にも攻撃出来るようになってもらうから」


 魔法の土人形で兎やリスなどの小動物を無駄に可愛く作る。

 

「これからこの兎達をどんどん作るから全部破壊するんだ。一定範囲まで近付かれると中級魔法レベルの爆発を起こすから、早く倒してね」

「…(おに)…鬼畜…」

「ハハハ、随分と意思表示が出来るようになったね。その調子だよ」


 土の兎達が一斉にエミリアに向かって走り寄っていく。

 それはまるで、ペットが主人に甘えに行くように。

 だが2mまで近付くと爆発するから、自分に好意的に走り寄ってくる生き物を次々に殺さなければならない。確かに鬼畜と言われても仕方ないな。

 こういう訓練をしていけば、どんな相手でも全力で戦えるようになるだろう。


 さて、最後はいよいよドラグか。



「ドラグは周りに竜人が居なかったって言ってたね」

「あぁ。俺の父さんがドラゴンで、擬人化して母さんと結婚したんだが、色々あって一緒には暮らせなかったようだ」

「そっか。だからドラゴンの魔法の使い方を知らないんだね」

「ドラゴンの魔法の使い方?」

「うん。一般の人間がどう魔法を使ってるかは分かるよね?」

「勿論だ。こうやって手を前に出して魔力を集めて、詠唱をして魔法を構築して放つ」

「そうだね、じゃあ父親以外でも良いからドラゴンを見たことはあるかい?」

「いや、無い」

「なら想像で良いんだけど、ドラゴンが今みたいに手を出して魔法を使うと思う?」

「……いや、それは何か違和感があるな」

「でしょ?竜人だってそれと同じさ、手なんて使わずに魔法を放つんだ」


 手を突き出して魔法を放つドラゴンを想像して、そのシュールな光景に笑えてきてしまった。

 

「そんな事が出来るのか?」

「出来るよ。さっき俺が【鏡写し】を使う時、体を動かしてたかい?」

「っ⁉︎そういえば、普通に立ってただけだったな」

「だろう?だから出来るんだよ。それとこれからは常に必要になるから、翼は出したまま生活に慣れて欲しい」

「翼が?広げずに畳んだままでも良いのか?」

「勿論大丈夫だよ。じゃあ早速魔力の練り方から教えていこうか」


 翼を出して畳んだ状態になったのを確認して、俺も同じになる為に()()()()を出した。


「お、おい。その翼はなんだ?ライルも亜人種だったのか?」

「いや、これは()()()()()()翼だよ。時々こうして遊んでるんだ。ドラグに教えるなら同じになった方が分かりやすいだろうからね」

「そうか。そこまでしてくれるとは、感謝する」

「気にしないで。そしたらまずは魔力の練り方だけど、翼に魔力を流して循環させられるかな?」

「…こ、こうか?」

「少しぎこちないけどそういう感じだよ。ドラゴンなどの有翼種は、翼に魔力を流す事で循環効率と魔力強化の役割を担ってるんだ」

「そうだったのか。なら今後は常時翼に魔力を流すようにした方が良いのだな」

「そういうこと。それで次に魔法の構築と発動だけど、これは翼でも良いし口でも良い」

「く、口だと?まさかブレスのように口から魔法を放つのか?」

「まさか、流石にそれは無いよ。さっきの俺の【鏡写し】を思い出してみて」

「…まさか、詠唱?」


 ウルガもドラグも頭の回転はやはり悪く無いな。本来の強さを引き出せなかっただけで、理解力はあるから俺もやりやすい。


「正解。詠唱なら詠唱そのものに、詠唱破棄なら魔法名を唱える時に魔力を乗せるんだ。言葉に魔力を乗せる事で、【跪け】って言葉が魔法と同じ効果を持ち言霊になる事もある」


【跪け】と言った瞬間にドラグに圧力が掛かり、その場で跪く。


「ぐっ、なるほどな…言葉に魔力か。分かりやすい体験を感謝する」

「【解除】。どうだい?これがドラゴンが魔法を翼や口から放つ原理だ。彼等は詠唱や魔法名は唱えないから、体内で魔法を構築する術を持ってるけど、ドラグは詠唱でやった方が良いよ」

「そうだな、そうしよう。それで、翼で魔法を放つ場合も詠唱に魔力を乗せるのか?」

「うん。魔法名を最後に唱えた時に、魔法の放出場所を口か翼にするか変えるだけの違いだからね。発動までは共通で、【エアカッター】と唱えた時に翼に魔力を満たして魔法として構築。それを翼を使って放つだけだよ、こんなふうに」


【エアカッター】と言った時に翼が緑の光に包まれ、翼を羽撃かせた瞬間に【エアカッター】を射出する。


「構築から発動まで時間差が作れるんだな」

「そう、それが有翼種最大の利点だ。構築さえしておけば自分の集中が続く限り好きなタイミングで放つ事が出来る。相手の不意をつくのも可能だ。俺は翼で遊ぶ時には、攻撃魔法は翼、それ以外は口で発動させてるよ」

「思った以上に多才なんだな、有翼種というのは」

「勿論それを使い熟せればの話だけどね。まずは詠唱で魔法を構築する事に慣れよう」


 初級魔法の詠唱を行いながら翼に魔力を循環させているが、両立が出来なくなり魔力が霧散した。


「これも、思った以上に難しかったんだな」

「それは慣れるしかない。何回もやって自然と出来るようになるんだ」


 何回か挑戦して、漸く魔法が構築され翼が淡く光った。


「で、出来た…なっ⁉︎こんな早く解けてしまうのか!ライルが数秒も保っているから、もっと安定したものだとばかり」

「それも慣れだよ。俺は昔友好的なドラゴンと話した事があって、それからずっと暇潰しに練習してきたからね」


 まぁこれも嘘だ。生まれた時からある自分の翼なんだから出来て当然だ。

 今の俺なら魔法を片翼に一つずつ構築して、数日は生活出来る。そこまでになれとは言わないが、せめて5秒くらいは維持してくれないとな。


 それから試行する事数十回。何回かに一回は2秒維持出来るようになってきた。

 まだまだ構築した魔法が不安定で維持も危なっかしいが、初日にしては上出来か。


「ドラグ、寮でも出来る自主練を教えておくよ。翼に魔力を常時循環させるのは継続ね、寝てる時も無意識に循環させられるようになっておいて。それから、攻撃魔法じゃない【ライト】みたいな補助魔法なら部屋でも出来るから、魔力残量に気を付けながら練習してみて」

「分かった。野外授業までに何方も出来るようにしてみせる」

「期待しているよ。それじゃあ今日はここまで。ドラグが望むなら放課後特訓に付き合うから」

「感謝する。これから毎日頼みたい」

「分かった。じゃあまた明日」


 これで全員の課題は決まった。

 後は十日間で形になるかだが、このメンバーならやり遂げてみせるだろう。


 ・

 ・

 ・


 特訓開始から五日目。

 全員の特訓は順調で、あと数日もすればトップ5は確実なものになるだろう。

 だが何というか…ほら、前にウィルト…フューデンハイム公爵のウィルトと話した件だ。

 俺が教育すると男女で違いが云々という話。

 今回俺は始祖ではなくライルとして教育したんだが、これがまた新しい感じに効果を出しやがってな…


 まずランフィア。

 毎日俺の殺気を当てては俺が慰めてを繰り返すマッチポンプの所為で…


「はい、終了。大分魔力を落ち着いて扱えるようになったね」

「うん。ライルが殺気を出してるのに、ライルがいてくれるから安心して魔力がコントロール出来るって、何だか不思議な感覚…ねぇ、また良い?」

「殺気に耐えたご褒美だからね。良いよ、おいで」


 こんな風に、訓練中は甘えん坊になってしまい俺に抱き着くようになってしまった。

 普段は今までのランフィアなんだが、恐怖を感じるとこうなってしまうらしい。


 次にウルガ。

 

「今のは良かったよ。俺の動きを先読み出来てきたね」

「うん!ライル君に褒めてもらいたくて頑張ったよ!」

「よしよし、偉いよウルガ」

「わふぅ、ライル君に褒められるの嬉しいなぁ。僕、もっともっと褒められるようになるからね!」

「じゃあもう少し速度を上げてみようか」


 完全に犬になってしまっている。

 まるで犬の尻尾がブンブン振られているのが見える、とは言うが、ウルガの場合本物の尻尾がブンブン振られている状態だ。

 俺はペットを育てた覚えはないんだがな…


 次はエミリア。


「大分躊躇せず攻撃出来るようになったね」

「…ライルが鬼だから…そうなるしかなかった…」

「じゃあ今度は俺相手に実戦訓練といこう」

「…今度はもう…止めてあげない…」


 少し笑うようになったし、口数も増えたな。

 だがクラスで見てる限り他の奴等には今まで通りだから、俺に対してだけ感情を出すようになったみたいだ。



 最後はドラグ。


「魔法も数秒は維持出来るようになったね。翼の魔力も安定して流れている」

「そうか。ライルに教えてもらった自主練のおかげだな」

「それでも数日でこれは上出来じゃないかな。ドラグの努力の賜物だよ」

「そう褒めないでくれ。ライルに比べればまだまだ俺なんて。だがいつか、ライルが背中を預けて戦えるくらいになりたいものだな」

「ドラグなら出来るよ。素質はあるんだから、あとはひたすら鍛錬あるのみさ」


 こんな感じで、俺を目標にしつつ親友と呼べるような存在になりたがっているようだ。

 今まで実力が無いと思っていた所為か、友人と呼べるような存在がいなかったらしく、この数日間で随分俺に心を開いてくれた。


 始祖として教育していないのに、これはどういうことだ?

 ウィルトに言われたのは、「俺の顔で時に厳しく、時に優しくされれば特別な感情も抱く」だったか。

 …ランフィアは完全に当てはまっているな。あとエミリアも。

 ウルガは犬系獣人だし、ドラグにも厳しくはしていないから、優しい指導だけでこうなったのか。

 

 人間のライルとして親しい友人達が出来た事は新鮮で嬉しいが、俺が始祖と知った時どうなるかな。

 なるべくバレないように注意しよう。今の居場所は、中々居心地が良い。




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