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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
8/38

第七話


 闘技大会が無事かどうかはともかく終わり、生徒達はその場で解散となった。

 俺はどうしようかと考えていると、見知った男が俺の下へと歩いてくる。


「ら、ららライル君と言ったね?各学年の主席を倒し実質学校最強を認められたきき君に、是非お話があるのですが、お時間よろしいでしょう…よろしいかな?」


 カトレス以上に辿々しいウィルトが話し掛けてきた。

 用件は分かってるが、こんな生徒達が集まってる中じゃなくて王城で会った時にしろよな。

 まぁ、一刻も早く言わなければ!とか思ったんだろうけど。


「これはこれはフューデンハイム公爵様。私のような平民に誉れ高い公爵様がどのような御用件でしょうか」

「ヒッ⁉︎こ、ここ此処では人目もあって落ち着かないだろう。貴賓席でゆっくりとお、お話をしようじゃないか」


 丁寧に言ってやったらフューデンハイムの顔が一瞬で青ざめて面白い。

 遊ぶのはこれくらいにして、真面目に着いてってやるか。

 貴賓席に来て誰も居ない事を確認したら、俺を席に座らせ自分は床で頭を下げ始めた。


「この度は、愚かな我が娘が大変無礼な振る舞いを致しました事、深くお詫び申し上げます!」

「そんな事だろうと思ったよ。気にすんな。俺が教育したから今後は正しい貴族として成長するだろう」

「はい、誠に有難う御座います!」

「…ところで、だ。お前は以前俺から教育を受けたよな」

「はい、その節は大変お世話になりました」

「俺はあの時と同じ教育をした筈なんだが、何故毎回男女で反応が違うか分かるか?」


 するとウィルトはバッと顔を上げ、「嘘だろコイツ何言ってんだ?」みたいな顔をした。


「お言葉ですが先生、本気で分からないと仰いますか?」

「あぁ。本気で分からん」

「…先生は、御尊顔が非常に美しい事をもう少し強く自覚なさるべきです」

「は?顔?顔と教育が関係有るのかよ」

「大有りです。我々のような男では、爽やかな顔で鬼畜の…失礼致しました。厳しい教育を受ければ恐怖のような感情にもなりましょう。ですが娘のような年頃の女性では、先生のような男性が自分一人の為に厳しく指導し、時に優しく褒めてくれるなど、特別な感情を抱くに決まっています」

「…そういうものなのか?」

「そういうものなのです」


 俺と唯一関係を持っていたアイツは、そんな経緯は無かったんだがな。

 あの頃は俺も今とは性格が少し違っていたから、それも関係あるのか?

 それとマリアに教育をした覚えはないが、マリアは小さい頃から面倒見てきたってのが大きいか。


「まぁ、お前が言うならそうなのか。じゃあ娘を教育されてお礼を言ってる場合じゃないだろ?」

「…え?…ハッ…」

「サフィラもマリアと同じになったら、面白い事になるな、()()()()()?」

「う、うわぁぁぁ⁉︎私にも国王様と同じ苦悩が!い、嫌だぁぁ!先生が息子なんて嫌だぁぁ!」


 相変わらず本人を目の前に好き勝手言ってくれるな。


「安心しろ、教え子の子供に手を出す気は無ぇ。()()()()、としか言えないがな」

「せ、先生!近々素性を調べた公爵家の男性の資料をお渡しします!どうか娘に相応しい者を選んで頂きたい!」

「それは良いが…無理矢理は辞めてやれよ?」

「はい、勿論です。先生はやはり御優しい。応えられないと分かっていても、本人の幸せは願って下さる」

「買い被るな。そんな綺麗なもんじゃねぇよ」


 ウィルトとの会話を終わらせて貴賓室を出る。

 朝三人で集まった場所に、ランフィアが一人で待っていた。


「あれ?ランフィア1人なんだ?」

「エミリアは帰ったわ。アイリスさんも待とうとしてたけど、同じ学年の子に連れて行かれたわね」

「ふぅん、ランフィアは待っててくれたんだね。エミリアと帰るかと思ってた」

「な、何よ。待ってちゃ悪かったの?」

「まさか、嬉しいよ。ありがとう」

「どういたしまして。それで、フューデンハイム公爵様が貴方に何の用だったの?」

「自分の娘が教育されて礼儀正しくなった事へのお礼とかかな」

「…普通それって軽罰よ?しかも公爵家が直々にお礼なんて。サフィラ先輩じゃないけど、ライルって本当に何者なのかしら?」


「…知りたい?」


 ランフィアの目を真っ直ぐに見つめて問いかけると、不安と期待と緊張が入り混じった表情をした。

 流石に今教える気は無い。俺はまだまだ普通(?)の学生を楽しんでいたいからな。

 その為に普段最も近い所にいるランフィアの存在は重要だ。だから、この質問はちょっと意地悪だったな。


「ごめんごめん、冗談ーー」


「別に良いわ」


「え?」

「だから、今は教えてくれなくて良いってこと。貴方が何者でも、もし普段の言動が演技だったとしても、相手を評価してる時のライルに嘘は無いだろうから。初めて会った日に努力を認めてくれた、私にはそれだけで十分よ」

「…そっか。ありがとうランフィア」

「だから、何で毎回貴方がお礼を言うのよ」


 本当に、コイツには驚かされる。


『貴方の言葉の全てが嘘か本当かなんてどっちでも良いわ。貴方が私に見せてくれた優しさは全て、本物だったもの』


 似たような事を言いやがって。


「そうだ。サフィラ先輩との約束だけど、本当にデートするの?」

「…デート?何の話?」

「だって試合前に、『俺が勝ったら先輩の時間を1日貰う』みたいなこと言って無かった?」

「あぁ、あれか。平民に貴重な1日を潰される事に怒ってくれないかなぁって思っただけで、特に考えて無かった」

「女の子の気持ちを何だと思ってるのかしらね。先輩が望まないなら別に良いけど、約束したんだからちゃんと確かめないとダメよ?」

「うん、明日にでも話してみる」


 ランフィアとそんな会話をしていたら、いつの間にか寮に着いていた。

 お疲れ様と挨拶を交わしてそれぞれの部屋に入った後、予想通りアイリスが部屋にやって来て、今日の事を話しながらそのまま泊まる。

 翌日の昼休みにサフィラに確認しに行くと、『し…ライル様とのお出掛けなら喜んで参ります』と二つ返事で出掛ける事が決定した。

 


「そんなわけで今週末出掛ける事になったんだけど…」

「そう、良かったじゃない。で、何を悩んでいるの?」

「うーん…同年代と出掛ける機会が今まで無くて、何処に行けば良いのかなって」

「……え?…」

「え?」


 黙って話を聞いていたエミリアまでも顔を上げて固まるとは、そこまで驚く事か。

 吸血鬼の始祖が女とそんな頻繁にフラフラ出掛けるとでも?

 

「意外ね。ライルなら色んな女の子達から誘われてるかと思ったけど」

「そんな事ないよ。ここに編入する前はあまり人と関わって無かったから」

「そうなの?じゃあ王都に何があるかとかもあまり分からない?」

「いや、それは詳しいんだけど、何処が若い人達に人気なのかが分からないんだ」

「たまにライルってお爺ちゃんというか、年寄りみたいな事言うわよね。じゃあ、私がオススメのジャンルを教えてあげるわ」

「あ、それは凄く助かる」

「……私も…」

「エミリアもありがとう」


 二人から場所とオススメする理由を色々と聞いた。

 ほう。最近は喫茶店でゆったり過ごすのが流行なのか。

 それから若い女は間違いなく買い物好きであるから、ショッピングをするべきと。俺が知っている服屋に連れて行けば良いんだな?

 最後は景色の綺麗な場所に案内して締める。なるほどな、確かに俺には浮かばん内容だった。

 

「ありがとう二人共、凄く参考になったよ」

「どういたしまして。女の子を退屈させないようにね」

「…頑張って…」


 二人の助言を受けて最適な場所を選び、あとは当日の服だけだ。

 サフィラは俺を始祖と知っているから、気取らず普段着で良いか。


 そして当日を迎え、俺は校門でサフィラを待っていた。

 今日はランフィアもエミリアも、更にはアイリスも予定が無いんだな。

 校舎の陰に隠れてるのがバレバレだ。そんなに気になるなら一緒に来れば良いのに、なんて言えばまた何か言われそうだな。


「お、お待たせ致しました。ライル様」

「全然待って無いですよ。今日の服は涼しげでとても綺麗ですね、似合ってます」

「ら、ライル様こそ。普段白い制服だからこそ黒の服が印象的で素敵です」


 サフィラの服装は白いロングスカートに水色のピンヒール、同じく水色のブラウスに青のストールだ。全体的に主席の制服と似た色合いだな。


 俺の方は黒のパンツに黒のブーツ、白いシャツに黒コートと、完全にモノトーンだ。あまり派手なのは好きじゃないから、持ってるの大体こんな感じなんだよな。


「じゃあ行きましょうか」

「あ、あの…本日はライル様のままでお出掛けですの?」

「まぁ、今はね。時々可能なら戻ってあげますから」


 じゃないと聞き耳を立ててる三人に聞かれちまうからな。



「では、せめてライル様は敬語も敬称も無しでお話をしたいのですが」

「こう?後輩にタメ口をきかせるなんて、変わった先輩だね」

「うぅ…意地悪言わないで下さいまし」

「ごめんね、じゃあ今度こそ行こうか」


「ライルの普段着、思ってたより普通というか、落ち着いた感じなのね」

「……意外…」

「私もに…ライル先輩とデートしたいです」


 歩き出したばかりで喫茶店はおかしいからな、まずは買い物だろう。

 サフィラは公爵家の令嬢だ。普段から良い店で買っているのなら、やはり行くべきはこの店だな。


「え?…あの、ライル様?このお店ですの?」

「うん、ダメかな?サフィラならこういうお店の方が良いと思ったんだけど」

「い、いいえ…駄目なわけが御座いませんが…」


「ちょっと!あのお店最低でも一着80万はする高級店じゃない!あんな所に入って大丈夫なの⁉︎」

「……ライル…お金持ち?…」

(兄様は何千年と無駄遣いする事なく貯めてきたお金がありますから、全く問題無いのでしょうけど…私だって連れていってもらったことありませんのに!)


 流石にあの三人は店の中までは入れないようだし、店内は俺のまま会話するか。

 しかし懐かしい。この店が出来たばかりの頃はよく世話になっていたが、良い意味であまり変わらずにいるようだ。


 開店当初、特別客限定のVIPカードを取り出す。


「っ⁉︎始祖様、ようこそいらっしゃいました」

「今日は普通の買い物だ。畏まらなくて良い」


 当時のVIPカード持ってるのなんて今じゃ俺くらいだから、そりゃすぐバレるか。


「始祖様はこのお店の常連様でしたの?」

「開店当初はな。最近あまり来なかったが、殆ど当時のままだ。ほら、何でも好きな服を選んで良いぞ」

「え、ですが…ここはどれも私には…」

「値段なんて気にするなよ?俺が何年生きてると思ってんだ。金なんて捨てる程ある」

「わ、分かりました」


 選び始めたのは良いが、何で男物を見てるんだ?

 父親への土産でも選んでるのか?


「始祖様、こちらのジャケットなど始祖様にお似合いかと思いますが、如何でしょうか」

「良いデザインだし嬉しいが、自分の服を見ろよ。お前の服を買いにきたんだから」

「う…ですが、私の趣味やセンスが始祖様に合うかどうか」

「変な気を回さなくて良いから、欲しい服を見ろ」


 今度こそ女物を選び始めてくれたな。

 お、この白いスカートはアイリスに似合いそうだ。こっちの赤いストールはランフィアだな。黒のカーディガンはエミリア、ピンクのワンピースはマリアか。


「これを屋敷まで送っておいてくれ」

「畏まりました」


 屋敷にあればいつでも取り出せる。あいつらへの土産はこれで良いか。

 今日の主役はサフィラだからな、こっちに集中しよう。


「始祖様、こちらの黄色のワンピースと黒のワンピース、何方が良いと思われますか?」

「黄色も鮮やかで綺麗だが、黒の方がサフィラの髪が引き立って似合いそうだ」

「あ、ありがとうございます!ではこちらの黒いワンピースに致しますわ」

「分かった。いくらだ?」

「こちら140万エインで御座います」

「ひ、ひゃくよん…⁉︎」

「此処に頼む」

「王立銀行ですね、畏まりました」

「じゃあまた来る。ほら、行くぞ」

「し、始祖様…あのような価格とは知らず、申し訳ありませんでした」

「気にするなって言っただろ?良いのがあって良かったな」

「本当に、ありがとうございます!」


 まぁぶっちゃけ、他の奴等に買った四着の合計が600万超えてるから、140万くらい大した事無いのは本当だ。


「さて、まだまだ買い物と行きたいけど、喫茶店に行こうか。少し店までに歩いたから足が疲れちゃったし」


 慣れてるとはいえ、普段学校では履かないピンヒールで街中を歩いてきたからな。適度に休憩を入れた方が良いだろ。


 喫茶店も俺の昔馴染みの店だ。昔馴染みって言っても、もう当時の店主はいないがな。

 大通りを外れて路地に入る。サフィラからすれば馴染みの無い場所だろうが、俺には落ち着く場所なんだ。


「ここが、ライル様の選ぶ喫茶店ですの?」

「うん。昔からよく行ってた店でね。珈琲とケーキが美味しいんだ」


 店内に入ると、窓の外からあの三人が覗いている気配を感じる。

 さっきから店内でだけ俺の素が出せる感じになってるな。


「おや、これはまた懐かしい客ですな」

「久しいなマスター。いつものを頼む」

「そちらのお嬢様も同じもので?」

「は、はい。それでお願い致しますわ」


「…ねぇ。こんな路地の店?って思ってたのに、飾られてる勲章の数が凄いんだけど」

「…知られざる…名店…」

「ここは確か元王宮料理長が開いたお店で、各国の一流シェフやパティシエ、バリスタが務める貴族の隠れ人気店だとか」


 数分後、出されたのは一杯の珈琲とショートサイズのシフォンケーキだ。

 

「なんだか、始祖様の頼む物にしては意外と普通ですわね」

「お前は俺を何だと思ってんだ。まぁ味わってみれば分かる」

「…こ、これは!なんて美味しいの…珈琲の深い香りに反した程よい酸味と苦味。それを互いに引き立てるほんのり甘いシフォンケーキ。こんなに美味しいシフォンケーキは初めてですわ」

「流石は公爵家のご令嬢。この味が分かってくれるのは嬉しいね」

「これ程の味、一体どうやって…」

「いくつかの最高級の豆をマスターが配合したオリジナルブレンドに、この国一番のパティシエが素材一つ一つに拘り抜いた素材で作ったシフォンケーキだ。美味くて当然だよ」


 まぁ、この珈琲セット一つで1万エインくらいするから、貴族達が隠れて訪れる名店なんて呼ばれてるがな。


 喫茶店でゆっくりと心身共に癒した後、街を歩き適当な店を見て回る。

 もうすぐ夕暮れだな。そろそろ締めといくか。


「じゃあサフィラ、最後にとっておきの場所に案内してあげる」

「え?まだ何か見せて下さるのですか?」

「俺の手を握ってて」


 俺達を朝から追いかけてる三人には悪いが、此処から先は主役に独り占めさせてやってくれ。


【オリジンブラッド】:模倣・空間属性・上級魔法


「【転移】」


 サフィラを連れて転移した先は、この国一番の高度を誇る絶景ポイント。

 つまり、王城の屋根の上だ。


「し、始祖様⁉︎ここは王城では⁉︎流石に不味いですわ!」

「大丈夫だって。俺が何回此処に来てると思ってんだ。それより、見ろよこの景色」

「……なんて美しい…これが、この国の姿なのですわね」

「夕焼けに彩られた街並みが綺麗だろ?落ち着いて一人になりたい時、よく此処に来るんだ」

「そんな大事な場所を見せて下さるなんて、本当にありがとうございます」


 どうやら、満足してくれたみたいだな。

 ランフィア達の助言に感謝しねぇと。



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