第五話
三人で話していると、今日もまたアイリスがやってくる。
お?今日は昨日とは違う男女二人連れだな。相変わらずアイリスが男を連れていることに違和感を感じるが、特に親しい感じもしない。
「こんにちはライル先輩、ランフィア先輩、そして初めましてエミリア先輩。本日は一年生主席以下三名から、ご挨拶に伺いました」
「こんにちは。そっか来週だもんね、懐かしいなぁ」
「ん?これいつものお昼のお誘いじゃ無いの?」
「ライル、授業を全く聞いてないからそうなるのよ?先生が説明してたでしょ。『来週は新学年合同闘技大会がある』って、基本は学年内のトーナメントだけど、そこで毎年各学年の主席以下三名は学年を代表して戦うのよ」
「へぇ、それは凄く面白そうだ」
そしてサラッと言われたが、やはりエミリアが学年3位か。この順位は総合なのか、それとも実技か。
いや、どちらかしか優れてない時点で上位には入れないよな。
「だから毎年この時期に、まず一年生上位三人が二年生の上位三人に挨拶。そしたら私達が三年生の上位三人に挨拶よ」
「先輩方がお昼を一緒に過ごしていると聞いて、是非この機会にと集まりました」
「その上位三人って教師に聞けば分かるのかい?」
「そうよ。ただ基本バラバラだから一人ずつ挨拶することになるわね」
「まぁ俺達みたいに一緒にいるなんて珍しいか」
面倒だな。魔力の流れでそれらしい奴を探して一気に集めちまうか?
主席だけは服で分かるからそこは楽だな。
結局そのままアイリス達と飯を食うことに。
お互いに自己紹介をしていったんだが、一年生じゃアイリスが飛び抜けてるだけで二位三位は正直弱過ぎて、記憶に残らなかった。
午後の実技の授業中、ふと思い付いた事があったから試してみよう。
魔力を学校の敷地全域に薄く広げて、一瞬だけ巨大な波長をぶつけてみる。
「っ⁉︎え、何今の?」
「…ライル…?…」
教師にも気付かれたが笑って誤魔化しておいた。今頃校長室ではカトレスの胃がギリギリと痛んでいるだろうが、そんなことよりだ。
「見つけた」
「見つけたって、何を?というか今のは?」
「学校全体に魔力をぶつけてみたんだ。実力のある人程反応してしまうようにね。三年生の上位三人、同じクラスみたいだよ?放課後挨拶しに行こう」
「…何というか、ライルの事を最初優等生って思ってた私を殴りたいわ」
「酷いなぁ。問題行動は起こして無いだろう?」
「…型破り…」
「そう、それなのよ。問題行動は無くても、いつもやる事が規格外というか。普通の生徒に出来る事じゃないというか。どんな育ち方してきたらそんな実力が付くわけ」
「買い被りすぎだよ。俺はこういう技術が高いだけで、それ以外は普通なんだ」
ちょっと面倒だからってやり過ぎたみてぇだな。
あまり突拍子も無いことばかりやり過ぎると怪しまれるし、程々に手を抜くというか、真面目に生徒やらねぇと駄目か。
そして放課後。三年の三人が帰る前に気配を感じた教室へ向かう。
教室の真ん中に主席、後の二人は窓際と廊下側か。
突然入ってきた俺達に何事かと視線が集まるが、俺の制服を見て「あぁ、なるほど」と納得していった。
まずは主席に挨拶っておもったけど、同じようなこと三回言うのも面倒だな。
さっき反省したばかりですぐにこの思考になるのは、長生きしてると無駄を省きたくなる癖のようなものだ。
「初めまして、俺達は二年の主席以下三名です。三年生の主席以下三名の先輩方がこの教室に揃っていますので、この場を借りてご挨拶をしに参りました」
「ら、ライル⁉︎何その挨拶⁉︎」
「随分と、簡単に挨拶してくれますわね。名乗りもせず、私達の名前すら呼ばずとは、些か無礼では無くて?」
主席の金髪がドリルみたいになった如何にもなお嬢様が何か言ってくるけど、そういうのが面倒だから今の挨拶なんだけどなぁ。
軽く見てみたが、流石に最上級生ともなると魔力の流れはそこらの雑魚教師より綺麗だ。
まぁでも、俺が鍛えた妹に比べたらまだまだだがな。
「面白そうなイベントなので、是非先輩達には本気で戦ってもらいたく、軽い挑発をしてみました」
「何ですって?」
「当日は学年に関係なく、全力で俺を潰しに来て下さい。楽しみにしています。では」
「ちょ、ライルってば!あ、あの!本当にすみませんでした!」
「…すみませんでした」
何故俺が突然こんな事をしてるのかって?
あの魔力の流れと属性、そして質。
かつて俺の教え子だった奴の娘だと確信したからだ。
名前は確か…ウィルト・デラ・フューデンハイムだったか?今は公爵家で大分出世したみたいだな。
その娘があんな高飛車になってるとは。最初は実力を見てやるだけのつもりだったが、これは親の元先生として、しっかり教育してやらねぇと。
「ライル!何であんなこと言っちゃうのよ!」
「だって、その方が面白そうだし。見せ物じゃなくて本気の戦いの方が楽しいでしょ?」
「だからってあんな敵意剥き出しにされたら楽しくないわよ!」
「それはそれで攻撃が単調になりそうで楽だと思えば、ね?」
「ね?じゃない!」
「…嫌い?…」
「ん?いや、あの人の事は特に何とも思ってないよ。純粋に全力で戦ってみたいだけ」
当日が楽しみだ。
その前に俺には一仕事残ってるがな。
夜になり寮の窓から出る。最上階だが、俺にはそんなの関係無い。
【認識阻害】で存在すら感知出来なくしてから、普段隠してる背中の翼を広げて空を飛ぶ。
数年程度とはいえ、久々に飛ぶとやっぱ気持ち良いな。
大規模な捜索をするなら、事前に知らせておかねぇと後で煩いから、先ずは城か。王城の謁見の間に窓から霧状で侵入し床に着地。
突然の事で臨戦態勢になった近衛兵や貴族達だが、俺だと分かると一瞬で直立不動になり冷や汗を流し始める。
今の上層部は丸ごと俺の元教え子だからな。そりゃ全員こうなるわ。
「せ、せせせ先生!ほ、本日はどのような御用件でしょうか⁉︎」
「落ち着けバハラム。今日は頼まれてた吸血事件の事で来ただけだ」
国王がそんなガチガチにビビってどうすんだよ。
まぁコイツの事は当時一番厳しく指導したから、トラウマなんだろうけどな。
バハラムと呼んだのが現国王、バハラム・ハイド・エインラーナ。年齢は今年で48歳のまだまだ若い王だ。
息子が一人、娘が二人の父親で、息子は国の政策で他国に遠征中、長女は数年前に他国の王子に嫁いだ。王妃は現在貴族の婦人友達と旅行中だ。
明るい茶髪を短くオールバックにセットし、身長180cmの体は昔鍛えた甲斐あって今でも現役で戦えるほど。
「や、やはり先生の管轄外の吸血鬼でしたか?」
「だろうな。だから今夜にでも大規模な探知魔法使うから、事前に知らせておこうと思っただけだ」
「お心遣い、感謝致します」
国の事となればすぐに王の顔に切り替えられる。流石は国王だ。そう仕込んだのも俺だけど。
あ、いきなり行って反応見るのも面白そうだけど、事前に爆弾を落としてやろうかな。
「これは別件だけどよ。今、暇つぶしで王立高等学校に潜入して二年主席になってるから。国事とかで会ったらよろしくな」
「え…?嘘ですよね先生⁉︎」
「それと、ウィルト。三年主席にいるお前の娘にすこーし高飛車な所があるが、俺がしっかり教育してやるから安心しろ」
「なんですと⁉︎」
「う、嘘だと言って下さい先生!先生⁉︎待って下さい先生!せんせーー!」
ハハハハハ!
最後に見た二人の青ざめた顔、最高だったな!
気分が良いし、今夜にでも事件を解決してやろう。
【オリジンブラッド】:模倣・無属性・上級魔法
【広域探査】
王都全体を包むように探査魔法をかけて様子を見る。
もうすぐ深夜だとすると、動き出すのはそろそろか。
30分後、吸血鬼の気配が急に濃くなったからその場所へと無属性魔法の【転移】で移動する。
気配を完全に消して様子を見てると、一人の若い女が逃げる後を、下卑た笑みを浮かべた吸血鬼が追っていた。
あと一歩で女に手が届くという瞬間に割って入り、吸血鬼の腕を掴む。
「あ?なんだテメェ。同族の癖に邪魔してんじゃねぇよ!」
「この国では吸血鬼と人間は数百年前から共存の道を歩んでいる事を知らんのか?」
「知るわけねぇだろ!吸血鬼は人間を狩る生き物だ!共存なんて馬鹿馬鹿しい!」
「そうか。いつまでもお前みたいな奴がいるから…アイツも…」
「何を訳の分からねぇこと言ってやがる!離せクソが!」
品も無ければ吸血鬼の誇りも無い。
コイツは生命のサイクルを知らんのか。
何も考えず餌を取り続けた動物がどうなるか想像出来ないか?食べるものが無くなって飢え死にするんだ。
人間だって無限じゃない。狩り尽くせばいつか絶滅してしまう。俺達吸血鬼は月に一度の吸血で十分なんだ。それ以外は人間と同じ食べ物を食べ、同じように生活すれば、双方利益がある。
吸血鬼は血を定期的に安定して得られるし、人間は力で勝る吸血鬼に国を守ってもらえる。
そういう考えに至ったかつての小国の王と、当時の俺が作ったのが、今のエインラーナ王国だ。
「俺とアイツの夢が実現したこの国で、勝手な事をする奴は許さん」
【オリジンブラッド】:オリジン・血属性・中級魔法
「【ブラッドコフィン】」
「な、なんだこれ⁉︎それにこの魔力…ま、まさか…し、そ…さま……」
「そんなに血が飲みたければ、好きなだけ飲んでろ。自分の血をよ」
対象の血で棺を作り、吸い取られた血を強制的に飲まされる。生命力が強い程長く苦しみながら死ぬ魔法だ。
赤黒い棺に閉じ込められた吸血鬼を空間魔法でどこかの異空間に放り投げておく。
さて、問題は襲われてたこの女だが。バハラムは知ってんのか?
いや、絶対このお転婆娘の独断だろうな。
アイリスと同じ金髪碧眼の美女。というか、アイリスが活発になって3・4年経ったらこうなりそうって感じの外見の女なんだが、問題はその立場だ。
「マリア、一国の姫が自分を囮に吸血鬼を誘き出すとか馬鹿なのか?どう対処するつもりだったんだ」
「わ、私だって魔法くらい使えます!学校だって主席で卒業したんですから!」
「吸血鬼には聖属性以外大して効かねぇって言わなかったか?」
「それも使えます!ほら!」
マリア、正式にはマリアンヌの手から聖属性の光が生まれるが、正直ショボい。
「見様見真似で覚えただけの聖魔法じゃ、さっきみてぇな下級の吸血鬼にも効かねぇよ」
マリアの手を取って聖魔法を吸い取る。俺からすりゃ今更聖属性なんて弱点でも何でもねぇ。むしろ俺も使えるくらいだ。
「うぅ…おじ様はいつも意地悪です!魔法も教えてくれないし、鍛錬も付き合ってくれないし、褒めてもくれません!」
「いつまでもおじ様なんてそんな若々しい呼び方すんなよ。それにいつも言ってるだろ?お前に教えるのはバハラムから止められてんだ」
絶対にやり過ぎるし、娘に怪我なんてさせたくないんだろう。
だったら城から抜け出されてる時点で失格だと思うが、そこは意外とズル賢いマリアに分があるんだろうな。
「分かってます。ですからその点に関してだけはお父様は嫌いです!」
「うわ、酷ぇ…まぁどっちの意見も分からなくも無いから、余計に譲れないんだろうな」
「ねぇおじ様、今なら誰も見てませんよ。ここでなら何をしたってバレません。ですから、ね?」
「完全に誘い文句が夜のそれだぞ。お前はそういう裏切りだけはしないって俺は信じてるんだがなぁ」
「…ほんとに、意地悪です」
「悪かったよ。ほら、城まで送ってやるから機嫌直せ」
「おじ様に抱っこされながら空を飛んだら機嫌直します」
「はいはい。未だにそれ好きなんだなお前」
最後にやったの10年前くらいじゃなかったか?
マリアをお姫様抱っこして、翼で王城よりも高く飛んだ。俺が落とすようなミスをしないと信じてるのか、マリアは王都全体の夜景にうっとりしてる。
「お前の部屋で良いな?」
「はい、大丈夫です」
【認識阻害】でマリアの事も隠しながら部屋の中へ。
マリアはそのまま服を着替えてベッドに潜った。
俺の目があるのはお構い無しか。いや流石に教え子の娘に何もしないけどよ。
「おじ様、寝るまで傍にいて下さい」
「甘えん坊なのも相変わらずか。分かったよ」
ベッドの傍の椅子に座ってマリアを眺める。
結局すぐに寝ちまったから、俺も国王に報告だけして帰るか。
廊下に出た瞬間、侍女達が「え?」みたいな反応をするが、俺だと分かると挨拶だけして通常業務に戻っていった。
謁見の間に正面から入り再びガチガチに固まった教え子達を見て、心で笑った後に切り出す。
「迷惑な吸血鬼は始末したぞ。今回の件はこれで終わりだな」
「本当に、ありがとうございます先生。それで、何故外からでは無く中から入られたので?」
「またマリアが脱走してたから、ここに届けた後そのままきた」
「っ⁉︎ま、またですか!あれ程注意したというのに…そ、それで、先生には何か言っていましたか⁉︎」
「毎度同じく鍛えて欲しいってな。断ったけどよ」
「いつも申し訳ありません」
普段は真面目で使用人にも優しいマリアだからな。もしかしたら手を貸して脱走させてる奴がいるかもしれないが、それは俺が言うことじゃねぇ。
「脱走されるくらいならいっそ鍛えてやれば安心出来るのに、親ってのは難しい生き物だな」
「いえ、先生。鍛えるだけなら良いのです。いくらでも適任者を呼びましょう。問題なのは、マリアは先生に見てもらいたがっていることでして」
「俺じゃやり過ぎるか死ぬ思いするから、それが嫌なのか?」
「それも少しありますが、私がしているのはもっと別の心配なのです!」
「…あぁ、マリアももう18歳か。卒業したばかりとは言え、そろそろそういう話の一つや二つ出てもおかしくないのにとは思ってたが」
「えぇ。何せマリアは小さい頃から先生に懐いてましたから、縁談の条件も『おじ様が認めるくらい強くて優しくて面白い人じゃなければ嫌です』と。それどころか『おじ様ではダメなのですか?』と言う始末」
「ハハハ、こんな老人を欲しがるなんて物好きもいたもんだ」
「笑い事ではありません!私は先生が義理の息子なんて絶対に嫌ですからね⁉︎」
「そう冷たいこと言うなよ、お義父さん」
「うわぁぁぁ⁉︎鳥肌が!寒気が!」
ハハハハハ!これは最高に面白い言葉を手に入れたぞ!
マリアの気持ち云々で遊ぶつもりはないが、バハラムに対してだけは遊び尽くしてやろう。
顔まで青ざめたバハラムを見届けて、俺は寮に戻る事にした。




