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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第四話


 ランフィアが自室に帰り暫く経つと、部屋の外によく知る気配が。

 まぁ、そろそろ来る頃とは思ってたがな。


 扉を開けると、やはりアイリスが立っていた。

 俺も用が有ったし丁度良い。


「失礼しますね」

「いらっしゃい」


 扉を閉めて、ついでに演技も一旦辞める。

 しきりに部屋の中を確認したり匂いを嗅いでる妹は気にしない。


「で、お前は何の用だ?」

「兄様、初日から女性を部屋に招くのは感心しませんよ。兄様は魔法で()()()()しているとは言え、十分に美しい容姿なのですからもっと注意して頂かないと」

「俺の事を知ってる奴には掛けてないからそう見えるだけだろ?他の奴からはそこまで人間離れした容姿には見えてねぇよ」

「…確かめさせて下さい」


 アイリスも認識阻害の対象に指定する。

 多分今のコイツには、俺の顔は平凡なもので、銀髪も赤い目も多少鮮やかさが失われて映ってるだろうな。


「兄様、今すぐ認識阻害そのものを解除して下さい。目立たない為とは言え、兄様がこんな風に映る世界など認められません」

「そう言うと思ったよ。良いのか?ランフィア辺りは余計に距離を縮めてくるかもしれんぞ」

「…たとえそうだとしても、あんな兄様を兄様だと思って欲しくありませんから」

「はいよ。本題はそれじゃないんだろ?」


 まだスッキリしてないって顔だからな。


「兄様は、ランフィアさんをどう思っているのですか?」

「俺が主席を奪った女、かつての戦友の子孫、アイツと同じ赤髪ってところだな」

「…やはり、あの方を思い出されていたのですね」

「嫌でも同じ髪を見ればな…でも心配すんな。アイツはもう居ない。転生してたとしても、ランフィアだという確証もない。変な事なんて考えちゃいないさ」

「分かっております。私はただ、兄様がランフィアさんの傍にいて辛くないか心配なだけです」


 アイリスには以前、簡単にだがアイツの事を話したからな、当然こうなる事はわかってた。

 15年しか生きてない赤子みたいな歳のくせに、俺を本気で心配しやがって。生意気な妹だ。

 俺を心配する奴なんざ、お前くらいだよ。


「それこそ心配無用だ。俺はそこまで弱くねぇぞ?」

「それなら良いのです。私にとって兄様の幸せこそが全てなのですから」

「本当に生意気な妹だ。そんな殊勝な妹よ、兄は今非常に困っているんだが、助けてくれるか?」

「勿論です!私に出来る事があるのなら、どんな事でも致します!」

「じゃあ早速で悪いが、そろそろ一月経つんだわ。また吸わせてくれねぇか」


 アイリスは答えず、黙って俺の手を引いて寝室へと連れていく。

 ベッドに寝転がってから、服を脱いで上半身下着だけの姿になった。


「毎度言うが、首筋出してくれりゃ吸えるぞ。服も汚さず吸うなんて簡単だし」

「何度でも言いますが、私はこういう時くらいしか兄様に体を見せる勇気が出ない恥ずかしがり屋なので、この時だけは存分に見て頂きたいのです」

「…大胆なのか恥ずかしがり屋なのか、相変わらず変な奴だな」


 それでも一切怖がらずに血を吸わせてくれるのは、吸血鬼としても兄としても嬉しいけどよ。

 寝転がったアイリスに被さるように寝転がり、白く細い首に牙を刺す。


「んっ」


 痛みか別の感覚か、アイリスが声を漏らすが構わず吸った。


「あっ…兄…様…!今日は、一段と…激しい…!んっ…はぁ…!」


 俺達吸血鬼に血を吸われる事は、血と共に魔力を吸われる事を意味する。

 だからそれに抵抗されないように、ある一定の痛みを緩和し、恐怖を和らげる為の物質を送り込む。

 人によって反応は変わるが、性的な免疫が無い奴ほどこうして顕著に反応が出る。

 一度吸われれば二度目は怖くないなんて思うかもしれないが、強制的に心を動かされる感覚に怖がる奴もいるからな。

 アイリスはかなり稀なタイプだ。まぁ相手が兄である俺ってのも理由かもしれないが。


 俺が満足して離れる頃には、完全に蕩けた表情のアイリスがぐったりとしていた。

 アイリスにとっての山場は吸血中だが、俺にとっての山場はむしろ()()()()だ。


「兄様、こっち来て」


 普段以上に艶やかで口調も砕けたアイリスが俺をまたベッドへ誘う。

 言われた通り横に寝転がると、アイリスは無言で俺に抱き着いてきた。

 普通の女なら吸血後は性欲が強くなり生殖行為を望むのだが、この妹は普段より数倍甘えん坊になりとにかく引っ付いてくる。


「お前の中での興奮の覚まし方は、俺に引っ付く事なんだろうな」

「興奮?私はただ兄様を独り占めしたいだけ。吸血の間は私だけを必要としてくれるから」

「だから今度はお前が俺を独り占めか。我ながら可愛い妹を育てたものだ」

「嬉しい。兄様大好き」

「ありがとうよ。今日は泊まって良いから、ゆっくり寝てろ」

「うん。おやすみ兄様」


 この妹の事だ。こうなる事(泊まる事になるの)を見越して飯も風呂も済ませてるだろう。

 で。俺の山場はここからって言った訳は、この状態で寝られると絶対に離さない事だ。

 そんで吸血鬼ってのは当然昼よか夜の方が活動が長いわけで…単純に長時間暇っていう…


 まぁ、隣で幸せそうに寝てる妹を眺めたり、撫でたりしてやってると、俺も段々眠くなるから良いんだけどな。

 明日、時間ズラして出ていかねぇと。ランフィアや他の奴等に見られたら騒ぎになりそうだ。




 翌朝。

 アイリスより先に起きた俺は二人分の朝食を作ってからアイリスを起こしにいく。


「アイリス起きろ、もう朝だぞ」

「ん…おはようございます兄様。昨晩は吸血して下さりありがとうございました」

「何でお前が礼を言うんだよ。あ、まだ牙の跡消して無かったな」


 傷を消す為に触れようとすると、何故か手で隠して距離を取るアイリス。


「何してんだ?そんな傷残してたら何か言われるぞ」

「兄様から頂いた傷痕…離れていても兄様を感じられますから、このまま…」

「駄目だ。お前に変な噂や注目が集まるのは許さん」

「うぅ…兄様がそう仰るなら」


 素直に首筋を見せたアイリスの頭を撫でてやり、傷痕を【オリジンブラッド】の回復魔法で消す。


「あぁ、兄様との繋がりが…また一ヶ月先までお預けなのですね」

「それ普通俺のセリフだからな?」


 アイリスと朝食を済ませて先に行かせる。

 出て行く時にランフィアは居なかったようだな。良かった。

 寮から出るときに変に思われるかも知れないが、全部気にしてたらキリがねぇ、勝手に解釈して納得するだろ。

 

 アイリスが出てから10分程経って、俺も部屋を出る。

 まだランフィアの気配が部屋にあるが、もうそろそろ出ないと遅刻すんぞ。声くらい掛けてやるか。


 コンコンコンッ


「ランフィア、まだ居るの?早く出ないと遅刻するよ」

「ら、ライル…ちょっと待って。まだ支度が…」


 部屋の中から声が返ってくるが、ちょっと苦しげだな。体調でも悪いのか?

 数分後、漸く開いたドアから重い足取りでランフィアが出てきた。


「ごめん遅くなっ…て。ら、ライル?」

「ライルだけど、どうかした?」

「いや、あの…顔から髪や瞳まで、全部昨日と違うんだけど」

「あぁ、そういや今日掛け忘れたね。いつも魔法で少し違うように見せてるから」

「素顔を見ると、こんな美形だって騒がれるから?」

「自分で言う事じゃないけど、まぁそんなところ。それよりどうしたの?」

「あ、うん。昨日の走り込みで体中痛くて、思うように動かないの」

「筋肉痛ってやつかな。いきなり3倍は辛かったみたいだね、ごめん」

「い、良いのよ。続けていけば慣れるわ。それより待ってもらっておきながら悪いけど、私に合わせたら遅刻するから先に行って良いからね」

「ここまで待って先に行くとでも?何ならまた抱き上げようか」

「それだけは駄目!放課後でも見られて恥ずかしかったのに、登校でそんな事されたら学校に行けなくなるわ」

「じゃあランフィアのペースで行こうか。俺は授業受けなくても問題無いし」

「今だけはその余裕に感謝するわ」


 それからゆっくりと歩いて校舎を目指す。

 寮から校舎までの道も、花が咲いていて綺麗だな。

 結局教室に着いたのは最初の授業が半分くらい終わった時だった。


「成績上位者二人が揃って遅刻とは、どうしたのですか?」

「すみません、昨日ランフィアさんとの自主練で張り切りすぎて寝坊してしまいました。ランフィアさんはその時の後遺症で体が痛むのでゆっくり来たところ、すぐ外で俺と合流したんです」

「そうでしたか。自主練は素晴らしい事ですが、本来の授業が疎かにならないよう気を付けて下さいね」


 席に座り早速授業を疎かに。

 昨日と似たような内容だしな。

 それにしても全員反応が分かりやすくて面白いな。男も女も俺の姿が違う事に驚いて何度もこっちを見てくる。流石に教師は姿が変わった事より、魔法が掛かってた事に驚いてるみたいだが。

 そして授業後の最初の休憩の時、ランフィアが何か言いたそうにしてるから俺から行ってやろう。着くのを待ってたら休憩が終わりそうだからな。


「何か言いたそうにしてるね」

「当たり前でしょ。何で自分は自業自得で私は仕方ないみたいな言い方したのよ」

「じゃないとランフィアにだけ関心が行くでしょ。ああ言えば俺の方が印象に残るから、恥ずかしく無いだろうし」

「でも、それじゃあライルばかり嫌な役で…」

「俺はそういうの気にしない性格だから平気だよ」

「…そういう問題じゃないわよ、ばか」


 馬鹿とは言いながらも罪悪感を隠しきれない雰囲気だな。

 真面目というか愚直というか、こういうところは先祖そっくりだ。


「じゃあ、今日の昼を俺に奢るでどう?」

「そんなんで良いの?もっと他に何か無い?」

「他に何をしたらランフィアの気が済むのさ」

「それは…ライルが必要な物を贈るとか、他の人には頼めないような重要な事とか?」

 

 そりゃあ血だな。

 でもそれは本人の希望でアイリスがいるから困って無いし、思い浮かばんな。

 

「何も浮かばないや」

「じゃあ思い付いたら言って。可能な限り叶えるから」

「分かった。今はその気持ちだけ受け取っておくよ」


 次の教師が来たので席に戻る。

 一応可能な限りの願いを叶える言質は取ったが、使う時が来るのかねぇ。


 午前の授業は座学だけか、なら全部聞き流そう。

 そういえば、そろそろ屋敷の書類が溜まった頃か?

【アイテムインベントリ】で書斎のペンと積まれた書類を一枚ずつ取り出しては処理をしていく。

 俺に届く書類なんて基本は形だけの貴族の真似事だ。適当にサインだけしておけば王が勝手に処理させる。

 中には、こんな特殊で俺の管轄とも言える書類もあるがな。


『王都内で起きている吸血事件の調査を依頼する。最近王都内にて、深夜に女性が襲われる事件が発生している。被害者は全員18〜25歳程の女性で、発見された時には全身の血が抜かれている事から吸血鬼の犯行と推測。同族である貴殿に調査を依頼したい。P.S.毎回こんな文で申し訳ありません。何卒宜しくお願い致します』


 国王も大変だなぁ、爵位で言えば俺の方が下だから上から言うしか無いが、内心冷や汗ダラダラだろうな。

 毎度追伸で謝罪してくるのが面白いから何も言わないけどよ。


 しかし吸血鬼か。ここ数百年くらい王都じゃ大人しくさせてたんだがな。

 外から入ってきたのか?

 元から王都にいる吸血鬼は全員統治して、今は穏やかに人間と共存してる筈だしな。


 だとするとやっぱ王都外か。

 今夜にでも王都全域を探ってみるとしよう。


「ライル、午前の授業終わったわよ?あら、珍しく何か書いてるわね」

「家に溜まってた書類を処理してたんだ」

「結局授業関係じゃないのね、分かってたけど。じゃあお昼にしましょう?」


 ランフィアと食堂へ向かう。朝よりは身体がマシになったのか、少し遅い程度のスピードで歩けるようだな。

 たまにヒソヒソと話してるのを見掛けるが、昨日の事を見てた奴が噂でもしてるんだろ。気にするだけ無駄だ。


「やっぱり注目されてるわね」

「お姫様抱っこくらい誰でもやりそうなものだけど、そこまで騒ぐことかな?」

「…それもあるかもしれないけど、そうじゃないでしょ。ライルが急に格好良く見えるようになったから驚いてるのよ」

「あ、そうか魔法掛け忘れてる事を忘れてた」

「これだけの人に見られたら今更無駄よ?」

「そうだね、諦めてこのまま過ごすよ」


 自然とそういう流れに持っていけたな。

 全くアイリスの奴、こういう事態を考えずに願望ばかり言いやがって。

 流石に、この姿から吸血鬼の始祖を連想する思考だけは阻害してるけどな。


 食堂に着くとその騒ぎは廊下の比では無かった。全体が一瞬静まり返りざわざわと騒がしくなる。

 こういう視線は何年ぶりだったかな。


「ランフィア今日は何食べる?」

「…その周りを全く気にしない精神力は素直に凄いと思うわ」

「俺が気にして何か変わるなら気にするけど、生憎良い方向に向かった試しが無いからね」

「そうね、その気持ちは分かるわ。じゃあ私はそんなライルと唯一親しい仲である事を、自慢するように堂々としてようかしら」

「ははは、それは面白い発想だ。ランフィアは意外と子供っぽいよね」

「何よそれ。初めて言われたわそんなこと」

「一番を取られて悔しがったり、頑張り過ぎて体壊したり、玩具を自慢するように振る舞ってみたり、やっぱりまだ10代は若いなぁ」

「…ライル、なんかお爺ちゃんみたいな事言ってるわよ」


 そんなやりとりをしながら頼んだ飯を受け取ってテーブルにつくと、クラスメイトの数人が近寄ってきた。


「あ、あの…お邪魔で無ければお昼一緒に良いですか?」

「お、俺も!一緒に食べたいっていうか、話したいっていうか」


 男二人女三人か。

 男二人からは憧れの感情とほんの少しの黒い感情。ランフィアに憧れてて、俺と親しくなれば自然と近付けると踏んだか。

 女三人の内二人は完全に色欲まみれだな。俺の容姿が変わった途端に近付いてきた軽い女だ。

 もう一人は…読めないな。無表情な女だ。背は小さく150も無い。黒の短い髪に、やや眠たげな黄色い瞳が印象的だが、こんな奴がクラスに居たのか。

 魔力の流れはランフィアに次いで綺麗だな。クラスでも上位の奴だろう。

 だが魔力量と総合すると魔法に関してはランフィアより上か。魔法特化型だな。

 評価はこれくらいにして、そろそろお帰り頂こう。


「申し訳ないけど、純粋に俺達と仲良くなりたくなったらまた来てね。あ、黙ってるそこの小さい君だけは残って良いよ」


 ランフィアには初めから視線すら向けて貰えず撃沈した四人は退散し、俺が声を掛けたあの少女だけが残った。


「ライル、エミリアに何か用でもあるの?」

「エミリアって名前なんだ?俺はライル、よろしくね」

「……ん…よろしく…」

「ちょっと待って。名前も知らずになんで呼び止めたの?」

「あの中で一番実力があって、純粋に俺達と仲良くなりたそうだったから」

「そういえば魔力の流れが見えるんだったわね。エミリアはどうして私達の所に?」

「…昨日と違う…」

「あれは【認識阻害】の魔法だよ。自分が指定した対象に自分の姿を違うように見せる魔法さ」

「…上級?…」

「分類は中級だけど、維持する時間と対象の数によっては上級だったりその上の超級だったりするよ」

「…ライルは…」

「俺のは対象が『俺を見ている人間』で『学校にいる間』だから、上級かな」

「貴方よく初対面でエミリアと会話出来るわね。私でもまともに会話出来るようになるまで時間掛かったのに」

「こっちの言葉の中で何が聞きたいかを分析出来れば、単語だろうと視線だけだろうと会話なんて可能だよ」

「じゃあ、この視線当ててみて」


 …おいおい、そんな顔で俺を見てるとアイリスがまた拗ねるぞ。

 まだ俺の素顔に慣れてないのに見続けるから、恥ずかしさと動悸で紅潮してるのも分かり易すぎる。


「ランフィアはもう少し自分が分かりやすい人間だって自覚した方が良いよ。答え、声に出しちゃって良いの?」

「…お願い、忘れて」


 ランフィアは俺が素顔を見せる前から仲良くしてきたから、今更顔で判断する奴じゃないって分かってるから良いけどな。

 本人の為に言わないのが優しさってやつだろう。



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