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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第三十五話


 週末の訓練日が今日もやってくる。

 俺は朝早くから仕込みをしている料理長の下へ来ていた。


「よぉ、バルゴ」

「おはよう旦那。旦那がこの時間に来るなんて珍しいな」

「今日はちょっと頼みがあってな」


 俺が見上げる程の2m近い体躯、短く切り揃えた金ではなく黄色い髪。俺の屋敷で最も古株の料理人で、今は料理長を務める男だ。

 そして屋敷で唯一俺に敬語を使わず、それが全員に許されている奴でもある。

 

「俺の学校の友人に稽古をつけてやってほしい」

「ほぉ、俺が旦那の友人の稽古を…またなんで俺を?稽古ならもっと適任の奴がいるだろうに」

「そいつが竜人だから、って言えば早いか?」

「ははっ、なるほどな。そりゃ俺しか適任者はいねぇわな」

「じゃあ後でまた迎えに来る。支度しといてくれ」

「あいよ」


 9時5分前、アイリスと今回は制服を着た状態でバルゴと合流する。

 料理長の格好から普段着の私服に着替えたバルゴを連れてグラウンドに転移した。


「あ、来たわ。今日は制服みたいね」

「やぁ、お待たせ皆」


 突然雰囲気が変わった俺に一瞬反応したバルゴだが、俺が正体を隠している事を瞬時に察して何も言わなかった。


「えっと、お隣の方は?」

「私服なのにこの威圧感…只者ではありませんね」


 ランフィアとシルヴィア…

 この二人のどっちかの中に、いるんだよな?お前…。

 いや、やめよう。今考えても仕方ないし、余計に辛くなるだけだ。


「この人はバルゴ。俺の知人で、ドラグの指導をしてくれる人だよ」

「っ⁉︎じゃあ…元英雄の…?」

「そういうこと。バルゴは昔、撤退寸前だった軍を助けたばかりか、そのまま敵軍を殲滅しちゃう程の実力者なんだ」

「よせよ旦那。あんなのちょっと翼動かしただけのお遊びさ」

「お、お遊びで敵軍を殲滅…」

「ちょっと待ってくれライル。今、翼を動かしただけと言わなかったか?」

「ドラグの指導役に選んだのはそれも理由でね。バルゴ、見せてやってくれないかい?」

「あいよ」


 バルゴが少し離れ、上半身の服だけ脱ぐ。

 今日は翼を出す為の服にしなかったのか?訓練だって言ったのに。

 いや、あれは単純に鍛えた肉体を自慢したいだけだな。

 最近は料理長の仕事しかしてないから、久々に筋肉自慢出来る事が嬉しいんだろう。

 上だけ裸になったバルゴが力み、黄金に近い黄色の翼と、螺旋状に捻れた一対の角が前頭部から後ろに向かって伸びる。

 角も翼も、ドラグとは一回りも二回りも違う巨大なものだ。


「す、凄い…」

「一体どれ程の鍛錬を…」

「…強そう…」

「凄いな。何年修行すればこんなにも…」


「そうだなぁ。ざっと400年ってところか」


「よ、400⁉︎」

「貴女は今お幾つなのですか⁉︎」

「歳はもう1000近くだが、修行期間は400年くらいさ。だがその400年がすげー充実した期間でな。おかげで英雄なんて呼ばれるようにまでなった」

「そ、そんなお方に、本当に俺が個人指導を受けて良いのでしょうか」

「なーに気にすんな。旦那の頼みとありゃ喜んで見てやるさ」

「貴方にそこまで言わせるライルとはいったい…」

「おっと、それは俺からは言えねぇな。さぁ時間は限られてる。さっさと始めようぜ」

「はい!宜しくお願いします!」


 他のメンバーは今日から個別で気配察知と気配を殺す技術を上達させていく。

 やる事は地味だし、今日はドラグの修行がメインだな。

 【鏡写し】で全員分の俺を出して、本体はドラグ達の修行を眺める。



「さて、とりあえず小僧。名前はドラグって言ったか?」

「はい、ドラグです。俺もバルゴさんと呼んでも良いでしょうか」

「好きにして良いぞ。そんで、見た感じまだ一次覚醒だな」

「少し前に覚醒したばかりです」

「なるほど。となると二次覚醒はまだまだ先だな」

「バルゴさんは、完全に覚醒しているのでしょうか」

「まぁな。今の主人の所で働き出してすぐの頃だ。『俺の下で働く以上もっと強くなれ』って言われて、マジで死ぬかと思うくらいボコボコにされたよ」

「それで覚醒を…俺もそのくらいしないとダメでしょうか」

「そう気負うな。俺の場合は強制覚醒に近いから、お前は地道に努力すればちゃんと覚醒するさ」

「分かりました。日々努力します」

「お前真面目だな…じゃあ、俺もたまには真面目にやるか」


 バルゴが一度翼を羽撃かせるだけで、グラウンド全域に暴風が吹き荒れる。

 まったく、こっちの訓練の妨害をするな。

 魔法で他のメンバーを囲むように結界を張り、バルゴが思い切り暴れられるようにした。


「さぁドラグ、まずは竜人の戦い方を体で学べ」

「は、はい!」


 風に耐えながら必死に返事しているが、自分も風起こして相殺するか弱めりゃ良いのに。

 バルゴが対空しながら雷魔法を翼に蓄える。

 そのまま急降下して、一回転しながらの尻尾を叩き付け、直後に翼の雷魔法を放つ。

 そう、これこそが竜人、有翼種の戦い方だ。

 肉弾戦も魔法戦も出来るようになれば、並の相手なら手も足も出なくなる。


 現に同じ竜人であるドラグはまだその両立が出来ていない為、一方的にやられている状況だ。

 まぁ、バルゴとの力の差ってのも当然あるがな。


「どうだ?ちょっと考えりゃ当たり前に浮かぶだろう戦法も、出来る出来ないで大分変わるだろ」

「はい…まだ翼に魔法を留めたまま激しく動けないので…ここまで厄介だとは」

「そうみたいだな。一次覚醒はどんな風にしたんだ?」

「ライルが用意した王宮愛飲の紅茶が飲みたくてしました」

「…は?」

「訓練の褒美で、達成出来なければ飲めないと言われ」

「…ある意味すげー奴だなお前。じゃあ最適な訓練をしてやろう。お前、恋人はいるか?」

「え?恋人なら、そこで一緒に訓練してる黒髪のエミリアと先日交際を始めましたが」

「ほぉ。恋人と一緒に訓練か、中々やるな。旦那!ちょっとエミリアをこっちに混ぜてもらって良いか?」

「構わないけど、気配を殺す訓練中だからそれを考慮してほしいな」

「勿論さ。じゃあエミリア、俺の10mくらい後ろで気配殺して動くな」

「…はい…」

「俺はエミリアに背を向けとくが、気配を感じたら容赦無く魔法をぶち込むからな」

「なっ⁉︎」

「ドラグは防御魔法を翼に充填しとけ。但し、自分の目の前にだけ展開するタイプの防御魔法をな」


 なるほどな、それなら二人の訓練を同時に出来る。

 そして、人ってのは守りたいものがある方が限界を突破する生き物だ。

 この訓練は確かに最適だろう。


「ドラグは俺の目の前に居ろ。俺が魔法を背後に放つのを察知してからエミリアを守りに行け、良いな」

「は、はい」


 緊張したドラグが即席の【プロトプロテクション】を翼に纏って準備が完了した。

 早速緊張から気配を殺し切れて無いエミリアが感知され、バルゴの初級魔法が背後へと撃たれる。

 ドラグは咄嗟に飛んでエミリアの前に来たものの、翼の魔法は既に霧散し魔法が直撃した。


「ドラグ⁉︎」

「だ、大丈夫だ…と言いたいところだが、初級でこの威力…やはり英雄級は桁違いだな」

「残念、失敗だ。元の位置に戻れ」

「はい…」


 再び訓練が再開されるが、ドラグが目の前で傷付いた動揺から立ち直っていないエミリアは直ぐに感知され、また魔法が撃たれる。


「くっ…!」


 またも直撃。

 想像以上に実戦向きの訓練だな。

 これは良い経験になるだろう。

 後ろの四人にも同じような事をさせようか。

 バルゴがいれば心配はいらないしな。


 一度ドラグ達から意識を外し、アイリス達を振り返る。

 良い感じに集中して気配を殺しているが、まだあと一歩ってところか。


「四人とも、俺達も同じ訓練をしようか」

「え、アレと同じ事?」

「それぞれペアになってという事ですね」

「そういう事。アイリスとウルガ、ランフィアとシルヴィアでペアを組んで、交互に気配を殺す側と助ける側に別れようか」


 アイリス、ランフィアが気配担当、ウルガとシルヴィアが防御担当となり訓練を開始する。


「二人は竜人じゃないから、ペアの前に割り込んで即防御魔法を展開して」

「了解だよ!」

「分かりました」

「じゃあ始めるよ」


 アイリスとランフィアの気配を、学生では無く教師レベルで索敵する。

 

 ほう。前よりは確かに気配が薄くなってる。

 だがやはりあと一歩何かが足りないな。


「ランフィア発見だよ」


 態々口にしてやってから初級魔法を飛ばす。

 即座にシルヴィアが反応してランフィアの前に割り込み、簡易防御魔法を発動した。


「お見事。ほらウルガ、油断してたらダメだよ?」


 二人同時には魔法を撃たないと思っていたのか、既にアイリスに向かって放たれた魔法に慌ててウルガが割り込む。

 だが当然魔法を構築する余裕などあるわけが無い。

 火球が直撃し地面を転がった。


「戦場で順番待ちなんてあるわけないんだから、常に気を張ってないとね」

「くぅ…つい意識がシルヴィアちゃんに」


 あー…。

 やっぱ何か今一つなんだよなぁ。

 緊張感というか、何だろうな、この違和感。

 もう少し気配を必死に殺す感じが欲しいんだよなぁ。


 結局は正体バラすかもしれないんだし、もう少し大胆に訓練してやるか。


「一旦中止しよう。別の訓練の準備するから待ってて」

「え?別のって、気配を隠す訓練は終わりなの?」

「いや、もっと本格的に気配を殺して欲しいから、より緊張感を持つようにするんだ」


 そう言いながら【クリエイトブロック】で、一人が座り込んで漸く入れるような大きさの立方体を造る。

 それを10個、2列に等間隔で並べた。

 上から見ると、2m置きに土の箱が5個並んだものが2列って感じだな。

 箱は中が空洞になっていて、中に入れるようになっている。


「今から俺が離れている間に好きな箱に入って。10秒くらいしたら戻ってくるけど、気配を感じたら容赦無く箱ごと破壊するからね」

「な、何だか急に危険な感じになったわね」

「皆の訓練は大分良いところまで来てるんだけど、もう一歩何かが足りないんだ。それは恐らく戦場の緊張感や恐怖といった、()()の空気だと思う」

「なるほど、理解しました」


 他の全員も納得したみたいだし、俺は転移で学校の反対側まで移動し、10秒数える。

 戻ってから空いてる箱が見えないように歩き、気配を探るつもりだが…

 本物の戦場の緊張感を味わってもらおうか。


 普段意識して抑え込んでいる気配を少しだけ解放する。

 はぁ、ずっと縛り付けてた所為で肩が凝るな。


 アイリス達は今頃、重力魔法を掛けて無いのに押さえ付けられた感覚がしてるだろう。

 強すぎる気配ってのは物理的な影響も与えるからな。


 そんな環境の中で、正気を保って気配を消すのは慣れが必要だ。

 シルヴィアやアイリスのように小さい頃から鍛えたり、ランフィアのようにある程度殺気に慣れているなら耐えられるかもしれないが、初めてのウルガは恐怖で気配を隠す余裕も無かった。


「見つけたよ」


【オリジンブラッド】:模倣・複合属性・中級魔法


【浮遊機雷】


 試験の時に使った魔法で土の箱ごと爆破する。

 箱の外側で爆発させたから直撃はしなかったが、威力と爆風で吹っ飛んでいった。


「がはっ…ァ…」


 すぐに回復させ、新しい箱を造りまた転移する。

 再び10秒後戻ってきて、同じ事を繰り返す。


 ウルガの呻き声で生易しい訓練じゃない事を察したのか、さっきより緊張感が漂ってるな。

 だがその所為で気配が分かりやすくなってるぞ。


「今度は二人」


 ランフィアとウルガだ。

 派手に地面を転がる二人を見て少し心が痛むが、強くなる為だと言い聞かせ回復する。


「…ぅ…くっ…」

「け、結構…痛いわね…」

「俺が後ろを向いて察知する訓練より本格的でしょ?」


 シルヴィアは俺に助けられた時、似たような感じだったな。

 あの状況で魔族に見付からないように隠れてたんだ。これくらいの訓練じゃ緊張しないか。

 アイリスも、昔俺とやってた本気の隠れんぼに近い状況だからか気配の殺し方がさっきまでとはまるで違う。

 この二人を見つけるのは今日は無理だろうな。



 だが訓練すること数時間、アイリスやシルヴィアさえも見つかるようになってきて、今日はもう限界だと判断した。



 さて、こっちは今後この訓練に慣れさせていくとして、ドラグ達はどうだったかな。



「っ…はぁ…はぁ…」

「根性は認めてやる。だがそれだけじゃまだまだ足りねぇな。結局出来たのは数回きりか」

「…くっ…すみません」

「謝る必要はねぇだろ。だが忘れんな。その数回以外、お前さんは大事な恋人を殺されてるって事だぞ」

「っ!…はい」

「ドラグ、筋トレをしろ」

「…え?」


 出たよ。バルゴの筋肉万能説。


「筋肉は裏切らねぇ。特に俺達竜人は翼も尻尾も筋肉がある。鍛えれば鍛えるだけ人より強くなれる!」

「は、はい」

「そして同時に翼に魔法を留めろ。魔法を構築したまま腕立て、腹筋、背筋、スクワットを1日200回ずつだ!」

「に、200回ですか⁉︎」

「そうだ。それくらいやれば良い筋肉がつくだろう。そんで、翼に魔法を留める事も楽になってくるはずだ」

「分かりました。毎日やります!」

「よく言ったドラグ!また暇な時に見てやる。そん時までに鍛えておけよ」

「はい!ありがとうございました!」


 どうやら今日は終わりみたいだな。

 エミリアも課題の残る日になっただろうし、今日は全員が一段階上がる切っ掛けになる日だった。


 変形させてしまったグラウンドを直していると、ランフィアが近付いてくる。


「ねぇ、ライル」

「どうしたの?」

「あの…明日なんだけど、何か予定ある?」

「明日?特に何も無いけど」

「そっか。じゃあ前の訓練でもらったご褒美、使っても良い?」

「あぁ、1日優待券ね。大丈夫だよ」

「ありがとう…それで、言いにくいんだけど…」

「今更遠慮するような仲なの?」

「だ、だって…こんな事、初めてお願いするから」

「良いよ、何でも言ってみて」





「…明日1日だけ、私の彼氏になってほしいの」





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