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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第三十六話


「ライル、お待たせ」


 翌日、俺はランフィアと校門で待ち合わせていた。

 偶に見る私服と違い、お嬢様然としたワンピースとストールという服装に新鮮味を感じるな。


「うん、よく似合ってるね」

「も、もう…そんな所まで彼氏役やらなくて良いわよ。それに、ライルだって…似合ってるわ」


 そう。俺も今日に限ってはいつもの真っ黒コーデを辞め、貴族用のスーツ姿になっている。

 その理由は、昨日のランフィアの頼み事の通りだ。


「ごめんね、急に彼氏役なんて頼んじゃって。お父様もお母様もいい加減うるさくて」

「こんな俺を選んでもらえるなんて光栄だよ」

「…はぁ。本当にライルの本音は読めないわね」


 ライルの時に表に出すのは余程の感情の動きくらいだ。

 まぁ、今日の頼み事をされた時に焦ったのは確かだがな。


 ランフィアはアイツの生まれ変わりの最有力候補。

 俺は当然確かめた上でしっかりと話をするつもりではあるが…


 その前にランフィアに婚約者が出来てしまったら、何もかもが水の泡だ。

 だから俺はこの話を引き受けた。

 ライルとして交際を認められる程信頼されれば、この先の不安は多少無くなるだろう。


「あの…お父様は結構、いやかなり実力主義だから、もしかしたら無理矢理実力を試される事になるかも…」

「問題無いよ。どんな事でもクリアしてみせるから」

「凄い自信ね…というより、そんなに頑張ってくれるの?」

「勿論。やるからには全力だよ」

「ふふ、ありがとう」


 それが俺の為にもなるからな。

 今日の挨拶は絶対に成功させてみせるさ。


 ランフィアと迎えの馬車に乗り屋敷へ。

 先祖の時代からこの家は派手な飾りを嫌ってたからな、相変わらず最低限の飾りのみで、金は訓練所や武具に回しているようだ。


 侍女に2階の応接室に案内され、いよいよ両親とご対面だな。


 部屋の中には当然二人の男女が居て、壁際に数人の使用人が待機していた。

 真っ赤な炎のような髪を短く切り揃え、威厳ある視線を俺に送ってきているのが、ランフィアの父であるライウス・エルデ・ガルドレア。

 俺がかつて共に戦った友の孫だ。当然本人はその当時の事など覚えちゃいないだろうがな。

 そしてその横で静かに微笑みながら俺達二人を眺めるのがランフィアの母、ユリエス・エルデ・ガルドレア。

 流石の俺も当時のガルドレア家しか知らないからな、ユリエスとは初対面だ。


「お父様、お母様、お待たせしました」

「初めまして。ライル・コフィン・ヴァンピスタと申します」

「二人共今日は態々ありがとう。さぁ、座って頂戴」


 ユリエスに促され座ったらその時点で失格だろうな。

 優しい雰囲気の割にしっかりと試されているらしい。


「…座りなさい」

「「失礼致します」」


 当主の許しを得て初めて行動を許される。それが貴族のルールだ。


 さて、ここからどういう流れにすれば良いのか。

 俺から言って良いのか?


「ランフィア、私が常々言っている事は覚えているな?」

「はい。『力こそ全て。男は強く、女は気高く』」

「そうだ。それこそが先祖代々受け継がれてきた家訓。お前に相応しい男を探し数々の武功を立てた者達も調べたが、その男の方が良いと言うのだな」

「はい。ライルはガルドレア家の家訓に何一つ抵触しません。私は彼こそが最も強い男であり…その…私を、一人の人間として認めてくれる大切な存在だと思っています」


 嘘では無いんだろうな。

 俺は自分が思っているよりも、ランフィアからの評価が高いらしい。


「…私には、この優男がそれ程の存在にはとても思えんな」

「お父様!」

「ランフィア、良いんだ」

「だって…!」

「言ったでしょ?どんな事でもクリアしてみせるって」

「…そうね。ライルを信じるわ」

「ありがとう。では僭越ながら、ガルドレア家の家訓に則り証明してみせます」


 抑えている気配を少し緩め、威嚇では無く威圧する。

 今回は学生では無く貴族の当主、しかもガルドレア家だ。遠慮はしない。


「!?」

「え…ら、ライル?」

「如何でしょうか。私が優男などでは無いと証明出来たのなら嬉しいのですが」

「…物腰の柔らかさからは想像もつかぬ威圧感。お前は何者だ」

「エイナイル王立高等学校第二学年主席、ライル・コフィン・ヴァンピスタと申します」

「そういう事では…いや、そうか。お前がランフィアから主席を奪った男だったか」

「そうですお父様。彼こそが全学年の主席を無傷で倒す正真正銘の学校最強の男です」

「ふむ…確かに見事な威圧であった」

「ではお父様…!」

「しかし、学校で強くとも外に出れば話は別だ。私が選んだ男と戦いなさい。彼に勝てた暁には、娘との交際を認めよう」

「承知致しました」

「ライル…大丈夫よね?」

「うん。必ず勝つよ」


 ライウスが部屋を出たので後に続き、屋敷から離れた訓練所と思われる建物に入る。

 …この選ばれた男、朝からずっとここで待ってたのか?暇人なんだな。


「彼は現役の騎士団副団長だ。地位・権力・実力の全てにおいて申し分ない」

「お父様!副団長様だなんて聞いてません!それじゃいくらライルでも…」

「地位や権力が無くとも、彼に勝てば認めて頂けるのですね?」

「そうだ。我がガルドレアは強さこそ全て。他の二つなど後から付いてくる」

「では、今度こそ証明してみせます」


 しかし、まさか副団長が選ばれてるとはな。

 コイツはランフィアの婚約者と説明されて受け入れたのか?

 確か前に見かけた時には相手が居たはずだが…


「初めまして。僕はカルウェイ・デラ・ナルシトス。栄えある王国騎士団副団長さ。この度ランフィアさんの婚約者候補という名誉を頂き参上した」

「初めまして。ライル・コフィン・ヴァンピスタと申します。失礼ですが、副団長様には麗しきお相手がいらっしゃると記憶しておりますが」

「あぁ、居るとも。()()()ね。彼女ならその中に加わっても見劣りしないだろう」



 ……6人?

 見劣りしない?


 コイツは何を言ってやがる。



 いや、俺も行く行くは複数の妻を持つことになる。そこを咎める権利は無い。

 だが今コイツは、ランフィアの目の前で、ランフィアなら見劣りしないだろうと言いやがった。


 つまり、まぁまぁな女って言ったんだよな。

 最高でも、最低でもなく、「まぁ居ても良いだろう」くらいの言い方だ。


「ライウス様、御自身の娘にあの様な言い方をされても、力こそ全てだと仰いますか?」

「当然だ」



 はぁ…どいつもこいつも虫唾が走る。

 


「ランフィア」

「なに?」

「悪いけど、少し外で待っててくれないかい?」

「え?で、でも…」

「頼むよ。()()ランフィアには見せられないんだ」

「っ…そういうことね。分かったわ」

「ごめんね」

「その代わり、絶対に勝ってね」

「勿論。むしろ彼の無事を祈っててあげてよ」

「ふふ、何それ。じゃあ、また後で」


 ランフィアが訓練所の外に出たのを確認し、建物全体に【遮音結界】と【気配遮断結界】を張る。

 じゃないと外にいても俺の気配を感じ取れるからな。


「自分が負ける姿を見られたく無いのかな?大口を叩く割に繊細な心だね」


「…黙れ」


「「「!?」」」



()()()()、お前への説教は後でしてやるから待っていろ」

「貴様、誰に向かってそのような口を…!」


 気配、魔力と、普段抑えているものを全て解放する。


【オリジンブラッド】:模倣・闇属性・上級魔法


【重力の牢獄】


 カルウェイとライウスの二人に25倍の重力を掛けるが、副団長ともあろう者がこの程度で膝をつくか。


「情けねぇ。騎士団長もガイウスも、この程度じゃ何ともねぇぞ」

「なっ⁉︎騎士団長を…知っているのか⁉︎」

「そ、それに…その名はお祖父様の!」


「さっきの言葉、そのまま返してやろう。【誰に向かってそのような口をきいている】」


 言葉に魔力を乗せ言霊とし、声が出ない二人を見下ろす。


「まずはお前だ。女を自分のステータスのように扱う軟派者が。お前には女がトラウマになるような罰を与えてやる」


 必死に口をパクパクと動かしているが、鯉かお前は。


【肉体変化】で以前お姉様と呼ばれたあの姿になる。

 当然、人格を作ることも忘れない。


「「「!?」」」


 …ユリエスの口を封じたつもりは無いんだが、この圧力に言葉が出ないのか?


「特別に口がきけるようにしたわ。何か言いたい事が有れば聞くけど?」

「…な、なんて…美しい。貴女こそ、僕の…妻に…」

「呆れた…本当に人の外側しか見てないのね。もう話す事は無いわ。今から貴方の程度の低さを、存分に分からせてあげる」


【オリジンブラッド】:模倣・無属性・初級魔法


【固定】


 カルウェイの周囲の空気を立方体の形で固定する。

【重力の牢獄】を解除し、固定した空間ごと持ち上げた。


「さて、女を弄ぶような貴方には、玩具になってもらおうかしら」


 まるでサイコロを投げるようにカルウェイを壁に投げ付ける。

 

「ガハッ…ま、待って…くれ」

「あら、()()ね。次はもうちょっと強く投げないと」


 空間の面に付着した血が二箇所、逆サイコロゲームだな。

 再び掴んで高速回転するように投げる。

 おぉ、壁に当たる度に箱の中が赤く染まるな。


「ぁ…た…たす、け…」

「心配しないで。私は貴方と違って女の子も玩具も大事にするから。【ヒール】」


 初級魔法で傷()()治す。痛みは変わらず残る程度に回復しただろう。


【オリジンブラッド】:オリジン・血属性・初級魔法


「【血鎖(ブラッドチェーン)】」


 固定を解除してカルウェイの首に血で出来た鎖を巻きつける。


「こ、これは⁉︎貴女はまさか…吸血鬼⁉︎」

「そんな事を気にしている場合かしら?ほら、散歩の時間よ!」


 鎖を引っ張りカルウェイを浮かせ、そのまま壁に叩き付けた。


「ごぶっ…ァ…」

「ほら、散歩なんだから壁を走るくらいしてみなさい」


 連続で壁や床に当てていくが、一切抵抗出来てないな。

 王国の副騎士団長がこんな様で大丈夫なのか?

 今度俺が訓練してやるか。


 それにしても、これだけ時間を与えたってのに、未だに重力から抜け出せないとは、本当にガイウスの孫かコイツは…


「たかが25倍の重力に、本当に情けないわね!」


 ーーゴシャァッ


「ーーッ‼︎」

「…ぁ…ぁァ…」


 ライウスの顔の真横に顔面ダイブしたカルウェイが、辺りに血を撒き散らす。


「あら、ごめんなさい。すぐに綺麗にするから」


 血を集めて球体にし、そのまま滞空させる。

 こんな奴の血など飲みたくもない。


 さて、副団長の仕置きは取り敢えず終わりだな。意識が戻ってまだ態度を改めないようなら、追加すれば良い。

 肉体変化も解除するか。

 ついでに声も出せるようにしてっと。


「立て、ライウス」

「ぐっ…き、貴様は…いったい」

「まだ気付かないのか?お前の女はとっくに気付いてるというのに」

「なに⁉︎本当なのかユリエス!」

「あ、貴方こそ、何故気付かないのですか…この国に吸血鬼の方は多数いらっしゃいますが、これ程のお方は一人しか…」

「力こそ全てと言っておきながらその体たらく。おまけに頭の冴えも無い。娘をあんな男に渡すのにも抵抗が無い。お前にはランフィアに与えられるものが何も無いな」

「…なんだと」


「お前の祖父ガイウスは、豪胆であったが妻に優しく、子供には惜しみない愛情を注いでいた。『力こそ全て』の意味は、『家族に危険が迫った時、地位や権力は何の役にも立たない。この力無くして守れる道理無し』という想いだ。決してお前のような家族を見放した盲目的な意味ではない!」


 着ていたスーツから、普段の始祖としての真っ黒い服装に変える。


「それでも尚、力こそ全ての意味を言葉通りに貫くと言うのなら立て。真っ向から証明してやる」


【重力の牢獄】を解除した事で立ち上がったライウスと対峙する。


「俺は一切魔法は使わないが、お前は自由に使え。キャッチボールだ」


 滞空させておいた血の球を持ち、ライウスに向かって全力投球。

 

 ーーパリンッ

 ーーバリンッ

 ーーガシャンッ

 ーードゴォッ‼︎


 ご丁寧に上級の魔力障壁を三枚も張っていたようだが、何の抵抗も無く砕け散ったな。

 ボールはライウスを壁に叩き付け大きく陥没し、吐血する。


「どんな男でも良いんだろ?力さえあれば認めるんだろう?じゃあ合格だよな?」

「…ごふっ…ゴホッ…き、貴様は、何者…だ」

「…ここまでやってまだ分からないのか。よくそれでランフィアのような素直で聡明な子が育ったな」


 いや、反面教師という言葉もある。

 それかユリエスがしっかりと教育したのかもしれない。


「この国で唯一、国王をバハラムと呼ぶ男だ。これで流石に分かっただろ?」

「っ⁉︎そ、そんなバカな…嘘だ…有り得ない!吸血鬼の始祖様が、娘と同じ学校に通い、娘の恋人になるなど…!」

「あぁ、あまりに現実離れしてその考えに至らなかったわけか。だが受け入れろ、事実だ。退屈な日常から解放される為に、ライルとして学校に通っている。改めて名乗ろう。俺の名はヴラド・フォン・ブラディウス。知っての通り吸血鬼の始祖だ」


 ユリエスが遂に夫の不敬に耐えられず深々と頭を下げ始めてしまった。

 お前に何も罪は無いんだがな…


「こ、この度は…数々の、無礼を働き…誠に、申し訳御座いません!」


 ライウスが震えながら頭を下げる。

 これがかつての戦友の孫で、未来の義父になるかもしれない男か。複雑だな。


「そんな事はどうでもいい。ランフィアとの関係を認めるのか、認めないのか、どっちだ」

「そ、それは勿論!始祖様のような方に嫁ぐのならこれ以上の誉れはござーー」


「おい」


「っ!は、はい、何でしょうか⁉︎」

「お前は何も分かってねぇな。力だけで判断するなと、俺は身を持って教えた筈だが?」


 我ながら意地悪な事を…


「まずランフィアの気持ちだろうが。俺の立場を利用して無理矢理付き合わされてるとは思わねぇのか」

「そ、それは…」

「ふふっ」


 お?ここにきて初めてユリエスが声を出したな。


「発言をお許し下さい始祖様。親の主観では御座いますが、娘にそのような様子は窺えません。とても良い心情で御座いました」

「…それは俺が始祖だと知らないからだ。ランフィアが見ているのは只のライルだからな」

「そうで御座いますか。では、正体を明かされた際のランフィアの気持ちを、しっかりと確かめさせて頂きたく思います」

「そうだな。まだ先にはなるだろうが、そうしてやってくれ。分かったかライウス、これが親の在り方だ。誤った家訓に縛られ、娘一人の幸せすら願えないのなら…今すぐガルドレアを潰すぞ」

「か、重ね重ね…申し訳御座いませんでした」

「少しずつで良い、もっとランフィア自身を見てやってくれ。そこのカルウェイの記憶は適当に改竄するが、お前達の記憶は弄らないでおこう。くれぐれも、ランフィアに俺の正体を明かさないようにな」

「「承知致しました」」



 その後、ライルに戻ってからランフィアを出迎え、勝利した事を報告する。

 歓喜の衝動で抱き付いてきたが、複雑そうなライウス達の視線を感じてすぐに離れた。


 …はぁ、まさか本人より先に親に正体を明かす事になるとはな。

 相手がカルウェイじゃなかったらこんな事にはならなかっただろうに。

 記憶を改竄したらライウスの意識が変わらない可能性も有るから、二人の記憶を弄るわけにもいかない。

 

 なかなかどうして、物事ってのは上手くいかないもんだな。




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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりに読み返しましたが本当に良かったです。 特に私は、主人公のシルヴィアへの想いがとても素敵で大好きです。 もう、更新はされないのでしょうか?
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