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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
34/38

第三十二話


 四人でバレーを楽しむこと30分。

 そろそろアイリス達も落ち着いてきたか?

 先にマリアの様子を見て来た方が良さそうだな。


 木陰で横になっていたマリアを揺すってみると、割りと簡単に目が覚めた。


「あれ?私はいったい…」

「急に気絶しちゃったのよ。もう大丈夫?」

「はい、ご迷惑をおかけしました」

「もう少し落ち着いて楽しみなさい。折角の皆との旅行なんだから」

「うぅ、すみません。お姉様があまりに美しくて抑えられなくなってしまいました」

「…また遊びに行った時になってあげるから、今日は皆と楽しく過ごす事、良いわね?」

「はい、お姉様」


 マリアと一緒に戻ると侍女が呼んだであろう絵師が到着していて、俺達を見て一心不乱に筆を動かしていた。


「素晴らしい、まさに女神が二人降臨されたかのようです。色違いの水着がまた姉妹のような雰囲気を醸し出し最高の素材となっております」


 眼鏡を掛けた女だが、王家御用達の絵師にしてはそのテンションはどうなんだ?

 特に会話することは無いみたいだから、気にせず遊んでいれば良いか。


 昼までまだ少し時間があるから、全員で一人一つ砂の作品を作ることに。

 意外とやる事が庶民というか、子供みたいなことするんだな。マリアはあまりこういうことをやった事が無いからこそやりたいと思うのか。

 さっきまでのエミリア達と違って、手だけではなく魔法も使用可ということで、少し距離を空けながら作業することに。

 魔法も使って良いなら、凝ったものが作れそうだ。


【オリジンブラッド】:模倣・創造属性・初級魔法


「【クリエイトブロック】」


 砂を使って俺の身長程もある立方体の塊を作る。

 風属性と手を使って削っていき、細かい部分も爪を伸ばして整えていった。

 暫くすると他の奴等は終わったみたいで、遠目に俺の作業を見ている。

 俺のはあともう少しだな。


「出来たわね」


 一時間後、俺の前には忠実に再現された砂の王城が出来上がっていた。

 謁見の間の内部や、中庭の花一つ一つも完璧に再現した満足いく作品になっている。

 三階北側の執務室の中には、書類作業をするバハラムの姿もちゃんとあり、マリアの部屋には紅茶を飲むマリアもいる。


「すごーい!本物のお城みたい!」

「お父様に私までちゃんといます!お姉様凄いです!」

「ライルには物作りの才能まであるのだな」


 全員が絶賛してくれるなか、絵師が急に駆け寄ってきてじっくり観察していく。


「何という細かさ。これは王城に飾っても他の美術品に劣らぬ素晴らしさです。是非このまま保存しておきたい」

「出来るわよ」


【オリジンブラッド】:模倣・時属性・上級魔法


「【永久保存】」


 これで砂浜から切り取って持ち運ぶ事が出来るが、高さ2m近くある砂の城をどうやって運ぶ気だ?


「ありがとうございます。これはオークションに出してもかなりの高値がつく作品になるでしょう」

「いけません!お姉様の作品は王城の最も華やかな部屋へと飾ります」

「それはやりすぎじゃない?」

「そんなことはありません!これ程の作品、美術館に飾ってもおかしくありませんから」


 その後数人の侍女達によって本当に運ばれていった。

 もう好きにしてくれと思ったから、他の作品を見ていこう。



「アイリスのは等身大の私と、私ね」

「ライル先輩とお姉様が共存する素晴らしい光景です!」

「ランフィアは砂で出来た花畑ね、綺麗だわ」

「お姉様が好きと言っていた花よ」

「シルヴィアは砂で出来た『雪だるま』と、『氷の結晶』かしら。どっちも冬の物が砂で出来てるって面白いわね」

「私は雪に縁がありますので」

「ドラグとエミリアは猫、ウルガは狼かしら?」

「生憎こういうのは苦手でな。簡単な生き物にしたんだ」

「……可愛い…」

「僕と言ったら狼だからね!大型犬くらいの大きさだけどちゃんと大きい牙もあるよ!」


 皆上手いな。やはり魔法有りだと手で作業するより思い通りの形に出来るからか。

 それぞれの作品を全部合わせたらもっと良い作品になりそうだな。

 同じように作品の時を止め、砂浜から切り取る。

 アイリスの作った俺二人の周りにランフィアの花畑を設置し、その斜め後ろに砂だるまを置いて結晶を空中で固定。

 足下の花に集まるように猫達を置き、俺の横に狼を並べれば完成だ。


「わぁ、皆の作品が1つになった!」

「はぁ…私も砂を立体的に使っていれば」

「マリアは工作よりも絵画が得意だから仕方ないわよ」


 マリアの作品は、砂浜に大きく描かれた俺(女)の絵だった。

 それは絵師が描いてるんだから、頑張って立体的な作品を作れば良かったのに。


「でもとても上手に描けてるわね、ありがとうマリア」

「お姉様…ありがとうございます」


 マリアの作品も保存して砂の額縁を俺が作り、巨大な絵画として侍女が持っていった。

 王城に砂の作品が二つも増えて大丈夫なのか?

 バハラムは無駄に感動しそうだが。


「皆様、そろそろお昼に致しましょうか」


 侍女達が数人掛かりで用意していく。

 今日は砂浜でバーベキューか、なかなか楽しそうだな。

 これもマリアがやった事ないからやってみたいって理由だろうが、俺達からしたらこういう方が慣れてるから気兼ねなく食べられそうだ。


 数分後には焼ける状態になり、侍女達が次々と肉や野菜、魚介類を焼いていく。

 今日は侍女達が随分と忙しいな。

 こんな炎天下でメイド服を着ているのも少し可哀想だ。


【オリジンブラッド】:模倣・氷属性・初級魔法


「【アイスミスト】」


 侍女達の頭上から冷えた空気が継続的に落ちていく。これで少しは涼しいか?


「「「お嬢様、ありがとうございます」」」

「良いのよ、貴女達こそありがとう。お腹空いてるでしょ?自分で焼いたものだけど、良かったら食べて」


 グリル担当で最も暑いところにいる侍女の一人に、焼いてもらった肉を一切れ差し出す。

 最初は戸惑って断ろうとしていたが、諦めて食べてくれた。


「今まで食べたお肉で一番美味しいです」

「貴女が焼いてくれたものよ。それだけちゃんと仕事してくれてるってことね」

「うぅ…お姉様」


 侍女にまでお姉様呼ばわりされてしまった。

 だが実際大変だよな。いつでも要望に応える為に、暑くてもメイド服で待機してる仕事って。


「暑いところを一人に任せっきりでは大変でしょう。私が代わります」

「いえ、私は飲み物担当で涼しかったですから、私が代わります」

「お嬢様からのあーんが羨ましいからと来ないで下さい。私はまだ大丈夫ですから」


 侍女達によるグリル争奪戦が始まるが、そんな頻繁に食べさせたりしないから持ち場に戻れ。


「侍女の方々までもお姉様の虜に」

「流石はお姉様ね」

「わ、私は今またあれをされたら耐え切れる自信がありません」


 皆で楽しく食事をしていると、不意に後ろからパレオが引っ張られる。


「…エミリア?」

「…後で…話…」

「良いわよ。私のままで良いのかしら?」

「……うん…」


 どうやら悩み事か相談事があるみたいだな。

 十中八九ドラグの事だろうが、他の奴は相談出来るタイプじゃなさそうだし、俺が適任ってわけか。

 


 食事を終えて全員がそれぞれ寛いでいる間に、エミリアと少し歩いた先にある岩場に来ていた。


「ここなら大丈夫そうね。それで、話はドラグの事かしら?」

「…うん…」

「貴女いつからドラグが好きになったの?勉強会の時にはもう?」

「…最初は、同じ後衛だからって理由で、時々話すだけ…でもその内、真面目な所とか、優しい所とか、周りを常に気遣う所とか、惹かれた…」

「そう。貴女から積極的にいくから驚いたけど、良い事ね」

「…でも…ドラグはどう思ってるか、分からない…優しいから、一緒にいてくれてるだけかも…」

「それが不安になったから、私に話を聞いて欲しかったのね」

「…うん…」


 確かにドラグはエミリアと似て、感情が他の学生より分かりにくいところはあるな。

 口調も固いし、感謝とか義理で一緒に居てくれてるって思っても仕方ないか。


「貴女は、私からドラグに『エミリアと付き合いたいか』確認してほしい?それとも自分で直接確認したい?」

「…ハッキリとした答えは、自分で聞きたい…でも、それとなく…好きな人とか、そもそも彼女がいるとか…知りたい」

「分かったわ。今夜にでもドラグとそういう話をしてみるけど、エミリアの事は伏せとくわね」

「…ありがとう……誘惑は、しちゃダメ…」

「…あのね、人格も姿も今は女だけど、私がライルだって忘れないで」

「…ふふ、そうだった…」


 まったくコイツは。

 だが、最初の頃と比べて大分感情が出せるようになってきたな。

 俺との訓練だけじゃこうはならなかった。

 人を好きになるということは、やはり人を変える力があるってことか。


「…ねぇ、お姉様…」

「今はライルと呼んでも良いのだけれど、なに?」

「…お姉様は…いる…?」

「好きな人?そうね…なんて言えば良いかしら…「いた」だと違うし、「いる」もちょっと違うわね」

「……?…」

「…死んじゃったのよ、遠い昔に」

「…っ…ご、ごめんなさい…」

「謝らなくて良いわ。本当に昔の事だから」

「…今も…好き…?」

「そうね。一度も忘れた事が無いくらいには…でもどんなに望んでも、もう居ない。だから前を向かなきゃって最近は思うようにしてるわ」

「…前を…」

「えぇ。でも一番の理想は、その人が生まれ変わって、また私の前に現れてくれることね」

「…それは…素敵…」

「でしょ。だからもう一度会えるように…今度は自分から探しにいくわ」

「…きっと見つかる…王子様…」

「あのね、だから私は男で、探すのが女なの」

「……ふふ…」


 さては楽しんでるな?

 同級生にこういう話をしたのは初めてだな。

 真剣に恋に悩むエミリアを見てたら、なんか誤魔化すのが失礼と思ったからなんだが、まぁそれで正体がバレる事は無いから良いか。


「もう大丈夫?あまり二人でいると、夜にドラグに勘付かれるわ」

「…うん…ありがとう…」

「どういたしまして。またいつでも相談に乗るから、遠慮無く言いなさい」

「…うん…」


 マリア達がゆったり寛いでいる場所へ戻る。

 テーブルを出して飲み物を飲むマリアとアイリス、波打ち際で足だけ水に濡らしているランフィアとシルヴィアとウルガ、木陰で本を読んでいるドラグ、それぞれ好きに過ごしているな。


「ほら、同じ本好きとしてドラグとまた話すチャンスよ」

「…ん…行ってくる…」


 エミリアを見送り、俺はどうしようかと考える。

 それぞれ話に花を咲かせているし、少し一人でゆっくりするか。

 ドラグ達とは別の木陰に移動し、寝転がろうと思ったんだが…

 直に寝るのは寝心地が悪そうだな、それに枕代わりが無いとちょっと不便だ。


「お嬢様、何かお困りでしょうか」

「少し寝たいのだけど、何か敷くものと枕の代わりになるものはあるかしら」

「それでしたら、少々お待ち下さい」


 すぐに戻ってきた侍女の手には、俺の体が余裕で収まる大きさの布があり、それを砂浜に敷いてくれる。

 そして何故か侍女が靴を脱いで布に上がり、正座をして待機した。


「…?何してるのかしら?」

「僭越ながら、枕代わりを務めさせて頂きたく」

「それは何だか悪い気がするのだけど」

「いえ、是非やらせて頂きたいのです」


 この侍女、さっきのグリル担当だった子だよな?

 食べさせたお礼をしてくれるって事なのか?だがあれはそもそも、暑い中頑張ってくれてる事へのお礼だったんだがな。


「そういうことなら、甘えさせてもらうわね」


 侍女の太腿に頭を乗せ、木陰の丁度良い気温に眠くなってくる。

 あ、また剣で起こされるのも風情が無いし、ここは侍女に起こしてもらうとしよう。


「貴女の右手に魔法を掛けさせてもらったわ。起こす時になったら頭を触ってくれるかしら」

「畏まりました。ゆっくりとお休み下さいませ」


 侍女のメイド服は生地が良く、良い肌触りで枕としては最高のものだった。

 何から何までやらせて申し訳ないから、また礼をしないとな…



 ーーーー


 ライルが寝て暫くすると、アイリスとマリアがライルの現状に気付く。

 直様ライルの下へと駆け寄り、侍女の太腿に頭を乗せるという、所謂「膝枕」状態で寝ているのを見て絶句した。


「か、カレン…貴女なんて羨ましいことを!」

「私だって…私だってまだ膝枕なんてした事ありません!」

「お嬢様が敷物と枕を御所望でしたので、僭越ながら私が代わりを務めさせて頂いております」

「何故私を頼って下さらなかったのですかお姉様…いくらでも膝枕しましたのに」

「マリア様、お嬢様が気持ち良く眠っていらっしゃいますので、あまり騒がれては気の毒です」

「あ、貴女お姉様を独り占め出来て喜んでいるわね⁉︎」

「勿論です。ご覧下さいこの完璧な容姿と可愛らしい寝顔を。これこそ神がお与えになった究極の美です」

「それはとても良く分かります。まるで女神が寝ているかのような姿に今も胸が高鳴っていますから!」

「…んぅ…」

「「はぅ⁉︎」」


 ライルが少し声を漏らして顔を動かすだけで、綺麗な銀髪がサラサラと流れ一瞬の美を生み出す。

 アイリス達は見惚れ、恍惚とした表情で眺めていた。


「……シルヴィア…」

「っ⁉︎…お姉様、夢に見る程あの方の事を」

「はい。私を娶ると決めて下さった日にも、「まずはアイツを探したい」と仰っていましたから」

「そうですか……え?」

「はい?」

「アイちゃんを、娶る?」

「あら、まだマリ姉に伝えていませんでしたか?」

「聞いてないです!何ですかそれ⁉︎アイちゃんは妹なんですよ⁉︎」

「血は繋がっていませんから。私がどれだけ本気か伝えたら、諦めて覚悟を決めて下さいましたよ」

「ーーっ!わ、私が第二の妻ですからね!」

「兄様がそんな順番を気にすると思いますか?あの方を娶れば、後は等しく側妻だと思いますが」

「むぅぅ…ただでさえおじ様はアイちゃんを可愛がっているのに、妻にまでなられたら私の分の愛が取られてしまいます」

「むしろ兄様の愛が私達だけで受け止め切れるかすら怪しいと思いますよ。何せ同じ方を何千年も想い続ける愛の大きさですから」

「…確かに、そう言われるとそうですが」

「これからは、義理の妹ではなく同じ夫を持つ妻として宜しくお願いしますね」

「うぅ、初めてアイちゃんに勝ったと思いましたのに」


 他の人に聞かれないように会話をし、寝ているライルをまた眺めていると、あっという間に空が赤く染まってきた。


「そろそろお姉様を起こさないと体が冷えてしまいますね。剣を持ってきてもらわなくては」

「マリア様、その必要は御座いません。私はその大役も仰せつかりました。それでは、失礼致します」


 カレンと呼ばれた侍女が、右手でライルの頭を優しく撫でる。


「お嬢様、起きて下さいませ」

「…ん…もう起きる時間なの?気持ち良いからまだ寝ていたいわ」

「ありがとうございます。またいつでもお任せ下さい。ですが今はお身体を冷やさない為にも別荘へお戻りになられた方が…」

「分かったわ。ありがとね」


 ライルがあまりに素直に起きた事で、またもマリアとアイリスが騒がしくなるのであった。




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