第三十一話
それから一時間、徹底的に四人の要望を細かく聞かされ、中身以外は完璧にお姉様として確立されてしまった頃、漸く王家所有のビーチと別荘に着いた。
馬車から全員が降りて、当然ながらドラグ達は俺を見て固まる。
「え、誰…その超美人なお姉さん」
「まさか…ライルなのか?」
「……お姉様…」
エミリアが既に義妹の仲間入りしているだと?
ドラグ達にアイリスが説明し、まじまじと見つめられる。
「そんなに見られても何も変わらないよ。中身はライルのままなんだから」
「お姉様、口調が…」
「…はぁ…分かったわよマリア、これで良いんでしょ?」
「はい!お姉様!」
恥ずかしい…
六千年も生きてきてここまで恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。
これは俺自身の為にも、現実逃避した方が良さそうだな。
思考だけは俺のままに、心を女に。
【オリジンブラッド】:模倣・創造属性・上級魔法
【擬似人格】
「それで、私は男物の水着しか持ってきて無いわよ。ちゃんと用意してくれるんでしょうね?」
「え?は、はい!勿論ですお姉様!」
「な、なんか…本当にお姉様になった?」
「お姉様、何かしたのですか?」
「中身が男なのに女として過ごすなんて恥ずかしいじゃない。だから思考はそのままで、女の人格を作ったのよ」
「そ、そのような事まで出来るのですか⁉︎流石お姉様です」
「私の事はもういいから、早く行くわよ」
「「「「はい!お姉様!」」」」
「な、なんだこれは…」
「皆がなんかおかしくなっちゃってる」
俺もそう思う。
ウルガはあまり影響無さそうだな、良かった。
エミリアが少し怪しいが、ドラグと一緒にいればそっちに意識が行くだろうし大丈夫か。
別荘にまず入って荷物を置き、男性用と女性用で大部屋を分けるみたいだが…
「まさか私に女部屋を使えって言うつもり?」
「だ、だってお姉様は女性ですから」
「そんな綺麗な姿で男と寝るなんて駄目よ!」
「……駄目…」
「…エミリアがそう言うならやめるわ」
流石に好きな男が女と二人きりで寝るなんて嫌だよな。
「…ありがとう…」
「気にしないで良いわよ。頑張りなさい」
「……うん…」
「お姉様、何の話ですか?」
「アイリスは知らなくて良いの。ほら皆も早く着替えなさい」
俺は女部屋を出てどうしようかと悩んでいると、侍女の一人が水着を持ちながら近寄ってきた。
「お嬢様、こちらをご用意させて頂きました。あちらに個室がありますので、どうぞお使い下さい」
「ありがとう」
渡された水着を持って個室に入り着替える。
女物の服か、潜入の時にたまに女になる時もあったから着方は分かるから問題ないが…
まさか黒いビキニとはな。
一応青のパレオも用意されてたから、腰に巻いて少しでも隠すか。
着替え終わった姿を確認するが、不思議なくらいにピッタリだな。
恐らくマリアの予備だろうが、胸まで同じサイズとは思わなかった。
個室を出てリビングのソファで待機していると、ドラグとランフィア達がほぼ同時に出てくる。
ドラグは尻尾で手間取ったか。
「お、お姉様…なんて美しい!」
「私達の水着なんてどうでもよくなるわね」
「そんな事言わないの。皆とても似合ってて可愛いわよ」
マリアは俺と同じ三角ビキニとパレオのセットで、ビキニが白、パレオはピンクでマリアらしい色合いだ。
ランフィアはビキニのみで、赤のビキニに金の装飾が上品で良いアクセントになってる。
シルヴィアは青いクロスホルタータイプのビキニで、白い髪と合わさって非常に涼しげで爽やかな印象に。
アイリスは白いモノキニか。大人っぽさを感じさせながらも少女らしい可愛さも出てる。
エミリアはフリルの付いた水色のワンピースタイプの水着。小柄な体格を生かした可愛い水着だな。
ウルガは上が灰色の三角ビキニ、下はショートパンツタイプの水着と、ウルガらしい動きやすい感じだ。
ドラグのは俺が用意してた男物と同じで、黒い膝までの半ズボンタイプで金龍の柄入り、尻尾の出る穴付きというシンプルな水着だった。
「な、何故でしょうか。同じ水着のはずなのに、お姉様のだけ一際綺麗に見えるのは」
「黒いビキニに青いパレオって、大人っぽくて反則よね」
「貴女達が女でいろって言ったのに、それはあんまりじゃない?」
「それだけお姉様の水着姿が綺麗過ぎるんです!」
「王家のプライベートビーチで良かったです。お姉様のその姿を他の人になんて見せられません」
「声かけられてばっかりになりそうだよね!」
それはマジで勘弁してくれ。
中身は男なんだから、男にナンパされても気持ち悪いだけだ。
「…ライルがいるなら耐えられると思っていたのに、ライルまでそんな姿になられたら俺はどうすれば良いんだ」
ドラグが目のやり場に困ってるな。
まぁ実質男一人になったから、ドラグみたいな固い感じの男子には耐性が無いか。
エミリアの為にも、助け舟を出してやるとしよう。
「全員見ようとするから困るのよ。まずは一人とだけ相手してればその内慣れるわ。勉強会でも一緒だったんだし、エミリアが相手してあげたら?」
「それは助かる。エミリア、頼んでも良いだろうか」
「…⁉︎…う、うん…」
流石に好きな男と水着で二人きりは恥ずかしかったか?
でも顔は嬉しそうだし、間違い無かったみたいだ。
「じゃあ海に行きましょうか」
ソファから立ち上がった瞬間、何故かまたマリア達がぽわーっとした表情になる。
一々反応するなお前達は。
「し、白い背中が色っぽいです」
「美しい銀髪が肌と水着に映えて…芸術です」
「これが、同じ女なの…?」
「最早私達とは違う存在に思えてきました」
海に着いたら着いたで、動く姿がとか、水と戯れる姿が、とか言うんだろ?
もうパターンは分かってきたっての。
コイツらの相手してたら一日があっという間に終わっちまう。
「ウルガ、先に行きましょ」
「ぅえ⁉︎ライルちゃん⁉︎」
トリップしてる四人は放っておいて、残ってる中で唯一無害なウルガの手を引いて外へ出る。
しかしライルちゃんか、それはそれで恥ずかしいな。
「ウルガは海は初めて?」
「ううん、家族と毎年来るよ!水遊び大好きなんだ!」
「ウルガらしいわね。しっかり体を解してから遊ぶのよ?」
「うん!ライルちゃん、本当のお姉ちゃんみたいだね!」
「そう振る舞えって言われてるから仕方なくね」
「じゃあお姉ちゃん、体操して一緒に海入ろう?」
「良いわよ」
腕や足を伸ばして体を解す。
数分やってから海の浅い所に入った。
「冷たいと思ったけど、丁度良い感じね」
「ここは日が当たってるから温かいね!」
「ウルガは日焼けとか大丈夫?」
「僕はいつも焼けまくってるから平気!お姉ちゃんこそ肌白くて綺麗なんだから日焼け止め塗らないと!」
「水に入ったら落ちちゃうし、魔法で何とかするわ」
【オリジンブラッド】:模倣・闇属性・初級魔法
「【シャドウベール】」
一瞬だけ俺の全身を黒い影が包んだが、すぐに元に戻る。
だが実際には常に影が俺を包んでいて、太陽やその他の光を遮ってくれている女性に人気の魔法だ。
「これで良いわ。さぁ、遊びましょうか」
言いながらウルガに一掬いの水をパシャっと掛ける。
「わっ⁉︎やったねお姉ちゃん!うりゃ!」
ウルガも負けじと水掛けしてきた。
こういう海の定番を、まさか自分がやるとは思って無かったな。
そんな事をしていると、浜辺に他のメンバーが到着して何故か羨ましそうにこっちを見ている。
「お姉様が水で戯れるなんて…絵にして飾りたいです。すぐに絵師の方をお連れして下さい!」
「畏まりましたマリア様」
「ウルガ先輩、羨ましいです」
「あの無邪気さが今は羨ましいわ」
「お姉様を目の前にして、あんな事出来る余裕がありません」
ドラグとエミリアは…
砂浜で砂遊びか、これまた定番な。
ドラグが操作して集めた海水を使って、砂を固めながらエミリアが何かの形を作っていく。
ある意味これも共同作業ってやつか。
「お姉ちゃん!水鉄砲やろ!」
「水鉄砲?あぁ、あの水を飛ばすオモチャね。魔法でやれば良いのに」
「水鉄砲を魔法で出来るの?」
「威力を調整すれば簡単よ」
【オリジンブラッド】:模倣・水属性・初級魔法
「【ウォーターシュート】」
海水から細い水がピュッと飛んでウルガのお腹に当たる。
「ね?」
「凄い!魔法でこんな遊びも出来ちゃうんだね!よし、僕も…【ウォーターシュート】!」
俺のより何倍も太い水が俺の顔目掛けて飛んできたから、魔力を込めて水の操作を奪った。
大量の水を粒に変え、体の周りを惑星のように漂わせる。
「すっごい綺麗!」
「ふふ、ありがとう」
確かに水が綺麗な球体で漂ってる光景って幻想的だ。やっぱ自然こそが最も美しい芸術だな。
「漂う水に囲まれたお姉様…駄目です。今日はまともな思考が出来ません」
「貴女達今日一日そうしてるつもり?さっさと準備運動してこっち来なさい」
浮いてた水を四人に飛ばして目を覚まさせる。
覚めたかは分からんがな。
体を解した四人が空気で膨らむ玩具や板のようなものを準備しているが、あれこそ必要なのか?
「お姉ちゃんはあれも魔法で出来るの?」
「出来るわよ。そもそも水の上を移動するなんて、魔力を纏えば出来るしね」
浅い所だったから分かりにくいだろうが、水面に立ってみる。
そこから少し水上を移動して、水の上に寝転んだ。
「ほら、出来たでしょ?」
「凄い凄い!魔力を纏えば良いんだよね⁉︎」
ウルガも真似するが、足が半分沈んでいたり、魔力が多すぎて水をバシャバシャと反発したり苦戦していた。
「ウルガ、こっち来なさい」
「え?なに?」
「手を握って。ほら、このくらいの魔力よ。分かる?」
「うん、分かるよ!えーっとこれくらい、かな」
俺の手から伝わる魔力と同じだけ足に纏い、多少フラフラしているが何とか水の上に立った。
「出来たわね。覚えが良くて私も楽しいわ」
「やったー!ありがとお姉ちゃん!」
「きゃっ⁉︎ちょっと急に抱き着いたら危ないでしょ」
「えへへ、ごめんなさい」
アイリスより妹らしいというか、幼いな。
さっきから四人の視線が凄いが、遊びたいならさっさと来れば良いのに。
(お、お姉様の「きゃっ」が可愛すぎてドキドキします!)
(お姉様の柔肌に抱き着いて…なんて羨ましい!)
何故か猛スピードで膨らませた四人が駆け足でこっちに来る。
いよいよ遊びたくて我慢の限界がきたか。
「お、おおお姉様!私も水の上に浮いてみたいです!」
「良いけど、なんでそれ膨らませたのよ」
「こ、これは…出来なかった時の保険と言いますか」
「まぁ良いわ。ほら、手を握って」
「はい!」
マリアの手を取って俺の魔力を全身に纏わせる。
ぷかーっと水の上に浮いてるが、何故そんなに嬉しそうなんだ。
(あぁ、お姉様の魔力が私を包んで、まるでお姉様に包まれているような幸福感…ですが、私もウルガ様のように…事故を装って!)
「きゃっ」
「危ないわね。私の魔力で浮いてるとはいえ、そんな急に立ち上がったら沈むに決まってるでしょ」
俺の方へ倒れてきたマリアを受け止めるが、マリアが動かなくなってしまった。
「…柔らかい…すべすべ、滑らかな肌…甘い匂い…あ、もう駄目です」
「ちょっとマリア?」
顔を真っ赤にして意識を失ってしまった。
何がしたかったんだコイツは。
「世話が焼けるわね。日陰に寝かせてくるから待ってて」
(う、羨ましいと思いましたが、確かにお姉様と密着なんてしたら意識を保てないかもしれません)
(もし気絶なんてしたら、お姉様と遊ぶ時間が減る)
(なんというジレンマですかこれは!)
ボールの玩具を膨らませたってことはあれで遊ぶつもりなんだよな。全員こっち来たしそろそろエミリア達も呼んだ方が良いのか?
それとも邪魔しない方が良いのか?【思考念話】でエミリアにだけ確認してみるか。
『エミリア、私よ』
「……!?…」
『ドラグに気付かれないように返事して。多分あのボールで遊ぶと思うけど、二人はどうするの?お邪魔ならまた後で誘うけど』
ドラグが目を離した隙に俺に向かって高速で首を横に振るエミリア。
水着で二人きりの状況に耐えられなくなってきたか。これは助ける意味を込めて誘った方が良いな。
「どう?砂の作品は出来たかしら?」
「…ほっ…城出来た…」
明らかに安堵した声を漏らして、限界だったみたいだな。
「細かい所まで良く出来てるわね。二人の相性の良さが作品にも良く出てるわ」
「っ⁉︎…ありがとう…」
「ライル、そっちは落ち着いたか?」
「えぇ。マリアがダウンしたから休ませてるけど、他の皆は遊ぶみたいだから誘いに来たわ」
「そうか。そろそろ俺も落ち着いてきたから、混ざるとしよう」
ドラグとエミリアを連れて浅瀬に向かう。
ボールをポンポンと飛ばしながら遊んでいる四人と合流し、三人と四人に分かれてビーチバレー対決をすることになった。
「ウルガ先輩、私達はお姉様にボールを飛ばすなんて出来そうにありませんので、お姉様とチームになってもよろしいでしょうか」
「良いよー!お姉ちゃんと戦ってみたかったし!」
馬車と同じチーム分けになり、砂浜に線を引いて即席のコートを作る。
ボールを高く投げてからサーブをすると、何故かチームメイトの三人が固まってしまった。
「お、お姉様の美しい胸が揺れ…はぅ」
「女なのに、こんな思春期の男子みたいな気持ちなるなんて」
「目、目が…離せません」
ちょっといい加減にしようかお前ら。
浮かれすぎて他の三人に迷惑だろ?
「貴女達ちょっと頭冷やしなさい。そこに座って暫く大人しくしていること、良いわね?」
「「「はい…すみません」」」
「ウルガ、悪いけど私と組んでくれる?」
「わーい!お姉ちゃんとチーム!」
「貴女どっちでも嬉しいのね、可愛い」
結局2対2になりバレー対決を再開した。
ドラグのサーブをレシーブして、ウルガのトスを跳びながらスパイク。
上手く二人のいない場所を狙ったが、ドラグが羽撃きながら素早く移動して尻尾でレシーブした。
「やるわねドラグ」
「男として、簡単にやられるわけにはいかない」
「私も男なの忘れてない?」
エミリアのトスを飛んだドラグが空中で一回転して尻尾でスパイク。体の使い方が上手いな。
「スピードなら負けないよ!」
素早くボールの下に潜り込んだウルガのレシーブを、今度は俺がトスか…
【オリジンブラッド】:模倣・風属性・初級魔法
「【スピン】」
高速回転しながら滞空しているボールをウルガがスパイクし、ボールは曲がりながらコートラインギリギリに落ちていく。
「…【ウォーターロード】…」
エミリアの魔法で、地面に落ちそうだったボールが水の流れに従ってエミリアの手元へと方向転換した。
回転が手助けする形になったか。
「…私の想像していた微笑ましいバレーと程遠いのですが」
「そうね。お姉様とお互いのミスも笑いながら楽しむ予定だったのに」
「笑ってはいますね。大分好戦的な笑みですが」
「「「でもそんな笑顔も素敵」」」
アイツら反省する気無いだろ。
もう暫くは四人で楽しむか。




