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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第三十話


 コフィンが起きた日から数日。

 アイリスはあれから毎日コフィンに会いに行っている。かなり気に掛けてくれてるというか、好いてくれているみたいだ。

 

 これは、コフィンを起こしつつ俺も存在する手段を早くも準備する必要があるな。

 あれやると精神的にかなりキツいんだよなぁ。

 でも可愛い妹の為ならって思うし、頑張るか。


 少し先の苦労は一度忘れ、今はこの状況を整理しよう。

 今日は週末訓練の日で、今は訓練終わりに全員で街へと来ているところだ。


「それで、何でいつものメンバーで急に買い物する事になったの?」

「なんでって、先日の火竜誕生祭の時にマリアンヌ王女様が、今度友達も一緒に別荘へご招待しますって言って下さったからよ。一泊二日で私達も別荘へ泊めて下さるみたいだし」

「へぇ、そんな事になってたのか。王家の別荘って確か、凄く綺麗な海が目の前にある所だよね?」

「そうみたいね。だからこうして海に必要な物を買いに来てるんでしょ」

「海か…久しぶりだな」

「確かにライルの肌って白いし、家の中でゆっくりしてる感じよね」

「まぁ大体合ってるよ。外が嫌なわけじゃないんだけどね」


 なるほど、そういう経緯で今に至るって訳か。

 空気で膨らむ玩具に、水を入れて飛ばす銃のような玩具、結構買うんだな。


「あれ買う意味あるの?」

「え?夏の定番というか、水のある所で遊ぶなら普通買わない?」

「買ったこと無いや。全部魔法で代用出来るし」

「…そういう所で高度な技術はいらないのよ」

「練習にもなって良い訓練なのに」

「楽しむ時は難しいこと忘れて楽しむ!それがけじめよ」

「ランフィアは真面目なのか子供なのか分からない時があるね」


 結局玩具は全て購入し、今度は水着売り場へ。


「ライルとドラグは悪いけど別行動で見てきてくれる?そっちの方が早めに終わると思うから、適当に寛いでて」

「了解だよ。じゃあ行こうか」

「あぁ」


 ドラグと男物の水着売り場に来たが、正直どれでも良いな。

 ドラグは尻尾のある亜人種用の水着コーナーにいるし、俺も適当に買うか。

 単色はなんか学校ってイメージだし、横に柄の入った無難な黒いやつにしよう。


 どうせ男女問わず海のメインは女の水着ってのが昔からのお約束だからな。

 男の水着なんて誰も興味無いだろ。俺も無い。

 ドラグも決まったみたいだしさっさと購入して、近くのカフェで涼みながら珈琲を一杯。


「本当に、俺なんかが一緒に行って大丈夫なのだろうか」

「問題無いに決まってるよ」

「そうか?俺は亜人で、王女様と接点なんて全く無いのだぞ?」

「王女様はそういうことは気にしない人だよ。むしろ人と違うことをもっと誇って下さいとか言う人だから」

「…なら良いのだが。随分と王女様に詳しいんだな」

「何度か会ったことあるからね。学校の行事とか色々」

「そういうことか。ならば気兼ねなく楽しませてもらうとしよう」

「それが良いよ。あ、英雄級との鍛錬、いつにするか決めた?」

「…母親が一人だから、長期休みは実家でずっと手伝いをしててな。毎週末の訓練日くらいしか出ないんだ。それ以外となると、少し難しい…今回の件は王女様のお誘いだからな、流石に断れん」

「ドラグは親孝行な息子だね。じゃあ来週末はドラグだけ別メニューにすれば良いよ。訓練日に手合わせしてもらいな」

「そ、そんな我儘が許されるのか⁉︎」

「俺が話を通しておくから大丈夫」


 使用人の一人に声掛けるだけだからな。

 誰にするかだが、ドラグは物理と魔法両方鍛えた方が良いし、女相手だとやりにくいかもしれない。

 それに種族を考えると、料理長が適任だな。


「本当にライルは底知れないな。英雄級の御仁など、そう簡単に関われる人物では無いというのに」

「まぁ、それも含めてサバイバルで目標達成したら教えるよ」

「謎が増えるばかりだが、だからこそ知りたいと思う。絶対に上位に入ってみせる」


 期待しているぞ。その後の成長もな。

 そろそろ30分くらい経ったし、一度戻ってみるか。

 カフェを出て店に戻ると、既に買い物を終えて店の外に居た。


「ごめん、待たせたかな?」

「丁度終わったところよ。折角だから皆で夕食をどうかしら」

「俺は構わないよ。そういえば、いつどこに集合なのかな?」

「明後日の朝8時に、校門に迎えの馬車が来て下さるみたいです。二日分の支度を用意して集合して下さい」

「そっか、泊まり込みだったね」


 そんなに部屋有ったか?あまりよく覚えてないが、目立たないように羽を伸ばす用で建てた別荘だから、そこまで大きくないって聞いた気がするが。

 まぁいざとなったら俺はソファで寝れば良いか。


 今回はランフィア達が店を決め、全員で夕食をとり解散となった。




 二日後、校門には全員が私服姿で待機しており、それぞれの私服についてや、着いてからの行動について談笑している。


「あ、来ましたよ!」


 王家とバレない為の、綺麗な装飾はあるが豪華すぎない馬車が二台到着した。


「皆様お待たせ致しました。これより王家の別荘へと御案内致します」

「皆様お早う御座います。本日は私の招待に応じて下さり誠にありがとう御座います」

「マ、マリアンヌ王女様⁉︎おはよう御座います!本日は私達をお招き頂きありがとうございます!」


 形式的な挨拶をした後、分かれて馬車に乗るんだろうが、まさか王女が直々に迎えに来るとは思ってなかったのか、誰がマリアと乗るか悩んでいた。


「お、俺がマリアンヌ王女様と同席など恐れ多いから、俺はこちらの馬車に乗らせてもらう」

「ぼ、僕も…」

「……私も…」

「ではこちらは五人まで乗れますし、他の方々はどうぞこちらへ」


 俺、アイリス、ランフィア、シルヴィアがマリアと同じ馬車に乗り込む。

 マリアを挟んで俺とアイリス…ならまだ理解出来たが、何故か俺を挟んでマリアとアイリスという形になり、その向かい側にランフィアとシルヴィアが座る。


「マリア様、この並びはおかしいかと思います。マリア様が端に座るなどいけません」

「良いのですライル様、私がそうしたいのですから」


 アイリスに気を使ったのか、何か別の理由があるのか、流石にこれはよく分からん。

 そのまま馬車は出発してしまい、どうしようもなくなった。


「皆さんは夏休みですよね。どのように過ごしていらっしゃいますか?」

「私は勉強や読書をしています。時々外へ買い物へ行ったり、週末は皆でライルに鍛えてもらったり」

「…ライル様に、鍛えて頂いている?」


 あ、不味い。

 ただでさえ俺に鍛えてもらえないと拗ねているのに、メンバー全員を鍛えてるなんて知ったら…


「羨ましいです。私も是非ライル様に指導して頂きたいですね」

「私などがマリア様を指導するなど恐れ多いです」


 ほら、目が笑ってない。

 初っ端からなんて展開だ。


「あ、あの、マリアンヌ様」

「はい、なんでしょうか」

「先日の火竜誕生祭で、マリアンヌ様が「おじ様」と慕う方にお会いしまして、まさかアイリスさんのお兄さんだったとは、驚きました」

「あの時はお恥ずかしい姿をお見せして申し訳ありませんでした。アイリスさん…アイちゃんとは幼い頃から仲良しなんですよ」

「私と仲良しというより、好きな兄様の妹だから仲良しなのでは?」

「なんでそんな事言うんですか。私はアイちゃんだって好きなのに!」

「私だってマリ姉は好きですよ。でもいつも兄様にベッタリで寂しい思いをしているんです」

「アイちゃん…そんなに私と遊びたかったのですね」

「いえ、兄様を取られて寂しいんです」

「もう、アイちゃん!」


 まったく、いつでもどこでも()()()だなお前ら。

 一応客人がいるんだから、前と同じ恥ずかしい姿を見せるのはどうかと思うぞ。


「お二人共あの方の事が大好きなのですね」

「「もちろんです!」」

「………」

「どうしたのシルヴィア?」

「っ⁉︎い、いえなんでも」


(お二人が慕っているのは、今真ん中に座られている始祖様。妹のアイリス殿は当然それを知っていて、恐らくこの様子だとマリアンヌ様も…私は別に、始祖様と特別な関係を望んでここに来たわけではありませんが…少し、羨ましいですね)


 シルヴィアが落ち込んでる?いや、複雑そうな表情と言った方が適切か。

 この前アイリスとの関係も伝えたし、マリアの様子から大体の事は察したのかもしれんな。

 シルヴィアの言う「憧れ」がどの程度のものかは分からんが、機会が有ればそういう事もしっかりと聞くべきか?

 いや、俺自身から聞くのは野暮ってもんか。


 二人の仲良し喧嘩から普段の話になり、テストの事や休校明けの行事予定などの話で盛り上がっている。


「では夏休み明けはすぐ文化祭なのですね。懐かしいです」

「マリアンヌ様は何かやられたのですか?」

「いえ、私は直接参加はさせてもらえませんでしたので、当日回るだけとなりました。皆さんは今年は何をやるのでしょうね」

「毎年定番なのは喫茶店ですとか、お化け屋敷などがありますが、ありきたりという意見も出やすいので悩んでしまいます」

「喫茶店でしたら、普通ではない喫茶店にすれば良いのですよ。男性と女性が衣装を入れ替えたり、何か一つのテーマを決めてそれを再現した衣装を着たりと工夫すれば、ありきたりになんてなりませんから」

「さ、流石ですマリアンヌ様!夏休み明けのクラス会議で提案させて頂きます」

「ふふ、ライル様が女装をなさったらさぞ美しい女性になりそうですね」

「「「っ⁉︎」」」


 おい、ちょっと待てなんだその反応は…

 もしやマリア、それが見たいが為にそんな真剣に提案したのか?


「私が女装など、笑われる程度のものにしかなりませんよ」

「私は見てみたいです!ライル先輩の女装!」


 おい妹よ、兄を裏切る気か?


「し、失礼ながら私も…」


 シルヴィア、お前なら止めてくれると思っていたのに。


「というか、ライルなら本当の女性にすらなれそうよね、魔法とかで」


 なれるよ…犬に比べたら楽なくらいだよ!

 だがそうじゃねぇだろ⁉︎

 なんで既に女装男装喫茶で決定みたいな流れになってんだよ!


「ライル様、女性になれるのですか?」

「いえ、なれません」

「なれるわよね」

「なれると思います」

「なれないわけがありません」


 お前らどんだけ見たいんだよ!


「…ライル様」

「……可能か不可能かという意味であれば、可能です」

「まぁ!それは凄く気になります!」


 こうなると思ったから嫌だったのに…

 マリアだけなら説得出来たものを、何故かランフィア達まで期待の目で見てきやがって。


「…先に申し上げておきますが、本当に期待しているようなものではありませんよ」

「そんなはずはありません!(おじ様の女性の姿!)」

「絶対に綺麗です!(初めてみる姉様!)」

「自信持って!(ライルが女性に…絶対美人よ)」

「お願いします!(始祖様の女性の姿、貴重な瞬間です!)」


 コイツらの心の中が面白いくらいに丸分かりなんだが…

 こうなったらやるまで諦めねぇだろうし、さっさと満足してもらおう。


【オリジンブラッド】:オリジン・血属性・肉体変化


 犬の時と同じ要領で姿を変化させる。

 骨格や大きさはほとんど変わらないから、やっぱこっちの方が全然楽だな。


 肩甲骨くらいまでの髪が腰まで伸び、顔がやや小さくなっていく感覚、無かったものが膨らみ、有ったものが無くなっていく変な感覚が終われば、変化完了だ。


「いかがですか?期待よりずっと普通だと思いますが」

「「「「…………」」」」


 ほら見ろ、全員ポカンとした顔しやがって。

 無駄に期待をした所為でそんな落差を味わうことになるんだ。

 殆ど俺と変わらないし、胸があって体格が多少細くなっただけじゃ大して変わらないんだよ。

 まぁ、声は確かに女のように高い声にはなったが、それだけだ。


「お、お姉様…」

「…マリア様?」

「お姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか」

「お待ち下さいマリア様、マリア様にはエリザベス王女様という素敵なお姉様が既にいらっしゃいます」

「いいえ!姉様は確かに素敵ですが、お姉様はまた別!いえ別格!これ程までお美しいなんて…もはや罪です!」

「マリア様、落ち着いて下さい」

「ら、ライル先輩…いえ、ライル姉様」

「アイリスまで何を言っているの?」

「あぁ…そのお顔と声でその口調、まさにお姉様とお呼びするに相応しいです!」

「ライル…さん?」

「ランフィアまで、中身はいつものライルなんだから、いつも通りにしてよ」

「…だ、駄目。私までお姉様に思えてきた」

「私もです。よもやこれ程お美しい女性になろうとは」


 駄目だ、誰もまともに話を聞いてくれない。

 ここまでくると魅了でも掛かってんのかって言いたくなる。


「お姉様!お願いがあります!」

「なんでしょうかマリア様」

「今日一日だけで良いのです!どうかそのお姿のまま、私をマリアと呼んで下さい!お願い致します!」

「…王女様が庶民に頭を下げないで下さい…今日一日だけですよ?」

「ありがとうございます!お姉様!」

「それから、そのお姉様というのはちょっと」

「いいえ、お姉様はお姉様です!」

「そうですよお姉様!そんなお美しいのにお姉様と呼ばないなんておかしいです!」


 いやおかしいのはお前達の頭だ。

 どんどんややこしいことになってきやがった。


「…お姉様、私もそう呼んで良い?…ですか?」

「ランフィア達は頼むからいつも通りの話し方でお願い」

「ではお姉様とだけ呼ばせて下さい。それと、出来れば女性のような口調で話して頂けると、より嬉しいと言いますか」


 あぁ…ドラグ助けてくれ。

 俺もそっちの馬車に乗れば良かったよ。


「分かったから、皆落ち着いて。本当に今日だけだからね?」

「「「「はい!お姉様!」」」」


 全然分かってないだろ。

 特にランフィアとシルヴィア。

 てか俺が買ったの男物の水着だぞ?

 今日一日これで過ごすって言ったって、流石に上丸出しは駄目だろ。

 ドラグに説明したところで体は女なんだから絶対気が散るだろうし…

 

 折角の旅行だってのに、また俺は苦労を強いられるのか。

 


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