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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第二十九話


 一時間後、寝る前よりも眠そうに見えるという状態で起きたコフィンを連れ、王都の街並みを歩く。

 相変わらずランフィアの服の裾を握って離さないが、ランフィア本人は上機嫌なので良いのだろう。


「コフィンちゃん、何か食べたいものある?」

「……?…」

「そうよね、そもそも何があるか分からないわよね。ならこれはどう?」


 露店で売られている棒付きアイスを買ってあげると、ペロペロと小さな舌で舐め始めた。


「美味しい…のかしら?」

「意外と意思表示は明確にしていましたし、食べているのなら満足しているのではないでしょうか」

「小さな舌でマイペースに食べる姿、可愛過ぎます…」


 だが夏の日差しの下でゆっくりと舐めているだけでは、当然アイスはどんどん溶けてしまう。


「あぁ待って待って、アイスが溶けちゃうわ。でも早く食べなさいなんて言えないし…シルヴィアお願い!」

「お任せ下さい」


 シルヴィアの停滞を帯びた冷気がアイスを包み、買った時と同じような冷たさを保つ。


「………」クイ

「え?な、何ですかコフィン殿」

「お礼を言ってるんじゃないかしら」

「………」コク

「どういたしまして。暫く溶けないでしょうから、ゆっくり食べて大丈夫ですよ」


 今度は優しく笑い掛けたシルヴィアの手を握り、そのままアイスを舐めながら歩く。

 不意に甘えられる対象になったシルヴィアは顔を赤く染めた。


(私には始祖様という方がいらっしゃるのに、この胸を締め付ける感覚は何ですか…妹という存在は、全てこのように素晴らしい存在だと言うのですか!)


「さて、次は何をしようかしら。コフィンちゃんは服とか興味ある?」

「………」

「頷きも首振りもしないって事は、普通ってことかしらね」

「でしたら、見てみれば興味が湧くかもしれません」

「ではコフィン殿がアイスを食べ終えたら向かいましょう」


 ベンチに座ってコフィンが舐め終わるのを待つが、恐らくこのままでは数十分と掛かりそうだ。

 見飽きる事は無いが、流石に時間が勿体ない。

 なので三人は止むを得ず時短をすることに…


「コフィンちゃん、そのアイスちょっと私も食べても良い?」

「………」


 素直なコフィンはアイスをランフィアの目の前に差し出す。

 ありがとうと言ってから、食べ過ぎない程度にアイスに齧り付いた。

 これでコフィンが舐める量が減り、僅かでも短縮出来るだろう。だがコフィンは次に、シルヴィアにも同じようにアイスを差し出す。


「私にもくれるのですか?」

「………」コク

「ありがとうございます。頂きますね」


 同じようにアイリスにも分け、コフィンのアイスは三分の一くらいまで減った。


「コフィンちゃん、そんなにあげて良かったの?」

「………」コク

「そう。優しいわね」


 頭を撫でられながらアイスを舐め続け、小さくなったアイスは10分程で完食した。

 ゴミをちゃんと捨てた後、いよいよ服屋へと向かうことに。

 

「色んな服があるから、コフィンちゃんに似合いそうなのを探さないとね」

「でしたら、各自でコフィンちゃんに合う服を選びませんか?」

「そうですね。趣味や思考は人それぞれですから、その中でコフィン殿が気に入るものがあるかもしれません」


 コフィンはアイリスが手を握り一緒に行動する事になり、三人バラバラに服を選んでいく。

 コフィンの体型、髪、雰囲気などを考えながら全身コーディネートしていった。


 20分後、試着室の前で再び集まったそれぞれの手にはコフィンの為に選んだ服が。

 

「コフィンちゃん、今からこれらに着替えて欲しいんだけど良いかしら?」

「………」コク

「ありがとう。じゃあまず私の選んだ服から着てみて」

「………」

「もしかして、着方が分からない?」

「………」コク

「それでしたら、私がお手伝い致します」

「ならお願いするわね」


(姿形が変わっているとは言え、兄様の体でもあるコフィンちゃんをそこまで見せるわけにはいきません)


 ランフィアの選んだ服をアイリスが着せてやり、試着室の扉を開ける。

 白いマリンキャップに黒のオフショルダー、青のショートパンツ、その下に黒のタイツという姿で登場したコフィンに、ランフィアとシルヴィアの胸がまた締め付けられる感覚になる。


「か、可愛い…ボーイッシュなショーパンだけど黒のタイツとオフショルが大人っぽい女の子を演出して、でも白いマリンキャップが可愛さも引き立たせてる」

「これは、最初からかなり可愛いですね。少し自信を無くしてしまいました」

「何言ってるのよ。コフィンちゃんの為に一生懸命選んだ服なんだから、シルヴィアのだって絶対可愛いわ」


 ランフィアに背中を押されたシルヴィアに渡されたのは黒いフェルトベレー帽と、紺を基調として金の刺繍が施されている軍服風ワンピース、丈はミニスカートくらいで、膝上までの黒いニーハイソックスによって僅かに見える太腿が可愛らしさの中に僅かな色気を感じさせる。


「こ、これは中々に威力があるわね」

「引き締まった服に包まれながらもポワンとしたコフィンちゃんの雰囲気が素敵です」

「そうですか。褒めてもらえて良かったです」

「では、最後は私ですね」


 アイリスの手でコーディネートされたコフィンの頭には、装着者の頭と一体化して見えるカチューシャによって銀毛の猫耳があり、薄手の黒いVネックセーター、赤いミニスカート、黒いニーハイソックスという一見シンプルでありながらも、猫耳によって全ての服がより可愛さを引き立てていた。


「か、かわ…可愛い!」

「くっ…その猫耳は反則と言える可愛さです」

「……?…」

「「はぅ⁉︎」」


 コフィン首を傾げたことにより、動きに反応した猫耳がピクッと動く。それがまた小動物感をより強くさせ見ているだけで癒される。


「どうですかコフィンちゃん、気に入るものはありましたか?」

「………」ギュ

「「「え?」」」


 コフィンが示した答えは、三人が選んだ服を全てその小さな手と体で抱き抱えるというものだった。


「これってつまり…」

「私達が選んだもの全てを気に入って頂けたという事でしょうか」

「まさか、自分の為に選んでもらえたから全部嬉しいって事ですか?」

「………」コク

「…て、天使よ」

「こんなに可愛くて優しいなんて…どれだけ私達を虜にすれば気が済むのですかコフィン殿は」


(たとえ喋れなくても、感情が薄くても、元が兄様である以上やはり分け隔てなくお優しいのですね)


「じゃあ私が選んだ服だから、私が買ってあげるわ」

「私も、コフィン殿が喜んで下さるのなら」

「こういう結果も良いものですね」


 結局それぞれ選んだ物をコフィンに買ってあげるという結末になり、服屋での買い物が終了した。

 その後は一緒にご飯を食べながら、食べ慣れておらず口元を汚してしまったコフィンの世話をしたりと、全員が和みながら過ごした。


 だが、楽しい時間はあっという間に終わってしまう。

 気付けば日は赤く染まり、そろそろ屋敷へと帰らなければならない時間となっていた。


「名残惜しいですが、今日はお別れですね」

「コフィンちゃんはこの近くに住んでるの?」

「いえ…かなり遠い所です。恐らくまた会えるのは来年の今頃かと」

「そうですか…たった一日でしたが、本当に楽しい時間でした。ありがとうございますコフィン殿」

「………」ギュ


 シルヴィアに抱き着き顔を埋めるコフィン。

 離れた時の表情は、僅かに寂しそうに見えた。


「コフィンちゃん、次はもっとたくさん遊びましょうね。美味しいものや楽しいもの、それまでに探しておくから」

「………」ギュ

「ふふ、ありがとう。とっても楽しかったわ」


 二人とのお別れを済ませ、迎えにきた馬車に乗って屋敷へと帰る。

 その道中、コフィンは今日の出来事を思い出しているのか、それともお別れが寂しかったのか、ランフィア達に貰った服をずっと抱き締めていた。


「コフィンちゃん、初めての外は楽しかったですか?」

「………」コク

「来年も、絶対一緒に遊びましょうね」

「………」コク

「…約束ですよ…ちゃんと、覚えてて下さいね」


 コフィンは棺だ。明日になれば消えてしまう。

 いつもの大好きな兄が戻ってくる、嬉しくて幸せなはずなのに、何故か涙が止まらなかった。

 

 自分と同じ人間ではない、兄のような亜人ですら無いのかもしれない。

 それでも確かにここに存在して、今日1日一緒に過ごして、多少なりとも感情を見せてくれた。

 普段はどうしているのだろうか。今度は兄の中で深い眠りに就いているのだろうか。来年また会えても、今日の事を覚えているのだろうか。

 色々な事を考えて、余計に涙が溢れてくる。


「………」ギュ

「…コフィンちゃん」


 泣き止まないアイリスを、優しく抱き締めるコフィン。こんな温かく優しい存在が、ただの棺であるはずがない。

 来年はもっとコフィンに沢山のものを見せてあげよう。そう心に決めたアイリスであった。


 ・

 ・

 ・


 翌日、目が覚めるとコフィンは消えていて、そこには大好きな兄の姿が…

 嬉しくて幸せで、でも寂しい気持ちになりながら兄に抱き付き「おかえりなさい」と言った。


「ありがとな。コフィンに外の世界を見せてくれて」

「兄様っ…私…コフィンちゃんともっと仲良くなりたいです…一年にたった一日だなんて、寂しすぎます」

「…そうだよな。お前ならそう言ってくれるだろうし、寂しい思いをさせるからってのもあって、今まで隠していたんだ」

「兄様がいないのは嫌です…でもコフィンちゃんと会えないのも寂しいんです」

「あぁ…きっとコフィンも喜んでるよ。お前がそう思ってくれて」


 泣いてしまった妹の頭を撫で、こんな良い思い出が出来たのなら外に連れ出してもらって正解だったなと思う。

 だが寂しそうな妹を見ると、やはり罪悪感も湧くものだ。


「ちょっと一緒に来てくれ」


 泣き止まないアイリスの手を引いて、屋敷のとある一室へと入る。家具も何も無い部屋の床の一部を動かして、地下へと続く通路が現れる。


「兄様…これは?」

「着いてのお楽しみだ」


 梯子で地下へと下りて行き、また長い通路を歩く。

 突き当たりの扉を開けると、そこは薄暗い寝室だった。

 キングサイズのベッドに黒く薄い天蓋が付いていて中はよく見えないが、微かに寝息が聞こえる。


「ま、まさか…!」


 逸る気持ちが抑えられず、駆け寄った勢いのまま天蓋を開けた。

 そこには、気持ち良さそうに寝息を立てて眠っているコフィンの姿が…


「あ…あぁ…コフィンちゃん!」

「一年に一回の俺の休眠と、ある条件下でコフィンは起きる。それ以外では、ずっとここで眠っているんだ」


(コフィンちゃんと兄様は同じ体を共有しているわけではなく、完全に別の存在だったのですか)


「…消えたわけでは、無かったのですね」

「消えてないし記憶もちゃんと残る。その証拠に、ほら」


 掛け布団をズラしてコフィンの上半身が露わになる。

 そこには、三人が買ってあげた服がしっかりと抱き締められていた。


「余程嬉しかったんだろうな」

「…うぅ…コフィンちゃん…コフィンちゃん!…良かったです。本当に…」

「コフィンを起こして、更に俺も同時に存在出来る方法もあるにはあるんだが、今は難しい…悪いがまた今度な」

「いえ…大丈夫です。コフィンちゃんが消えたわけじゃ無い事が分かっただけでも嬉しいですから」

「そうか。来たかったらいつでもここに来て良いからな」

「はい!ありがとうございます兄様!」


 コフィンを数十秒ほど抱き締めて、満足したのか戻っていく。

 やはりコフィンは存在しないわけじゃなかった。ちゃんと人のように生きているんだ。

 それが分かった事が、アイリスにとって何よりも嬉しい事であった。


 リビングで一息つきながら、ふと浮かんだ疑問を兄に問い掛ける。


「兄様、結局コフィンちゃんはどういった存在なのですか?棺と呼ぶには、あまりにも…」

「人間みたいだろ?コフィンはな…アイツが死んだ後に俺が()に頼んで命を与えた、元々本物の棺だったんだ」

「……え?」

「どうしても失った事に耐えられなくてな…それから年に一回、昨日みたいにコフィンの中で休眠しながら、意識だけは神の下に行って手伝いをしてるってわけだ」

「ちょ、ちょっと待って下さい!神…様?実在するのですか⁉︎」

「当たり前だろ?誰がこの世界を創ったと思ってんだ。それに神は一人…一体?一人で良いか。一人だけじゃないぞ?創生神、豊穣神、水神、火神と何人もいる」

「…えっと…理解が追い付きません…神様は何人もいらっしゃって、兄様はその内のお一人に頼みコフィンちゃんを生み出した…?」

「そういう事だ。って言っても、完璧な人間にはしてくれなかったがな。多分、俺が執着して前に進まないなんて事にならない為の配慮だろう」

「…そう…ですか。では、もしやコフィンちゃんの姿はあの方の…?」

「いや、それも同じ理由でダメだった。あくまで孤独にならない為の相方を生んだって感じだな。でもそれで良かったんだ。おかげで今こうして、俺は色んな人間に囲まれて暮らしているんだからな」


 衝撃の事実の連続で頭がパンク状態だが、それでも兄はコフィンを大事にしていて、今も幸せそうにしている。

 姿形も知らない神だが、今は感謝の念でいっぱいだった。


「さて、と…久々の下界だからな、どっか出掛けるか?」

「はい!…え?久々の下界?」

「本当にたった一日じゃ神の手伝いは終わらねぇよ。天界に行くのは精神だけだからな、加速した時間の中で何百年って時を過ごすんだ」

「…兄様!私の名前や、同級生の方々のお名前は覚えてますか⁉︎」

「アイリス、俺が何千年生きてると思ってんだ?ランフィア達の事だって勿論覚えてる。心配すんな」

「よ、良かったです…あの、兄様は毎年同じようにされているんですよね?精神での時間も合わせて、何年生きているのですか?」

「…あー…何年だったかな…百万超えてるのは確かなんだが」

「百万⁉︎その間も、強くなったりするのですか?」

「勿論するぞ。手伝いの中には手合わせもあるし、精神の経験は本体にも反映される」

「…では、兄様に勝てる人などこの世界には…」

「今の俺と互角なのは同じ始祖仲間に二人と元英雄に一人いるが、全部()()すればいないかもしれないな。悪いがこれ以上はまだ秘密だ。またいつか機会があればな」


 コフィンの真実を知るつもりが、まだ知らぬ兄の真実を知ってしまった。

 解放とはどういう意味なのか考えるが、兄はこういう話を面白がって秘密にする人ではないと知っている為、今日は大人しく話を止めた。



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