第二十七話
「さぁ、全員初級難易度は合格したから、次は違う訓練をしよう」
再び森を出すが、今度は俺は消えずに森の外で立ったまま。
「今から30分以内に、俺から隠れて森を抜けてね。スタート地点はここで、森の至る所に色んなご褒美カードを隠してあるから、それを見付けてから森を出ること。俺に見つかった場合、カードはランダムな位置に再配置されるからね」
「森を入って出るだけなら何とかなるかもしれないけど、まず見付からずにカードを探す事が難しそうね」
「その通り。木の幹に堂々と貼ってあるなんて簡単なものじゃないから、注意深く探しながらも俺に見付からない事が重要だよ」
「もしカードを見付ける前に俺にバレたら、このスタート地点からやり直しだね。カードまでは最低でも30mの距離があるし、その距離なら俺が気付くには十分過ぎる。余計に難易度が上がるよ」
「それ、入り口をずっと見られたら何も出来なく無いか?」
「流石にそんな事しないよ。俺はこうして、目隠しをして森の真ん中にいるから。音と気配を感じ取った瞬間にカードを転移させるか、本人を入り口に転移させるかするつもりだよ」
「カードを隠された瞬間に本人も見付かってるけど、また隠れるまでの猶予はあるのよね?」
「勿論。カードを再配置してから5秒はその人に何もしないから、その間に上手く気配を隠してね」
これである程度のルールは伝わったか?
ある程度真面目に隠れた俺を見付けた時点で、学生のサバイバルでの索敵能力は余裕でクリアだからな。荒技で見付けたドラグ達も、俺じゃなければ見付けられるだろう。
だから重要なのはこっちの、気配を殺す訓練ってわけだ。
気配を殺す技術を身に付ければ、それは今後の人生でも必ず役に立つ、討伐依頼だって楽になるし、護衛任務中に護衛対象に必要以上の圧迫感を感じさせなくしたり、一流冒険者には必須の技術と言えるだろう。
初めてで全員が出来るとは思っていないが、また何人かは一発でクリアするだろうな。
森の真ん中まで転移し、木の枝に目隠しをしながら座り込む。
俺が本気で索敵すると、元英雄級だろうが隠れられなくなるから、あくまで「学生とは思えない」と言われる程度の粗い探知をする。
んー…三人いるな。
この気配はランフィアと、エミリア、ドラグか。
シルヴィアとアイリスはまぁ分かるとして、ウルガの隠密性が意外と高いのが驚いたな。ずっと自主練で無音行動をさせてたのが良い結果を生んだか。
残念だが三人にはスタート地点に戻ってもらおう。まだカードすら見付けていなかったからな。
三人は恐らく俺の真下にいるんだろうが、やはり視覚以外では捉えられない程に気配を殺してる。
だがカードを見付けられるかは別問題だ。草の間だったり土の中だったり、隠した場所は様々だからな。
お?森の外で急にウルガの気配がする。
まさかの一番乗りがウルガとは…
「やったー!いっちばーん!」
「「っ⁉︎」」
はい、ウルガの声に咄嗟に反応しちゃったシルヴィアとアイリスもスタートに逆戻りっと。
しかしあの二人がカードを見付けられて無いとは…
やはり嗅覚において最強の狼は伊達じゃ無いってことか。
その後再挑戦したシルヴィアとアイリスが無事にカードを持って森を出た。
ランフィア達三人もさっきよりは気配が薄いんだけどなぁ…まだ及第点には程遠い、やり直し。
その後、三人の通算5回に及ぶ挑戦も虚しく時間切れ。
森が消えてクリアした三人を見るが、合格したのに未だソワソワしていた。
「ライル君、まだ見れない⁉︎カードの中身早く見たいよぉ!」
そう、このご褒美カードは全員の前で見せつける為に未だに真っ白にしか見えないようになっている。
中身をすり替えたりなんて事はしないから安心してくれ。
「じゃあ、見事達成した三人のご褒美カードに掛かっている魔法を解除」
「『最高級レストランのディナーフルコース』⁉︎」
「『王都最高峰の鍛治職人が鍛えた武器1つ』⁉︎」
「『老舗服飾店ロイヤルドレスの服一着』?」
上から順にウルガ、アイリス、シルヴィアだ。
ロイヤルドレスっていうのはこの前サフィラとのデートで入ったあの店の事だが、シルヴィアには分かるわけないか。
「な、なんで訓練のご褒美でそんな高価なものばかりなのよ⁉︎」
「…ズルい…」
「最高峰の鍛治職人の武器…だと?」
「一回でクリア出来なかった人の、そういう反応が見たかったからかな…ていうのは半分冗談だけど、三人の中で欲しいものがお互いの持ってるやつだったら交換しても良いよ」
「ウルガ先輩、ディナーコースと武器、この二つならどちらがよろしいですか?」
「うーん…難しいマナーとか分からないし、武器の方が気軽に貰えるかも」
「で、では交換致しませんか?」
「うん!良いよ!」
「ありがとうございます!」
「私のこのロイヤルドレスというのは、どのようなお店なのでしょうか」
「王都で最も古くからある服飾店で、数十万もする服ばかり置いてあります」
「す、数十万…そうですか。他の二つは特に惹かれませんので、私はこのままで大丈夫です」
三人の希望が決まった所で、第二回の隠密訓練を始めるか。
「残念だけど一回目からご褒美のランクが下がるよ。回数が増える毎に落ちるから早くクリアしないとね」
「次で決めるわ」
「…ご褒美…」
「初級難易度で王家の紅茶が出る程だ。次の報酬もそこまで落ちはしないだろう」
残念だが主な目的がこの訓練だから、割と下がるぞ。
最初の紅茶と菓子は次のご褒美カードへの期待からやる気を出させる為のものだしな。
二度目の隠密訓練開始後、三人の気配が嘘のように薄くなる。
ご褒美のランクの高さを知ったからか、本気で取りに来てるな。
だが惜しい、カードを探すために草を大胆に動かし過ぎだ。音で気付いたのでスタート地点へ、この気配はドラグだったか。
続くエミリアも、カードをゲットした喜びから気が緩んで気配が漏れた。カードをランダム転移。
即座に緩んだ気を元に戻して気配を殺したか。
そういえばランフィアはどこだ?
ここまで何も感じ無いのは、魔力コントロールで培った技術を気配にも応用してるのか。初めからそれが出来ていれば…
無事に森を出たランフィアは、声にならない喜びを満面の笑みでカードを眺めるということで体現していた。
エミリアは元々の自分の無感情さを極限まで発揮し、何も考えず何も感じないように振る舞いながらクリアしたようだ。
ドラグの場合は、ドラゴンという本来の捕食者が持つ本能的な気配殺しを、覚醒したばかりだというのに見事やってのけクリアした。
三人ともやる気を出させる何かがあればここまで成長するんだな。それが良いのか悪いのかはともかく、第一段階は全員クリアと言って良いだろう。
この後は今までの訓練の応用で難しくなるが、その為に最初にご褒美をあげたんだ。頑張ってもらわないとな。
先ずは待ちに待ったであろうご褒美カードの発表だ。
「『一日優待券』?」
「っ⁉︎『王立図書館年間パスポート』」
「『英雄級との鍛錬』⁉︎」
「ランフィアの優待券は、テストの勝負報酬と同じだよ。俺の一日をあげる」
「「「っ⁉︎」」」
ん?何故シルヴィアやアイリスまで反応するんだ。
こんなものに比べたら最高級ディナーとか服の方が余程良いだろう。あくまでこれは俺が一日付き合うだけで、そういった何かを奢る特典は付いてないんだからな。
「ありがとう。日程が決まったら連絡するわね」
(に、兄様を一日好きに出来る権利…何故初回報酬に無いのですか!)
(正直、数十万の服よりも価値が高い…一回でクリアしたはずなのに、羨ましい…)
「次にエミリアのはそのままだね、王立図書館の有料閲覧区画に一年間入り放題のパスポートだよ」
「…嬉しい…ありがとう…」
「ドラグのも読んで字の如く、俺の英雄級の知人に頼んで鍛錬に付き合ってもらう権利だ」
「そ、そんな知人がいるのか…だがしかし、これはとても魅力的な報酬だ。感謝する!」
「シルヴィアとウルガ、エミリアのご褒美はそのカードを持って行けば要望を聞いて貰えるから、裏に描いてある地図を使って行ってね。ランフィアとアイリス、ドラグのご褒美は希望する日を事前に言ってくれれば合わせるから」
全員取り敢えず満足してくれたか?
「さて、じゃあそろそろ本格的な訓練に入ろうか」
「「「「え…?」」」」
アイリスとシルヴィア以外が驚いているが、まさか今までのが本当の訓練と思っていたのか?
「今やった二つの訓練はあくまで準備、ここからはそれを実戦で活用する訓練だよ」
「た、確かに戦いながら出来なきゃ意味ないけど」
「…ここから…本番…」
「そうか。更に難しくなるのか」
「でも、それが出来なきゃサバイバルで生き残れないもんね!」
「そういうこと。じゃあ森にまた入ってそれぞれ適当な位置に移動しようか。今から皆に防御魔法を三回重ね掛けするけど、一撃でも攻撃を受ければ1つ消えるよ。三回分全て消えたら脱落。森の外で終わるまで待機ね。今回は全員が敵だから、なるべく気配を消して不意打ちを狙うように」
全員に【プロトプロテクション】という簡易的な防御魔法を掛ける。中級魔法以下の攻撃を一回だけ防ぐその場凌ぎの魔法だが、主に低級冒険者が咄嗟に使うような魔法だからな。
森に全員バラけたのを確認して、合図代わりに上空に音の鳴る魔法を打ち上げる。
最初の訓練と同様に俺は気配を消して動く。近くにいる奴から順に、背中に手刀で攻撃していった。
「な⁉︎もう一撃だと⁉︎」
声を出したら他の奴にも気付かれるぞ?
全員に一撃食らわせたら木の上で待機、良い感じに警戒心が高まってるな。
俺が全部やったら訓練にならないから、最初より更に気配を殺して観戦していよう。
やはり躊躇いなく動くのはアイリスとシルヴィアか。気配殺しの訓練はウルガに気を取られただけで、基本は出来てたからな。
草の生い茂る森の中を無音で移動し、感知した奴の後ろから火の玉や氷の矢で攻撃してすぐに離れる。
気配を消しながらの戦い方に慣れてるな。
それと意外に上手くやってるのがウルガだ。元々の無音移動と覚醒した五感でアイリス達からも逃げ切っている。
お、最初の脱落者はドラグか、まだ気配察知と気配殺しを完全に習得出来ていないから仕方ない。
次にエミリア、そしてランフィアと数分に一人脱落していく。
残るはアイリスが2、シルヴィアも2、ウルガが1の接戦だ。
アイリスに狙われ逃げるウルガの横から氷が飛んできて脱落。そういうやり方もサバイバルには有効だからな、卑怯なんて言わせない。
お互いに息を潜め相手の出方を窺っているな。そろそろ掻き乱してやるか。
【鏡写し】で二人の俺を作り、それぞれの近くで強烈な気配を放つ。二人が完全に気を取られた隙に背後から一撃。再び気配を消して木に登るが、さっきより明らかに動揺してるな。
いつ来るか分からない俺と、残り1の焦り、そしてお互いどう動くか分からないという膠着。
ヒントを与えたつもりだが、いきなり実践は無理か。下手すれば自分の位置をバラす事になるもんな。
だがそこは思い切りの良いアイリスが森を外周から焼いていくことで、シルヴィアを中央へと追い詰める。自分は気配を限界まで殺して木の上で待機か。中々やるな。
シルヴィアも木の上に行けば良いんだが、この状況では跳んだ瞬間に感知されて終わりだから難しいんだろう。
「【フリーズフィールド】」
お、シルヴィアも魔法で周囲の環境を変えたか。さっきまで燃えていた森が今度は氷の世界へと変わる。
アイリスが寒さに震えて漏れた気配を感知したシルヴィアが【フリーズアロー】を放って止めを刺した。
「お疲れ様」
「っ⁉︎あ…」
倒した瞬間に気を抜いたシルヴィアを、後ろから手刀で仕留める。敵が最も油断するのは獲物を仕留めた時ってのは、今も昔も変わらないな。
全員脱落したことで森を消した。
先に脱落した奴等は暇そうにしてるかと思ったが、森の中の戦いを気配で探ろうとしていたらしい。
常に何事も訓練とするその心意気は素直に称賛しよう。
「じゃあ今日はここまでかな。どんな事をしていくか分かっただろうから、来週からは技術の向上を目指して個別に指導していくよ。それじゃあ解散しようか」
あ、ランフィアとシルヴィアが揃ってるし、丁度良いから今決めちまうか。
「ランフィア、シルヴィア、ちょっと良いかな?」
「どうしたの?」
「何かありましたか?」
「試験勝者の一日付き合ってもらう権利を使おうと思うんだけど、二人はいつ空いてるかなって」
「私は来週末までならいつでも良いわよ」
「私も基本いつでも大丈夫です」
それぞれと出掛けても良いんだが、ランフィアとは会う機会が増えたからな。そんなに誰かと二人きりで出掛ける場所なんて知らないし…
「なら早速だけど、明後日の朝から二人に付き合ってもらっていいかな?」
「え、二人同時?」
「ライル殿はそれでよろしいのですか?」
「うん。というより、二人一緒が良いかなって」
「そうなんだ。私は構わないわよ」
「私もそれで大丈夫です」
「ありがとう。じゃあ明後日の朝9時に行くと思うから、よろしくね」
「?えぇ、よろしく」
「…?分かりました」
二人共疑問に思ってる感じだな。
もうそろそろアイツの命日だから、あの日も近いんだよな。一応数日なら微調整が可能ではあるから、今まではアイリスが用事とかでいない日を狙って寝てたけど、頼れる友人が居るなら少しくらい遊ばせてやらないと可哀想だ。
さて、二人はどんな反応をするかな。




