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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第二十三話


 シルヴィアの真実を聞き、俺がどれだけ酷い事をしてきたのか自覚した翌日。

 俺はいつも通りの朝を過ごし、いつもとは少し違った気持ちで隣の部屋をノックした。


「おはようランフィア、シルヴィア」

「(あれ…?)おはようライル」

「おはようございますライル殿」


 良かった。二人共変な空気になってないな。

 あんな事があったから、二人の間にぎこちない雰囲気が出来てたらと心配したが、特にそんな様子は無さそうだ。


「明日にはテストの結果が返ってくるんだよね?楽しみだよ」

「ライルは一位が確定してるから楽しみなんでしょ」

「私は主席で無くなった場合、制服は新しく支給されるのでしょうか」

「一応長期休校を挟む度に順位が変わって、その時に制服が変わる人は支給されるらしいわ」

「そうですか。ではあとは、ランフィア殿との勝負がどうなるかですね」

「もう、二人してそればっかり…(シルヴィアの態度が昨日までと違うような気がしたけど、気のせいかしら)」


 三人で教室に向かいそれぞれの席に座る。

 テストが終われば通常授業は無く、主に自習時間だ。

 休校前最終日の明日は全校生徒を集めて集会をするらしいが、今日はいつもの時間割だな。


「ライル殿、テストで私が間違えたと思われる問題について教えてもらえませんか?」

「良いよ、どの問題かな」

「これなんですが…私はこう答えましたが、教科書を見るとやはり違うような気がして」

「あぁ、そうだね。これは順番に速度と距離の関係を出す必要があるから、答えはこうだね」

「なるほど、流石はライル殿ですね。本当に頭が良いです」

「そんな事ないよ。シルヴィアは多分真面目過ぎるから、引っ掛けが苦手なだけだと思う」

「そうですね。自分でも分かっていますが、簡単には治らなくて」

「教科書に出てきた問題だけがテストの問題にはならないからね。何を求められているのかが分かれば、応用問題だろうと解き方はそれこそ教科書に載っているんだから、それを引っ張り出せば良いだけだよ」

「はい、頑張ります。ありがとうございました」


 昨日まで対抗意識を燃やしていたーーように見えたーー相手に素直に質問出来るとは、やはりシルヴィアは俺を記憶喪失だと思っていただけか。

 俺の暇潰し用の演技と、永く生きる為に必要不可欠な記憶整理がまさかこんな事態を招くとはな。シルヴィアには本当に悪い事をした。


 最初の授業という自習が終わり、次はグラウンドへ移動する。こっちも自習だが、内容は実技の自習だ。自分の苦手な魔法や、苦手な属性の練習をする時間となった。


「ライル、魔法使ってる時の魔力の流れとか見てほしいんだけど」

「了解だよ。昨日は具体的に魔力効率がどのくらいか分かったし、その練習かな?」

「そうね。ライル達のを見てまだまだ甘いなって痛感したから、私も頑張らないと」


 あの領域までいくには最低でも100年は掛かると思うんだが…

 まぁ敢えて言うことでもないか。向上心は良い事だからな。


「あの、私も見てもらえませんか?」

「シルヴィアも?シルヴィアは3倍以上なんて凄い数字出してたのにまだ上げるの?」

「私こそ、ライル殿を見て同じ主席なのにまだまだだと痛感致しましたので。今回は逃すかもしれませんが、次は再び主席に返り咲く為に精進します」

「努力する事はとても良い事だし、やるなら二人同時でも大丈夫だよ」

「はい、ありがとうございます」

「…(なんか…おかしい?)」


 二人の魔力を見ながら流れがどうなっていたか、どうしたらより綺麗に無駄なく流れるかアドバイスしていく。

 こういう時にエミリアが来ないのは珍しいな。何をしてるんだ?


 …本を読んでいる。

 いや、サボっているわけではなく魔力循環の本を読みながら実践してるのか。こういう時は一人で黙々とやるタイプなんだな。


「授業も終わったしここまでだね。二人共飲み込みが早いから教えやすくて助かるよ」

「そう?そう言ってもらえると嬉しいわね」

「私は言われた事ならすぐに理解出来ますから」


 つまりそこから一歩進んだ事を考えるのが苦手なのか。

 

 三限も自習をして、休校前最後の昼休み。

 ドラグとウルガが加わるのも恒例になってきたな。

 アイリスも入れた7人でテーブルに座る。

 話題は当然それぞれのテストについてだ。


「シルヴィアちゃんのおかげで前より良い点取れたと思うよ!ありがとう!」

「そうですか。毎日門限までやった甲斐があるというものです」

「エミリア、俺も以前より良い成績を残せそうだ。感謝する」

「…うん…またいつでも…」

「私も無事また主席を保てそうです。勉強を見て頂きありがとうございました」

「アイリスなら俺がいなくても変わらなかっただろうけどね」

「そんな事はありませんよ。ライル先輩が沢山癒して下さったおかげで、勉強が捗りました」

「ちょ、ちょっとその言い方は語弊があるでしょ!確かに、癒されはしたけど…」

「ライル殿、何かしていたのですか?」

「特に何かしてあげたわけじゃないけど、魔法で視覚的に和ませていただけだよ」

「そうなのですね。ずっと文字を見続けるのも疲れますから、それも十分効果がありそうです」


 流石に「子犬になってゴロゴロして癒したよ」だなんて言えねぇよ。

 勉強期間も終わったしもう子犬になる事は無いだろう。


「やっぱり変よ…」


 突然隣に座るランフィアが、シルヴィアを見ながら訝しげな表情をする。


「ランフィア殿、どうしたというのですか」

「シルヴィア、貴女ライルにだけほんの少し喋り方が違わない?」

「そうかな?俺は気付かなかったけど。変えてるのかい?」

「いいえ。私は特に何も意識してませんが」

「ほらそれ。ライルにだけ敬語が柔らかい感じがする。昨日の事は深く聞くつもりは無いけど…もしかして、つ、付き合ったの?」

「な⁉︎何を言うのですか!私などがライル殿と交際するなど烏滸がましい!」

「え、そこまで言うほど?ライルってそんな高貴な…まさかシルヴィア、ライルの正体知ってるの⁉︎」

「し、知りません!私はあくまで、現状大差をつけられているライル殿に、そのような事を望むなど釣り合わないと言っているだけです!」


(望んではいるんだ)

(望んではいるのだな)

(…望んでる…)

(分かりやすいわ)

(凄く分かりやすい人ですね)



 …コイツ、思った以上に色々バレやすいな。

 ランフィア達が言及しない事が救いなだけで、ちょっと突けばボロボロ秘密が漏れそうだ。


「俺の秘密を知るのは、サバイバルで上位に入るのが条件って約束でしょ。抜け駆けしようとしたら、サバイバル演習の開始早々に広域殲滅魔法で俺以外リタイアにしちゃうよ?」

「ほ、本当にやりそうだから洒落にならないわね。分かったわ、もうそういう質問はしない。でもシルヴィアが増えたから、上位五人だと一人溢れるわよ」

「それじゃあ、俺を除いて上位五人にしようか。それなら人数も合うから」

「そうね、何が何でも上位に入らないと…ライルは夏休み中は何する予定?」

「家に戻ったり、知人の手伝いをしたり…あとは、墓参りに行こうかな」


(始祖様…まさか)


「そうなんだ。空いてる日があったら訓練に付き合って欲しいなって思ったんだけど」

「それは構わないよ。基本暇人だから」

「はいはい!じゃあ僕も特訓してほしいです!」

「俺も頼みたい。魔法の基本は教わったが、そこから先に進みたいんだ」

「……私も…」

「結局いつも通りになるんだね。じゃあ休みでも連絡が取れるようにしないと不便だよね」

「不便?皆夏休みって実家に戻る時以外寮にいるわよね?ライルはいないの?」

「え、そうなんだ?夏休みでも寮生活なんだね」


 アイリスがそういう時に家に居なかった日なんて無かったから、夏期休校とかの間は家にずっといるものだと思ってたな。

 つまりこれは、俺と二人きりで長く過ごせると思っていたアイリスにとって大分衝撃的な展開なんじゃ…

 

「………」


 黙々とご飯を食べていらっしゃる。

 相当拗ねてるな、これ。

 夏休みくらい俺を独り占めしたかったんだろうなぁ。学校じゃ殆ど一緒に居られないもんな。

 あ、ヤバい…段々アイリスの目が潤んできた。これは流石に兄として見過ごせん。


「でも俺は基本家にいる事になりそうかな。溜まってる作業とかもあるし」

「…っ⁉︎…」

「そう、大変なのね。じゃあ連絡手段を考えるか、もしくは定期的にこの日って決めれば楽かしら」

「皆はどれくらいの頻度で訓練したいんだい?」

「私は家のこともあるし、3日か4日に1日かしら」

「僕は毎日暇だからいつでも良いよ!」

「俺は母さんが家で一人だからな。週に一回くらいになりそうだ」

「…4日に…1回…」

「じゃあ一週間に1日にしようか」

 

 その後満場一致で週末希望だったので、一週間の最終日、朝9時にグラウンド集合となった。


「あの、私も参加しても良いですか?」

「私も参加させて下さい!」


 シルヴィアは種族的に時間に余裕あるし暇なのは分かるが、そもそもアイリスは学年違くないか?


「良いんじゃない?色んな人の色んな技や技術を見れば良い刺激になるし。ライルが大変じゃ無ければだけど」

「俺は全員に一気に教えるだけだから、人数に制限は無いよ。二人が希望するなら一緒にやろうか」


 こうして休校中の予定も決まり、いよいよテストの結果発表当日。

 朝の時間から終業日特有の時間割で動く為、早速名前順に呼ばれていく。

 一番最初に仲間内で呼ばれたのはエミリアだ。返された結果を見てから、俺達が集まってる最後列の席にやってくる。


「…惜しかった…」


 エミリアの試験結果は、筆記が総合満点からー8点。

 実技は全て満点という結果だった。

 やはり実技において基本満点を出してくる上位人の勝負は、座学で決まるな。

 

「確かに惜しいわね、あと8点だったのに」

「…引っ掛けと、難問…」


 エミリアもあの二問にやられたのか。

 次に呼ばれるのはシルヴィアだが、果たしてどうだろうか。


「やはりあの最後の引っ掛けだけでしたね」


 実技満点、筆記が総合満点のー4点。惜しくもあの引っ掛けで主席を逃したな。


 次は俺が呼ばれるが、結果は試験中に確認してあるから大丈夫だ。


「うん、問題無し」


 筆記満点、実技満点の文句無しの結果だ。

 担任からの返却時にやたら称賛されたのがむず痒かったがな。


「あぁ、緊張する…」

「大丈夫だよランフィア」

「ライル…」

「緊張したって結果は変わらないから」

「ちょっと!」

「ハハハ、解れたかい?」

「おかげさまでね!」


 帰ってきたランフィアの結果は、実技満点、筆記が総合満点ー4点という面白い結果だった。


「これ、次は二位が二人ってことね」

「部屋もまさにその通りになりましたね」

「…次は、私も…」

「エミリアも二位になったら三人部屋になるのかしら。ちょっと面白そうね」

「次は皆で主席っていう、面白い展開にしようよ」

「そしたらライル殿と同室になりますか?」

「それが駄目だから私と同室なんでしょ」

「ではやはり三人部屋ですね」


 そんな話で盛り上がりながらテスト返却を終えた俺達は、全校生徒が集まって終業の集会を行う為、グラウンドへ出た。


 カトラスも段々慣れてきたな。俺がいても特に緊張せず集会の挨拶が出来るようになってきた。

 校長先生からの有難いお言葉を聞いた後は、生徒指導という存在すら知らなかった教師から休校中の諸注意を聞き、全ての日程を終えた。



「終わったわねぇ。何かあっという間だったわ」

「色んな事があって短く感じたね」

「…次も…こんな…」

「そうですね、また慌しくも楽しい学校生活になるでしょう」


 集会を終えたら現地解散なので、生徒達は寮に帰ったり友人と遊びに行ったり、そのまま実家に帰ったりと様々だ。


 俺達四人が動かないまま喋っていると、いつものメンバーが集まってきた。

 ドラグ、ウルガ、アイリスの三人だ。


「ねぇねぇ、これから皆でお疲れ様会って事で何か食べに行こうよ!」

「良いわね。でも結構同じような事考えてる人もいるし、有名なお店はいっぱいかもしれないわ」

「じゃあ、俺の知ってる穴場に行こうか」

「ライルの店に関する知識は見事なものだからな。期待できそうだ」


(まさか、またとんでもない店じゃないわよね)

(兄様、あの喫茶店では少々敷居が高すぎるかと思いますが)



 六人を連れて学校を出た俺は、シルヴィアやドラグ、ウルガは勿論、尾行していたランフィア達すら知らない店を目指していた。


「これはまた、人が全く見当たらない場所だな」

「でもあそこ見て、一箇所だけお店があるよ」

「え、どれ?全部似たような建物なんだけど」


 流石ウルガ、食べ物の匂いでそこが店だと言い当てたか。


「ここは最近出来たばかりのお店でね。味は一流なんだけど、まだ広まってないから殆ど貸切みたいに過ごせると思って」

「出来たばかりの店すら知っているのか、その情報力、流石だな」


 そりゃあ当然だろ。ここは()()()()()()()()()()店なんだから。

 開店してすぐに報せが入ったからな。


 中に入ると、お洒落なインテリアに落ち着いた雰囲気を感じさせるゆったりとした音楽が流れている。

 そして海を思わせる美しい青髪、全ての男を引き摺り込もうとする深い青い目、恍惚とした表情で俺達を迎えたのは、料理人などではなく絵画のモデルの方が合っていると言いたくなる美しい女だった。


「いらっしゃいませ。ようこそ『海楽庵(かいらくあん)』へ」

「7人だけど、空いてるかい?」

「勿論ですわ、お師…学生の皆様。どうぞこちらへ」


 お気づきの通り、コイツは俺の弟子の一人、ルルイエだ。

 趣味は男を落とす事と料理。唯一狙って落とせなかった俺に弟子入りし、料理や魔法、その他色んなことを学びたいと言ってきた人外種の一人。

 因みに俺が学生を演じている事なら弟子は全員知っている。何故ならコイツら程の実力者は、この国全域を探知するなんて簡単だからだ。勿論俺の事も探し出してる。

 だからこうして他人の振りをしても、特に何も言わず合わせてくれるってわけだ。


「当店は海鮮料理を主に提供しておりますわ。メニューに無くても、海の物でしたら何なりとお申し付け下さい」

「なら、『ローレライ』をもらえるかな」

「え、なにそれ…メニューに載ってないけど海の物なの?」

「まぁそうだね」


 正確には川が主な伝承として伝わっているけどな。

 別に本物のローレライを切って焼いて食うわけじゃなくて、一度食べたら虜になる程美味しいって意味で付けられた名前の料理だ。


「じゃあ私はボンゴレパスタ下さい」

「私はシーフードグラタンをお願いします」

「…ミニパエージャ…」

「僕は焼き魚セット!」

「俺は一角鯨のテールシチューを」

「…な、悩みますね…お勧めはありますか」

「こちらの美しい殿方が頼まれたローレライがお勧めですよ」

「…ではそれを」


 コイツらの前で俺をどう呼んで良いか分からなかったみたいだな。

 何故かエミリアを除く女性陣から警戒心を感じるが、ルルイエは基本的には無害だから気にしなくて大丈夫だぞ。

 最近は男遊びも控えてるみたいだしな。







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