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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第二十一話


 テスト期間中、何度も部屋に来て勉強会と言う名の自習をする二人。その横で子犬の姿になって花の本を読む俺。かなり異様な光景だな。


(う、ライルだと分かってても、何度見ても可愛い…あの小さな足で伏せながら本を押さえて読む姿とか何?天使なの?勉強に集中出来ないじゃない)


 さっきからチラチラとランフィアの視線を感じるな。自分から子犬になれって言ったのに気が散るとか言うのか?


「ら、ライルー。おいでー」

「………」

「………」


 コイツ、俺が子犬になって思考まで子犬化してるとか思ってないよな?

 流石にこの姿とはいえ友人の腕に飛び込むのは恥ずかしいぞ。


「ランフィア先輩、あの姿ではありますが、喋れないだけで思考も中身もライル先輩ですよ?」

「わ、分かってるわ…でも子犬姿が可愛くて。実家で犬も飼ってたし、ついね」


 やれやれ、仕方ない奴だ。

 俺は乗っていたソファから飛び降り、ランフィアの足に前足をチョンと乗せる。飛びついたりは出来ないから、これで許せ。


「か、可愛い…ちょっとごめんね、ライル」


 お、おい抱くな。膝に乗せるな!

 なんだこの羞恥プレイは!


「ランフィア先輩、まさかそんな趣味が…?」

「ち、違…だってこんなに可愛いのよ?実家の子じゃ出来なかったし、今日だけ…」


 分かったよ。

 これで勉強に集中出来るんなら協力してやろう。

 ランフィアの膝の上で丸くなり、変に意識しない為にそのまま仮眠した。


 結局勉強が終わるまで乗せられたままだったらしく、起きて元の姿に戻る。


「あ、お、おはようライル」

「おはよう。勉強は捗ったかい?」

「おかげさまで…ごめんね我儘言って」

「今日だけだよ?俺にだって羞恥心はあるんだから」

「ごめんなさい。次は普通に愛でるから」


 それでも子犬は要求すんのか。意外と強欲だな。

 約束したからなるけどよ。



 


 そんな勉強会を続けること一ヶ月。

 遂にテスト初日を迎えた。


「結局、本当に一度も勉強しなかったわね。大丈夫なの?」

「結果が出てのお楽しみってことで」


 教師からテスト用紙が配られ、最初のテストが始まった。

 やはり簡単だな。どれも俺の教材を分かりやすくしたようなレベルの問題ばかりだ。

 半分くらいの時間で全て解き終え、ミスが無いかの見直しも二回くらいしておく。

 問題無し。取り敢えず一教科目は満点取れたな。


 二教科目、三教科目、昼食を挟み午後の科目も全て同様に満点を確保していき、初日のテストを完璧に終えた。


「ライル、どうだった?」

「問題無いよ。全て満点かな」

「返却されるまでも無く分かってるのね…」

「ランフィアはどう?」

「うーん…最初の科目でちょっと不安が残る感じね」

「あぁ、一問だけ応用というか、難問が混じってたね」

「私は問題無く全て解けました。今の所ライル殿とは互角ですね」

「シルヴィアもあの問題解けたのね」

「当然です。授業を真面目に受けていれば解けない問題などありませんから」

「相変わらず授業に対するその絶対の自信は何なの」


 他の奴等と同じようにテスト後特有の会話をし、その日は終わった。

 二日目、最終日も順調に満点を取ったが、最終日にフロストが苦い顔をしていた。


「シルヴィア、どうしたの?」

「最後の最後で、間違えたかもしれません」

「え、最後っていうと…あの魔法速度計算の問題?」

「はい。三人の魔法速度勝負において、それぞれ30m差で勝つ場合、一位と三位の勝負の差を計算する問題です。迂闊にも安易に60mと答え、今頃引っ掛けである事に気付くとは」


 そう、初日の勉強会で俺がランフィアに出した引っ掛け問題。まさかあれが本当に出てくるとは思わなかった。

 つまりランフィアは…


「ランフィア殿は解けましたか?」

「ライルのおかげでね。勉強会の時に、一番最初に私に出した問題と同じだったのよ」

「ぐぅ…そこまで全て予測しているとは。流石全て満点を取るだけはありますね」

「いや、俺も驚いてるよ。テストに関係無いと思ったから遊びのつもりで出したのに、まさか同じような問題が出てくるなんて」

「でもそのおかげで解けたわ。ありがとう」

「あんなのが役に立って良かったよ」


 これで筆記試験は全て終わったな。

 明日は実技試験か。俺達は上位者だから明日の午前には終わるだろう。


「実技試験は教師との模擬戦と、的当て、初級・中級・上級魔法の実演だったわね」

「どれも問題ありませんね。あとは、その中で如何に点を稼ぐかが重要です」

「模擬戦は圧勝すれば良いし、的当てはど真ん中を正確に素早く射抜けば良い。実演は魔力を最小限に、威力を最大限に放てば良いんじゃないかな」

「…言うだけは簡単よね」

「ランフィアなら出来るよ。訓練を思い出して頑張って」

「うん、やれるだけやってみる」


 そして当日。主席は二人いるので順番は自主性。

 シルヴィアが名乗り出て最初に模擬戦を行う事に。模擬戦をする教師は疲れで評価が変わる事を防ぐ為、数人の教師が入れ替わりながら行い、それを他の教師が見て評価する。

 だから教師の力量によって評価が変わる心配はない。


 開始早々、フロストが猛攻を仕掛け反撃の隙を与えない。フロストの停滞効果を持つ氷も使いながら、一度も攻撃を受ける事無く勝利した。

 そして俺の番。違う教師に入れ替わり試合開始。

 猛攻すれば確かに反撃は少なく無傷で倒せるだろう。だがそれは戦場においては危険な戦い方だ。

 戦いはもっと静かに、それでいて圧倒的に勝たなければ、真の完勝とは言えない。


【オリジンブラッド】:模倣・闇属性・上級魔法


「【重力の牢獄】」


 教師の周りだけ重力を15倍に変え、膝をつかせ身動きが取れないようにする。

 その後持っていた模擬戦用の剣を教師の真上に投げ固定。重力範囲を教師の周りから広げて、剣にも重力が掛かるようにすればもう詰みだ。


「剣の固定を解除したら、先生の首に落ちますよ」

「…ま、参った」


 これが完全勝利というものだ。

 その後ランフィアが戦い、一度だけ攻撃を剣で受け止める場面は有ったものの無傷で勝利した。

 続くエミリアは、ある意味圧倒的だったな…

 俺との訓練で一切の躊躇を無くした彼女は、開始早々に上級魔法を放ち、教師がその迎撃を行なっている間に前後左右からの同時攻撃。俺みたいに相手を脅す事すらせず、躊躇いなく全力で放ちやがった。

 結果降参すら言えず敗北した教師が医務室に運ばれて行き、エミリアは無事ーーなのかはともかくーー勝利した。


 次の試験は的当てだが、編入試験と違い的が20個ある。しかもそれぞれ高さも角度も違えば、動いてる的もあった。

 ここは教師一人で採点するみたいだな。


「私の合図と共に攻撃を開始して下さい。全ての的が破壊されると同時に時間計測が止まります」


 なるほど、的を正確に射抜きながらスピードも意識しなければならないわけだ。

 さて、フロストはどう攻略するかな。


「では、行きますよ。的当て試験、開始!」

「【フリーズアロー】」


 通常の初級魔法【アイスアロー】ではなく、フロスト族の使う停滞効果のある氷の矢が20本生成され、一斉に的に向かって射出される。

 矢は正確に的のど真ん中を射抜き計測が止まった。


「記録、2.5秒。流石は主席ですね」

「ありがとうございます」

「では次、ライル君。準備は良いですか?」

「いつでも大丈夫です」


 即座に新しい的と入れ替わり、先程とは若干異なる位置に配置されている。

 前の人の試験を見て有利にさせない為だろうな。


「それでは的当て試験、開始!」


【オリジンブラッド】:模倣・光属性・上級魔法


「【ミラージュレイ】」


 配置を見た瞬間に魔法を展開する座標を決めておき、全ての的の中心を貫くように光が反射していくが、これは光属性の中でも最上位の速さだ。反射して貫いていても、肉眼では全て同時に貫かれたくらいにしか見えないだろう。


「き、記録、0.9秒…魔法の構築から発動、そして的当ての速度、どれも信じられないくらい速いですね」

「ありがとうございます」


 ランフィア達の所へ下がると、反応が二つに分かれた。


「凄いわね。速度もそうだけど、あの光の反射で全て正確に真ん中を貫くなんて」

「くっ、またしても負けですか…」


 フロストの対抗意識はどこまで燃えてるんだ。結果が同じなら別に良いだろうに。


「時間で順位が決まるわけじゃ無いし、規定の時間内に真ん中を射抜けば満点なんだから良いじゃないか」

「そんな枠で同じと言われても納得出来ません。私は、個人として貴方を超えたいのですから」


 それはいくらなんでも無理があるだろう。

 フロスト族が人間より長命だとしても、今は精々数百歳だろ?そんな子供に負ける程俺はまだ老いてねぇよ。

 それをフロストが知ってるかどうかは知らんが、コイツからすりゃ自分より短命で十数年しか生きてない若僧に負けたって事だから、余計に許せないのかもな。


 的当ての試験はランフィア、エミリア共に規定の時間内で真ん中を射抜いた為、満点で終わった。

 次は魔法の実演か。それぞれ初級用の人形、中級用の人形と別々の部屋があり、その中で感知した魔力と人形が受けたダメージが数値化される。

 例えば100の魔力を感知してダメージが50の人間と150の人間に分かれた時、前者は魔力コントロールが粗く無駄に消費しているが、後者はコントロールが良く魔力以上の結果を生み出しているという事になる。

 このダメージは実際のダメージというわけでは無く、あくまでテスト用に数値化したものであり、実際に150のダメージを足に食らうのと、50のダメージを頭に食らうのでは結果が逆転するように、現実のダメージは考慮していない。


 フロストは使い慣れた【フリーズアロー】でいったか。室内感知魔力50、ダメージ100、魔力効率2倍か。まぁまぁだな。

 次は俺だが、あんま初級魔法って使わないからなぁ。編入試験と同じ【ソーラーレイ】の模倣で良いか。

 室内感知魔力30、ダメージ90。効率3倍、初級じゃこんなものか。


 また悔しがっているフロストは置いといて、ランフィアは魔力40、ダメージ60の1.5倍。エミリアは魔力60、ダメージ84の1.4倍という結果になった。

 基本は学生の内に魔力効率1倍以上で発動出来たら満点だから、そこの数字に拘る必要は無いって言われたんだが、一人だけ最後まで納得していない奴がいたな。

 

 次は中級、ここからは単なる効率ではなく如何に高威力の魔法を対象にだけぶつけるかが鍵だな。

 中級、上級となっていくと、どうしても広範囲多人数を対象とした魔法が多くなってくる。それをどうやってダメージ測定する人形にだけ集中させるかが結果を左右させるだろう。


 フロストの魔法は【フリーズレイン】。氷柱を大量に降らせる広範囲魔法だが、これを全て人形にだけ当てる事でダメージを集中させた。

 室内感知魔力は110、ダメージ176。効率1.6倍と若干落ちたか。難易度が上の魔法程効率化が難しいからな。

 だが戦争時代を生き抜いた魔法師は逆だ。難易度が上がる魔法ほど、如何に最低限の魔力で放つかが勝敗を分ける戦いをしてきたからな。


【オリジンブラッド】:模倣・複合属性・中級魔法


「【浮遊機雷】」


 本来鉄の塊に爆薬を詰めて設置する機雷だが、これは魔力の膜で火と雷の複合爆発魔法を閉じ込めてある。そしてそれを設置可能上限の5個まで生成し、全て人形の周りに浮遊させる。ふよふよと浮いている機雷は互いに接触し、連鎖爆発を起こした。


 室内感知魔力60、ダメージ270、効率4.5倍か。やはり中級、上級に上がる方が俺はやりやすいな。

 なんだかもうフロストが悔しさを通り越して泣きそうになっているんだが、俺が悪いのか?


 ランフィア達も無事合格し最後の上級試験。

 フロストが【コキュートス】という対象を氷漬けにして砕くという魔法を使用し、魔力効率3.2倍という数値を叩き出した。中級より効率が上とは、最後の意地というやつか。

 なら俺もそれに応えなくてはな。全力の相手には全力で応えるのが礼儀というものだ。


【オリジンブラッド】:模倣・雷属性・上級魔法


「【天雷】」


 自然現象の雷を圧縮し再現するという、雷属性の中で最も超級に近い上級魔法だ。

 その威力は圧縮率、魔力操作、環境で異なり、こんな集中出来る好条件で放てば…


「感知魔力100…ダメージ…1200…な、なによこれ」

「集中出来る環境だったからだよ。戦闘中じゃ70%くらいの威力だろうね」


「…うっ…うぅ…」

「え⁉︎ちょっとシルヴィア⁉︎」


 おい、マジで泣いちまったぞ。

 何でだ。やっぱ俺が悪いのか?


「…なんで…あんなに、頑張ったのに…何年も、何年も…修行したのに…()()貴方にすら…敵わないなんて…」

「ライル、何か心当たりある?どう考えてもライルの事よね?」

「そうみたいだけど…ごめん、全く思い当たらないや。そもそも彼女と会ったのも編入してきた日が初めてだし」

「…⁉︎…やっぱり…覚えてすら、いないんですね…っ…失礼します…!」

「あ、ちょっとシルヴィア!」


 フロストが泣きながら試験会場を飛び出してしまった。俺達は試験も終わってるから問題無いが、やはり俺が原因だし追いかけるか…

 俺に記憶が無く、フロストだけが覚えているということは、考えられる原因は一つしかないしな。


「ごめんランフィア。追いかけるから先に帰るね」

「う、うん」


 走って行ったとしても、感情が乱れまくって魔力が分かりやすいな。簡単に追跡出来る。

 学校の裏、校舎とも寮とも離れてて普段誰も来ない池の傍に彼女は座っていた。

 

「見つけたよ」

「…何故…追い掛けるんです」

「君が俺の所為で泣いていたから」

「…何故…いつも、名前を呼んでくれないのですか」

「それは…」

「あの時も…初めて会ったあの日でさえも!貴方は私の名前を一度も呼んでくれなかった!」

「…ごめん…俺はその事を覚えていないんだ」

「…貴方は…記憶を失ったから、学生の真似などしているのですか?…私の事など、本当に忘れてしまったのですか!始祖様!」

「っ⁉︎」


 コイツ、初めから…。

 

「お前、気付いていたのか」

「っ…やはり、演技だったのですね。では…私を覚えていないのは…ただそれまでの存在だったと…」

「待て。俺は数百年に一度記憶の整理をしてる。じゃなきゃ頭がパンクするからな。お前の記憶も、奥底に封じられてるだけで捨てちゃいないはずだ。俺と会ったのが何年前か覚えてるか?」

「勿論です…忘れたりしません。あれは今から364年前の冬の日でした…」




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