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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
15/38

幕間1


 エイナイル王立高等学校

 第二学年学生寮最上階

 ランフィアの部屋


 ライルがマリアとデート中、他の四人はランフィアの部屋に集まっていた。


「もう、折角皆で休みだから、訓練ばかりじゃなくて親睦も深めようって集まったのに。肝心のライルがいないなんて」

「俺がここに居ても良いのか?ライルが不在ならば、男の俺は出ていくべきでは…」

「良いのよドラグ、ライルだっていつも男一人で私達といるんだから」

「校門の方からライル君の匂いがしたし、多分外に出掛けてるんじゃないかな」

「そんな方の匂いまで分かるのね」

「ライル君の匂いは凄い楽しそうだからすぐ分かるよ!」

「……楽しい?…」

「うん!ライル君が教えてくれたの。楽しそうな事を思い浮かべて匂いを嗅ぐと、強い人ほど匂いがするって」

「確かにそれならライルは凄く分かりやすそうね」

「でも、前に校長先生とすれ違ったけど、ライル君の方が匂いが強かったなぁ」

「「「え…」」」


 一瞬の静寂。それが意味する事を察してしまったから。


「それってつまり」

「ライルは校長先生よりも」

「……強い…」

「わ、分からないよ!楽しそうって匂いだから、無意識に校長先生とは遊ばなそうって思ったかもしれないし!」

「でも、ダークウルフから無傷で生き残るのよ?」

「あれには驚いたな」


 話題の中心はいつだってライルの事だ。

 そしてそれは徐々に訓練の内容に変わっていく。


「あの時は初めて上級魔物に会って焦っちゃったけど、思い返せばライルの殺気の方が怖かったわね」

「殺気?ライルから殺気を当てられたのか?」

「訓練でね。どんな状況でも落ち着いて魔力がコントロール出来るようにって。初めて当てられた時は腰が抜けて、情けないけど大泣きしたわ」

「同い年でそれ程までの殺気を出せるとは、凄いな」

「僕は鬼ごっこしながらひたすら殴られてたよ!」

「……鬼畜…」

「でもいつも僕に合わせて手加減してくれるんだ。本当はもっと速いんだろうなって、余裕そうな顔で分かった」

「……ひたすら…攻撃…」

「エミリアは何だか土で出来た人形と戦ってたわね」

「…初めはライルに攻撃したの…腕に穴が空いても…指が千切れても…全身火傷をしても…30秒以内にまた攻撃しろって…」

「え、エミリアがこんなに喋ってるの初めて見た」

「それより、何だその非常識な訓練は」

「…私は意思が弱いから…どんな敵にも攻撃しろって…」

「それであの可愛い土人形なのね。皆とんでもない訓練ばかりじゃない」

「……すまない。そうなると、俺が一番甘かったかもしれん」

「ドラグは何というか、根本から魔法の使い方を直されたんでしょ?十数年とはいえ、今までの事を全部否定されて新しくしろっていうのも、十分大変よ」


 全員学生とは思えない訓練をしている事を改めて実感した。


「結局、ライルは何者なのだろうな」

「全部が謎だよね、ここまでくるとライル君って名前すら本当なのか疑問に思えてくるよ」

「流石にそれは…どうなのかしら」

「……もう一つ…」

「まだ何か気になるの?」

「……アイリスさん…」


「アイリスとは、確か一年の主席だったか?」

「あの闘技大会で凄い魔法を連発してた可愛い子だよね!」

「確かにあの子も不思議ね。初日からライルに絡みに来てたし、妙に親しいというか、ライルしか見てないというか」

「…隠れた…恋人?」

「っ…そ、そうなのかしら。確かに知られざる貴族って言われてたし、隠れてお付き合いしてる可能性もあるかもしれないけど」

「どうしたランフィア、顔色が悪いぞ」

「え⁉︎な、何でもないわ!」


 自分の気持ちは分からない。

 だが確かに今、胸にチクリと痛みを感じたのは分かった。


「やっぱり…ライルってモテるのかしら」


 突如色恋沙汰の話に変わった事で、全員がランフィアの様子に気付く。


「どうだろうな。掴み所が無く、何を考えているか分からない部分もあるが、それが良いという女性もいるのではないか?」

「それに凄く優しいもんね」

「……優秀…」

「そうなのよね。強くて頭も良くて、何でも知ってて何でも出来る…サフィラ先輩だってあんなに嫌悪してたのが嘘みたいに変わったくらいだもの」


「…ランフィアちゃんは、ライル君の事が好きなの?」

「…分からないわ。人としては尊敬してるし、何度も救われてるけど、それが好意なのかどうか…まともに異性と関わった事なんて今まで無かったから」

「意外と初心なのだな。ランフィアこそ、色んな男から言い寄られている印象だが」

「そんなの家名に釣られただけよ。そんな人ばかりだから、私は男を避けてきたのに。ライルったら何も気にせず普通に話して、貴族とか才能とか関係無くその人の実力を見るんだもの」


 その時のランフィアの表情は、とても柔らかく嬉しそうであった。


「って、私の事は置いといて、今はアイリスさんの話でしょ」

「闘技大会で思ったけど、あの子もう三年の主席さん達よりも強いよねぇ」

「どんな訓練を積めば高校に上がったばかりの少女があのような強さを手に出来るのだろうか」

「…ライル?…」

「まさか、高校で出会う前から知り合いだった?それを隠して初対面のように振る舞ってた。ってこと?」

「流石にそこまでする理由は無いと思うのだが」

「何か強くなきゃいけない理由があって、必死に修行したとか」

「知られざる貴族を、全員に知らしめる為とか」

「有り得なくは無いな」


 憶測が飛び交うも結論は出るはずもなく、話題は更に変わる。


「半年後にはサバイバル演習なのよね。皆上位五人に入る自信はある?」

「力だけでならライルに訓練された俺達ならば可能性はある。だがサバイバルは決闘では無い。真正面から戦うばかりでは無い以上、サバイバルに向けた訓練もしなければ難しいだろう」

「今回の依頼も、ライル君が居たから勝てたようなものだったしねぇ」

「本人はただの手助けみたいにしか思ってなさそうだったけど、レッドウルフ全てに手傷を負わせるだけで大分変わるわよね」

「…警戒して動きが偏る…」

「これはまた、半年間鍛えてもらわねばな」

「私達ばかり教えてもらうのは申し訳ないけど、ライル自身が選んでくれたメンバーなんだから堂々と教わりましょう」




 コンコンコンッ



 話が一段落したところで、来訪者を告げるノックが部屋に響いた。

 部屋の主であるランフィアが代表して立ち上がり、ドアへと向かう。


「ライルが帰ってきたのかしら」


 ドアを開けた先には、見覚えのある銀髪……ではなく、雪のような純白の髪を腰まで伸ばし、ルビーのような紅い瞳を持つ非常に美しい女性が、()()()()()を着て立っていた。


 アルビノと呼ばれるその色合いは、儚い印象を与えるものだが、その女性が纏う雰囲気は非常に力強く、並の男では太刀打ちできないと思わせるものであった。



「初めまして。この度エイナイル王立高等学校へ編入してきた者です。名を、シルヴィア・ウォレス・フロストと申します」


 その名前を聞いた瞬間、何故かランフィアの鼓動が早くなり、懐かしさを感じた。

 だがその原因は分からず、とにかく話をしなくてはと思考を切り替える。


「は、初めまして。私はランフィア・エルデ・ガルドレアよ。あの、貴女が着てる制服って」

「はい、主席のものです。編入時の試験で満点を取りましたので。ですが話によると、満点はもう一人居ると。なので私とその者が主席となり、異例では有りますが二人の主席が存在します」

「そんな事が起きるのね。もしかしてここに来たのは、引っ越せって言いにきたのかしら」

「いえ、そのような事は言いません。主席が二人いるのなら、主席の部屋で二人過ごせば良いのです。幸い部屋は広いと聞いております」

「っ⁉︎だ、ダメよ!もう一人の主席は男なのよ⁉︎」

「構いません。手を出そうものなら斬ります」

「そ、そういう問題じゃなくて…」

「家事の事なら御心配なさらず。私はあらゆる教育を受けております。掃除も洗濯も炊事も一通りは可能です」

「それは、もう一人の主席も完璧だから心配してないけど。男女が一緒に暮らすなんて危険だわ」

「過ちなど起きるはずもありません。私は自分の性格や態度が異性に好まれるものではないと自覚していますので」

「…どんな人でも強くて真っ直ぐなら受け入れるような奴なのよ、その人は」

「ならば好都合です。特に問題無く生活出来そうですね」

「わ、私の部屋で一緒に暮らしましょう!」

「駄目です。主席は主席に与えられた部屋で暮らすのが規則ですので」

「えっと…じゃあ、校長先生に言って規則を変えてもらうわ!」

「それが可能であるならば、私は規則に従うまでです」

「なら、部屋に入って待ってて。私が校長先生と話をしてくるから」

「いえ、私は当事者ですので共に参ります」

「そ、そう。分かったわ。皆に伝えてくるからちょっと待ってて」


 エミリア達に状況を話し、校長室へ行ってくると伝えて部屋を出る。


 ランフィア達は休みではあるが、学校は通常通りやっている。

 人目につかないよう道を選びながら校長室へと辿り着いた。


「校長先生、ランフィア・エルデ・ガルドレアです。今よろしいでしょうか」

「構わない、入ってくれ」


 中に入ると、書類作業をしているカトレスの姿が。

 ランフィアはシルヴィアを中に入れて扉を閉める。


「校長先生、編入生が私の所へ挨拶に来ました。それで、主席なので主席に与えられた部屋で暮らすと。つまりライルと一緒に生活すると言っていまして」

「シルヴィア・ウォレス・フロストです。試験ではお会いしませんでしたので、初めましてですね。宜しくお願い致します」

「し、シルヴィアだと⁉︎ちょっと待ってくれ」


 慌てて書類を漁り、編入生の事について書かれた書類を見つけたようだ。


(『編入希望者、フロストの試験結果が満点であった為、異例では有りますが主席を二人と致します』…なるほど、家名で書類が作られていたから気付かなかったのか…何にせよ、先生と同室というのは避けなくては)


「申し訳ないが、男女の同室というのは私も避けたい。部屋を新しく設けるか、他の女子生徒と同室になるかだが…」

「校長先生、それでしたら私の部屋で構いません」

「ランフィア君は良いのか?」

「はい。彼女は主席です。その実力には相応の部屋が与えられるべきであり、主席の部屋が使えない以上、次席の私の部屋が最も適していると思います」

「…フロスト君も、異論はないか?」

「有りません。私は決められた規則に従うだけです。その規則を担う校長先生が決められた事ならば従います」

「そ、そうか。ではすまないが、二人共宜しく頼む」

「「失礼致します」」


「…シルヴィア、か……先生…」


 校長室を出て寮に戻り、ランフィアの部屋へ荷物を運んでいく。

 と言っても、着替えが数着のみという必要最低限であった為すぐに終わった。


「じゃあ改めて、今日から宜しくねシルヴィア」

「はい。宜しくお願い致しますランフィア殿」

「な、なんか固くない?もっと普通に話してくれて良いのよ」

「生憎ですが、幼少からの教育によるものなので、これが私の普通なのです」

「そう…なら仕方ないわね。今パーティメンバーで喋ってた所だから、シルヴィアも一緒に話しましょう?」

「部屋の主であるランフィア殿がそう仰るなら」


 寝室に手荷物を置いてから、リビングで談笑しているメンバーの所へと向かう。

 ドラグ達はその純白な髪に見惚れていた。


「初めまして。私はシルヴィア・ウォレス・フロストと申します。正式な編入は来週からですが、ランフィア殿の御厚意により本日よりこちらで暮らす事となりました」

「初めまして!僕はウルガ、狼の獣人だよ。シルヴィアちゃん凄い綺麗な髪だね!」

「ありがとうございます。この髪は私の一族の象徴でもあります」

「俺はドラグだ。見ての通り竜人だが、宜しく頼む」

「……エミリア…人間…」

「ウルガ殿、ドラグ殿、エミリア殿ですね。宜しくお願い致します」


 あまりに固く他人行儀なシルヴィアに、四人ともどう接すれば良いのか困惑する。


「うぅ、ライル君が居てくれたら色々話を膨らませてくれるのに」

「ライル殿というのは、もう一人の主席の方ですね」

「えぇ、そうよ。今日は用事があって出てるみたいだけど、このパーティのメンバーなの。私がリーダーで登録されてるけど、実質のまとめ役はライルね」

「それに、俺達四人を鍛えてくれていてな。同い年とは思えない程の知識と強さの持ち主だ」

「…それは気になりますね。主席といえど定められた上限のある試験で満点を取っただけの事。本来の実力は試験などでは計れません。私とライル殿、何方が本当の強者か確かめてみたくなります」

「もうそろそろ門限だし帰ってくるとは思うけど、今日は戦えないわよ?」

「勿論です。門限とは部屋から出て良い時間の限界。つまり部屋から出る事も許されません。ライル殿との対面は明日に控えましょう。貴方達も、自分の部屋に戻るように」

「あ、はい」

「うむ、ルールは守らねばな」

「…またね…」


 全員帰り支度を済ませて部屋を出て行く。

 使った食器やら出したお菓子やらを片付けるランフィアを手伝いながら、シルヴィアが感心したように頷いた。


「全員真面目で良い事です。流石は主席、及び次席とパーティを組む方々だと称賛致します」

「大袈裟ね…でも確かに皆真面目よ、強くなる努力だって怠らないわ」

「分かります。ドラグ殿は常に翼に魔力を循環させ、ウルガ殿は周囲の匂いや音に気を配りながらも自らは一切音を立てない、エミリア殿はいつでも魔法を構築出来るように待機し、ランフィア殿は自分の魔力をコントロールする訓練を行いながら周囲の魔力を常に感知し続けている。学生とは思えない訓練です」

「…それを全部言い当てる貴女も、中々に学生離れしてるわね。それに、今言った全ての訓練メニューはライルが私達に常日頃からやるように言った事なの。だから凄いのは私達じゃなくて、ライルなのよ」

「より興味が湧きました。ライル殿に会うのが楽しみです」


 ランフィアはその時、初めてシルヴィアに感情らしきものを見た気がした。

 それと同時に、僅かな不安が胸の中に残り続けた。



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