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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第十三話


 夜の探索二日目。

 ドラグ達と交代の報告を終え、ランフィアと洞窟を出る。


「今日は森の奥ね。何だか雰囲気が違って見えるけど、大丈夫かしら」

「…ランフィア、今日は一緒に調査しようか」

「え?えぇ。良いけど…どうしたの?」

「ちょっと、嫌な気配がするんだ」


 昨日はこれ程明確に感じ取れなかったが、森の奥に闇属性の濃い魔力を感じる。

 俺達が来る事を予見していた?いや、そんな筈はない。誰が依頼を受けるかなど分からない状況で待ち伏せなんて愚策だ。

 となると、レッドウルフの出現に起因する何かがまだ森の奥にいて、俺達の調査が及ぶ事を察したか。


 ランフィアと森を調査しながら徐々に奥へと進む。

 闇の気配は濃くなっていき、ランフィアも流石に気付いたみたいだ。


「なに、この気配…」

「俺と殺気に耐える訓練をしておいてよかったね。今頃立てなくなってたかも」

「ライル、この気配が何なのか分かるの?」

「レッドウルフはどうやらただの駒だったみたいだ。この先にいるのはそのボスだよ」

「ボス…中級下位のレッドウルフを従えるって、最低でも単体で中級中位の魔物よね?皆を起こしてこないと!」

「まずは正体を確かめよう。皆でも勝てない相手なら逆に来ると危険だ」


 そろそろ姿が見えるな。

 月明かりに照らされた真っ黒な毛並み。赤く鋭い眼。そこらの木なら簡単に噛み砕きそうな牙。

 上級下位魔物、ダークウルフだ。


「ら、ライル…駄目よ、ダークウルフなんて勝てっこない!」

「ランフィア、洞窟に戻って皆を起こしてくれるかい?」

「そんなの駄目!ライルも一緒に行くわよ!」

「それじゃあ追い付かれる。皆を起こしたら全ての荷物を片付けて王都に戻る準備をしておいて」

「お願い、一緒に行きましょう?ライル一人を置いていくなんて嫌よ!」


 あんまり本気を見せてこなかったのが仇になったか。

 イマイチ俺の実力がどれくらいか分かってないな。まぁ隠してるから当然なんだが。

 それと、殺気の訓練も俺としかしなかったのも原因だな。本物の危険を前に少し冷静さを失ってる。


 あんまランフィア相手にこういう事はしたくなかったんだが…

 焦りすら上回る衝撃を与えなきゃ冷静にはなれないから仕方ない。

 ダークウルフから認識阻害している今の内にランフィアを逃がさないといけないからな。


 俺はランフィアを抱き寄せ、片手で髪を上げ額に口付けをした。


「良い子だから、皆を起こして支度しておいで。一人で行けるね?」

「…は、はい…」


 顔を真っ赤にしながら走り去るランフィアを見送り、十分離れたところで気配を戻した。


「何でこんな所にダークウルフなんかがいるのか知らねぇが、ギルドに持ち帰って調べる為にも倒させてもらうぞ」


【オリジンブラッド】:オリジン・血属性・中級魔法


血霧(ちぎり)


 腕を少し切って血を出し、それを霧状にしてダークウルフを包む。

 即座に霧から逃げたが、残念ながらもう決着はついたぞ。


「少しでも吸えば終わりだ。体内に入った俺の血がお前の自由を奪う。例えば、脳の血を操作したりとかな」


 脳がやられて無事な生き物はいない。そもそも脳が無い生き物もいるがそれは例外で。

 だから血中に溶けた俺の血を使って奴の血を操作し、脳の血を止めた。

 脳の機能が低下して体が動かなくなり、脳死状態になりその場に倒れた。


 アイツらが間違ってこっちに来る前に影に収納してっと。

 ここら辺の生態調査は俺らじゃくて専門の奴等の出番だろう。俺達の役目はこの事態をギルドに報告する事だ。


 洞窟まで戻ると既に支度を終えた四人が待っていて、俺の姿を見たランフィアが駆け寄った勢いのまま抱き付いてきた。


「ライル!良かった…本当に。ダークウルフにやられちゃったんじゃないかって…」

「大丈夫、派手な魔法で威嚇したら逃げたよ。俺達は一度王都に戻ってギルドに報告に行こう」

「あぁ。しかし本当によく無事だったな。ランフィアが戻ってきてダークウルフが出たと聞いた時には、最悪の状況を覚悟したぞ」

「俺はそう簡単にはやられないさ。勝つだけが戦いじゃないからね」

「はい!これライル君の荷物だよ」

「ありがとうウルガ」

「……行く…」

「そうだね、早く報告しないと」


 森を抜け暫くすれば舗装された道に戻り、すぐに王都に着いた。

 門番に事情を説明して通してもらい、ギルドへと入る。

 俺達学生用の受付に同じ説明をし、受付嬢がギルドマスターを連れてきた瞬間に魔法を発動する。


【オリジンブラッド】:模倣・無属性・中級魔法


思考念話(メッセージ)


『よう、久しいな』

『お久しぶりです、先生。まさか学生に紛れているとは』

『それはまた後でな。ダークウルフの死体を持ってきた。少し二人で話がしたい』

『分かりました』


「初めまして。私はこのギルドのギルドマスター、カナリア・アイル・エンテューロです。今回は我々の調査不足の所為で、皆さんを危険に晒してしまい申し訳ありません」

「そ、そんな…私達は何も。全部ライルが解決してくれたので」

「ライルとは、君の事か?」

「そうですが」

「ではダークウルフと直接対面した貴方には聞きたい事があります。他の皆さんは夜も遅いですし、今日は休んで下さい。学校にはこちらから連絡を入れます」


 俺一人だけ残る事に納得してない様子だったが、渋々四人がギルドを後にする。

 俺はカナリアの後に続きギルマスの部屋へ入り、応接用のソファに座って取り敢えず一息ついた。


「お疲れ様です先生。それで、何故学生などやられているのですか?」


 珈琲を煎れながらそんな質問をしてくるカナリアも、お察しの通り俺の元生徒だ。

 と、言いたいところだが学校時代の生徒では無い。

 カナリアはまだ30歳を超えたばかりだからな、その頃にはとっくにエイナイル王立高等学校になっていた。

 コイツは俺が家庭教師というか、専属で面倒を見た生徒だ。元々ギルドマスターの地位を継ぐと決まっていたから、それに相応しい知識や力を与える為にな。


 カナリアはかなりの努力家というか、言われた事は絶対に出来るまでやるタイプで、魔力操作を教えれば自在に操れるようになり、剣術を教えれば木剣で丸太を切断する程に極める。

 その甲斐(所為)もあってか、コイツは30歳を超えたとは思えない若さを保っている。


 切れ長の黒い目、ポニーテールに纏められた瑠璃色の長い髪。俺とほぼ変わらない180cm弱もある高身長。そして俺が知る女で最も女性の特徴が大きい。

 つまり胸がデカい。


 俺は何千年と生きてきた所為で、大きかろうが小さかろうが心底どうでも良いと思えてきたが、やはり他の女からすればアレは羨ましいらしい。


 おっと、質問されてたんだったな。


「特に理由なんかねぇよ。単に暇だっただけだ。それよりコイツを見ろ」


 テーブルの上にダークウルフを出し、魔力残滓の最も濃い場所を見せる。


「これは…脳に異様なまでの濃密な魔力。先生、もしやこのダークウルフは…」

「操られてたんだろうな。だが目的は俺じゃなさそうだ。誰が受けるかも分からない依頼で待ち伏せは現実的じゃない。これは実験に近いかもな」

「実験、ですか?」

「魔王討伐によって魔族軍の指揮は崩壊し、実質の壊滅を迎えた。だがもし、上位の魔物を洗脳し魔物同士で指揮が取れれば…」

「っ⁉︎それは、あまり考えたくない状況ですね」

「あぁ。そんな事が各地で起これば、とても人間には対応しきれない」


 幸いこのダークウルフは洗脳が完全では無かったようだ。完璧に洗脳されていたら、今頃王都に攻撃を仕掛けていただろう。

 レッドウルフを指揮せよくらいの命令だけが残り、あの森で通常の魔物として過ごしていた。というのが妥当か?


「発見したのが先生で幸運でした。他の冒険者ならば、倒せていたとしてもそのまま解体していたでしょう」

「こいつは預けるから、好きにしろ」

「ありがとうございます先生。それで、いつ結婚して下さいますか?」

「ブフッ…お前、いきなりすぎるだろうが。珈琲吐き出すところだったぞ」

「私は私より優れた男性と結婚すると決めており、その条件に当て嵌まるのは現在先生だけです。なのでこれまでも通算4回に及ぶ求婚をしてきました。いきなりではありません」

「そういう事言ってるわけじゃねぇよ」

「私では魅力がありませんか?確かに可愛らしい女性とは遠いと自覚していますが、体には多少自信があります。確かめて頂いても構いません」

「そこは構え…悪いが俺はまだ過去を吹っ切れねぇ軟弱者なんだ。アイツをまた見付けるまでは他の事には気を回せないんだよ」

「分かりました。では先生が過去を吹っ切れた際、私の条件に当て嵌まる男性が他にいない場合、再度求婚致します」


 …どいつもこいつも、もっと年相応に恋しろってんだ。

 なんでそんなにこの老人に執着するんだか。

 強さか?俺がこの国では一番強いからか?んなもん外に出れば俺に並ぶ奴なんて…

 えーっと()の俺くらいなら何人くらい居たかな。同じ始祖仲間に二人、英雄が一人…三人か、意外と少なかったな。

 しかも英雄は既婚、始祖仲間は姿が完全に人外種だから人間とは結ばれない。


 割と詰んでるな…強さが条件なら逃げきれないってわけか。

 いや、育てるという手も…駄目だ。育つまで何百年掛かると思ってんだ。

 その間にタイムリミットだろ。


 はぁ、もうこの話題はいいや。

 

「取り敢えず俺達の依頼は緊急事態につき討伐のみ達成。調査はギルドが引き継ぐ。その後の進捗は国王と連絡を取る。良いな」

「はい、分かりました先生」


 カナリアとの対談を終えて帰路に着く。

 明日から三日間空いちまったな。また新しい依頼を探さねぇと。

 

「先生!」

「ん?」


 校門の前でカトレスが待っていた。こんな夜中に何してんだコイツは。

 それと外で先生って呼ぶなよな。誰かに聞かれてたら面倒だろ。


「先程ギルドから連絡がありまして、ダークウルフが出たと聞きましたが」

「あぁ。今カナリアの所に脳死させた状態で置いてきた」

「流石先生ですね。それで、他の四人は大丈夫でしたか?」

「ランフィア以外はそもそも寝てたしな。ランフィアも間近でダークウルフを見たが、すぐに逃がしたから大丈夫だろう」

「ありがとうございます。念の為、先生のパーティーは療養という形で残りを休みにすると明日の朝に通達します」

「そうか。まぁ初めてのギルド依頼でダークウルフじゃ衝撃が強かったかもな」

「そういうわけですので、先生もゆっくり休んで下さい」

「ありがとよ。じゃあ早速寝させてもらうわ」

「はい、お疲れ様でした」


 自室に戻り今回の件を振り返る。

 あのダークウルフは間違いなく魔族の仕向けた奴だ。だがこんな近くにいて魔族の気配を感じなかったのは何故だ?

 もっと遠くからレッドウルフを引き連れてくる指示を受けていたとか?

 それに1日目の夜には感じ取れなかった気配。あれはただのダークウルフじゃないって事か。

 魔族の幹部は全て殺したはずだが、生き残った魔族からまた幹部クラスの力を持った個体が誕生した可能性もある。バハラムに知らせとかねぇと。


 翌日。休みを貰った俺達だが、俺は朝から寮を抜け出して王城に来ていた。用件は勿論昨日の事だ。

 今回はちゃんとした話をする為だから、最初から手順を踏んで王に謁見する。

 まぁ、他の奴よか早く会えるくらいには省略されてるがな。


「先生、よく来て下さいました」

「話は聞いてるな。魔族の生き残りが勢力を取り戻そうとしてると見て良いだろう」

「やはり、そうなりますか」

「同盟を結んでいる諸外国と協力して魔族の痕跡を探し出せ。但し、魔王討伐時代から同盟を結んでいる国だけだ」

「まさか先生は、同盟国の中に魔族に手を貸している者がいると⁉︎」

「可能性の話だ。まだ憶測段階なのに大々的に捜査したら怪しまれるだろ」

「分かりました。すぐに書面を出します」

「俺からは以上だ。急に悪かったな」

「とんでもございません!いつも先生には助けて頂いてばかりで…碌にお礼も出来ず申し訳ありません」

「よせ。俺がしたくてやってる事だ。この国は俺とアイツの夢が実現した場所だからな。出来る限り守りたいんだ」

「先生…あ、そういえば、近々先生の通う学校にあの方ーー」

「おじ様!」


 バハラムの言葉を掻き消すように謁見の間の扉が開き、俺を「おじ様」と呼ぶ唯一の存在が来た。

 

「マリア、私は今先生と大事な話をだな…」

「もう別の話題に変わりそうだったじゃありませんか。私だっておじ様に大事な話があるのです!」

「はいはい分かったよ。で、大事な話って?」

「はい!おじ様、私とデートして下さい!」

「な⁉︎」

「は?」


 デート?なんで今デートの話になる。

 確かに以前、大人しくしてたらデートしてやるとは言ったが、何故今なんだ。


「ま、マリア、先生はお忙しいんだ。お前の我儘に付き合っている暇は無いんだぞ」

「お父様は、私とおじ様をどうしてそんなに離したがるのですか。小さい頃はよく会わせて下さったのに」

「そ、それは…あの頃とは色々違ってだな…」

「それに、このデートはおじ様が約束して下さったんです!」

「せ、先生⁉︎」

「あー…闘技大会中に、生徒としての俺に絡まないって条件でちょっとな」

「ですから、おじ様は私とデートするんです!」


『すまんバハラム』

『いえ、元はと言えば私がマリアに、先生が学生に紛れていると話したからです。申し訳ありませんが、マリアの我儘に付き合ってあげて下さい』


「分かった。だが王女と知られぬようにだぞ」

「勿論です。ありがとうお父様!」

「あ、そうだマリア。これプレゼントな」

「おじ様が、私にプレゼントを⁉︎ありがとうございます!お父様!見て下さいお父様!可愛いピンクのワンピースです!早速着て来ますね!」


 この前サフィラとのデート中に買ったワンピースだが、全然渡す機会が無かったからな。

 嬉々として走り去っていくマリアを眺めながら、バハラムが脱力した。


「くぅ…あの笑顔を見てしまうとどうしても…」

「お前も大概親バカだよな」

「それと先生、態々マリアに贈り物など、ありがとうございます」

「まぁ、気持ちに応えられないなりの贖罪とでも思ってくれ」

(そのプレゼントが余計に先生に執着させるという事には気付かないのですね)


 さてと、それじゃ俺もデートの支度でもしますかね。

 今度は何処に連れて行けば良いんだか…




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