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吸血鬼の始祖は主席として学生を演じる  作者: 小鳥遊の園
第一章
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第十一話


 ギルド内に残っているパーティは少なく、俺達学生専用の受付も空いていた。


「やっぱり残ってるのは数日掛かる依頼ばかりね」

「慣れない夜営で実力が発揮出来ないかもしれないと、不安なのだろうな」

「問題無いよ。ちゃんと休めば大して変わらないから」


 依頼の中から内容と難易度を確認していく。

 出来れば討伐系が望ましいな。難易度はDかCランク向け。

 条件に合う依頼は…これか。


「三日掛けて森の中の生態調査、及びレッドウルフの討伐でどう?」

「えーっと…森にレッドウルフが棲みつき、生態系に影響が出ている。討伐し、今の森の生態を詳しく調査して欲しい」

「レッドウルフは確か単体で中級下位の魔物だったな」

「…複数…」

「基本数匹で行動するから、中級中位くらいにはなりそうだよね」


 特に反論は無かったからこの依頼で決まりだな。

 受付で受注手続きをしてもらう。本来ならギルドカードと呼ばれる登録証が必要なのだが、今回は体験ということで無くても大丈夫だ。

 丁寧に夜営の仕方と注意点を教えてくれるので、他のメンバーがしっかりと聞いている。


 手続きを済ませてギルドを出ると、他のパーティは右側に進み大型の道具店に向かっている。

 だが俺は反対側に進み、通りから離れていく。


「ライル、道具屋に行かないの?」

「今向かってるよ。皆が向かう道具屋じゃ、良い物が売り切れてる可能性もあるしね」

「こんな通りを外れた所に店なんてあるのか?見た事無いんだが」

「ちょっと特殊な店だから、普段は見付からないんだ」


 金額を気にせず良い物が欲しいという上級者は少なくないからな。

 そういった人間にだけ販売する店だから、一般人や学生が知っているわけがない。


「前にも思ったけど、何でそんなに詳しいのかしら」

「まぁそれは、俺が何者なのか分かれば納得出来るから、お楽しみってことで」


 それとさりげなく「前にも」って言ってるが、尾行してた事バラしてるぞ?

 無意識みたいだから敢えて言わないでおいてやるが。

 さて、着いたな。


「……ここ?…」

「え?でも、ただの壁だよ?」

「ちょっと待ってて」


 壁に触れて魔力を流すと、壁の一部がパズルのように細分化され、数字が0から9まで現れる。

 確かここの暗号は…


「3600405…っと」


 王暦360年4月5日に開店したからこの番号にしたんだっけか?

 暗号が分かり易いって?最初の魔力を流す段階で弱い奴には反応しないから大丈夫だ。


 ゆっくりと壁が動き、店の入り口が現れる。

 中に入ると、一目で質が良いと分かる道具が並んでいた。相変わらず良い仕事をしているな。


「いらっしゃい。何でも見ていきな」


 店の奥に座っていた一見無愛想な髭の生えた男が声を掛けてくる。

 当然俺の事も知っているが、俺が誰かと一緒に来た時は知らない振りをしてくれるんだ。


「これから三日程夜営を挟む依頼に出るんだけど、何かオススメはあるかな?」

「ちょ、そんな聞き方して大丈夫なの?」


 奴とは数十年の付き合いだ。敬語なんて使ったら気持ち悪いとか言われるぞ。

 まぁ、こんな口調で学生やってる時点で思われてるかもしれないがな。


「なら、まずこのカンテラだな。火をつけると中級上位までの魔物除けの匂いを発する。次に水筒だ。見た目は1L程度の大きさだが、拡張魔法をかけてあるから30Lは入る。調理器具ならこれだ。用途に合わせて形が変わるから、煮る・焼く・蒸すと何でも出来る。最後に寝袋だが、これは中に入った者の大きさに合わせてサイズが変わり、体温を測定して常に快適な温度を保ってくれる」


 自分の作った道具の事になると饒舌になるのは先代と同じだな。

 だが腕は確かだ。今みたいな道具なら大型店にもありそうと思うが、耐久性や使用した時の快適さが段違いなんだ。


「なら、カンテラ2つ、水筒5つ、調理器具1つに寝袋5つ。あと細かい調理器具もつけてよ。包丁やフライ返しとかに形が変わる万能道具あったでしょ」

「覚えてたか。あれは作るの苦労するからあんま言わないようにしてんだがな。まあいい、1つだな?」

「うん、いくらかな?」

「全部で105万エインだ」

「「「「!?」」」」

「じゃあここで」

「…口座の名義はいつもの名前で良いんだよな?」

「もちろん」


 始祖として作った口座じゃなきゃ流石に金無えよ。

 前の服屋でも銀行払いにしてるが、これは俺が信頼してる奴にしかさせない。ソイツが銀行に俺の買った物を申請して金を受け取るんだ。


「毎度。またいつでも来い」

「ありがとう」


 商品が全て入った拡張袋を受け取って店を出る。

 他の四人が放心してるが取り敢えず歩けはしたようだ。


「ちょっと待って。あんなお金どっから出てくるの?」

「というか、全て買ってもらってしまったのだが」

「お金の事も正体に関わるから秘密だね。だから皆は気にせずに使って。終わった後はそのまま持ってて良いから」

「…ありがとう…」

「ありがとうライル君!」


 それから三日分の食料を買いに市場へと来た。

 全員寮生活だから料理は出来るらしいが、買ってくる方が多い奴もいるからな。

 因みにこのメンバーでは俺とランフィア、エミリアが料理出来る組、ドラグとウルガは簡単な料理だけ出来る組だ。


 さっき買った物が入ってる拡張袋をコッソリ改造して更に拡張する。

 そこへ三日分の食料、食器や洗剤などの小物、その他必要な物資を入れていく。



「さて、準備も出来たし出発しようか」

「森に着いたらどっちからやるの?」

「この場合は討伐が先かな。調査中にまた生態を狂わされても厄介だしね」


 王都の東門から出て舗装された道を歩く。

 途中から舗装が無くなり、馬車が通った跡が残る地面になった。

 王都から依頼の森までは10km強だから、今日中に討伐まで出来るだろう。


「ライル、森での戦い方の注意ってあるかしら?」

「何よりも地形に気を配る事。足下には木の根や大きな石があってバランスが崩れるかもしれないし、木が邪魔になったり、その木を使って相手が予想外な動きをしてくるかもしれない。だから今までの訓練より集中して周りを見るようにね」

「ただでさえ連携中は互いの動きを常に意識していたのに、更に意識すべきものが増えるのか」

「僕はいつもみたいな全速力が出せないから、感覚が狂いそうだなぁ」

「…難しい…」


 環境が変われば戦い方が変わる。戦い方が変われば使用出来る魔法が変わる。

 そうやって一つ一つ体で覚え、経験として記憶に残すことが、今後の自分の糧になる。

 確かに今回の依頼は良い訓練になりそうだな。


 会話をしながら歩き続け、昼過ぎには森の入り口へと到達した。

 何やら他の四人が完全に戦闘態勢に入っているんだが、こんな浅いところに中級魔物が居ると思ってるのか?


「まだレッドウルフが出てくるような所じゃ無いよ。まずは拠点に出来る場所を探そう」


 ちょっと恥ずかしそうにしてる四人を連れて森へ入る。

 水辺に近過ぎても危険だし、遠過ぎても不便だ。程よい位置にあって周囲を警戒しやすい場所は…


「この洞窟にしようか」

「え?でもギルドのお姉さんが、『洞窟は入り口を魔物に塞がれたら逃げられませんから、避けて下さいね』って」

「それは魔物に見つかったらの話だから、こうすれば大丈夫」


【オリジンブラッド】:模倣・闇属性・中級魔法


「【幻影】」

「ど、洞窟が見えなくなっちゃった⁉︎」

「魔法で入り口を隠したのか」

「そういうこと。匂いとかは近くにくればバレるだろうけど、そこまで近付かれたらこっちも気付くから、不意を突けば良いしね」

「ギルドの注意が意味ないじゃない」


 百聞は一見に如かず、とはいうが、何よりも経験だ。

 誰に何を言われても、自分が経験して学んだ方がより有益なものなんだからな。

 駄目だと言われた場所だろうと、工夫すれば最適な場所になる。


「じゃあ荷物を整理して、レッドウルフの討伐に行こうか。ここからはランフィアの指揮で動くからね」

「分かったわ。食材は匂いで魔物が来るかもしれないから、寝袋とかの道具だけ置いていきましょ。ライルは荷物を仕舞ってくれる?」

「了解だよ」


 俺に空間魔法があるのは前に転移したのを見て知ってるだろうからな。

 だがそれも見てたのバラすことになるって気付け。


「訓練と同じ陣形で進むわ。但し今回は後ろにも注意して進む必要があるから、ウルガは前方、エミリアとドラグは後方を、私とライルで左右を警戒よ」


 ランフィアの指示に従って森を歩く。ウルガは地面や木の根を踏みながら感覚を掴もうとしてるのか。

 いざという時、想像と違ったなんて事になれば危険だからな。今は実戦中だから褒められないが、偉いぞ。


 10分程歩いた時、前方200m地点にレッドウルフの群れを感知した。向こうはまだ気付いていないが、それは俺以外全員にも言えることだ。

 近付きながらそれとなく注意喚起しておこう

 

「皆、いつ出てきてもおかしくないから、動けるようにね」

「あっ、100mくらい先にいる!」


 ウルガが小声ながらも全員に聞こえるように伝えたことで、より方向性を定めて警戒出来るようになったな。


 ランフィアは剣を抜きながら魔力を練り、ドラグは翼に循環させ、エミリアは詠唱していつでも発動出来るようにしてる。

 俺も一応前衛だし、コイツらとの共闘も初めてだからな。安心出来るように武器を持っててやるか。


【オリジンブラッド】:オリジン・血属性・性質変化


【血晶刃:刀】


 血の鉄分を変化させて武器を作る魔法だ。俺は昔の友人から教わったこの刀って武器が割と好きでな、結構狩りでは使ってたりする。


「ウルガ、ライル、私達が魔法使ったら左右に分かれて二人で挟み撃ちして。エミリア、ドラグ、ウルフ系は身体能力が高いから跳躍も得意よ。広範囲魔法を上に展開して平面でしか動けないようにお願い」

「承知した」

「…ん…」


 良い作戦だ。逃げ道を絞ったところに左右と前の三方向から畳み掛けるか。一つ懸念材料があるが、これは解決出来ることじゃねぇからなるようにしかならん。

 そして木の隙間、視界に入る位置にレッドウルフ5匹の群れを捉えた。


「今よ!」

「【サンダーレイン】」

「【激流壁】」


 ドラグの放った無数の雷が空中で待機状態になり、エミリアの水の壁が退路を塞いだ。陸の動物や魔物ってのは動きの鈍る水中を嫌うからな、良い手だ。

 

 ウルフの前方には炎を纏った剣を構えたランフィア、左右は俺とウルガの挟み撃ち。綺麗に決まると思ったが、レッドウルフ達が一斉にウルガを向いて突撃する。

 やはり懸念していた事が現実になったか。


 コイツらもウルガと同じ、いやそれ以上に匂いに敏感だ。敵の強さを匂いで判断し、ウルガならばこの数で押し切れば突破口になると踏んだわけだな。

 だが…


「悪いけど、背中を向けられて何もしない程、俺はお人好しじゃないよ?」


 刀で最後尾のウルフの背中を攻撃する。一撃で始末する事も出来るが、俺がやっちゃ意味ないからな。軽く傷を負わせる程度で良いだろう。


 攻撃されたウルフは方向転換し俺に向かってくるが、その頃にはランフィア達の詠唱は完了していた。


「【炎蛇の剣】」


 ランフィアの剣が纏っていた炎が蛇の形に変わり、縦横無尽にウルフ達を攻撃する。

 その後ろから氷の矢と雷の矢が雨のように飛んできた為、ウルガは一度距離を置いた。

 確かにこの魔法の中で敵に接近して攻撃するのは難しいだろう。だがそれが出来てこそのチームワークだぞ。手本を見せてやろう。


「ちょっ、ライル⁉︎危ないわよ!」

「構わず続けて、大丈夫だから」


 急に進路を変える炎の蛇、ウルフの顔や足を狙った低弾道の矢。その全ては魔法だ。なら魔力を感知して全て避ければ良い。

 時には体を捻りギリギリの距離で避けたり、時には跳躍して上から攻撃の穴を見つけそこへ降り立ったり、その間に近くのウルフ達を斬り付けていく。


「なによあれ」

「俺達に合わせられると言ってたいたが、これ程とはな」

「ライル君凄いよ!僕も見習わなきゃ!」


 魔法が止み一旦下がる。今度はウルガが猛攻を仕掛け、その援護を後衛達がする形だ。

 数分もすれば、レッドウルフは全滅していた。

 俺は攻撃はしても行動出来なくなる程の攻撃はしてないからな、実質コイツらの手柄と言って良いだろう。


「魔法の中に突っ込んでいったと思ったら後半は傍観してるし、結局私達の訓練用ってわけね」

「そういう事。ランフィアの指示は的確で良かったよ」

「ありがとう。まだ空は明るいけど、どうしようかしら」

「生態は朝、昼、夕方、夜、深夜でも変わるからね、出来る時にしておいた方が良さそうだよ」

「ならそうしましょ。えっと確か…この資料に書かれているのが以前の生態マップよね。多分今ここら辺だから、草や生き物に変化が無いか比べながら歩きましょう」


 ランフィアが全員に配った資料は言った通り以前の生態が書かれたものだ。例えば今いる場所は、薬の材料になる魔草と食料になる野ウサギが生息していると書かれている。

 だが実際は魔草は生えておらず、ウサギどころか小動物1匹いやしない。

 こんな風に、レッドウルフが現れた事で変わった事を調べていくのが今回の依頼だ。

 さっきも言ったが、生態は草花以外は時間でも変化する。一度調べたから良いではなく、時間を変えてすべて調べる必要がある。

 依頼期間が三日もあるのはその為だ。

 

 幸いそこまで広大な森でも無いからな、三日間昼夜交代制で調査すれば間に合うだろう。





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