そして選抜戦へ(2)
今日から選抜戦が開始する。
選抜戦はチーム戦だ。
ある程度格チームの戦力が均等になるように能力値を基準に人員を配分する。
そうしてできた4人チーム同士で、ランダムな組み合わせで対戦を行う。
個人戦や団体戦と違い、町一つ使ったかなり広い範囲での戦闘になる。
競技場で行わないため、観客なんかはいない。
しかし、あらゆる場所に設置されたカメラから、テレビ放送が行われることになってる。
ユニット戦は即席のチームでどれだけ戦えるかが重要になってくる。
ギリギリまでチームが分からないから、試合開始前の短い時間でかなりの情報をやりとりしなければならず、さらに戦闘の方針や敵の行動予想を戦闘中に行わなければならない。
「日溜と同じチームだったら一番楽なんだけどな」
「私が一緒にいるデース」
「だな。まあそれは助かる」
同じチームの者は同じ集合場所に集められる。
俺とティナは同じ集合場所だった。
だから同じチームだ。
俺の予想通りになったわけだ。
「ついでに日溜も一緒だったら、結構楽できたんだけどなぁ」
日溜に聞いたら違うと言われたから違うのだろう。
日溜とは戦いたくないんだよ、強いし能力厄介だしティナいなかったらまず勝てないし。
集合場所の建物に着くと、他の2人は先に来ていたらしく、中から気配がしている。
俺、メールもらってからすぐに出たんだが……
それだけこの試合に本気ということか。
扉を開けると2人の視線は俺たちに集まる。
「なんでテメェがここにくんだよ」
俺の顔を見た途端に不機嫌になったそいつは、聞こえるように舌打ちして顔を逸らす。
「お前、大曽根か?」
「先輩、知り合いデス?」
「ああ。そいつは大曽根。中学が一緒の負け犬だ」
俺がそう言ってやると、机に手を叩きつけて立ち上がる。
背が伸びたな。
180はあるだろうか、そいつが俺の前に立ち、視線を下げて威圧する。
「テメェ、クソ雑魚のくせに何こんなとこにきてんだ?紫の無能が」
「お前、その無能な俺に負けたこと、忘れてないか?」
「それは4年前の話だ。今でも自分が勝てるなんて思わない方がいい」
俺に威圧が過ぎたので、少々ティナがお怒りだ。
俺はそのティナをなだめるように頭ポンポンする。
なかなか落ち着いてくれないな……
「えっと……」
1人気まずそうにする女性。
勝手に盛り上がってしまったからな。
「失礼。俺としたことが、久しぶりに会ったにっくきクソ野郎相手に感情的になってしまったようだ」
「一緒に闘う仲間同士ですから、喧嘩しないでくださいね?」
仲間なんて意識は絶対にありえない、がまあ、そんなことを言って面倒な口論を始めるつもりはない。
「そうだな。まあ、ほどほどに真面目にやるさ」
「いらねぇよ。無能の力なんて借りなくても、俺がどうにかする」
そんなことを大曽根が言い出したことで、再びティナが怒り出してしまった。
「ねえ、先輩?この人、思いっきり殴ってもいいデース?」
「落ち着け。お前が全力で殴ったら、それだけで人は死ぬからな?」
頭ポンポンしてもなかなか収まってくれない。
「だから喧嘩しないでくださいって!」
苦労をかけそうだな。
「せいぜい囮、がんばれよ」
そう吐き捨てて部屋を出て行った大曽根を見送る。
「ちょっとッ⁉︎」
女性は出て行った大曽根を追いかけようとしたが、俺たちを振り返ってどうしようかと迷い、結局追うのは諦めた。
「はああぁぁ……」
女性は項垂れて大きな溜息を零すと、そのうんざりした顔のままで顔を上げ、俺の顔をしばらく眺めてまた項垂れる。
「はぁ……とりあえず、自己紹介だけしておきますね」
困った様子しかないその人は、そう言って顔を上げる。
「私は野並。野並鳴芽です」
野並さんな、うん、多分覚えた。
「俺は派世広人。で、こっちが」
「ティナデース」
「派世さんにティナデースさんですね」
「ティナだ。デースは名前じゃない。助動詞だ」
「あ、ごめんなさい。ティナさんですね」
ティナは大仰に頷いてみせる。
やっぱりね、ティナはこのアホっぽさが可愛いんだよ。
小動物的なところもあるしな、やっぱり可愛いが最適な言葉、というか、むしろ可愛いという言葉がティナのために生まれたまである。
野並は早速ティナのそんな子どもっぽい仕草に心を打たれている。
おいおい、そんなんじゃリーラを見た時心が打たれるなんてもんじゃ済まんぞ?
あれ?リーラにも可愛いってぴったりだな?
だったらやっぱり可愛いはティナのために生まれたわけじゃない?
うーん……?
なんて、自分の勢い任せの思考を真面目に分析しだした俺は、可愛いという言葉の汎用性を理解したところで考察をやめる。
「あの人のこと知ってるみたいでしたが、どんな人なんですか?」
「ふっふーん……」
知ってる風にそんなことを言うティナ。
黙って見とこ。
「先に話していた感じ、別に悪い感じの人ではなかったんですけど、あの人と何かあったんですか?」
しばらく思わせぶりに沈黙を保ったティナ。
ティナは閉じていた目を突然カッと見開き、そんなティナに野並は息を飲む。
「知らないデース!」
「ぶふー!」
つい吹き出してしまった。
「し、知らないんですね……」
困ってるというか、呆れてるというか、そんなどちらとも取れる曖昧な表情で俺に顔を向ける。
「どうして笑うデスカー?」
一切ふざけたつもりのないティナは、そう俺に真剣に訊いてくるが、そんなことに答えるのは面倒だし、説明が難しすぎるからパス。
「いやぁ、済まない。これでティナは真面目なんだ、許してやってくれ。で、あいつ、大曽根のことだったな」
今から4年前、中学1年の頃だな、その頃に俺と大曽根はかなり揉めた。
その件を端的に説明するのであれば、あいつはいじめっこの誘拐犯、ということになる。
しかし、本質的なところを俺が知らない以上、そんな表面的なところだけを語ったってしょうがない。
「一つ言えるのは、あいつと俺は盛大に喧嘩した、それだけだな」
「どんな喧嘩をしたらあそこまで不仲になるんですか……」
想像することさえ嫌になったらしい。
野並の言葉はもう疑問でもなく呆れでもなく、諦めに近いニュアンスに変じていた。
「まあ、ちょっとな……」
「先輩何かされマシタカ?」
「俺じゃない。日溜とその妹、あと夢花がされたんだ。あいつも被害者っちゃあ被害者だしな、非がないとは言わないが」
選抜戦どうしようと先行き不安に頭を抱える野並。
「あー……まあ、そんな悩むことないって。俺がなんとかしてやるから」
「……失礼だけど、階級は?」
階級は本来あまり人に語るものじゃないからな、それを承知で訊くということはかなりの勇気が必要だ。
まあ今回一緒に闘うことになったわけだから、ある程度能力に関して知っておきたいというのは当然のことなんだが。
「紫だ。当然無能力者な」
「ふーん……」
とりあえず訊いてみたというような、そんな様子だったから、反応もそうなんだ程度のものだ。
だが、少しして俺の発言に疑問を持ち始め、やがて表情から冷静さが欠けていき、目を大きくしていく。
「……ええッ⁉︎」
机に手を叩きつけて立ち上がった野並が、食ってかかるような勢いで俺に詰め寄る。
「ええッ⁉︎なにそれッ⁉︎えッ?どういうことッ⁉︎」
「うちの校長に訊いてくれ。あれが俺を推薦したんだからさ」
「えぇ……」
うちのティナが何かスマホをいじり出したと思ったら、その画面を野並に見せつける。
胸を逸らしてふんぞり返っている。
これでもかってくらいのドヤ顔だ。
え?なに見せてるの?
「これ、個人戦の動画?」
ああ、先日の俺の個人戦動画な。
たしかにあれを見せれば一発で俺が推薦された理由を理解できるだろう。
「え、嘘ッ⁉︎なにこれッ⁉︎こんな闘い方……ええッ⁉︎」
「ふっふーん……先輩は強いデース。カッコいいデース。どうデース?惚れたデース?」
「あ、うーん……惚れたん、ですかね?」
「ダメデース!惚れちゃダメデース!」
「ええぇ……」
ティナは何が言いたかったんだ。
「えっと……2人は付き合ってるんですか?」
「……//」
「照れんな。付き合ってないぞ」
誤解のないようにちゃんとそこは言っておく。
「え、でも……はい。じゃあそういうことにしておきますね」
なぜそんな話になったのかは知らないが、話を戻すつもりはあるようだ。
まあ試合までにとりあえずの方針を決めておく必要があるからな。
「えっと、この動画って、CGじゃないですよね?」
「いったい何の動画を見せたんだ?」
ティナにそれを見せてもらう。
「っておい!これ俺の着替え映像じゃねぇか!」
「あ!見せるの間違えマシタ!」
「ちょっおい!消せ!動画消せ!」
「嫌デース!絶対に消さないデース!」
俺は室内でティナを追い回す。
能力と吸血鬼の身体能力を駆使して逃げ回るティナを、俺は暗技を駆使して部屋中を素早く飛び回る。
何とかしてティナを捕まえないとな。
「2人とも、何してるの?」
「あはは……」
「待ておらああああ!」
「落ち着いて!」
なんでこんなに血を蓄えてるんだよ!
ティナが予想外に血を蓄えていたせいで、機動力が高過ぎて捕まえられない。
無理だ、諦めよう。
なんて机に片手で着地して、跳ね上がって普通に床に着地し直す。
「元気ですね、あなたたち」
ティナが後ろに戻ってきたとき、俺はその頭に優しくゲンコツを落とす。
「後で消しとけよ」
「デース!」
絶対消さないな、こいつ。
「あれだけ動いて息一つ上がって……あなた何者なんですか?」
「さあ?」
「って、ああもう時間!」
「なら、始まってから戦略を練ろう。なんとかしてやる」
「今のを見たら信じるしかありませんよね」
「あ、敬語はやめてくれて構わないぞ?」
「そう?ならやめるけど」
さて、移動しながら色々と情報交換だ。
机の上の支給品をもらって、その内の1セットをティナに投げ渡す。
やっぱりこれで綺麗になくなった。
大曽根は闘う気満々ってことだな。
「へぇー。あんた、年下だったんだー」
「年上だったのかー」
大学3年生らしい。
うちの担任より年上だな。
野並の能力も聞き適当に戦略を立てる。
選抜戦、それぞれのチームは街の反対からスタート、お互いのチームにはフラッグが用意されており、それを奪った方が勝ち。
また、敵チーム全てを全滅させても勝利できる。
相手選手が降参と言うか、配布された腕輪が戦闘不能と判断した場合にその選手は敗退となる。
当然だが、そのチームが勝てば敗退した選手は次の試合に出られる。
「フラッグを奪う方法、なんか考えてある?」
「いいや。どうせ大曽根が何とかするからな。迎撃のことだけ考えておけばいい」
背中にティナを乗せて、目的地に辿り着く。
フラッグの場所はお互いに知られている。
フラッグは移動させられるが、フラッグを誰か1人がそばで守るのが定石だ。
だが、今回は4人で作戦を共有できてない都合上、どうしても選択肢は限られてくる。
一番守りに適しているはずの大曽根が、非協力的だからな。
ならどうするか。
大曽根は弱くない。
一応階級は黒だから、あいつに遊撃させておいても十分に成果を上げてくれる。
だったら、俺たち3人は防衛に回っても問題ないはずだ。
「お前は階級赤だから、遊撃に行っても大体勝てるだろう。だが、待ってればくるものをわざわざ出向いたってしょうがないだろ?」
「あーね。じゃ、とりまそれでいっとこうか」
敬語をやめたらかなり雰囲気が変わったな。
そうしてくれと言ったのは俺なんだけどな?
「あーしあれのこと知らんから、あんたがそう言うならそうなんだって納得するしかないし?」
指示に従ってくれるなら、俺が目立つ必要なくて助かる。
選抜戦、これまでの出場選手の階級は、全てが緑以上の階級で構成されていた。
参加条件は、中高大専門短大各学校から推薦を受けていること。
推薦を受けたら基本的にはそのまま参加になる。
まあ、かなり有名になるし、参加するだけでも後の就職でかなり顔が利くようになる。
これまでに断った人の話を聞いたことはない。
当然学校の顔として出場するから、階級の高い生徒ばかりが出場する。
俺のチームも、平均的に見れば他のチームと大差ない階級値になっているはずだ。
俺がとんでもなく低いからな。
他のチームのメンバーそれぞれと比べれば、破格の性能を持つ能力者たちがいるパーティーなわけだが、だからこそチームワークが取れないというのはよくある。
誰も彼もが自分本位に行動してしまうからな。
だが、ティナはそんなことないし、野並も強調を大事にしたいようだ。
目的が果たせるまで付き合ってもらえそうで何よりだ。
俺達は防衛するフラッグの建物、そのすぐ近くからスタートする。
「あの人、来なかったな。まあ、別にいンだけどね。あんたいれば勝てるっぽいし」
投げやりだな。
「あいつ来てるぞ?」
「は?」
「もういなくなったけど」
「それ、本当にいたの?」
「ああ、向こうの通りにな。すごい速さでどっか行ったから、多分能力で移動したんだろ。俺の知る限り、そんな使い方のできる能力じゃなかったんだがな」
別の使い方を見つけたってだけだろう。
「さて、俺達も動くとしようか。敵もすぐに来てくれるだろ」
そう言って待つこと数分、想像通りに2人がここまで辿り着いた。
支給の端末で戦況を確認すると、もうすでに1人は倒されていた。
ふむ、敵は焦っているだろうな。
相手は入り口で入るのを躊躇っている。
当然監視されていることは想定しているだろう。
感知能力がいないのか、1人が中に突入してくるが、俺たちがいるのは二階、安全を確認したのかもう1人も突入してくる。
なんだ……感知能力者いないんだ。
「ティナ、十秒後階段」
ティナを後ろから抱くような体勢で待ってた俺は、それだけ指示する。
俺の指示通りに十秒後に罠が起動されて悲鳴が聞こえてくる。
2人ダウン。
それが端末に送信されてくる。
「はい、終わり終わり」
端末を見て驚愕していた野並とは対照に、俺たちはそれが当然であるように勝利を確信し、すでに帰るつもりでいる。
しばらく端末を眺めていた野並のもとに、新しい情報が入ってくる。
それを見て再び目を剝いている。
「言ったろ?迎撃のことだけ考えておけばいいって」
「その倒し方って……」
「相手選手が浮かばれないなぁ〜」
「私と先輩が揃えば負けマセーン!ふっふーん!」
俺の体質がバレないためにティナと密着していた俺がティナから離れると、今度はティナが俺の背中にくっついてくる。
というかよじ登ってくる。
またおぶる体勢になってしまった。
「君、本当に能力者じゃないんだよね?」
納得できない様子だな。
「ああ。実際ティナがすごいだけだ」
「そうは言うけど、あんなこと普通できんし、あんた普通じゃないって自覚、持った方がいいよ?」
「持ってる。持ってるからカメラの映らない場所でティナに能力を行使させたんだよ。こんな短期決戦は、これまでの選抜戦で一度だってなかったからな」
「なんだ、すっごい考えてンのね」
相変わらず引かれ気味な俺。
あそこまでの感知性能は赤以上の能力者とかじゃないと、普通に意味が分からないからな。
「さて、予想通りにあいつは迎撃に回ったわけだが……これからはお前も迎撃に行っとくか?」
「えっと……防衛は2人切りってこと?」
「そうだな。ちなみに、防衛にいる限り出番ないぞ?」
「うん。それはよーくわかった。でも、あーしの知らないところで、2人でのんびりイチャつかれンのもシャクだしなぁ」
「なんだったら、一緒に行ってやろうか?ティナなら1人でも4人くらい余裕だしな」
「なにあんた、そんな可愛い子こしらえといて、あーしまで狙ってんの?」
「そんなつもりはない。そもそもティナと付き合ってないから、こしらえといてって表現はおかしい」
「そんな密着しといてその嘘はないわー」
嘘じゃないんだけどな。
「お前の能力も感知性能高いし、俺が遊撃に出ても良さそうだが、その場合指示出しがな」
「あー……あーしが遊撃するわ」
「ついていこうか?」
「いーよ。あーし一人で。心配してくれンのは嬉しいけど。ほら、あーしって階級高いから、心配されることってあんまないンだよねー。だから、ケッコー嬉しいよ」
選抜戦1試合目終了。
選抜戦には優勝という概念がない。
敗北したチームはそこで終了にのるが、勝利したチームも3試合で終了になる。
1試合に時間がかかることと、チーム数がかなり多いことが理由だ。
明日に2試合目が行われるので、それまでの自由時間はティナを背負ったままだ。
八田月からの連絡をもらったが、結局推薦選手の情報は手に入れられなかったらしい。
非常に残念だが、別の筋から一つ朗報があった。
「おう、実」
帽子で髪を隠し、メガネをかけて印象を変えているが、間違いなく実だ。
俺に呼ばれてパァッと表情を明るくしたかと思えば、次の瞬間にはぶっすぅ〜と頬を膨らませて不機嫌を表現する。
「俺の後ろに視線を向けているが、何か気になることがあったか?」
周囲の視線を集めてやまないティナに視線を向けていることは分かっているが、もしかしたら別の何かを見て不機嫌になっているのかも。
「その子、誰?」
まあそうだろうな。
暗技で分かってたんだけどな?
「ティナだ。俺の後輩。可愛いだろ?」
「ティナデース。どうしてほっぺた膨らませてるんデスカ?そんなハムスターみたいなことして先輩の気を引こうとしても、簡単に先輩は落とせないデースよ?」
「言っておくが、俺小動物好きだからな?」
「オーウ、それは困ってしまったデース。それでは私は、コウモリのようにかわいく血を吸って先輩の気を引くヨー」
首に牙が刺さり、ちうちうとこれまで出したことのない音をさせて血を吸い出したティナ。
不機嫌は治ったけど今度は困惑の色を強めた実。
ティナのマイペースっぷりには俺も打つ手がないんだよ。
諦めてくれ。
「せめて私の挨拶を聞いてから、そういうことしてほしかったな」
「ティナはいつもこんな感じだ。俺にもどうしようもないんだ」
「それ、本当に血を吸ってるの?」
「そうだな。割としんどいんだよ」
さて、やっぱりティナが目立っていたので場所を移す。
今はどこも人がいっぱいだからな、移動するにしても場所が限られてくる。
というわけで、俺たちは実の家にお邪魔することになった。
「あ、そういえば挨拶を忘れてたね」
ティナにはさっき名乗っただろ?
移動中にティナに名乗ったが、ティナは俺の首から口を離すことなく頷き、握手を求めていたな。
相手が相手なら無礼だと怒り出してもおかしくはない対応だ。
注意するのが普通だろうけど、ティナだから注意してもなぁ……
そんなどうでもいいことと並列して挨拶について考えていたが、やっぱりよく分からない。
「で、挨拶って?」
「好きだよ」
「ごめんな?」
急にそう言われると、いつも通りにそう返す。
いつも通り……?
「……これが挨拶?」
「うん」
そんな挨拶を俺がされてから、首筋にものすごい痛みが走っている。
ティナの牙が肉に深く食い込んで、他の歯も噛みちぎらん勢いで肉を潰している。
「ティナ?」
俺が名前を呼ぶと、歯を離して背中から降りる。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
「あ、うん。そういうことね。そうだとは思ってたけど、やっぱりかー」
睨み合う二人。
ティナのやつ、自分の血液タンクが取られると思って焦っているのか?
なんて、そんなわけないんだよなー
そして二人はがっしりと固く手を結んだ。
「やっぱりまずは」
「強敵を倒すことが先決デース」
なにを意気投合したんだ、こいつらは……
なんか急に仲良くなり出したから、俺は少し部屋を探ってみるか。
そう思って気配を消し、台所に真っ先に向かう。
調理器具とかもろもろの確認ね。
他の人が何を使って調理してるかって気にならない?
「あれ?広人くんは?」
「せ、先輩が消えたデース?」
台所きれいにしてるし、食器の置かれてる状態を見るに、普段から料理をしているようだな。
働きながら、学校に通いながらの自炊、無理してないだろうな?
まあそんな様子があれば暗技使いの俺には感じ取れるので、さほど心配する必要はないんだが。
「えっと……何してるの?」
「普段どんな生活してるのかなーって、気になってな」
「私のこと知ろうとしてくれるのは嬉しいけど、あんまり見られると恥ずかしいよ」
「ああ、悪いな」
友人が普段どんな生活を送っているのかって、やっぱり知っといた方がいいよな。
無理しているなら支えてやれる、そんな間柄なんだからさ。
立ち話もなんだと椅子に座らされる。
実がベッドに腰を下ろし、ティナが俺の膝に腰を下ろして、ようやく本題に入る。
「私のチーム、少し変わった人がいたんだ」
実も選抜戦に出ることは聞いていた。
それに関しての呼び出しだとも聞いていた。
そしてこの切り出し……
実は状況判断に優れており、それは同時に洞察力も高いということを表している。
「なんて言ったらいいんだろ……広人くんに似てる、でいいのかな?」
俺は携帯していた写真を見せる。
「こいつか?」
「うん。この人。名前は教えてくれなかったから、ごめん。分からない」
俺たちが怪しいと睨んでいた、ティンダロスかもしれない人物。
「とりあえず気付いてないフリをしてたんだけど、もしかしてこの人が、広人くんの追ってるっていう?」
「ティンダロスの可能性がある人物、だな。なぜ選抜戦に出ているかは分からないが」
さまざま思考を巡らせて、しかしその全ての可能性が根拠として弱いと保留されていく。
「それで、チームの采配ってどうなってる?」
「二人で防衛、二人で攻撃って配分してる。私は攻撃、この人は防衛だから、あんまり合うことはないかな。とりあえず1試合目は、防衛の方に人がいかないよう、私一人で相手のアタッカーを三人倒しておいたよ」
いい選択だ。
こいつに仕事させなければ、それだけでかなり安全になるからな。
チームメイトにはよっぽど危害を加えないだろうし、問題の敵チームも実がなんとかしてくれるなら安心だ。
やはり状況判断が的確だな。
「変わらずにそうしておいてくれ。俺以外のチームと当たっていればな。俺と当たったら、俺とティナ以外の二人を倒してくれ。俺たちはその間に、お前とこいつ以外の二人を倒す」
その後の行動は言わずとも分かる。
そう実は頷いて、任せてと自信ありげに胸を張る。
俺と当たる確率はかなり低い。
しかしあの校長が俺を推薦したんだ、それでもそうなるんだろう。
「二人のうち一人はお前だとかなり相手しづらいだろう。だから物量を準備しろ」
そいつら倒したら後は何もするな、それが俺の考えだが、実のことを深く知りたいのでな。
自分で考え自分で行動する、それが実にはできる。
今回の件で何を考えるか、どう行動するか、それを見たい。
「うん。任せて。後は自由にしていい?」
「それだけしてくれればいいよ」
「じゃあ合流してもいい?」
「それはお前の判断に任せる。自分の身くらいは守れるだろ?」
「もちろん。それじゃあ好き勝手していいんだ?」
「ああ。お前の性格や思考が分かるからな。そうしてほしい」
楽しそうに笑う実に、暗技のことを話せずに終わる俺だった。




