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最下層階級の絶望騎士  作者: ぶい


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そして選抜戦へ

 ユニット戦の準備時間に、俺は両ユニットの活動情報を調べておく。

 ふむ、かなり活動的なユニットらしいな。

 片方は旅ユニット、もう片方はグルメユニット。

 どちらも雑誌を刊行してるらしいな。

 かなり評価が高いらしい。

 だが、無料雑誌として刊行されてる以上、彼らユニットの負担は非常に大きなものだろう。

「なんでこんな活動をしてるユニットが、ユニット戦に出てるのよ」

 そんな声が近くの席から聞こえてくる。

「どうせお金目当てでしょ?」「やーねー」

 ふむ、金目当てか……

 下らない価値判断が入ってるようにしか思えないな。

「なあ派世?あいつらって金目当てで出てるのか?」

 日溜にそんなことを聞かれ、俺は少し考えてから答えを出す。

「まあ金目当てだろうな。勝てばユニットが活動する限り資金を得られるのだからな。だが、金が必要なのには理由がある。ユニット活動には金がかかるからな」

 隣で少年が頷いている。

「ユニットメンバーの負担が少しでも減ればいい。それが彼らがユニット戦に参加するわけだ。その活動内容はしっかりと、雑誌として刊行されて社会に還元されているからな。他人の下らない価値判断で非難されるいわれはないよ」

「なるほどなぁ」

「公式サイトもあるみたいだ。どこを見てきてほしいとか、要望できるみたいだな」

「あ!始まりますよ!後で感想聞かせてくださいね!」

「ああ。分かったよ」


「どうだ?参考になったか?」

「はい!お二人とも、ありがとうございました」

 俺とフィリアの意見を聞いてそれをノートにとった少年は、満足したようにその成果を仲間に報告に行く。

 ユニットの仲間たちは別の会場を観に行ってたって聞いていたが、それほど熱心に分析しなくても少年がいれば勝てるだろうな。

 赤以上の階級が所属するユニットとそれ以外のユニットで出場する団体戦は別だ。

 緑と赤で上層下層を分け、下層をユニット戦、上層は上層ユニット戦と名称分けしている。

 少年はユニット戦、下層しか出場しないから俺とあれだけ戦える以上敵はいない。

 フィリアもそれが分かっているが、当然そんなことをわざわざ少年に伝えることはない。

 そんなのは野暮だ。

 それに、ユニット戦は個人戦じゃないからな。

 もしかしたらってこともある。

 応援に行ってやりたいが、さすがにそこまで暇じゃない。

「じゃ、またな」

 そう言ってフィリアたちと別れる。

 日溜兄妹はそうするのが当たり前であるかのようについてくる。

「どうしたんだ?」

 ついてきた2人にそう訊ねると、2人はどうしてだろうとお互いに顔を見合わせる。

 別々の理由でついてきたらしいな。

 先に答えたのは日溜だ。

「いやぁ〜礼を言おうと思ってなぁ〜。本当に専用車両に乗れてよ。満員電車だったから、理解のある人たちの車両に乗れてよかったぜ」

「秋に付き添ってもらえば、お前が女性専用車両に乗る必要はなかったんだけどな」

「……そういえばそうだったな」

 気付いてなかったのか……

「一緒に乗ったんじゃなかったのか?」

「ああ。先に会場入りして、場所とってもらってたんだ」

「逆にしろよ」

「秋だったら人混みに影響されずに会場入りできるんだよ。それに、もし人身事故なんかで電車が遅れたら、俺だったら運べるからな。揺れが酷いから、あんま取りたくない手段だけどな」

 まあ、乗り心地悪いからな。

 春さんは車椅子だから、かかる負担も大きいだろうし、それは避けたいところだよな。

「お前なりに理由があったんだな」

「でもよ、なんで女性専用車両に俺は乗れたんだ?女性専用なんだろ?」

「ああ、あれは名称が誤解を招いてるだけなんだ。元々はそれでもよかったんだけどな。ほら、男性稼ぎ手モデルってあっただろ?昔はそれで、通勤に利用するのは男性って意識があってな」

 詳しい解説ってしてなかったっけ?

「乗ってたのがほとんど男性だったってのがあって、女性が入って行きづらい空気があったんだ。だから合理的な配慮として作られたんだ。意図としては交通弱者への配慮だな。今問題にされているのは、女性は制度で守るものという認識が女性差別なんじゃないかってことだな」

「お前詳しいな」

「誰だって少し考えれば分かることだよ。女性だらけの場所に、お前は入っていけるかって話だ」

「たしかに入りづらいな」

「知識人なら誰しもが知ってるだろうよ。少なくとも、俺よりは詳しく語れる」

「お前も十分知識人側だと思うんだけどな」

「それは人々の教養が劣化しているってだけだな。俺自身はそこまで賢くない」

「俺もその劣化に含まれそうだな」

「だなー」

「そこ認めんのかよ!」

「当たり前なんだよなぁ……」

「うへぇ……」

 人混みを抜け出したところで、俺に引っ付いていた秋が少し離れる。

「そういえば、秋は人混みが苦手だよな」

「き、気付かれてたんか……」

「お前鋭いよな。だから秋に電車に乗らせなかったんだぜ」

 ああ、そういう……

 日溜も気付いていたんだな。

 まあ、それを克服していく必要があると考えている俺は、あえてそれで乗せるべきだと思うが。

「場数踏ませないと、永遠にそのままだぞ?」

「でもよ、もしそれで逆にトラウマが植え付けられたら、それこそ終わりだろ?」

「だったら誰かが一緒に行ってならしてやるべきだろ。春さんと一緒でも問題ないだろうし、お前と一緒でもいいだろ」

「ああ、そうかもな。じゃあお前が一緒でもいいよな?だったら、お前に預けるぜ。なんとかしてくれ。お前に任せたらなんとかしてくれるんだろ?」

「いや、俺に任せると、ただ俺に依存するだけになると思うんだが……」

「なんだ?自信過剰か?ナルシストか?」

 俺と秋の関係性を聞いてないのか。

「俺は秋にとって、正義の味方的存在なんだよ。ピンチの時に助けてくれる。だから、いたら頼ってしまう存在なんだ」

「自意識過剰やなぁ」

 そんなことを言っているが、さっきの人混みで兄である日溜ではなく俺に引っ付いていた以上、説得力ないからな。

 それがすぐに頭を過ったのか日溜も納得の表情だ。

「何納得しとんねん!」

 そんなツッコミを受けて笑っていた日溜だが、道の先でこちらを眺めている男を見つけ、意識を切り替えて俺たちの前を歩き出す。

「ちょっ、急にどないしたん?」

 兄の急な様子の変化に、自分も気になってその先を見る。

 そこには黒服に身を包んだ、髪をオールバックにした、切れ長の目をした男がこちらを眺めたまま佇んでいた。

「日溜」

 早足で男に向かっていく日溜を呼び止めるが、妹の前だからか止まることはない。

「あいつは危険な臭いがする」

「おい待て、日溜!」

 しかし日溜は俺の制止を無視して進んでいく。

「こんな街中で暴れるつもりか?」

 男の言葉に足を止める。

 人混みは脱したが人はまだまだかなりいる。

 その言葉がそんな通行人全てを人質に取ったかのように聞こえたのだろう。

「何が目的だ?大阪を奪還したこの俺を、お前らの組織に勧誘でもしにきたか?」

 不機嫌そうにそう訊ねた日溜は、そんな中でひっそりと仕留める準備をしている。

「下がれよ、日溜。そいつは俺が相手にするべき人物だ」

 何が目的かは分からないが、話くらいは聞いてやる。

 見覚えのある黒服、そいつがどこの誰なのか、おそらくだが見当がついた。

 よくもまあ俺の前に顔を出せたものだよ。


 男を睨み続ける日溜。

 俺の後ろで戦意剥き出しの秋、そんな2人に敵意を向けさせるわけにはいかない。

「お前、九鬼仙(ジゥグゥシィェ)の」

「覚えていたか。まあ、そう日も経っていないからな。雑兵の1人くらいの認識だろうと想像していたから、忘れられていることも想定していたんだがな」

 やはりか。

 あの時火风(フオフェン)を殺そうとしたあいつのようだな。

「よくもまあ俺の前に出てこれたな」

「全くだ。自分でも驚いている」

「できれば、秋の前にだけは現れてほしくなかったんだがな」

 男が目を細める。

 何かを勘繰っているようだな。

「こいつがどんな目にあったのかは知ってるだろ?お前らもあれに関わっていたらしいからな」

 それが第四研究所爆破について言っていることに気付いた日溜は、目つき鋭く俺に向ける。

 俺はまだしも、秋がそれに関わっていた、それが日溜を苛立たせている。

 そしてそれを知らなかった自分にも、日溜は怒っているんだろう。

「九鬼仙って言ってたもんなぁ。そりゃつまりそういうことだよな……」

 人を平気で殺す組織だからな。

 この場に秋がいることで緊張しているのだろう。

 この様子だと組織の情報も少しは聞かされてるらしいな、能力による守りがより一層強靭なものになった。

「そんなことはどうだっていい。俺はただ忠告に来ただけだ」

 日溜のことも、俺が指摘したことも、たった一言で切り捨てた。

 話すだけ無駄だと。

 それは一言で肯定し、だからどうだって言うんだと一蹴しているのだ。

 それが日溜には気に食わないが、それで相手に敵意がないことが分かったからか、渋々引き下がる。

「戦うつもりなんて毛頭ない。そいつには絶対に勝てないからな」

 俺を指してそう言ったそいつの目は、敵に向ける視線ではなかった。

 忌々しいが感謝しているというような、そんな不思議な心情をはらんだ視線。

 こいつは火风を信頼していたみたいだしな、それを生かした俺に、殺させなかった俺に感謝していてもおかしくはない。

「お前がティンダロスを追っているのは知っている」

 なにそれと俺を見上げた秋は、問い詰めるような目をしている。

 俺が面倒ごとに首を突っ込んでいることを知っていた日溜は、その内容が気になってしょうがないという目だ。

「お前を敵に回したくない、それが親父の決定だ」

「随分と勝手な親だな。自分の部下を簡単に切っておいて、よくそんなことが言えるよ」

 ボスの真意を見極めるためにカマをかけたが、知らないのか、俺の意図に気付いてか、さっさと話を移す。

「ティンダロス、あれは強い。だから手を出すな。中国で、あれの動向をどんな組織も抑えられなかったのだ、相当なものだ。ひょっとすると、火风さんより厄介な存在かもしれない」

「なぜ俺がティンダロスを追っていると、お前らと敵対することになるんだ?」

 なんとなく分かっていたことだが、ここで確認が取れそうだな。

「なぜだろうな。お前が我々の誘いを断った以上、深い事情は語れない。我々の行動、目的、当然、ティンダロスを追う理由など言えるはずもない」

 暗技使いに腹の探り合いで勝負を挑むなんて無謀だぞ?

 まあ、こいつは俺が暗技使いだと知らないから仕方ないのだが。

「一つ忠告しておいてやる。一部だけを嘘に変えるのは確かにバカには有効だ。だがな、相手の勘が鋭い、或いは真偽を見破る力を持つ者にとっては、答え合わせに他ならない。やるなら嘘で塗り固めるか、一切の嘘を吐かないべきだ」

 おそらく2人は理解していないだろう。

 そもそも詳しい概要を知らない2人が何かに気付くとは考えがたい。

「素直に受け止めておこう。お前は強いからな」

 そう言って男は

 反対方向へと足を向ける。

「ゴーストエンジン」

 体が半透明になった男は、日溜の能力によって塞がれているはずの場所を通って、足早に去って行ってしまう。

「えぇ……」

 日溜が困惑しているが、無理もない。

 こうもあっさり日溜を攻略していったことには、俺でも驚愕せざるを得ない。

「何者なんだよ、あいつ」

 そうぼやいた日溜は横目に俺を見ている。

「そんなこと、俺に聞かれても困るんだがな……」

 そう返すと、言及するつもりのなかった日溜はそこで諦める。

 秋には気になっている様子があるが、巻き込みたくないから絶対に教えてやらない。

 日溜はそれを察して引いてくれたのかもな。

 後で日溜にだけ話してやるか。


 八田月からの連絡で、ティンダロスの嫌疑がかけられている人物の、おおよその居場所が判明した。

 今日は動くつもりはなかったんだがな。

 そんな風に思いながら、ティナを連れ出してその場に向かうことにした。

 立派なホテルだ。

 背の高いホテルからは、日が暮れてきたからよく分かるが、部屋はかなり埋まっているのだろう、電気がついている部屋が多く存在する。

 今でも同じ場所に潜伏している可能性は少ないが、それでもここを確認しないわけにもいかない。

 これで無理ならもう発見は不可能だな。

 そう思っていた矢先に、ホテルに入って行こうとするその人物を見かける。

 無言でそいつを眺め続ける。

 近すぎれば気付かれるだろう。

 反対に遠すぎれば何も確認なんてできない。

 俺はティンダロスを追いながら、常に一つの疑問を持ち続けていた。

 意識不明で運ばれている人が出ているという不可解なことを耳にして、俺はそれの調査を開始したわけだが、そもそもティンダロスの目的はなんだ?

 ある程度どんな人物が狙われているのかは分かってきたが、まだまだ分からないことは多く存在する。

 なぜ大観覧祭に動き出したのかは分かるが、なぜそんなことをしているのかは分からない。

 その行動に、必要性を感じられないんだ。

 徒らに行っているわけではないだろう。

 だからこそ、そこを理解する必要がある。

 そう思って一目見ようとしてるわけだ。

 まず俺が確認すべきことは、今ホテルに入って行ったそいつがティンダロスかどうかだ。

 暗技があるし、見れば一発だと考えていたんだがな。

 どうやら考えが甘かったらしい。

 分かったことは一つだけだ。

 歩き方やそいつの周りの空気の流れから、そいつが()()だということしか分からない。

「はぁ……調査は中止だな。切り上げるしかねぇ」

 取れる選択肢が全て消し飛んだ。

「何か分かったデース?」

 そんな風に無邪気に質問を飛ばしてくる。

「ティナ、連れ出したばかりで悪いが、帰るぞ」

「なんだか分からないけど分かりマシター!」

 元気に返事してついてくるティナの頭を撫でてやり、俺たちは道中にウォルレスの泊まっているホテルに寄った。


「おう」

「何か分かったことは?」

 挨拶に返事を返さず、単刀直入に訊ねてきたウォルレスに、俺は渋い顔をして返事をする。

「もうもぬけの殻だったか?」

 ウォルレスと一緒に痕跡を追っている八田月が、労いのつもりか俺にボトルのお茶を投げ渡しながら声をかけてくる。

「いや、いた」

 それを受け取りながらそう淡白に回答する。

「収穫といえば収穫だが、ないと言えばないことにもなる。ティンダロスについては何も分からなかったからな」

 ただ、それはホテルの男の調査の話だ。

 街で会った九鬼仙の男からいい情報を得られたことは話さないとな。

「先に街で会った男との話をさせてくれ」

「街で会った男?そいつは?」

「九鬼仙のメンバーだ」

「そいつは俺に話す必要がある情報か?」

 フィリアたちに追わせているのが、研究所関連と九鬼仙関連の件なんだが、それがティンダロスを追う俺に関係あるのかと疑問視しているのだろう。

 当然の話だろう。

 元々別々だと考えていた事件だからな。

「それが、どうやらティンダロスは九鬼仙の一員らしい」

 あの男との会話、そこで暗技で理解した嘘、それらを精査した結果を伝えた。

「追う理由を教えられない、そう語った時、流れが大きく変わった。それは人が、そもそも、つまりは前提が違うことを語る時と同様のものだった」

 賢い2人は瞬時にその意味を理解した。

 ティナは横で頭を捻っているが、分からなくてもいいことなので、しばらくそのまま放置しておこう。

「たしかにそれならそういうことになるな。となると、追わせている彼女らは大丈夫なのか?」

 あいつらを心配するような発言がウォルレスから出ようとは……⁉︎

「何を驚いているんだ。俺が心配したらおかしいのか」

「ああ。俺はてっきり、お前は自分の大事なもの以外がどうなろうと無関心を貫くタイプだと思っていたからな」

「概ね正解だが、人命に関わるなら話は別だ。程度問題に過ぎないがね」

 そう語ったウォルレスは俺が視線を合わせようとすると、照れたように目を逸らした。

「んで、ホテルの男の話なんだが」

 そう話を戻そうとすると、ウォルレスはたちまち真面目な表情に切り替えて、何事もなかったかのように先を促す。

「あれは暗技使いだ」

 そう言うと、今までも理解できていなかったティナが、いよいよ限界だと考えるのをやめた。

 暗技について一切教えてなかったからな。

 ティナ自身あまりこちら側の世界に詳しくないから、それは仕方ないところではあるが、教えていなかった俺の責任でもあるだろう。

 後でわかりやすく解説してやるか。

「暗技か、どーりで調べられないわけだ。お前がどうにもできないんなら、他のやつじゃあどうにもできねぇな。六火のやつならなんとでもできるかもしれねぇが」

 手伝ってくれないことを知っている様子の八田月は、言っても仕方ねぇよなと、再び何かの作業に戻る。

「八田月、再び作業に戻ったところで、相手が暗技使いでは得られる情報は無さそうだぞ?別のアプローチを考えるべきだ」

 ウォルレスの提案を手をひらひらとさせて返事をした八田月は、何を考えているのか、パソコンの前に齧り付くようにしている。

「どうした?」

 後ろから八田月に覆いかぶさるようにしてパソコンを覗き込む。

「お前に接触した男、こいつだろ?」

 そこには団体戦観戦後の俺があの男と対面している時の画像があった。

 防犯カメラの映像、その一部を切り取ったものだな。

「ああ。こいつが九鬼仙の一員の男だ」

 俺がそれを肯定すると、数多の映像記録にその男の顔で認証をかけてサーチすると、いくつか引っかかった映像が出てくる。

「この男が会っているのは、こいつらだな」

 昨日とその前とで、そこそこ時間が開いているところがあるが、それはおそらく俺と火风の件で日本を離れていた時だろうと推察できる。

 それ以外で会っている人物は、黒服たちと火风と俺だけ、か。

「何か掴めるかもと思ったんだがな」

 いや、十分だ。

「いくつかの映像で、映像の端を通っているものがあるが、その向こう側は何があるんだ?実際の場所と照合してくれ」

「おう」

 それはすぐに終わる。

 どこのカメラかを調べればいいだけだからな。

 分かったことはいくつか、道幅などから推測するに、いくつかある内の半分以上は、カメラの死角となっている場所に人間の入るスペースがあるということ。

 そして他の映像との比較で、この男は基本的には道の端を歩く習性があることが窺えた。

 つまり、そこに誰かがいることが可能性として高いということ。

 火风にはカメラを避けるような様子はなかった。

 実際カメラを見つけても、全くどうでもいいことのように行動していた。

 だったら隣は火风じゃない。

 だが、あいつは火风のバックアップで日本に来ていたはずなんだ、それはおかしい。

「こいつの別の映像を時間系列で並べると、そこにいてもおかしくはない。この男がお前の会った男と何度も接触していたことは、可能性として大いにあり得る」

 これはそういうこととして話を進めた方が良さそうだな。

「ああ、そうだ。八田月、一つ調べてもらいたいことがあるんだが」

「できるかどうかは内容による」

「気になることを空斬(からぎり)校長が言っていてな。選抜戦で俺が面白いことになるらしいんだ」

「だから、選抜戦の参加選手に怪しい人物がいないか調べてほしい、と。そう言いたいんだな?」

 本来ならば誰であっても入手できない選抜戦の選手データを盗み出せと、そう言っているんだが、八田月はそれをうんざりした様子で承諾する。

「ばれたらクビじゃ済まねぇよな……」

「その時は、王宮で姫の護衛として雇ってやるから、安心して盗み出してこい」

「勝手言ってくれるなぁ……俺の人生なんだと思ってんだ」

 ただでさえ軍の情報を民間人に与えるなんてことをしている八田月だが、さすがに自分の権限を超過した情報を得ようなんてしたことはなかった。

 たしかに八田月は教師で大祭運営部に所属しているが、逆に言えばただそれだけで、特別上の役職についているわけではない。

「人使いの荒いやつらだ、ったく」

「まったくだ。反省しろよ」

 ウォルレスが俺に全ての責任をなすりつけてくる。

 いや、やつらって八田月が言ったんだから、多分お前も含まれてるからな?

 少なくとも、俺だけに言ったわけじゃないからな?

 さて、八田月が部屋を出て行くようなので、俺もそれに続くことにする。

 さて、フィリアたちに説明しないとな。



「お久しぶりです。お母様」

 奏未はようやく探していた人物に出会う。

 自身の母親である、雨露(あまつゆ)に。

「お久しぶりです。いつも家を開けてしまって、申し訳ありませんね。奏未さん」

 そう言って優しく微笑みかけた雨露は、透き通った赤い宝石を、木の幹に窪みを作りねじ込む。

「何をしているんですか?」

 そう奏未が訊ねると、悪戯な笑みを浮かべて、なんだと思いますか、なんて返す。

 自分の母親がそんな適当なことを言う人物だと、奏未はよく知っている。

「分かるわけないじゃないですか。私は悪魔の術に疎いのですから」

 そう奏未が返すと、仕込みを終えた雨露はそんな奏未の頭を撫でる。

「そう怒らないでください。もっとからかいたくなってしまいます」

「相変わらずお母様はぁ……」

 奏未が呆れていると、雨露はまた次の場所へと移動しようとする。

 とっさに腕を掴み、それを食い止める奏未。

「娘と再会したばかりで、すぐに去ろうとしないでください!もう!これだからお母様は!もう!」

 うふふと笑う雨露のペースに完全に乗せられた奏未は、雨露が何をしようとしていたのかを聞くのを忘れてしまう。

「そうでした。大変ですよ、奏未さん。お館様が特大の術式を準備しています」

「それくらいは知ってます!」

「その術式がどんなものか、完璧に把握していますか?」

「それは……してません。聞きかじった程度です。私は術式に詳しくないので。理解できていないところもあります」

「ですよね。まあ、私もしていませんが」

「このバカ母ああぁぁ……」

「やはり奏未さんをからかうのはやめられませんね」

 優しいいい人なのだが、少々面倒な性格をしているのだ。

 それは奏未も広人も常々思っていることで、頼りになるが頼りたくない、それが共通の認識だった。

「どうしてうちの親はこう……」

「そうかりかりしないでください。わかりましたから。お館様を止めるのでしょう?それはわかりましたから。私も手伝いますから、当たろうとしないでください」

 本殿の人間である雨露は、本来ならお館様こと露姫(つゆひめ)が動いた場合、その援護に回る立場にある。

 それは奏未に協力している2人、風露(かざつゆ)雪華(せつか)もそうなのだが、その中でも明らかに異質なのが、今奏未の目の前にいる雨露なのだ。

 奏未が本殿から離れた理由である広人、それと引き合わせたのは、他でもない雨露だ。

「私に会いに来たのですから、何かしてほしいことがあったのではありませんか?」

「あ、そうでした。お母様には、お館様を観測していてもらいたいのです」

「お館様の観測なんて、本殿にできる人はいませんよ?」

「お母様ならできるのではありませんか?私では、悪魔の血を使っても、発見には至りませんでした。ですが、お母様なら……」

 雨露は怪しい笑顔を見せる。

 そうして長い髪を紐で結び、次第に魔力を高めていく。

「はい。私の千里眼なら問題なく確認できますよ。魔力で千里眼を使っているのですから、当然ですね」

 奏未はその力の大きさに気圧される。

(これが悪魔の契約の中で最高の繋がりを発揮する契約……『(ちぎり)』)

 普通の契約とは違う、子どもさえ宿せるようになる契約。

 人間は魔力を得て、悪魔は絶対に悪魔と思われない人間らしい身体を得る。

 人間も悪魔同様の姿になることができる。

 その契約を結ぶ条件は不明。

 分かっていることは、魔法の使い手が使い手なら、まず間違いなく世界最高峰の力を手にできるということ。

 奏未の想像の通りの、想像できないはるか高みの力だった。

 故に、奏未はそこに勝機を見出す。

 これなら露姫といえど簡単に倒せはしないと。

(つづみ)の巫女4人がかりで、勝てるかどうかは分からない。そんな相手だったのですが……もしかしたらなんとかなるかもしれません)

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