少年は妄想の先へ進む
反撃するにしてもそれなりの準備が必要だ。
ウォルレスが目をつけたそいつは、日本国籍でなければ中国国籍でもない、またその他の国籍も一切有していないことが確認された。
捨て子が成長したのか、それとも裏社会の人間か、可能性はかなり絞られる。
だからといってティンダロスがそいつだとはならない。
ティンダロスを追ってる何者かっていう可能性もある。
「リーラ、お前はどう思う?」
俺に唐突に振られ、リーラはかわいく小首を傾げる。
適当に話を振りすぎたな。
「困らせちゃったな。まああまり気にするな」
リーラの頭を撫でてやると、ぴょこぴょこをぴょこぴょこさせてされるがままにされる。
「リーラにちょっかいかけないでくれない?今仕事中だから」
「じゃあお前にちょっかいかけるよ」
「ちょっ!頭撫でないで!アンタふざけてるの⁉︎」
腕を振り払い鋭く睨みつけてくるエリアに、俺も負けじと対峙する。
「ヒロ坊。屋台営業の邪魔になる。そいつら貸してやるから、あっちの公園で遊んできな」
「貸すって、もともとうちの子なんだがな」
「誰がいつアンタの子になったのよ!」
「お前もうちに泊まってるだろ。実質家族みたいなものだ」
「か……アンタバカでしょ」
「そうかもな」
「広人さんの家族……悪くないです」
リーラは喜んでいるみたいだ。
背負われたティナがなぜか不機嫌になって、より牙を食い込ませてくる。
ていうか、血を吸ってないのに噛みつくなよ!
「あ、そうだ。こいつ見かけなかったか?」
首筋の痛みを堪えながら、写真を取り出し3人に訊ねる。
「知らんなぁ〜」
「見てないわ」
「です」
最新のカメラデータによると、俺の闘いを観戦しにここら辺に来ていたらしいんだがな。
見てないのでは仕方ない。
それからはカメラ映像に映っていないらしく、さすがに追跡が不可能になってしまった。
ここからは手探りだ。
「その人がどうかしたです?」
「ある疑いがかかっていてな。その調査のために直接見に行く必要があるんだ」
「そう。悪いわね。力になれなくて」
「気にするな」
「疲れてんだろ。持ってけ」
フランクフルトを焼いていた八百屋のおじさんは、それを二本差し出してくる。
「いいのか?」
「当たり前だ。身内贔屓は当然だろ?個人商売なんだからよぉ」
「それじゃあ、ありがたくもらうよ。今度お礼に弁当作ってやるよ」
「おう!そいつはおありがてぇ。楽しみにしてるぜ!できれば奏未ちゃんの手作りがいいなぁ」
「わがまま言ってくれるなぁ……奏未に言っておくよ」
「頼むぜヒロ坊!」
やっぱりこういうコミュニケーションっていいよな。
損得勘定抜きの人間依存的な相互扶助ってやつは。
こうした関係が日本から失われつつあることを嘆きながら、俺はフランクフルトを受け取る。
一本を背中のティナに渡して、二人してそれにかぶりつく。
これはティナへのサービスって面が大きいんだろうな。
初めて会った時に商店街総出でもみくちゃにしてたしな。
やっぱりティナは気に入られているんだろう。
特におじさんはいつもティナには甘々だからな。
ティナのお気に召したようで、背中で上機嫌になったティナは、手を大きく振っておじさんにさよならをする。
背負われた状態で暴れないでほしいんだがな。
俺はひっそりとそう思うのだった。
結局何一つ分からなかったな。
夜になって反省会。
ティナは家に届けてきたからたった一人の反省会だが、振り返っても特別疑問点なんかは思い浮かばないな。
「人に聞いてもあまり成果は得られない。そんなことは分かっていたんだが……」
監視カメラに映らない。
目撃情報も一切なし。
これじゃあ探しようがない。
俺には人探しの術がない。
できてある程度の範囲の魔力を調べるくらいのものだ。
親父からの情報はなし。
それはそうか。
俺だけでなんとかすると思ってるんだからな。
そしてもう一つの方の連絡も……当然なしか。
やっぱり俺に連絡は入れてこないよな。
奏未は奏未で手一杯だろうし、千里眼を使ってもらうために呼び戻すべきじゃないな。
さて、それなら探すのはやめだな。
迎え討つ準備をするしかあるまい。
空斬校長からもらったナイフを取り出す。
俺の試合を観に来ていたらしいからな、接触する機会がないとも限らない。
暗技は見せてない……はずだ。
接触してくる可能性はある。
おそらく嗅ぎ回っていることはバレているだろう。
患者の経過観察はしてるだろうからな。
だが、あらゆる映像はダミー映像に切り替えさせたから、ある程度はごまかせてるはずだ。
イギリス王家の関与だけは隠しようがないが。
ウォルレスが日本に来ていることは知られているだろうから、あまり活躍を期待できないだろう。
ウォルレスが第2位だと知っていればの話だがな。
さて、話は戻るが、そんな状況下においてとるべき手段は何かと考える。
ティンダロス事件、フィリアと夢花の追う研究所襲撃者、大観覧祭の裏でここまで問題にならずに動き回れるわけ。
被害者の母親の話では、彼らは謝っていたということだった。
何かしらの非がある。
罪に対して罰を与える。
発動には条件がある?
いや、そう考えるのは安直すぎるな。
中国ではそんな例ばかりではなかったはず。
だったら、どうしてそんな狙い方をしているのか。
日本における被害者を見れば、明らかに対象を選んでいるから、その傾向に当てはまるものになれば、俺と接触もしてくるだろう。
追跡者を意識しだした行動。
この監視社会で監視カメラを避けるように移動している、だったら、監視カメラのない場所を辿れば見つけられるはずだ。
それなら探す範囲はかなり限られてくる。
「後は映像からティンダロスの活動地域の推測さえできれば……」
「ヒロトー、お風呂空きましたわよー」
考えがまとまったところで呼びかけられる。
ちょうどいいし、ウォルレスに連絡だけしてもらおうか。
今日の初戦から階級黒が参戦する。
対戦相手ももう発表されているだろう。
俺の相手が誰かは分からないが、黒にもなると首都圏で百人満たないほどしかいないのだ、知り合いと当たる可能性があるな。
まあ、相手が黒なら鬼門も暗技も使わないのだから勝ち目はないな。
そう割り切って、適当にやろうなんて思いながら会場に着く。
午後からはユニット戦も開始する。
階級黒以上は参加不可のそれが始まることもあって、たくさんの人が激しく移動している。
当然道路は渋滞、公共交通機関は大混雑している。
こんな中では、ティンダロスを探すなんてそんなことできようはずがない。
さて、今日くらいは少し休もうかな。
午後だけでものんびりしようと考えていると、俺と一緒に会場まで来たティエラが、辺りをキョロキョロと物珍しそうに見渡している。
なんだかんだで忙しかったから、ティエラは日本を楽しめてないんだろうな。
それはまあ、申し訳ないと思っている。
「すごい人の数ですわね」
「だから言っただろ?スカートはやめとけって」
今のティエラは長いスカートに薄手のシャツという、まあ夏によく見る格好だ。
だが、やはりジーンズのような動きやすい格好の方がよかっただろう。
言っておいたんだがなぁ……
「帽子は絶対に取るなよ」
ティエラは目立つ銀髪を隠すために帽子をかぶっている。
ティエラが見つかったら絶対に騒ぎになるからな。
何せ王女が何の情報もなく日本に来ているのだからな。
「分かっていますわよ」
まあ、長い銀髪が帽子で隠し切れるはずもなく、元より少しはみ出ていて、注目を浴びてしまっているがな。
髪色が黒や茶じゃない誰かと一緒にいると、どうしても目立ってしまって困るな。
まあ、だからといって離れるってことだけは絶対にないんだけどな。
「派世ぇ……こんなところに急に呼び出されても困るぜ?」
後からやってきた日溜が、そんな風に困った様子を見せながら、人混みを掻き分けて俺に呼びかける。
それでも来てくれるのは、さすがは日溜だ。
なんとか人混みを脱して、それだけでもかなり疲れてた様子で、呼吸を整えて俺に向き直る。
「で?頼みって……って、ええッ⁉︎」
今更ながらに隣にいるティエラに気付いた日溜が、俺の耳元に口を寄せて、声を潜めて話しかける。
「なんとなく察したけど、お前正気か⁈俺王女様とまともに話したことないんだぜ⁉︎」
「じゃあいい機会だ。話せ」
「無茶振りがすぎるぜ?せめてリーラちゃん連れてくるとか……って俺リーラちゃんともまともに会話してねーし⁉︎」
「ユウヒでしたわね」
「は、はひ!日溜優日です!本日は大変お日柄も良く、足元の悪い中ご足労ありがとうございます!」
お日柄が良くて足元が悪いとは、夜の内に雨に降られたみたいだな。
「は、はぁ……」
返事に困ったティエラが、この空気どうしたらいいのと俺にヘルプコールを視線で送る。
お前ら口下手か?
「あ、広人。こんなところにいたのね。もうすぐ時間……って、この人……ッ⁉︎」
もう試合の始まる時間か。
呼びに来て固まってしまったフィリアを引っ張り、俺はさっさと会場入りする。
「それじゃあ、日溜よろしくー」
「護衛とか聞いてねーよ!それに今秋も来てて……」
「んじゃ、秋との関係も取り持ってくれ」
「そんなご無体なああぁぁ!」
そんな声を背に受けながら、気を取り直したフィリアを連れて控え室に向かって行く。
「広人、さっきの人って、イギリスの王女様よね?」
やっぱり気付いてたようだな。
「ああ。それがどうかしたか?」
「いや、なんであんな人と知り合いなのよ⁉︎知り合おうとして知り合えるものじゃないわよ⁈いったい何をどうしたのよ⁉︎」
はてさて、俺は何をどうしたんだろうなぁ?
まあ、イギリス行って誘拐して、ティエラが抱えてた問題の元凶である第2王子を殴り飛ばした、なんて言えるはずもなく……
「なんでだろうなぁ〜?」
なんて曖昧なことを返す。
フィリアがジト目を向けてくる。
どうせ面倒ごとにでも巻き込まれたんでしょって語ってるようだ。
そうなんだけどな?
「まあ、そういうこともあるってことで」
「ないわよ」
だよなぁ……
「その話はおいおいするとして、今は試合に集中しよう。どうせ負けるにしても、呆気なく散るわけにはいかないからな」
明らかに俺が避けようとしていることが分かり、フィリアも追求をやめる。
まあ、後で話すと言ったから、絶対にそうすると信じて疑っていないのだろう。
嘘ではないよ。
これはティエラがいる時じゃないと話せないことだからな。
「そういえば、対戦相手は確認したの?」
「ああ。ついさっきな」
「今回も勝ちに行くの?」
「いや。絶対に勝てない相手だからな。あっちも俺のことを知ってるし」
「ふーん」
さっき日溜は一緒に来ている、みたいなことを言っていたが、そうか、聞いてなかったんだな。
今回の対戦相手には絶対に勝てない。
それもそのはずで、ほとんどの能力者からすれば勝ち目なんてなく、あちらの基本的な戦い方は飛行と堅牢な守りだからな。
ついでに火力も相当のものだ。
俺たちじゃあまず無理だよなぁ。
俺は暗技を使わないし、フィリアだって新人類の力を使わない。
さて、これなら何も気負うことなく負けられそうだ。
「そうか。負けるのね」
ちょっと寂しそうだな。
まあ俺も、命のやりとり以外でのフィリアとの共闘が終わるとなると、少し寂しいんだけどな。
『階級黒が参戦して、さて、これまで下克上を繰り返してきた派世、フィリア両選手ですが、ここでも勝利となるでしょうか⁉︎』
そんなアナウンスの後に、相手選手の紹介が入る。
『さて、ついに黒が試合になるまでになりました。入場してください。日溜選手!』
その放送の後に、その少女はポニーテールを揺らしながら入ってくる。
まあそんなことはどうでもよく、俺は客席の日溜を探す。
ティエラと一緒にいるからすぐに見つけられた。
さて、あいつの様子はどうかな?
俺に秋がどうとか言ってたから、相当恥ずかしがってるだろうな。
なんて思っていたら、俺に見られていることに気付いたようで、目が合うとすぐに顔を逸らす。
『さて。ここからは試合開始の合図をさせていただきます』
試合開始の合図が扉の開閉から口頭に変わる。
まあ別に、変える必要はないんだけどな。
その方が盛り上がるのだろう。
じゃあそうしろって話だが、最初のうちは盛り上がりより試合進行のテンポの方が重要だからな。
いやぁ、誰でも参加できるってなると、やっぱり人が増えるからねぇ。
それだけ巻きで進行していかないといけなくなるわけ。
何かしらの条件は設けろって話だよなぁ。
参加費がかかるとかさ。
まあ、それじゃあ損得勘定で動いてるやつらがほとんどである現在において、参加選手が逆に減りすぎるという問題が発生しそうだがな。
何もかもを金勘定でしか語らないからなぁ……
「お兄さん」
そんな風に関係ないことを考えていたので、秋の呼びかけでようやくボーッとしていた意識が戻る。
「うん?どうかしたのか?」
『試合開始イイイイィィィィ!!!』
俺が秋の呼びかけに応えたその時に、運営委員から開始が叫ばれる。
本当に知り合いなんだと、フィリアが俺の顔の広さに驚く。
「お兄さん。全力できいや?ウチも始めから全力でいくさかい……」
強い風が正面から吹き付ける。
それは地面をなぞり土埃を起こしていく。
今のは秋が飛び上がった時に発生した風。
空中を漂っている秋は、楽しそうに笑っている。
今回俺は武器を持ってきていない。
どんな武器もあの風の防壁の前では無力だからだ。
フィリアも俺が勝てないと言っていた理由を理解したようで、たしかにこれは勝てないとお手上げのポーズ。
「降りてきてくれない?せめてそうしてくれないと戦いようがない」
「前地上で戦った時は、ウチがあっさり負けてもうたからなぁ。勝つには空中戦しかあらへん思てな?せやから、絶対に降りんわ。2人ともありえんくらい強いやん?」
「あはは……」
「完璧に弱点を突かれたな」
困って笑うフィリアと、秋がこれまでずっと俺の試合を見ていたことを知っている俺は、打つ手なしだがそれでも降参はしない。
「それで?そこからどうやって攻撃するの?」
そうフィリアに言われて、秋はその挑発的に行われた発言に余裕の表情で実演して見せる。
流れを感じとっているから分かる。
風が鞭のように振り回されているな。
それが俺たちの手前の地面に叩きつけられる。
かなりの衝撃があることに気付いていた俺たちは、すぐさまそこから飛び去っている。
高い土しぶきが上がる。
「そ、そんなこともできるのね……」
やっぱり困ってるフィリアは、とりあえず剣を構える。
「フィリア、1人で闘ってもいいぞ?」
「そうね。前に一度広人だけで闘っちゃったことあったものね……って、そんな無謀なことしないわよ!」
そうだよな。
以前のはいい試合ができることが分かっていたが、今回は防戦しかできないことが明白だ。
そもそも赤とフィリアって、お互いに全力でいい勝負をするくらいの実力だろうから、この場でフィリアが勝てるはずないんだよなぁ。
ほんのりと髪を輝かせたフィリア。
フィリアはバレない程度に髪を光らせているが、それでは秋の高さまで剣を届かせれない。
「さて、じゃあ……俺もせいぜい足掻くとするかな」
今のを避けるんだと、そう驚きを隠せないでいる秋。
まあそうだろうな。
見えない一撃を初見で躱したのだからな。
「お兄さんが避けるのは分かっとったけど、まさかもう1人にも避けられるなんて、さすがに想像できんかったわ」
「あまり年上を舐めない方がいいわよ?これでも赤を倒してきたから」
「そうみたいやな」
挑発なんかしちゃってるけど、勝ち目ないからな?
「広人、あの子の能力って何?」
聞かれるだろうとは思っていたよ。
「風を操る能力だ。飛べるし移動は速いし攻撃は効かないしそもそも近づけないしで、まず勝ち目はないよ」
「勝ち目がないってことはよく分かったわ」
諦めないんだ……
「見せ場ないんわさすがにかわいそうや。降りて闘ったるわ」
調子に乗った発言に思えるが違うな……これは誘ってるんだ。
俺を警戒しての判断だろう。
空中に逃げようと、俺の持つ謎の技術で負けることは十分にあり得る、と考えたのだろう。
実際暗技を使えば届くからな。
闘いの中で戦略を練るタイプのようだな。
相手によって闘い方を変えるのは重要だ。
特に俺みたいなのが相手だとな。
フィリアもこれが誘いだと気付いているようだな。
だからかなり選択に困っているようだ。
元々負けが決まっていたんだ、このまま誘いに乗って負ければ一番すぐに決着が付くし、観客だって満足してくれるだろう。
「その誘い、乗った」
それが誘いだと理解して、あえてそのまま闘ってやろうじゃないか。
フィリアも俺の意思を組み、機敏に動き回って接近していく。
さて、俺も!
当然負けた。
「気持ち切り替えていこう」
誰も落ち込んじゃいないが、それでもそう言ったのはさっさと次の予定に進むためだ。
「今日は何もしなくていいの?」
フィリアにそう訊かれる。
夢花も俺ものんびりとしているから、不思議に思ったのだろう。
「夢花、できそう?」
「さすがにこれだけ人が多いとねー」
「人が多いと探せないんだ。それならそうって先に言ってほしかったわ」
この時期に外に出ることが少ないから、どんな様子か知らないんだよ。
人がすごい多いってことは、一応聞いてはいるんだけどな。
「それで、暇だからユニット戦を観に来たのは分かるけど……何この顔ぶれ?」
さっき対戦した秋に、日溜、そしてティエラと笠寺少年。
「一応俺は全員知ってるんだけどな」
「俺も知ってるぜ。派世の試合は全部観てるからな」
俺が来たことで助かったと胸を撫で下ろしていた日溜が、すぐに話に割り込んで仲を取り持ってもらおうとしてくる。
お通夜みたいな空気だから、そりゃ助けがほしいだろう。
リーラがいればこんな空気にはならなかったんだろうな。
「日溜お前、適当に話して盛り上げろよ」
「俺のせいか⁉︎」
「んで、何がどうしてこうなったのか説明よろしく」
と日溜に振る。
「まず、俺が2人で待ってるところに秋が合流して、その秋に挨拶をしにそこの坊主が来たってわけ。いやぁ、始めは礼を言ってその後の話をしてって、意外と盛り上がっていたんだが、秋がお前の話をしたら途端に王女様が不機嫌になり出してなぁ……」
その話続けるつもりなら夢花がここにいることを考慮してほしいな。
「そんで、今度はそれに対抗するかのように王女様がお前のことを話だして、んで睨み合いが始まったんだぜ。俺たち男子組は嵐が過ぎ去るのを待つのみだったんだぜ?最終的には落とし所が見つからなくなって、2人してどうしたらいいのか分からなくなりだしちまって」
2人が話していた内容まで話さなくてよかった。
夢花も相当面倒くさいことになるからな。
「そんな大変だったんなら、席移動して中木と話していればよかったのに」
「は?」
少し後方でカメラを確認している中木を指差してやると、某漫画でよく見られるような表情で、顎が外れるくらいに口を開けて驚く。
俺たちが見ていることに気付いた中木が、こちらに視線を合わせたまま、屋台で買ったらしい唐揚げ串をこれ見よがしに頬張る。
「あいつぅぅ、気付いてやがったなぁぁああ!」
俺も席に着いて、中木も含めて二列に座る。
自然と、女性組、男性組、みたいな別れ方になった。
ティエラは俺と隣がいいと言っていたが、俺の隣に腰を下ろした少年を見て、勝手に諦めてくれたよ。
一緒に暮らしているから、隣に座るくらい家のソファーでだってできるからな。
そう自分を納得させたのだろう。
中木がカメラをしまうと、反対に少年がノートとペンを取り出した。
「ユニット戦に出るのか?」
一番にそこに思い至り訊ねてみると案の定そうだった。
「はい。敵情視察です。どんな能力を持っているのか、またどんな戦略の立て方があるのか、まだまだ覚えることはたくさんあるので」
「あまり無理はするなよ。寿命を縮めることになるから」
「本当に好きなことをして死ねるならって、そう覚悟してます」
少年は生きることを目的にしていない。
自分のしたいことをする、そのためなら死んでもいいと言う。
人によって賛否両論あるだろうけど、俺は少年を応援する。
生きることは当たり前、その生の中で何をするか、それがこの社会で踏まれるべき次のステップだ。
「少年、今、幸せか?」
聞いてみたかった。
俺は何度も人を助けてきたが、そのほとんどが今どうしているのかを知らない。
助けた者の責任を果たさずにいる。
俺の周りの者たちは、きっと幸せと答えるだろう。
でもそれは、俺に近すぎるが故に、まだ戦い続けるが故に出てくる回答だ。
そうじゃない人の声を、ずっと聞いてみたかった。
「そうですね……それはちょっと、返答に困る質問です。だって僕の日常は、あまりにも変わってしまったから。誰も彼もが腫れ物扱い、そんな非日常が日常になってしまったから」
体に大きな傷を残してしまったのだ、前と同じとはいくはずがない。
「でも……たくさんのことと真っ直ぐ向き合えるようになって、たくさんの人に支えられていることがわかりました。いい子でいてねって、そう育てられてきましたけど、以前はそれが苦しかった」
いい子でいることに応え続けることは、存外大変なことなんだ。
勉強をして、好き嫌いなく食べて、親が持ってる自分へのイメージを壊さないように、そんな親の妄想に付き合って。
それは非常に過酷で残酷なことだ。
しかしそれは全て、愛故の言葉なんだ。
それがいいとされる社会だから、子どもにそんな社会で苦労してほしくないから、だからそう言って育てるんだ。
「もうさ、昔通りのいい子のイメージが崩れちゃったから、親の期待を裏切っちゃって、それでも心配してくれることを、大切にしてくれることを知っちゃったから、だから自由に生きることにしたんだ」
これだけたくさんのことを話せるということは、今までに多くの知識を蓄えてきたということだ。
絶望の中で自分と向き合い、自分を深くまで理解した。
だからこそそう語れるんだ。
「きっとこれは幸せなんだと思います。まだ幸せがどんなものなのかよくわかってないんですけどね。僕は今、すっごく楽しいんです。興味が湧いて止まらないんです。だから……」
それだけ楽しそうに話せるんだ、俺も自分の行動に自信が持ててきたよ。
「お前を助けられてよかった。改めて、そう感じたよ。こちらこそありがとう」




