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13/17

13.実家①

 各行政区の名前を誦じられる事を確認して、私は少しだけワインをグラスに入れた。

 だがそれは間違いだった。

 

 グリューンヴァルトの目がとろりとしたと思うと、寝てしまったからである。


「起きなさい、グリューンヴァルト。起きなさい」

 

 揺さぶってみたが、見事に寝息を立てていた。

 私の監督不行届であった。後悔するばかりだ。


 とはいえ、あまりにも無防備すぎる彼女にも説教をする必要があるが。

 

 彼女を抱き上げる。

(……分かっていたが、小柄だからな。大柄な私の腕に収まる)

 浮かび上がってきた感情を否定する。

 

「これは小型犬」

 小さい生き物は愛いだろう。そういうことだ。

 

 グリューンヴァルトの部屋の前まで連れて行った。


「グリューンヴァルト、部屋の鍵は」

「……」

 私は俄かに焦る。

 

「部屋の鍵だ。鍵。どこだ」

(完全に寝ている……!)

 罪悪感を感じながらジャケットのポケットを探る。


 ない。

 

「グリューンヴァルト、起きろ。お願いだ起きてくれ頼む」


 彼女も疲れていた。とはいえ、こんなにぐっすりと眠るか?

 やはり酒の練習など付き合うべきで無かったと大いに反省した。

 

 女子制服の仕様など知らないので、左右のポケット意外のポケットの場所は分からない。


 ジャケットを脱がすにしても、人が通りそうな場所でやるのは外聞が悪過ぎる。

 

 仕方なく私の部屋に押し込んだ。

 

「女性行政官を部屋に連れ込んでしまった……」


 罪悪感が半端ではない。

 完全に不祥事だ。

 

 同意なく部屋に連れ込みジャケットを脱がすと、犯罪を犯している気分になった。

 こういった状況を知られれば解雇は免れない。

 

 しかし、ジャケットをひっくり返しても見つからない。

 最悪だ。

 

「許せグリューンヴァルト」

 ベッドに寝かせた。寝苦しそうだったので、髪のリボンは解いておいた。

 

 ソファが無いから許してくれとベッドで横になるが、自らの進退を考えるとすぐに寝れそうにない。


(まだ行政院長としてやりたい事があるんだが)

 朝起きた時の説明でも考えておく事にした。

 

 ***


 仕事中気まずいことこの上なかった。

 私が馬鹿な事をしたせいだ。

 けれども、ここで仕事に支障を出したら更に申し訳ない。

 

 よし、ここは一旦忘れて仕事に集中だ!

 午前中の領地の訪問を終え、午後からは……


(あ、うちに寄る日だ……)


 この感じのまま実家行くのか……

 

 何もなかったとはいえ、今日の朝アイゼンハルト院長と同じベッドで起きた事を考えると、なぜか両親に申し訳なくなる。

 

 お土産だけ置いて早く帰ろう。

 院長を待たせることになる訳だし、どうせ長居はしていられない。


 アイゼンハルト院長は馬車で酔わないタイプならしく、馬車の中でも資料を読んだり簡単なメモを取ったりしていた。


 真面目過ぎる。

 

 私はさすがに文章を読むと酔ってしまうので、窓の外の景色を見るしかない。


 話しかけられる雰囲気であれば、昨晩の事を詳しく聞いて謝って和やかな関係に戻れそうだけど、仕事の邪魔するわけにはいかないものね……


(いたたまれない!!!少しだけでもお話しさせてくれないかしら?!?ちゃんと謝らせて欲しい。結局まともに謝罪できていないの!)


 こんな不甲斐ない私じゃ、両親に顔向けできない。


 そんな事を考えていると、ガタンと馬車が揺れた。

 

「……着いたぞ」

「すみません、お時間を頂戴します」

 そう言って馬車から出て振り返った。

 

「ゆっくりで構わない。今日はもう宿に戻るだけだ」

 そっけない顔をしていると思ったら、優しい顔だった。


「実家に泊まって行っても良い。明日私がここに寄る」

「そんな!!!そこまでさせるわけにはいきません!」

「道中だ。気にしてなくて良い」

 

「あのっ……!昨晩から今朝のこと、大変申し訳ございませんでした」

 私が深々と頭を下げると、院長は真顔のまま言った。


「今後異性と飲む際には注意するように」

 それ以上は何も言わなかった。


 あんなにご迷惑をかけたのに、なんて良い人なんだろう。


 私を部屋に連れ込む事になってしまったのは、院長にとって動揺する程の事じゃなかったんだ。


 さすが大人。

 経験値が違うのね。

 私みたいな小娘とは大違い。


 もう一度私が頭を下げると、背後から家族の声がした。


「あら〜〜〜〜?!?!おかえりロゼッタ!!!

 たぁくさんご飯作りましたから、上司の方も上がって下さいな」


 馬車の中まではっきりと聞こえるような声で母が叫ぶ。

 御者が「止まるべきですか?」という顔で馬車の中へ聞いていた。


「お、お母さん?!?」


 風のように走る母が、私のそばを通って馬車へ向かう。

 その後ろを弟妹達が追う。


「ちょ、ちょっと待って!そんなことしたら院長にご迷惑……!」

 今朝ご迷惑をおかけしたのを、やっと謝ったところなのに!


 お母様と弟妹達を止めるため、私は走って追いかけた。


「ちょっと、みんな!そんな無理やり……」


(うわーーーー!!!院長すんごく困ってる!!!眉間の皺が大変なことに!!!)


「お腹空いてますでしょう?今から宿に戻ったら遅くなってしまいますし、どうぞ我が家で食べってって下さいな」


「……いえ、結構……」

「お母様、アイゼンハルト院長は宿で食事するから……」

 

「いつもお姉ちゃんがおせわになっています!」

「お姉ちゃ……姉がご迷惑おかけしておりませんかっ?」

「よろしければうちでゆっくりして行って下さい」

「私たちでごはん作りました!」


 弟妹達が馬車に向かって言った言葉に、私は頭を抱えた。


「……では、少しだけお邪魔します」


 度重なるご迷惑に、私は泣きたくなった。

次回 遂に実家に帰ったロゼッタ。院長も家に来る事になってしまい……

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