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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第8話 魔法のある日常

 教室で真凛や幸平に説明したことで、俺とウイカの関係性について周囲からの誤解は解けたようだ。

 複雑な家庭事情であるという説明も伝わったので、クラスでは彼女に協力しようという向きも出ている。別に俺が心配する義理はないのだが、人間関係がうまくいくならその方が良い。

 ……のだが、それ以降彼女の行動はカオスを極めていく。

 たとえば体育の授業中。


「ボール、そっちにいったよ!」


 快活な真凛の声が響く。女子は体育館の半分を使ってバレーボール中だ。

 人気者で運動神経も良い真凛は人目を惹く。男子は隣のコートでバスケットボールをしていたのだが、気づけば手を止めて女子側に注目が集まっていた。

 そして、前衛の彼女に告げられて動いたのはウイカだ。


「流石にあれはやられたね」


 俺の隣で幸平が言う。

 誰の目にも明らかだった。真凛のグループはブロッカーや後衛選手が全体的に左へ偏り、そこを見透かされて右側へスパイクが打ち込まれていた。相手の作戦勝ち。

 だが、その瞬間。


「えっ!?」


 ウイカがとんでもない加速を見せると、右端のボールを拾い上げた。

 コート内の女子生徒から驚きの声が漏れ、男子側もポカンとしている。


「イサト。今のは……?」

「な、なんだろうな。あれ……」


 困惑しながらも上がったボールをトスするセッター。真凛が飛び上がり、力強いスパイクを叩き込んだ。

 呆然としていた相手チームはそのままボールを見逃し、真凛たちのチームが得点する。


「すごい、すごいよウイカちゃん! 運動神経良いんだね!」

「うん」


 他のチームメイトは困惑しているが、真凛だけが素直に喜んでウイカとハイタッチ。ウイカの方も無表情なまま平然と受け入れている。

 運動神経が良いとかのレベルじゃないが、真凛の反応があまりにも素直な反応で少し空気は和らいだ。

 けれど、あの不可解な俊敏さは……。


 ◇


 たとえば家庭科の調理実習。

 突然、ある班から悲鳴が上がった。クラス全員が声の方向を見ると、ウイカの手にしていたフライパンから火柱が出ていたのだ。

 それはもう、ブランデーでも注いだのかという見事な燃え上がり方だった。


「い、急いで火を切って!」


 先生が声をあげる。近くにいた俺がダッシュで近づき、コンロの火を止めた。

 火の手自体はすぐに落ち着いたが、焦げ臭さと煙が辺りを包み込む。


「大丈夫か? 火傷は?」

「うん。平気」


 まったく気にしてなさそうな反応のウイカ。

 半ば強引に、フライパンを握っていた彼女の手を掴んで確認する。言葉通り怪我などは無さそうだ。

 しかし、火柱の上がった原因が分からない。引火するようなものも見当たらなかった。

 そうなると考えられるのは一つ。他のクラスメイトは思いもしないだろうが、ウイカについて俺だけが知っている不可解な事象に心当たりがある。

 なんてことを暫し考えていると、周囲の女生徒がなんかキラキラした目でこちらを見ていることに気がついた。

 火傷を確認したまま、俺はウイカの手をずっと握っていた。


「あ、すまん!」

「?」


 彼女自身は無関心だが、これじゃあせっかく解けた誤解が再燃しかねない。

 ままならない状況に、俺は一つ溜め息をついた。


 ◇


 ウイカが転入生としてやってきて数日。たった数日だが、彼女を中心として明らかに不自然な事象がいくつも起きていた。  中庭の花壇が突然急成長してジャングルのようになったり。

 音楽の授業中に突然触っていない楽器が鳴り響いたり。

――流石に怪しまれている。

 そこで俺は、以前質問した時と同じように彼女を体育館裏に連れ出した。今はジャングルの奥地になったので人目につかず尚更好都合だし。


「おい、ウイカ!」

「何?」

「お前、魔法使ってるだろ」

「うん」


 購買で買ったサンドイッチを頬張りながら、彼女はあっさり認めた。これは、何が悪いか分かっていない顔だ。

 俺は頭を抱えつつ、気持ちを落ち着けるためにお茶を流し込む。購買でラベルも見ずに取ったペットボトルだが、濃い味の緑茶だったようで思った以上に苦い。

 俺の表情も苦く曇った。


「あのな。普通の人は魔法を使えないだろ」

「うん」

「人が突然信じられない速度で走ったり、炎が燃え上がったりしたら不審がられるぞ」

「そう?」

「そうだ」


 魔法や組織のことは秘密と言っていたのに、あまりにも軽率に魔法を使いすぎている。

 しかも、当人はそのことを何も問題視していない。突飛な行動で周囲から浮きそうになっているのに、原因を理解していないようだ。

 この数日の行動を見て確信しつつある。彼女は()()()()()()()()()()()()()()のだ。身近に魔法があって、当たり前のように力を使ってきたのだろう。


「魔法のことは隠してるんだから、人前で使うのは禁止にすべきだ」

「……うん」


 ウイカは少し元気を無くした様子で返事をする。肩を落とされると俺が悪者みたいなので勘弁してほしい。

 反応を見ても分かるが、悪気はないんだ。怒られたら反省もするし、学校に溶け込もうと彼女なりに真剣なのは伝わってくる。

 だからこそ、世間とのズレは致命的かもしれない。このままだと、いつか当たり前だと思って起こした行動がとんでもない過ちになるのでは。

 これは……もう少しじっくりと常識を教えてあげなきゃいけないんだろうか。


「そもそも最初に会った時って、もっとこう……魔法使いっぽい見た目じゃなかったか? 杖みたいなのを持ってたような」


 とんがり帽子に黒マント。空を飛ぶため箒に跨り、ステッキから炎の魔法が飛び出す。それが最初に見たウイカの姿だった。

 だが今は普通に制服姿で、ステッキを振るったりもしていない。獣魔と戦っている時は呪文を唱えているように見えたが、授業中にはそんな素振りもなかった。

 俺の疑問を理解したのだろう。ウイカは頷き、いつもの巾着袋からステッキを引っ張り出した。

 小さな袋と取り出すものの大きさが合っていないが、これも魔法なのだろうか。


「これ。『魔法美少女ミラクるラブリー』の変身ステッキ」

「……ミラクる……?」


 魔法美少女ミラクるラブリー。

 たしか、日曜の朝に放送している子ども向けのテレビアニメだったはず。不思議な精霊に選ばれた女の子が変身して悪と戦う、何作も続編が作られている人気シリーズ。

 そう言われてステッキをよく見ると、確かにそれは玩具だった。白い成形色のプラスチック製で、ハートや星のデコレーションが光っている。


「なんで玩具のステッキを持ってるんだ?」

「魔法は想像力から生まれるもの。イメージを形にするために、小道具は便利」

「えーっと、すると?」

「イメージさえ出来れば、物は重要じゃない」


 つまりウイカは、魔法を具体的に想像するためにコスプレしていたということ?

 たしかに彼女をはじめて目の当たりにした時、あからさますぎるほど魔法少女らしい格好だと思った。とんがり帽子や黒マントなんて、ひと昔前のパブリックイメージがすぎる。

 それが魔法少女らしさに近づけるための仮装なら納得だ。


「ということは、実際はステッキを使わずに魔法を?」

「使える」

「帽子もマントも?」

「いらない」

「箒がなくても空を飛べると?」

「むしろ、跨ってると痛い」


 なんだそれは。

 前提が覆されて返す言葉もない俺を余所に、ウイカはステッキを巾着袋に戻す。


「これも。四次元ポケット」

「猫型ロボットかよ!」


 イメージさえできれば、荷物も虚空に仕舞えるというわけか。

 というか、先ほどから想像元がアニメばかりだ。意外と子どもっぽい一面があるのかも。


「ウイカって、アニメ好きだったりする?」


 俺の問いに、ウイカは慎ましく首を縦に振る。


「アザラクの施設、娯楽が本とテレビぐらいしかない。日本の学校もアニメで学んだ」

「あー……なるほど」


 これもアザラク・ガードナーとかいう胡散臭い組織の問題だったか。

 隔離施設のような場所で本やテレビを見て育ったウイカ。無表情な彼女の裏には、まだ聞けていない秘密が沢山あるのだろう。

 そこで俺は、ふとあることを思い出して鞄を探る。


「これ、いる?」


 先ほど買ったペットボトルに、アニメのマスコットを模したキーホルダーのオマケがついていた。猫とも犬とも言い難い、ずんぐりとしたキャラクター。

 知らない作品だし捨ててもよかったのだが、アニメ好きのウイカなら興味があるかもしれない。

 そして、どうやらその予想は当たりだったようだ。


「くれるの?」

「ああ。俺には必要ないし」


 表情こそ大きく変わらないが、目の奥を輝かせて喜んでいるのが伝わってくる。

 彼女はキーホルダーを受け取ると、さっそく巾着袋の紐に取り付けて俺に見せてきた。


「かわいい」

「喜んでくれたならよかった」


 こうしてみると普通の子なんだけどなあ。

 キーホルダーをじっと見つめるウイカ。そこまで喜ばれるとは思っていなかったので、いらない物を渡しただけの俺は今更罪悪感が湧いてきた。

 ……ところでそのキャラ、何なんだろう?

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