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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第7話 幕間1 - ウイカ

「つかれた」


 思わずぼやきながら、私は無機質で飾り気のない廊下を歩んでいく。

 此処は“アザラク・ガードナー”にある住居棟。私たち組織の構成員が暮らしている区画だ。

 慣れない任務に当たっているせいで今日は疲弊している。まっすぐ自分の部屋に向かい歩いていた。

 そこへ。


「やほー、ウイカ」


 不意に廊下の向こうから声を掛けられた。

 銀色の髪を左結びに巻いた、褐色肌の少女――ドロシー・スターホークだ。相棒のメアリ・ファースと共に日本の防衛に当たっており、今は私と同じエリアを共同で担当している。

 誰彼構わず距離を詰めてくる、私の苦手な相手だ。


「どうだった? はじめての学校は」

「……代わってほしい」

「残念。それは司令に言いなー?」


 嫌味に笑むドロシー。

 組織にいる少女の多くは物心ついた時から戦闘員として生きているため、外の世界そのものが未知なる存在だ。案の定私も立ち振る舞いが分からない。

 一方で、ドロシーは八歳まで外界で生きてきたらしい。詳しくは知らないけれど、荒城勇人の監視任務に向いているのは彼女の方だと思う。

 実際にそう進言したが、司令には「失態は自分で落とし前をつけろ」と一蹴されてしまった。

 彼に組織のことを説明したのが裏目に出ている。悔しい。


「ドロシー、調査は? なんで廊下にいるの?」


 ひとまず、遠回しに任務へ戻れと伝えてみる。

 が、ドロシーはケタケタと笑って答えた。


「メアちゃんに押しつけちゃった。ウーちゃんと話したかったからねー」

「私は話したくない」

「冷たーい! いいでしょ、()()()()だと思ってさ」


 過去のいざこざを掘り返すように、チクりと刺してくるドロシー。

 悪気はなかったのか、すぐ申し訳なさそうに謝ってきたけれど。


「ごめんごめん! そういう意味じゃないんだ」

「……はぁ」


 こうして絡んでくる時のドロシーはしつこいので、断りきれないと判断。

 どうせ調査内容は互いに共有する決まりになっているので、私はドロシーの誘いに応じた。


「少しだけ」

「やった! じゃ、あたしの部屋でティータイムと行こうよ」


 此処でまた厄介事が増える。

 部屋にはメアリもいるだろう。基本的にアザラク・ガードナーの戦闘員は二人一組で活動しており、部屋も相部屋になっている。

 メアリもまた、私が苦手とする相手だ。できれば顔を合わせたくない。

 既に撤回したい気持ちを抱きながら、半ば強引にドロシーの部屋へと招き入れられた。

 入るや否や、部屋いっぱいに広がる茶葉の香りが鼻孔をくすぐる。


「ウーちゃんの分も紅茶淹れるから、ソファで待っててねー」


 パタパタとキッチンへ消えていくドロシー。紅茶は彼女の趣味だ。

 置いていかれた私が一人でリビングに向かうと、案の定そこにはメアリの姿があった。

 ミディアムショートのボサボサ髪は整えられておらず、粗暴な印象が拭えない少女。

 露骨に嫌な顔をして私をチラりと見る。


「うわ、ウイカ」

「……嫌なら帰るけど」

「じゃあ、そもそも入ってくんな」

「ちょっと二人ともー! 喧嘩しないで座っててねー!」


 キッチンからドロシーの声が轟いた。……本当に面倒くさい。

 居心地の悪さを感じながらソファに腰かける。テーブルを挟んで対面に座るメアリは、テレビモニタを凝視しており、こちらには向き直らない。

 このまま無視されると思ったが、沈黙が重苦しかったのか向こうから口を開いた。


「荒城勇人は、もう家に着くみたい」


 言われて初めて、モニタに映されているのが荒城くんだと認識した。

 上空からの視点で彼の足取りを追っている。魔法による監視体制、これも任務の一環だ。

 元々は防衛地区の調査が私たちの仕事だったが、昨日彼に出会って状況は一変。彼の監視を中心とした調査が始まっている。


「スペルフィールドに入れる一般人ねえ。どう考えても怪しいわ」

「まだ分からない」


 メアリは癖っ毛気味な髪を人差し指に巻きつけながら、暇そうに所感を述べる。

 結論付けるのは時期尚早なので一応否定してみたが、彼が怪しいのは私も同意するところ。

 人間の世界と獣魔の世界。相容れない二つの狭間に存在するのが、スペルフィールドという空間である。

 獣魔は人間を餌とするために人間界へ侵攻を掛けてくる。それをスペルフィールド内で未然に防ぐのが私たちの仕事だ。基本的に一般人は干渉できないし、防衛していれば獣魔の存在は外部に漏れない。

 にも関わらず、彼はスペルフィールドに迷い込んでしまった。本人の意思ではないようだが、あまりにも特例すぎて組織は対処を保留している。


「おかげで、日本の調査から彼個人の監視に切り替わっちゃってさ。誰が、知らないガキの生活なんて見張らなきゃなんないのよ」


 口悪く愚痴るメアリ。

 そこに、トレーに紅茶を乗せたドロシーがやってきた。


「まあまあ。メアちゃんも日本の生活なんて見る機会ないだろうし、せっかくだから楽しもうよ」

「興味ないし。ドロシーがやってよ」

「交代でいいでしょー?」


 テーブルの上にティーカップを並べ、それぞれに紅茶を注いでいくドロシー。甘い香りが心地よくて、これ自体は嫌いじゃない。

 できれば一人で楽しみたいのが本音だけれど。


「それでウーちゃん。あの子はどんな感じ?」


 質問しながら、ドロシーは角砂糖の入ったガラス瓶を差し出してくる。

 私はそこから一つだけ拝借して自分のカップに入れた。


「今のところ不審な点はない。たぶん、外の世界では至って平凡な人……だと思う」

「なーる。ま、変な人よりはよっぽどマシだねー」


 変な人がどんな人物を指しているのかは分からないが、概ね同意だ。

 口外禁止の約束も律儀に守っていたし、少なくとも悪い人では無さそう。

 ガラス瓶をメアリの方へ回すと、彼女は次々に角砂糖を放り込みながら告げる。


「変なヤツじゃないって? スペルフィールドに入ってきた時点で変だよ、あれ」

「そりゃそーだ。本来ならあり得ないもんね」

「ウイカがミスったんじゃないの?」


 メアリが口元を歪めながら言う。


「どういう意味?」

「スペルフィールドに入る時に馬鹿デカい穴を開けて、一般人を巻き込んじゃったとか」

「そんなミス、あり得ない」

「どうだか。いつまで経っても素人臭いウイカならやり兼ねないでしょ?」

「実力の話なら、メアリに言われたくない」

「はぁ!?」


 売り言葉に買い言葉。メアリとはいつもこうなる。

 私としては適切な距離を保っているつもりなのだが、どうにも挑発的な物言いをする相手なのでこちらも冷静さを欠いてしまうのだ。

 で、結果も同じ。


「二人ともストーップ! そんな話をしてるんじゃないでしょー?」


 ドロシーが窘めて一時休戦。これの繰り返し。

 やっぱり来るんじゃなかった。調査報告は司令を通して共有されるものなので、わざわざ顔を突き合わせても良いことは一つもない。


「そもそも、ドロシーがウイカを連れてきたんでしょ? 意味分かんない!」

「メアちゃん、これ以上言うなら本当に怒るよー?」


 なおもやいのやいの言うメアリを目の端に入れつつ、私は出された紅茶だけ飲んでさっさと退散することを決意する。

 そもそも、組織の構成員は互いに慣れ合わない。獣魔討伐は個人の成果であり、取り合いが基本だ。

 二人一組のバディを組むのだって、あくまでも使える魔法の属性相性を補完するためのもの。相部屋なのも任務通達が一気にできる等の観点からくる合理的な理由に過ぎない。

 決して友達ではない。

 同じ地区を担当することになったのもありドロシーは親睦を深めようとしてくるが、メアリの方が態度としては正しいとも言える。

 ……まあ、彼女たちとの因縁は個人的なものでもあるけれど。それはそれだ。


「ごちそうさま。帰る」


 私は空になったカップをテーブルに置くと、そのままソファから立ち上がった。

 ドロシーが困ったような顔をする。


「うーん、ごめんねー? また、何かでお詫びするからさ」

「別にいい」


 私は話を切り上げ、さっさと玄関を抜け出す。

 本当に今日は疲れた。明日からも慣れない学園生活と組織の板挟みだと思うと、ひたすらに気が滅入るのだった。

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