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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第6話 監視任務

「どうなってるんだ」


 思わず強めの口調で問いかけてしまったが、ウイカは動じることなく小首を傾げた。手にした焼きそばパンを口に運び、満足げに目を輝かせている。

 教室を後にした俺たちは、人気(ひとけ)のない体育館裏で対面に座り込んだ。昼食を共にするという建前どおりに食事中。

 無言でパンを頬張るウイカに向けて問い直す。


「転校してきたのは、何が目的だ?」

「ん……。あなたの監視」

「監視?」


 ウイカは巾着から水筒を取り出してお茶を飲むと、たっぷりと間を置いてから話を続けた。


「あなたは一般人なのにスペルフィールドに侵入してきた。怪しい」

「そんなこと言われても、俺にもさっぱりなんだって」

「分かってる。だから、詳しく調査することになった」


 俺の発言の真偽以上に、環境を含めた詳細を見極めているのかもしれない。それはそれで不気味だ。


「それにしたって、普通同じクラスに転校してくるか?」


 それも出会った翌日に。そんなことが可能なのだろうか。

 するとウイカは、ボソりと不満の声を漏らす。


「……私も断った」

「え?」


 無表情ながら、少しむくれた様子で答えるウイカ。


「アザラク・ガードナーは国や政府と連携している。転校してくることは容易」

「そういうものなのか」

「でも、私は日本の学校や生活について何も知らない。面倒だから、こんなことしたくなかった」


 なんだか分からないが、愚痴られている。

 不満そうな彼女の視線が、恨めしそうに俺を射抜いてきた。


「昨日、あなたに事情を説明したのは独断だった。必要だと思ったから話したのに、口外したことを怒られた。直接監視しろと命じられて、不服」


 ……それ、俺が悪いのか?

 昨日説明された内容は、今でもよく分かっていない。

 それでも、何も言われずに解散されるよりはマシだっただろう。化け物討伐後に放置されていたら、それこそ俺は周囲に状況を聞きまわって騒動を広げていたかもしれない。口外禁止を謳うほどの組織だ、それは本位じゃないはず。

 だからウイカの判断は正しい……ような気がする。知らんけど。


「だから、改めて確認。昨日のこと、誰にも言ってない?」

「ああ。あんな荒唐無稽(こうとうむけい)なこと、話したところで誰も信じてくれないだろうし」

「荒唐無稽?」


 突然、俺の言葉にポカンとするウイカ。

 外国人なので四字熟語が通じなかったのかと思ったが、彼女は少し意外な反応を示した。


「魔法少女の話は、理解されないもの?」

「え? そりゃ、そうじゃないか……?」


 口外禁止の秘密だと自分で言っていたじゃないか。理解されるはずもない。

 ただでさえ、オカルトめいた魔法が出てくる不可解すぎるエピソード。俺だって今でも理解不能だ。

 しかし、こちらの返答に対してウイカは元気を無くしていた。


「ちょ、なんで落ち込むんだ!?」

「……落ち込んでない」

「そんなしょんぼりしながら言われても」


 何かが気に障ってしまったのか? 分からん。

 気の利いた言葉の一つでもかけられれば良いのだが、あいにく俺は他人を思いやる器用な機微を持ち合わせていない。肩を落とす女の子の励まし方なんて知らないぞ。

 真凛か幸平に助けを求めたい気分だ。


「と、とりあえず! 転校してきた理由は分かった」


 ひとまず、無理矢理話題を打ち切る。

 その言葉でウイカの表情も元に戻った。感情の読めない無機質なポーカーフェイスだが、意外と細かな変化を見せる子だと思った。

 どうにも彼女は口下手なきらいがある。組織や彼女自身のことについて知りたいのは山々だが、それはこれから時間をかけて聞いていくしかなさそうだ。

 俺の監視が目的というなら一日や二日でいなくなったりはしないだろうし、また話し合うタイミングもあるだろう。

 そんな事を考えながら、俺は手をつけていなかった食事に戻った。

 弁当を食べながら彼女をチラりと見ると、ふた口目の焼きそばパンを相手に恍惚とした表情を見せている。


「焼きそばパン、好きなの?」

「はじめて食べた」

「マジかよ」


 日本語もペラペラなので忘れかけていたが、外国暮らしが長いのなら焼きそばパンを知らないのも無理はない。

 しかしそんな異文化出身だと、今後の生活は大丈夫なのだろうか。


「おいしい」


 ……ひとまず、食文化の違いは乗り越えられるみたいで良かった。


「そういえば、ウイカは日本語上手いよな。お母さんが日本人なんだっけ?」


 クラスでの挨拶でそんなことを言っていたはずだ。父親がイギリス人のハーフだとかなんとか。

 するとウイカは、あっけらかんと答えた。


「それ、嘘」

「は?」

「私、アザラク・ガードナーの施設で生まれ育った。親はいないし、普段は外にも出ない」


 こんな幼い女の子が化け物と戦わされているだけでも謎だらけだが、親がいないとなると複雑な事情がありそうだ。

 そんな少女が戦闘員になっているアザラク・ガードナーという組織は如何なものなのか。


「獣魔討伐部隊、だっけ? 外に出ないって、そんな厳しいの?」

「別に厳しくない。普通」

「普通……か?」


 少なくとも、彼女にとって外に出ないことは当たり前らしい。

 実態を知らないので迂闊なことは言えないが――なんだか怖い施設に感じるぞ。アザラク・ガードナー。


「でも、疑問を持たれると面倒。だから設定を作ってきた」

「それが、イギリス人のお父さんと日本人のお母さん?」

「うん。日本語は組織で勉強したから喋れるだけで、本当は親の顔も知らない」

「……」


 特に重い話をする感じではない。ウイカにとっては普遍的事実なのだろう。

 なので同情するのも違う気がするんだが、何処かきな臭い話題を前にして複雑な気分になる。

 別に俺が彼女のことを慮る道理はない。ないが……まあ、隣の席になったよしみだ。少しぐらいサポートしてあげてもいいかもしれない。


「じゃあ飯食い終わったら、考えてきた設定を教えてもらえるか? 口裏は合わせた方がいいだろ」

「うん」


 ◇


 ウイカと共に教室へ戻ると、何やらご立腹な様子の真凛が待っていた。


「んで? イサト、あの娘とはどういう関係なの?」


 普段は真凛や幸平と一緒にお昼を食べる。ルーティーンになっていると言ってもいいだろう。それを突然断りもなくすっぽかし、転校生を口説き落として二人で出掛けたとなれば、疑念の目も向かざるを得ない。

 幸平も意外そうに肩を(すく)める。


「流石に僕もビックリしたよ。あのイサトが、女の子を誘うなんてさ」

「いや、なんというか……違うんだよ」

「なーにが違うの、何が」


 真凛の顔が怖い。なんで怒られてるんだろう、俺。

 ともかく此処は、早速でっち上げた設定をお披露目しよう。


「あの子の母親が日本人だってのは聞いただろ? ……それ、俺の母親の遠い親戚なんだよ」

「し、親戚ぃ?」


 予想外の話をされて狼狽(うろた)える真凛。幸平も小さく驚きの声を漏らしていた。


「俺も名前を聞くまで思い出せなかったんだけどさ。昔一度だけ会ったこともある。だから今朝は驚いたんだ」


 そう。ただの親戚だ。なので疑われるような関係ではない。

 もちろん、冷静に考えるとすべてがおかしい。外国人の親戚がいるなんて話は今まで一度もしたことがないので、幼馴染である真凛が細かく聞いてきたら破綻する。

 幸平は幸平で、昔から勘と察しの良い男だ。あんまり長ったらしく説明するのは悪手。

 なので俺は、そのまま同情を誘うように続けた。


「教室から抜け出したのは、その……」


 あえて勿体ぶりながら、言いづらそうに二人へ目配せする。


「ウイカは、ちょっと複雑な家庭でさ。あんまり大っぴらにはできないんだよ」


 あながち嘘ではない。彼女の事情は特殊そのもの。

 それも家庭事情となれば迂闊に詮索してこないだろう。


「だからさ、二人もウイカと仲良くしてもらえると助かる」


 ついでに、二人を仲間に引き込んでおく。

 これについては、素性の掴めないウイカへの牽制でもあった。今は監視が目的らしいが、いつ俺を危険分子として襲ってきてもおかしくない。衆人環視というやつだ。

 かくして。

 困った人がいたら放っておけないクラスの中心人物、安原真凛はウイカの手をギュッと握ると


「困ったことがあったらなんでも言ってね! あたしたち、親友だから!」

「? うん」


 涙ながらに彼女を迎え入れたのだった。計画通り。

 ……親友はちょっと気が早い気もするけれど。

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