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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第4話 今日のことは口外禁止

 住宅街にある小さな公園。

 夕方頃になれば小学生たちもすっかりいなくなり、都会の中に取り残されたかのような静けさが辺りを包んでいた。

 園内のベンチに並んで腰掛けると、俺は右隣に座る少女、ウイカ・ドリン・ヴァリアンテに目をやる。

 改めて見てみると、かなりの美人だ。無表情で何を考えているのか読めないが、それも含めてミステリアスな魅力を醸し出している。

 背は小さいものの、モデルやアイドルだと言われても信じてしまうかもしれない。

 様子をじっと観察していると、彼女もこちらを覗き返してきた。

 真剣でまっすぐな視線にたじろぎ、しどろもどろになりながら問いかける。


「あ、あの! 改めて聞くけど、ウイカさんって魔法が使えるんだよね? さっきのあれって……」


 だが、彼女は俺の言葉を遮るように首を左右に振った。

 無感情な目つきが少しだけ鋭くなる。


「質問するのはこっち。どうやってフィールドに入ったの?」

「フィールド?」


 先ほどもそんなことを言っていた気がするが、さっぱり心当たりがない。

 今日もいつもどおりの近道を使い、家に向かって進んでいただけだ。特別なことは何もしていない。


「俺は何もしてないと思うけど」


 沈黙。彼女がジッとこちらを睨んでいる。少し怖い。

 だがこちらの言葉に嘘はないと判断してくれたのか、たっぷりと間を置いてから彼女は静かに説明を始めた。


「さっき獣魔がいたのはスペルフィールド。この世界を模した、全く別の空間」

「……はい?」


 獣魔。スペルフィールド。別の空間。

 戦闘中にも似たようなことを聞いた気がするが、あまりに説明が突飛すぎる。

 ポカンとする俺の表情を一瞥し、彼女は補足的に言葉を続けた。


「スペルフィールドは、獣魔の棲む世界と私たちの世界の狭間にある空間。玄関口のような場所」


 それだけ言うと、すべて説明し終えたと言わんばかりに彼女は口を閉じた。

 流石に何にも分からない。様子を見つつ、今度こそこちらから問いかける。


「じゃあ、俺は知らない間にそのスペルフィールドとかいうのに迷い込んでたのか?」

「そう」


 そうですか。

 ひとまず言葉どおり解釈しよう。先ほどまで俺たちがいた場所は、現実世界に似ている別の空間だったらしい。だから他に誰もいなかったし、あの場で起きたことも騒動になっていない。

 そして、気づかないうちに俺だけが迷い込んでしまった。最初に俺の顔を見て彼女が困惑していたのは、人がいると思わなかったからだ。

 そう言われると一応筋は通る……のか? 理解はできないが。


「ウイカさんは、獣魔を止めるために戦ってるの?」

「うん」

「なんでそんな危険なことを」

「なんで?」


 質問の意味が分からないと言った様子で、ウイカさんは眉間に皺を寄せる。


「私が獣魔討伐部隊”アザラク・ガードナー”の戦闘員だから」


 ごく当たり前のことを言うように、彼女は答えた。

 何がどうして、小さな女の子が魔法を使えるようになり、その何とかという組織に入って、そして化け物と戦うことになるのか。

 もっとしっかり聞きたかったが、あまりにも自然に答えるウイカさんに疑問を挟む余地はなかった。


「フィールドに獣魔が現れた段階で、私たちはそれを検知できる。だから、こっちに出てくる前に処理する」

「こっちに……。獣魔が俺たちの世界に現れる可能性もあるのか?」

「ない。絶対、未然に防ぐ」


 それはただの決意表明だ。

 要するに、アザラク・ガードナーとかいう組織が防ぎきれなかった場合、獣魔はこちらの世界に出てくる危険があるということ。

 突拍子もなさすぎてクラクラする。

 一度頭の中を整理しよう。

 目の前の、同い年か年下ぐらいの小柄な少女――ウイカ・ドリン・ヴァリアンテは魔法使いである。

 スペルフィールドという狭間の世界に現れる化け物、獣魔を討伐する組織“アザラク・ガードナー”に所属している。

 彼女は組織の戦闘員。箒で空を飛んだり、炎の魔法を操ったりして獣魔と日々戦っている。

 これが、得られた情報をすべて信じた場合に分かる、今回のあらましだ。

 ……まるで御伽話(おとぎばなし)である。


「夢でも見てんのかな、俺」


 冷静に考えるように努めたものの、結局理解も納得も難しい。溜息混じりに肩を落とした。

 ガックリしている俺の様子を気にすることもなく、今度は彼女が疑問を口にする。


「あなたのことも教えて」


 言われて顔をあげる。

 と、思ったより近い位置に彼女の姿があった。ただ質問するだけなのにそんなに顔を寄せなくても。

 驚いて、俺は体を少し遠ざける。先ほど覗き込まれた時もそうだったが、彼女は話しかける時に接近する癖があるらしい。

 美少女の眼差しを避けるように、俺は視線を泳がせる。


「俺のこと――って言われてもなあ。別に、普通の高校生だと思うけど」


 出会って数十分程度の相手に自己紹介すべきか一瞬躊躇(ためら)ったが、相手は化け物から命を救ってくれた恩人だ。言っていることはよく分からないが、少しぐらいは話してもいいだろう。

 頭を掻きつつ、俺は簡単にプロフィールを答える。

 荒城勇人(いさと)。一五歳。公立香文高校の普通科一年生。勉強も運動も中間ぐらいの成績で、部活やアルバイトは特にしていない。

 クラスで特別目立つわけではないが、友人もいるし至って順風満帆。

 父はサラリーマンで母はスーパーマーケットのパートタイマー。家族構成もありきたりな方だと思う。


「そんなところかな。至って普通だよ」

「それが、()()の高校生?」


 彼女は小首をかしげて問いかけてくる。

 どういう意味だろう。普通の定義を解かれているのだとしたら難しい話だが、我ながら平均的で慎ましい経歴だという自負はある。


「まあ、そうかな。日本で統計を取ったらこんな経歴が真ん中になる気がする。いや統計とか取ったことないけど」

「そう。……普通」


 彼女は普通という言葉を噛みしめて、何故かそこで俯いてしまった。

 意外な反応に、俺はおかしなことを言ってしまったかと思って焦る。

 しかし、彼女はすぐ変化の薄い無機質な顔を上げると、ベンチから立ち上がってこちらに振り返った。


「君のことは分かった。今日はおしまい」


 彼女はスカートのお尻側をパタパタはたいて汚れをとる動きをすると、ベンチに置いていた自身の巾着袋をひょいと摘まむ。

 どうやら説明と質問は終わりらしい。

 聞きたいことはまだまだあるのだが、何を聞いても理解できる気がしないのが正直なところだ。俺も諦めて立ち上がる。

 最後に、と言ってからウイカさんはこちらを睨む。


「一応、忠告。今日のことは口外禁止。私たちは秘密裏に行動している。あなたはフィールドに入った特例だから説明しただけ」

「こんな話、誰にも言わないよ。言っても信じてもらえないだろうし」


 そもそも、他人に今日の出来事を話そうとしたところで、上手く内容をまとめる自信がない。

 俺の返事に満足したのか、彼女は頷く。そして、そのままゆっくりと歩き出した。

 公園の出口を抜けて遠ざかっていく少女の背中をしばらくボーッと見つめる。


「うーん、やっぱ訳分かんないな」


 魔法少女らしき美少女との出逢い。そして謎の化け物との戦い。今でも夢か何かだとしか思えない。

 けれど、たしかに俺はあの場で炎魔法の熱を感じたし、獣魔が踏み込むたびに震える地面の感覚を実感として刻んでいる。

 何より。


「……自転車、どうすっかなあ」


 獣魔に潰されてしまった俺の通学手段。親になんと言い訳すればいいのか。

 何にせよ、もう彼女と会うこともないだろう。今日の出来事は綺麗さっぱり忘れて、現実に向き合う方が精神上良いのかもしれない。

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