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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第27話 幸平の助言

 アザラク・ガードナーを訪問してから、既に数日が過ぎている。

 あれからウイカとは話していない。教室で素っ気なく挨拶することはあるが、彼女は休み時間になると村瀬さんたちと混ざって過ごすか、ふらっと外に出ていって拒絶のオーラを出してくる。

 関係はおしまいと告げられた以上、どうしていいか分からなかった。


「イサト。結局、何があったの?」


 俺たちが突然距離を置き始めたので、周囲も何事かという空気になっている。

 昼休みに心配そうな顔で訊いてきた真凛に苦笑いをしながら、俺は答えた。


「なんというか……ちょっとな」

「もう! 二人してそればっかり!」


 二人して、ということはウイカも同じような返事をしたらしい。「別に」とか言ったんだろうな。

 実際、部隊や魔法の話を絡めずに現状を説明するのは難しい。真凛や幸平になんと言っていいのかは分からなかった。

 ウイカはその辺り上手くやれてるんだろうか。彼女のことなので、うっかり魔法について漏らしたりしていそうで心配になる。

 ……って止めだ、止め。今さら俺があいつの事で悩んだって意味がない。


――此処まで言われてそれでも悩むなら。後は好きにすれば?


 メアリさんの言葉がふと頭に蘇る。

 好きにしろと言われても、ウイカに拒絶された今の俺にできることなんてない。

 今でも魔法に対する興味や憧れはあった。退屈な日常を変えてくれたもの。何もないと思っていた俺が、それを実際に操れる特別な存在だと知ってワクワクしたのは事実だ。

 同時に、戦いを怖いと思う気持ちも本物。ウイカの足手まといになりたくないし、獣魔に関わるのは危険が付きまとう。

 数日経った今でも、何をどうしたいのか結論は出ない。


「ウイカちゃんと喧嘩してるなら、あたしが取り持ってあげるからさ!」


 真凛が明るく提案する。


「いや。喧嘩とかじゃないって」

「まあまあ。二人の問題なら二人に任せるべきだよ」


 幸平がそう言って真凛を止めてくれた。助かる。

 チラりとウイカの方へ視線を向ける。村瀬さんたちと弁当を広げて談笑する姿はすっかりクラスに馴染んでいた。

 そう、あいつはもう俺が手を貸さなくてもやっていける。戦いにおいても生活においても、俺が出る幕はない。

 ふと向こうもこちらを一瞥した。視線が一瞬重なって、どちらからともなく目を離す。

 居心地が悪い。


「イサト、ちょっといいかい?」


 モヤモヤする俺に対して、幸平が問いかけてきた。


「なんだ?」

「放課後、時間あるかい? 男同士で積もる話でもしようよ」

「え? いやいや。さっきと言ってることが違うだろ」


 二人の問題は二人に任せるんじゃなかったのか。言い返すと、幸平はフッと笑った。意図の分からない笑みに眉をひそめる。

 大体、男同士の話ってなんだ?


「何々? あたし抜きで何の相談よ」


 突然話題の輪から外されて、真凛も顔をむくれさせている。

 幸平からこんな提案が出るのは珍しい。厄介事に対して自ら首を突っ込もうとしない思慮深い慎重派、そういうやつだと思っていたが。

 けれど吐き出してスッキリしたいのも事実。魔法や部隊については話せないにしても、幸平なら何らかの光明を与えてくれるかも。


「ま、いいか。放課後な」

「だーかーらー。あたし抜きで何の相談なのよ!」


 ◇


 放課後の体育館裏にやってきた。内緒話はここと相場が決まっている。

 俺と幸平は体育館の外壁にもたれかかり、互いに空を見上げた。

 何から伝えたものか。この場を設けたのは幸平なので、そっちから話題を振ってくれると助かるんだが。

 会話の糸口を探していると、幸平は意外な内容から話し始めた。


「もうすぐ期末だけど、勉強は進んでるかい?」


 なんだいきなり。

 もっと踏み込んだ話をされると思っていたので、世間話すぎるジャブに面食らう。


「え? いや、あんまり……」

「それはよくないね。僕ら学生の本分は勉強だよ」


 柔和な笑みは崩さず、何やら説教臭いことを言う幸平。

 なんだ? どういう話をするつもりなんだろうか。


「イサトが何してるのかは知らないけど。勉強を忘れるぐらいウイカさんと楽しそうにしていたのは、見ていれば分かるよ」

「……すまん。詳しい話はできなくて」

「いいよ。誰にでも秘密はあるものだし」


 大人な意見だ。

 秘密。魔法や部隊のことを秘密にするというのはウイカとの約束だ。

 そんなウイカとの関係を終わらせた今、約束を律儀に守る必要はあるのだろうか。幸平にすべてをぶちまけたらどうなるのかと考えてしまう。


「でも僕らは学生だからね。勉強に勤しむのが、本来あるべき普通の日常ってものさ」

「普通……か」


 偶然だろうが、普通と言う言葉にドキりとする。

 ウイカの普通と俺の普通は違う。

 ここまで、ウイカの世界にどう寄り添うかを考えていた。だが俺にだってテストがあるし、その後には夏休みも待っている。普通の日常があるんだ。

 最近は目まぐるしくて、そんなこと考える余裕もなかった。

 幸平がニコニコとした顔でこちらを見る。


「イサトって、自分のことは先延ばしにする癖に、困った人には真っ先に手を伸ばすお人好しだからね」


 なんだそれ。俺ってそんな感じか?

 自己分析は苦手だ。幸平の言葉に反論すべきかもよく分からない。


「この前も、村瀬さんの帽子を探してあげたんでしょ?」

「いや、あれはウイカがどうしてもって言うから」

「俺は別にいいやって無視して帰ることもできた。でもイサトはそんなことしない」


 あれはその場の空気だ。断る方が難しかっただけ。ウイカに頼られて注目の的になっていたし、仕方なく協力したに過ぎない。

 少なくとも率先してやったことじゃないと思う。うん。


「ウイカさんの世話を焼いてるのも同じ理由だ……と、前までは思っていたんだけどね」


 幸平の目つきが少し真剣なものになった。思わず俺も身構える。


「イサトは文句を言いつつも面倒事に手を貸す良いやつだけど、これまでは仕方なく、という建前だった」

「建前じゃなくて、本当に仕方ない場面が多いんだって」

「はいはい」


 苦笑して軽く流す幸平。

 全然信じてなさそうだが、本当なんだぞ。


「でも、ウイカさんの事情は少し違う。イサトが率先して面倒を見ている姿は珍しい」

「それだって小柳先生に頼まれたし、親戚だったから仕方なく……」


 もはやこちらの言い分を聞いてすらいない幸平。遮るように話を続ける。


「彼女のことを気にかけすぎてるんだよ。それはもう、熱い視線でさ」

「気色悪いことを言うな! そういうのじゃない!」

「フフッ。何も恋愛とは言ってないんだけどね。僕もウイカさんのことは好きだし」


 こ、こいつ……!

 確かに俺はウイカのことは気にかけている。だがそれは幸平や真凛と同じ、友人としてだ。ウイカは他より危なっかしいから、その分多めに見守っているだけ。

 俺があいつを特別な感情で見ているかのような誤解は勘弁願いたい。


「僕はウイカさんが何をしているのか知らない。危ないことをしているなら、イサトが無理して関わる必要はないと思ってる」


 幸平は昔から揉め事が苦手だ。だからこそ冷静に物事を見て、慎重な意見を伝えてくれる。

 こういう時、幸平の意見はいつも正しい。俺は身を引くべきなんだろう。

 理性では分かっている。ウイカとは住む世界が違った、それだけなのだと。


「……ただね」


 納得しかけたところで、再び幸平が口を開く。


「僕がこう言っている今、君は何を考えてる?」

「え?」

「此処まで言われても、ウイカさんを放っておけないと思ってるんじゃない?」


 それはメアリさんと同じ意見だった。後は好きにすればいいと言う助言。

 しかし答えは分からない。ウイカ自身が拒絶している今、あの子のために出来ること。


「今の話でまだ悩んでるなら、答えは出てるはずだけどなあ」


 呆れた顔で幸平が言う。

 俺は何か言おうと一度開いた口を、そのまま閉じる。返す言葉が思い浮かばなかった。


「僕からの意見は以上。後は、イサトとウイカさんが仲直りしてくれるのを待つよ」

「……仲直りか。喧嘩じゃないんだけどな」


 俺の言葉に幸平は生温かい目を向けてから、ゆっくりと校舎に向けて歩き出す。

 何も結論は出ていないが、少しだけ胸のつかえがとれた気がした。

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