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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第26話 幕間3 - メアリ

 アザラク・ガードナーは外部との接触を断った組織ではあるものの、不便かというとそうでもない。

 外出は規制されていないので買い物がしたければどんな国にも魔法で飛べる。何なら偽造された身分証だって用意してくれるので、ドロシーはよく紅茶の茶葉を買い集めていた。

 施設自体も食堂やトレーニングルーム、大浴場まで用意されていて非常に快適。外は見えないが屋内庭園で自然を楽しむこともできるし。

 私――メアリ・ファースは今の生活に満足している。

 今も大浴場に浸かって疲れを癒していた。今日の失態を思い返しながら。


「はあー……私にもドロシー病がうつったかもしれないわ……」


 荒城勇人。

 ウイカが出会い、何故か魔法が発現してしまった外部の男。なんの関係もない癖にウイカを守りたいとか言い出して、のこのこ施設までついてきた忌々しい人物。

 脅かして、追い返してやろうと思ったのに。

 本人が自ら身を引くつもりだと言い出したせいで調子が狂ってしまった。いらない気を回して、あんなよく分からないことを口走っちゃうなんて。


「あなたのせいよ、ウイカ」


 同じ浴槽に浸かっていたウイカに向けて文句を言う。

 互いに端と端に座っていたが、この時間は他に利用している子もいない。嫌味の一つでも言ってやろうと、私は湯船を軽く泳いで近づいていった。

 相変わらず無表情で何を考えているのか分からない変な女だけど、今日ばかりは気落ちしているのが見て取れる。イマイチ覇気のない顔を向けてきた。


「メアリ……。何?」

「荒城勇人のこと! あなたが連れて来たんでしょ!」

「司令に言われただけ。それにもう、彼は……」


 辛気臭いウイカの表情。それがむかつくって言ってるのに。


「そんなに落ち込むなら、なんで別れ話なんてしたのよ」

「別れ話? 最初から荒城くんは部外者。関わらない方がいい」


 下らない正論だ。本心じゃないでしょ。

 学校に行き始めてからのウイカは、疲れた等と言いながらも毎日楽しそうにしていた。いや、表情の変化は相変わらず読めないけれど、これまでの後ろ暗い空気が薄れて少しはとっつきやすくなっていたと思う。

 それが今は、あっという間に元通り。

 負のオーラを浴びているとこちらまで気が滅入る。


「仕事は全うする。彼を近くで監視するのは変わらない」

「それであなたは良いわけ?」

「私の意思は関係ない。任務だから」

「そういう話じゃなくて!」


 何を言っても自我を出さない。あくまで構成員としての立場で物を言うウイカ。

 言っていることは正しい。私たちは任務に忠実であることが求められる。

 だけど世の中には、正しさだけじゃいられないこともあるのだ。それを分かっていない。

 説教してやろうと思っていたら、ドロシーが浴場に入ってきた。


「おー珍しー。メアちゃんとウーちゃんが並んでるじゃーん」


 まっすぐこちらに歩いてくるドロシー。まるで私とウイカが仲良くしているような言いがかりにイラッとする。


「お疲れー。今日は色々大変だったねー」

「別に」


 ウイカが素っ気なく返すも、ドロシーは気にした様子もなく彼女の隣に浸かった。


「はー極楽ごくらくー」

「アザラクの何処が極楽なのよ、バカ」

「もー、メアちゃんってば厳しいなー。気持ちいいんだから極楽だよー」


 呑気な顔をするドロシーに気が削がれて、私はウイカへの追及を諦める。

 ウイカが人一倍組織に忠実で、強くて、孤高の存在であることは分かっている。私が言えたことじゃないが、柔軟な考えができない不器用なやつだってことも。

 いつか実力で彼女を追い越すつもりだ。

 でも、心が折れて勝手に脱落されるのは気に食わない。


「ねえウイカ。もう少し柔軟に考えれば?」

「……? 意味が分からない」


 きょとんとするウイカ。

 別に彼女を励ましたいわけではない。あくまでも率直な気持ちとして言葉にする。


「あなたがどうしたいか、口にしなさいよ」

「私?」


 こちらのやり取りをニヤニヤして見つめるドロシーに気づいて、思わず顔をしかめる。

 抗議の表情だったのに、ドロシーはさらにクスクスと笑い声を漏らした。むかつく。

 そんな私とドロシーのやりとりに挟まれたウイカが、居心地悪そうに立ち上がる。


「もう一度言う。任務はやり遂げる。それだけ」


 そう言い残して、ウイカは出ていった。

 痣だらけで華奢な背中は、いつも以上に小さく縮こまっているように見えて。不器用すぎてイライラする。

 空いたウイカの分を隣に詰めながら、ドロシーがこちらを覗き込んできた。


「ふーん」

「は? 何その顔」


 含みのある笑顔。

 気味の悪い相棒の態度にちょっと引きながら、私は睨み返した。


「メアちゃんがウーちゃんにアドバイスなんてねー?」

「違うし! 荒城勇人と話してムシャクシャしたから、ウイカに文句言ってやろうと思っただけ!」

「荒城くんにもわざわざ会ったんだ?」

「うるさい!」

「で、助言しちゃったわけだ」

「してないって!」


 何か勘違いされている。私はドロシーみたいなお人好しじゃないし、自分の思うがままに発言しているだけ。

 ……ただ、まあ。

 たしかに荒城勇人に言ったことも、今ウイカに伝えたことも、いつもの自分らしくない自覚はある。


「本当に可愛いなー、メアちゃんは」

「やーめーろー! くっつくな!」


 ガバッと、ドロシーが私の体を抱きしめてきた。

 彼女の過剰なスキンシップは苦手だ。相棒になって長いので慣れてしまったが、この距離感の近さは今でもむず痒くなる。


「普段は部屋風呂ばっかりで、大浴場なんて来ない癖にねー? ウーちゃんを探してたんでしょー?」

「……バカ」


 こういう、なんでもお見通しなところも大嫌い。

 私たち多くの戦闘員と違って獣魔細胞の移植手術を受けた年齢が遅めだったドロシーは、外の世界で生きた記憶がある。だからこそ視野が広くて、細かな機微に気づいたりするんだろう。

 そこが頼りになる時もあるし、考え方の違いでぎくしゃくすることもあるんだけど。


「メアちゃん」

「ドロシーが寂しがり屋なのは分かったから、甘えた声出さないで離れて!」

「えー。ケチー」


 頬を膨らませて、ゆっくりと離れるドロシー。

 ウイカにアドバイスしたり、こうして私の機嫌を伺ったりしてお姉さんぶってる癖に、ドロシーはいつも寂しさを滲ませた瞳をしている。

 いや、そもそも私たちはみんな人に飢えているのかもしれない。

 組織の構成員はライバル同士。獣魔から回収できる魔力には限りがあるから、長く戦うためには獲物の取り合いだって起きる。

 それでもバディを組む決まりがあるおかげで一人ぼっちにはならない。ドロシーのスキンシップは過剰だけど、他のみんなも最低限のコミュニケーションはとっているはず。

 でもウイカは。


「……ドロシー、前に言ったよね? 独りぼっちは寂しい。荒城勇人はウイカにぴったりだって」

「言ったよ。今も同じ考え」

「じゃあ、彼は戻ってくると思う?」


 問いかけに、ドロシーは少し悩んだみたいだった。

 それでも力強く、お姉さんぶったいつもの調子で答える。


「大丈夫。愛の力は偉大だからさ」

「……何それ」


 急によく分からない返事をされて、意味を理解できなかった。

 ドロシーはまたニヤりと笑って、私の頭をそっと撫でてくる。鬱陶しい。


「メアちゃんには、まーだ早いかもねー?」


 なんだか分からないけど、馬鹿にされてる。それだけは確かだ。

 むかついたので、私は湯船の中でドロシーを思いきり蹴飛ばしてやった。

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