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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第24話 関係解消

「……私の命は消耗品。戦うことでしか価値を証明できない」


 ウイカは声のトーンを落として、いつもの冷静さを取り繕うように話をする。

 あまりにも残酷な現実を受け入れている彼女。

 死ぬのが当たり前。楽しいことが、生きたいと願うことが辛い。

 俺の普通では理解できない価値観を彼女は持っている。


「荒城くんや、クラスのみんなに優しくされるたびに、自分を――生きてもいい存在だと錯覚していった」

「錯覚って……そんな言い方するな」


 零れる涙を手で拭いながら、ウイカは俺の方を見つめる。

 俺はウイカを救いたい。彼女に生きていて欲しい。

 だけどそれは、彼女の生き方を否定するエゴなのかもしれない。戦いによって証明される命を、戦わないように仕向けるのが正しいのだろうか。

 絶対的だと思っていた価値観が揺らいで、ウイカの言葉を聞くだけの時間が続く。


「生きたいと願うべきじゃない。戦いに迷いなんていらない。そうあるべきだった」

「どうしてそこまで……」

「どうして?」


 俺がボソりとうわ言のように言った疑問を聞き逃さず、ウイカは寂しそうな表情で答えた。


「私が、獣魔討伐部隊“アザラク・ガードナー”のウイカ・ドリン・ヴァリアンテだから」


 それは自分の立場を改めて口にすることで、己自身に言い聞かせているようだった。

 けれどそれが、彼女の持ち合わせている答えのすべてなのだろう。

 本来の彼女は学生じゃない。今までの生活は俺を監視するという任務の一環で、部隊の仕事の一部。

 ウイカの普通は、俺の世界には無いんだ。


「荒城くん」

「……ああ」


 名前を呼ばれて、生返事で答えてしまう。

 気がつくと、ウイカは涙を止めて毅然とした態度でそこに座っていた。


「ジェラルド司令はあなたに何を要求した?」

「……魔法が使えるなら戦うべきだって」


 そうだ。元々俺は、そんなジェラルドさんの提案に対する答えが欲しくてウイカに会いに来た。正確に言えば、彼女に背中を押してもらえると考えていたんだと思う。

 一緒に戦ってほしいと。私を救ってほしいと。

 でもウイカは、まったく逆のことを口にした。


「断って」

「え?」


 彼女の上司であるジェラルド・バックランドという男が、俺も戦うように焚きつけてきたのだ。なのにそれをウイカが断れと言っている。

 余計に答えが見つからなくなった。


「荒城くんがなんで魔法を使えるのか、私にも分からない。もしも本当に私の魔力に反応したんだとしたら、それは私の責任」

「ウイカのせいじゃない。こんな事はまず起きないって聞いたぞ」

「でも、この世界にこれ以上踏み込むのは止めるべき。それは危険な力」

「危険……。俺の魔法は寿命の消費がないらしいから安全なんじゃないか?」

「そういうことじゃない」


 ウイカはおもむろに、着ていた学校制服のシャツに手を掛けてボタンを外し始めた。


「う、ウイカ……!?」


 目の前で同級生の女の子が服を脱ぎ始める。雰囲気が雰囲気だけに、ドキドキするよりも困惑が圧倒的に勝っているが……。それでもウイカから目が離せない。

 上からボタンが解かれ、下着の肩紐と彼女の肌が少しずつ露わになっていき――


「!」


 そこで俺は、彼女の肌に残る無数の傷痕を見た。

 裂傷だけではなく、痣になっている箇所も沢山ある。そういえば、学校の授業で水着になれない理由を真凛に話した時も、傷がどうとか言っていたんだったか。

 ウイカは俺の反応を見て手を止める。


「私たち魔法少女は、獣魔のマナを吸収して魔力を補充する。その時に、ある程度の傷も治る」


 彼女の傷が治っていくのをこの目で見た。間違いない。


「じゃあ、どうして」

「傷や寿命は、一度の戦闘で得られる魔力じゃ完全に回復できない。腕や足、顔に出来た見えやすい傷は優先して治すけれど、限界はある」

「痛く、ないのか?」


 あまりにも陰惨な傷に、俺が心配の声を掛ける。

 すると彼女は消え入りそうな声で答えた。


「痛いよ」


 それは救済を求める声ではなく、至極当たり前の感想として言っただけだと思えた。

 続けた言葉でそれを実感させられる。


「でも、慣れた」


 彼女たちは獣魔の力を植え付けられているとはいえ、元々はただの人間だ。当然怪我をすれば傷は痛むし、痣になれば他人から隠そうともする。

 慣れたなんて言っているけれど、こんなの。

 もう何度目か分からない、俺の常識と乖離した状況の提示。それを見せつけながら、ウイカは言い放つ。


「獣魔と戦うというのは、こういうこと」


 危険なことだと、分かっているつもりだった。

 それでも、こうして傷を見せられると怖く感じてしまう。どこまでも俺には覚悟が足りていなかった。


「荒城くんは魔力を消費しない。それは同時に、獣魔からマナを補給する必要がないということ。戦闘で傷ついた時に治せるのかも分からない」

「そ、それは……」


 傷がどうなるのかなんて考えていなかったが、魔力を吸収する必要がないなら回復手段があるのか定かではないのか。

 そもそも俺が獣魔の魔力を吸収できるのか自体分からない。

 ウイカと一緒に戦えば、同じように怪我をする可能性は充分すぎるほどある。その時、俺だけ怪我をしたままになるのか?


「だから、断るべき」


 此処までの話を聞いて、足が竦むのは正常なんだろう。

 彼女の世界を知りたいなんて独りよがりに思っていたけれど、結局ただの一般人に出来ることは殆どない。


「何か、ウイカのためにできることはないのか? 戦闘じゃなくても、サポートとか」


 彼女を助けたいという気持ちは本心だ。戦うのにビビりながらも、一緒にいる方法を探してしまう。

 するとウイカは、何か覚悟を決めたようにふっと息を吐いた。


「荒城くん。終わりにしよう?」

「終わり?」


 その言葉に、ぎゅっと胸が締め付けられる。


「私は荒城くんを監視する任務がある。でも友達である必要はない。一緒にいる理由もない」

「いや、学校にいるなら一緒の方が……」

「じゃあ、言う。ついてこられると邪魔」

「なっ……!」


 それは明確な拒絶だった。


「ミルメコレオとの戦いも、荒城くんを守ろうとして気が散った。それがピンチを招いた」

「そりゃ、確かにそうだけど」


 前にドロシーさんが、ウイカはアザラクの戦闘員でもかなり強い子だと称していた。

 たぶん俺がいなければ、一人で難なくやってのけたのだろう。

 今の俺が足手まといなのは否定できない。


「学校生活を助けてくれたのは感謝してる。けど、もう大丈夫」


 まだまだ普段のウイカは危なっかしい。

 日本での生活について知らないことも多く、何かあれば魔法を使うか悩む場面も出てくるだろう。

 けど、彼女の周りには友達もできた。クラスメイトはみんな気の良い奴らだし、きっと全員で守ってくれる。

 俺は、出しゃばって彼女の隣を独占しようとしていただけなのかもしれない。


「私たちの関係は、これでおしまい」


 最後に強く、彼女は付け足した。

 突き放すような言葉に口の中が渇いていくのを感じる。

 いくらでもできることはあった。一緒にいたいと食い下がることも、思いの丈をぶつけることも。

 けれど思い浮かぶ言葉のすべてが、俺がどうしたいかという独りよがりな気持ちだと感じてしまう。ウイカのためになるとは言い切れなかった。

 いや。

 結局俺は、どこかで怯えているんだと思う。ウイカのことも、獣魔という怪物を相手にすることからも。

 ゆっくりとソファから立ち上がって、俺は繕うように笑ってみせた。


「今までありがとな」

「……うん」


 そのまま彼女の部屋を出る。

 扉の向こうに広がる、廊下の青白い光がやけに眩しい。俺は目を細めてから、最後にチラりと部屋の方を振り返った。

 リビングに残ったままのウイカは、顔を伏せていて表情を伺えなかった。


「……何やってるんだろう、俺」


 ガシャり、とドアが閉まる。

 明日からも教室で会うはずなのに、その音は永遠の別れを告げるように重く響いた。

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