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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第21話 魔法少女が死ぬ前に

 魔法を使うのには必要なものが二つある。

 一つは素質。獣魔の細胞は女性の方が適応しやすく、その上で発動した魔力をきちんと操ることができる才能が必要になる。訓練である程度まで鍛えることもできるが、結局は本人の素養によるところが大きい。

 もう一つは――寿命。


「寿命……?」

「そうだ。若さ、と言い換えてもいい」


 獣魔たちは元素を魔力へ変換できるように体が作られている。

 だが、彼らの細胞を借りているだけの人間では魔力を自由に変換できない。力を生み出すには相応の対価が必要だった。


 そうジェラルドさんは言った。

 俺は話の流れに嫌な予感がして、彼の言葉を遮る。


「対価って……それが寿命だって言うのか?」

「そのとおりだ」

「ふ、ふざけんなよ!」


 ただ事実だけを淡々と述べるジェラルドさんに、俺は苛立った。


「じゃあ、ウイカは! 魔法を使うたびに命を削ってるのか!?」

「魔力とは生命エネルギーそのものだ。必然に過ぎない」


 飄々とした雰囲気の彼の言葉に背筋が凍る。俺は頭が真っ白になっていた。

 獣魔と戦っている時だけじゃない。学校で使ったちょっとした魔法に至るまで、すべてウイカの小さな体が命を懸けてやっていたこと?

 そんな大事(おおごと)なら、彼女だって軽率に魔法を使ったりしないんじゃないのか。ウイカはバレーボールの授業や、調理実習でつい魔法を使ってしまうような子なのに。

 なのに、使えば寿命を削る?

 そんなわけない。


「そんなことって」


 あり得ない、と言いたかった。

 だが、戦闘中のウイカの言葉が頭の中にフラッシュバックする。


――私は戦うための存在。戦えなくなったら、生きている意味なんてない。


つまり、彼女の生きる意味は戦うことにあるということ。寿命を使って獣魔を倒すことだけが生きる意味で、魔法を使うのが当たり前。

 命を惜しむ理由なんてないんだ。

 それが当たり前のことだと、この施設で育てられてきたのだろうか。まるで洗脳教育だ。

 目の前の男に何か反論したかったが、上手く言葉が出てこない。

 俺はまだ真実を呑み込めずにいた。


「君もここに来た際に見ただろう。魔法少女は子どもが多い。彼女らの方が《《長く使える》》からだ」

「つ、使える……? そんな、命を消耗品みたいに!」


 このジェラルドという男は、彼女らを道具としか見ていない。

 きっとこの組織は全員がそうで、ウイカたち魔法少女もそれに納得しているから、命を(かんが)みることなく戦っている。

 俺がおかしいのか? こんなことが当たり前にあっていいのか?


「同情するのは勝手だ。しかし、我々はあの子たちを救った側だということも理解してもらいたい」

「救った……?」


 今度は何を言い出すつもりなんだ。

 世界の事情に振り回された彼女たちの人生について、今更納得する説明があるとは思えなかった。


「ウイカは戦争孤児だ。物心つくよりも前に両親が死に、彼女自身も既に危篤(きとく)状態にあった」

「戦争で死にかけていた……?」

「彼女だけではない。ここにいる少女たちは、皆そうした過去を持っている」


 ウイカの家庭事情については詳しく知らない。既に親は居ないと言っていたはずだが、それ以上はどうにも踏み込みづらかったから。

 しかし、戦争で身寄りを亡くしていたとは。


「我々は、そうした戸籍上既に死んだはずの命に、延命措置として獣魔の力を与えている」

「延命だと?」

「荒城くんも見ただろう。獣魔の細胞は、魔力を吸収することで肉体を回復できる。死に際の彼女たちを生き残らせるために適合手術は必要な措置なのだ」


 幼くして命の危機に晒されていた人たちに、手術する代わりに魔法を授ける。

 将来のある若い命を助けた、素晴らしい慈善事業なのかもしれない。

 でもその対価が、一生を捧げてその身を危険に晒すことなんて。寿命を削って、外の世界での生活をすべて捨てて。


「それを、救ったって言うのか……?」

「彼女ら自身が在り方に納得している。何も問題はない」

「それは、そう思うように洗脳教育しているだけだろう!?」


 一般常識も与えずに獣魔と戦うことだけを教育してきた。だからウイカは学校での過ごし方もロクに知らず、魔法を使うことが正しさだと疑わずにこれまでやってきた。

 それを、自身が納得しているだって?

 ふざけるな!


「俺はお前らのことを理解できない! ウイカだって、これから日常を知っていけばこんなこと――」

「そこで、だ」


 ジェラルドさんは俺の言葉をぴしゃりと(さえぎ)った。


「君の魔法が、彼女らを助けることになる」

「な、なんだよいきなり」


 俺の魔法?

 そういえば、俺も何故か魔法が使えた。獣魔の細胞を埋め込む手術なんて受けていない。

 ウイカの魔法と相性が良いから偶然反応した、という予測が正しいかは分からない。とにかく、使える理由も分からず俺は魔法を操ってしまった。

 でも人間が魔力を使うのに寿命が必要なら……俺も命を削っているのか?


「我々は、戦闘員の寿命を数値化して管理している。テレビゲームの体力ゲージのようなものだと思ってくれればいい」


 寿命を数値化している。そんなものまであるのか。

 彼女らの命をゲームに喩えられて、それもどこか不快で胸の奥がざらつく。


「そして、これは一般人の数値も視認できる。荒城くんの寿命も計測してみたのだが……これが興味深い」

「どういう意味だ?」

「君は、寿命を一切消費していない」

「……何?」


 俺の寿命は無事だという。

 寿命が見えると言われてもピンとこないし、そもそもこの男の発言が信用できるのかも分からないが。

 そう伝えられて喜ぶべきなのか。そこから何を言い出すつもりなのか想像もつかなかった。


「荒城くん。分かるか? 君は魔法を使うのにデメリットがない」


 ジェラルドの視線が、俺を強く貫いてくる。


「君が代わりに戦えば、ウイカ・ドリン・ヴァリアンテは寿命を削らずに済むわけだ」

「!」


 俺が、ウイカを救うことができる?

 寿命を消費していないという話が本当ならば、俺だけが無制限に魔法を使って獣魔を倒すことができるということ。

 でもそれは、獣魔に対する恐怖に打ち勝たなければいけない。今日は偶然魔法を使うことができたが、俺はこの力を初めて使ったし、我武者羅(がむしゃら)だったから使い方なんて覚えていない。

 俺にできるのか?


「獣魔の亡骸(なきがら)を吸収した彼女たちは、傷の回復と共に使用した魔力も回収している。全快できるわけではないが、寿命も少しは取り戻せる」

「……じゃあ、俺が倒した獣魔をウイカに渡せば、あいつは寿命を回復できるのか?」

「君がそうするならば最大値まで彼女を回復させることができるだろう。元々の数値を越えることはないので、不老不死になるわけではないが」


 つまり、これは脅しだ。

 俺はウイカを救うことができる。逆に言えば、俺が戦わなければウイカはその身を削り続けることになる。

 ジェラルドさんは、ウイカを餌にして俺を戦いに強制参加させようとしている。魔力を消費しない新しい手駒として。

 ただの一般人でしかない俺に、ウイカを、他の魔法少女を、そして世界を救う重責を背負えという脅し。

 考える時間は多くない。日が経てば経つほどに彼女らの寿命は消耗していく。

 俺に戦えって言うのか。彼女たちが――魔法少女が死ぬ前に。


「すぐに決めろとは言わない。だが、我々も君の未知なる魔法に興味がある。あの子たちを救うために、手を貸してくれることを期待している」

「っ……!」


 この場で答えることはできなかった。

 静かに彼のもとを離れ、階段を下りて司令部の扉をくぐる。無機質な廊下が俺を迎え入れた。


「どうすりゃいいんだよ……!」


 俺自身は寿命を消費しない。そうは言っても、獣魔と戦って傷つけられれば痛みはある。血も流れる。

 死ぬことも、ある。

 それでも、俺がやらなければウイカを救えないのならば。

 俺は――。

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