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二人の世界を変える魔法~魔法少女が死ぬ前に~  作者: 宮塚慶
第1章 こうして、二人の日常は始まった

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第15話 幕間2 - ドロシー

「ちょっとドロシー! 何やってんのよ!」


 帰宅するや否や、相棒のメアちゃんが険しい顔であたしを迎え入れてくれた。

 相変わらず怒りっぽい子だ。素直になれないいじらしい性格が可愛くて、あたしは彼女のことが大好き。


「なんのことー?」

「荒城勇人と会ってたでしょ!?」


 先ほど、外の世界で荒城くんと接触した。部屋で監視してくれていたメアちゃんは当然それを把握している。

 あたし達の任務はあくまで監視。対象との接触は許可されていない……と考えがちだけれど、駄目だと直接言われたわけじゃないのでセーフだと勝手に判断している。

 とはいえ、真面目なメアちゃんは許してくれないみたいだ。


「彼、良い子だったよー? あと喫茶店のシフォンケーキが美味しかった」

「知らないわよ!」


 むくれるメアちゃん。荒城くんと接触したことは勿論、あたしが一人でデザートを食べたことにも怒っているご様子。

 そうカリカリしなくても、あたしはお持ち帰りのケーキを買ってきたのだ。


「ほら、怒んないでー。これ食べるでしょ?」

「……食べる」


 うんうん、素直で良い子だ。

 あたしはお土産のガトーショコラを皿に乗せ、紅茶も淹れてあげる。今日の茶葉はウバ。シャープな味わいがチョコ系のケーキに合う。

 キッチンで準備を整えてメアちゃんの前に並べると、彼女は黙々と食べ始めた。こういう時、美味しいと言ってくれない難儀な性格なのは少し寂しい。


「で? なんで荒城勇人と会ったの?」


 もぐもぐとケーキを咀嚼しながら、メアちゃんが聞いてくる。

 口には出さないがデザートは美味しかったようで、険がとれて話しやすくなった。


「どんな子か気になっただけだよー」


 半分本当で、半分嘘な答えを伝える。

 実際、彼には興味があった。アザラクの人間ではないのにスペルフィールドに入れたのは異例中の異例で、裏がないか確認したかったし。

 話してみて分かったけれど、彼はすごく純粋で真っ直ぐ。おそらく魔法について何か隠していたりはしない。

 だからこそ、あんな質問をしたわけで。


「ドロシーはお人好しすぎ」

「えー? どういう意味ー?」


 どうやらメアちゃんは気づいているみたい。あたしが分かりやすいだけなのか、この子の勘が鋭いのか。

 次々にケーキを口へ放り込みながら、メアちゃんは呆れ顔で告げてくる。


「ウイカのためでしょ」


 ……そのとおり。

 そして、ウーちゃんのために行動したら彼女は怒っちゃうのだ。


「言っておくけど、ウイカに相棒がいないのは本人の責任だから」

「もー。そんな言い方しないでよー」


 アザラクの構成員は二人一組のバディで行動するのが原則。様々な特徴を持つ獣魔に対抗するため、異なる魔法が使える相棒を連れて行くのは理に適っている。

 けれど今のウーちゃんには相棒がいない。過去に色々あって、人員の補充を本人が拒否した。

 あの子は強い。一人でも戦える優秀な戦闘員だ。だからこそ上層部から特例を認められている面もある。

 それでも。


「ウーちゃんは頑張り屋さんだから。このままじゃ壊れちゃうよ」

「私達には関係ないし」

「冷たいなーメアちゃんは。それに、関係なくはないでしょ?」


 言うと、メアちゃんはまたも不貞腐れてしまった。

 ウーちゃんが一人で戦うことになった背景にはあたし達も関わっている。あの子が背負うものは、あたし達が背負わせてしまったものでもあるのだから。

 きっとメアちゃんはウーちゃんを許していない。そしてあたしも、歩み寄ろうとはしているけれど心の奥底では気持ちが揺らいでいる。


「どっちにしても、荒城勇人を巻き込むのは反対」

「そう? 本当に良い子だよ、荒城くん」

「そういうことじゃない。部外者が関わるのは嫌」


 まあ、そりゃそうか。

 常に秘匿されているアザラク・ガードナー。この狭い世界で戦闘だけを繰り返して生きている以上、外の人間は未知の存在。

 自我が芽生えた頃から既に組織の構成員だったメアちゃんなら、そう思っても仕方ない。関わるのも怖いだろう。

 組織に属している人間は皆、この生き方には誇りを持っている。ウーちゃんもきっとそうだ。

 だから、部外者が入り込んで引っ搔き回されるのを嫌がるのは分かり切っていた。


「彼が部外者かどうかは、まだ分からないからさ」

「ウイカの魔法にたまたま波長が共鳴しちゃったんでしょ? 部外者じゃない」

「今のところはねー?」


 現状、荒城くんが自ら魔法を発動したりはしていない。なので彼がスペルフィールドに入れたのはウーちゃんの魔法に影響されただけ……というのが組織の見解。

 けれど、魔法使いの長い歴史を見てもそんな事例は殆ど確認されていない。ゼロではないものの、あたしは今の調査結果を訝しんでいる。

 だから、ウーちゃんと関わっていれば何かが起こるんじゃないかという期待もあった。前例のない何かが。


「なんにしても、独りぼっちは寂しいよ。彼はウーちゃんにぴったりだと思うな」


 いくら戦闘が強くても、心の隙間は埋められない。


「あたしにはメアちゃんがいるけどさー」

「やーめーろー! くっつくな!」


 あたしはメアちゃんをギュッと抱きしめて、頭をわしわしと撫でてあげる。

 ガトーショコラを食べ終えたメアちゃんは嫌がりながらも、強くあたしを引き剥がそうとはしない。本当に可愛いやつめ。

 そう。あたしにはメアちゃんがいる。不器用で怒りん坊な、愛おしいあたしの相棒。

 でもウーちゃんは独りなんだ。どれだけ痛くても、どれだけ苦しくても、あの子は叫ばない。助けを呼ばない。

 今のあたし達じゃ、あの子に手を差し伸べることはできない。


「ほんっと、ドロシーって変なやつ」

「うぇー? そうかなー?」

「そうだよ」


 メアちゃんが、ふっと表情を崩した。


「お姉さんぶってる癖に、寂しがり屋だし」

「む。そう見える?」

「そりゃあもう。分かりやすいぐらいに」


 隠しているつもりだけれど、やっぱりこの子には見透かされている。事あるごとにこうして抱きしめているからかな。

 強く気丈に振る舞っているつもりなのに、結局あたしはメアちゃんに頼ってばかりだ。

 もっと強く、メアちゃんの体を引き寄せてみる。


「ちょ、痛いって」

「……メアちゃん」

「何なの、暑苦しいなあ」

「メアちゃんはいなくならないでね」


 メアちゃんが、びくっと震える。意地悪なことを聞いてしまった。

 あたし達は組織に命を捧げる覚悟をして戦っているのだ。この言葉は禁忌に近い。

 案の定、規律に厳しく真面目なメアちゃんは口を尖らせる。


「私は自分の命を出し惜しみしないから」


 それはとても彼女らしい答えだった。でも、あたしが欲しかった返事じゃなくてがっかり。

 なんてことを思っていたら。


「……でも、そうね」


 メアちゃんはそっと付け足してくれた。


「生きてる間ぐらいは、一緒にいてあげる」


 ああ、もう。本当に大好き。


「ありがと」


 もう一度、あたしはメアちゃんを強く抱きしめてみた。

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